2020年5月22日、KADOKAWAデジタルエンタテインメント担当シニアアドバイザーの浜村弘一氏による講演“ゲーム産業の現状と展望 2020年春季 多軸化へ向かう競争と協調”が催された。

 これは、浜村氏によるゲーム業界の現状分析を、アナリストや報道関係者向けにスピーチするもの。通常春と秋の年2回のペースで開かれている。

 新型コロナウイルス感染症の拡がりに伴い、今回は初めてのオンライン形式で行われた。

 ニーズの多様化が著しいゲーム業界において求められる“競争と協調”とは、どういったものなのか?

 セミナーでは、各企業の取り組みに加え、eスポーツ事業の展望、さらには新型コロナウイルスがゲーム業界にもたらした影響などが、最新資料とあわせて示された。

 業界の今後について語られた本スピーチの概要をリポートする。

多軸化へ向かう競争と協調

 まずは、世界ゲームコンテンツの市場規模を概覧すると、世界的に前年から伸びているが、日本を含む東アジア地域がもっとも売り上げたという結果に。

 日本国内でのハードの累計は、2019年度末時点でNintendo Switchが1308万3783台と圧倒的な販売台数を誇り、ゲームソフトの年間販売本数でも、上位9本がすべてNintendo Switchのタイトルで、まさに同ハードが日本のゲーム市場をけん引する1年となった。

 続いて、プラットフォームごとに現状と展望が語られた。

任天堂 すべての布石は自社ハードとIPへの誘導

 「Nintendo Switchの人気の根源は、幅広い層が楽しめる任天堂IPが充実している……という点にほかならない」と話す浜村氏。

 Nintendo Switchは2017年3月の発売以降、好調な売れ行きを見せていたが、2019年9月にNintendo Switch Liteがリリースされたことで伸び率はさらに上昇。

 2019年の年末商戦に入る前にはすでに世界累計販売台数は1000万台を突破した。

 さらに、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、不要不急の外出自粛が要請された影響などもあって、年明け以降も売り上げは伸長を続け、2019年度末までで国内1300万台突破という驚異的な販売台数を打ち出す結果となった。

 こうしたなか、とくに好セールスを記録しているのが『あつまれ どうぶつの森』と『リングフィット アドベンチャー』の2タイトル。

 前者は家で巣ごもりをしながら、家族や友だちとコミュニケーションを取ることができるツールとしても好評を博していて、後者は家の中でも運動不足を解消するためのアイテムという見かたでとらえられている。

 2020年3月後半には、『あつまれ どうぶつの森』とセットでNintendo Switchを購入するユーザーが殺到し、市場在庫が出尽くしてしまう状態に。

 圧倒的な品不足の状態が長らく続いており、依然その人気は衰えを見せていないが、在庫不足は少しずつ緩和され、2020年4月後半あたりから、少しずつ市場に出回り始めているという。

 一方、海外では、中国の大手企業テンセントと連動し、2019年12月より同国でもNintendo Switchを発売。

 販路の拡大だけでなく、任天堂IPを使った中国向けのオリジナルソフトも開発されるそうで、そうなればさらに爆発的な売上が見込めそうだ。

 また国内では、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにて “SUPER NINTENDO WORLD”が開設予定。

 こちらが開設すれば、ふだんはゲームで遊ばない層にも任天堂IPをアピールすることができる。

 そのほかNintendo Switchソフトに関する注目点として、すでにゲームプレイを楽しんでいるユーザーに向けては、“エキスパンション・パス”の充実を挙げる。

 任天堂タイトルでは、有料ダウンロードコンテンツとして、既存のソフト用の追加コンテンツも続々と配信している。これにより、各ソフトを長期間にわたって遊んでもらえる環境が整ったことも人気の持続に寄与していると添えた。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE) 新しい体験で新世代機の王道をゆく

 発売から6周年を迎えたプレイステーション4が安定した売り上げを誇り、順当にいけば国内で1000万台の突破を見込む。

 そんな中、多くのユーザーから注目されているのが、3月にスペックが発表されたプレイステーション5の存在だ。

 超高速SSDの採用によるゲーム起動やストリーミングの高速化、データの重複作業の廃止(長時間のインストールがなくなる)といった基本性能の向上に加え、3Dオーディオを可能にする技術や新コントローラー“DualSense(デュアルセンス)”などが導入され、これまでにないゲーム体験が楽しめるものと期待されている。

 2020年年末商戦期の発売を予定しているプレイステーション5。こちらの続報も気になるところだ。

 また、ゲーム機以外でも、AIがゲーム攻略の支援や課金を提案するシステムであったり、ユーザーの感情を推測して反応するペットロボットなどの特許も申請中とのことで、「これらが実現すれば、ゲームプレイ時の周辺環境も大きく変化することが予想される」と、浜村氏。

 一方、現在進行中の取り組みとしては、プレイステーション独占でリリースしてきたソフトを、外部プラットフォームに向けて積極的に展開していく施策が挙げられる。

 SIEでは2018年以降、『フォートナイト』など多数のタイトルで、他社ゲーム機とのクロスプレイにも対応してきたが、こうした姿勢からは「数あるプラットフォームのなかでも、プレイステーションがもっとも上質なプレイ環境を提供できるという、絶対的な自信が見て取れる」と浜村氏は話す。

 まずは間口を広げることで、より多くのユーザーにゲームをプレイしてもらう。そうして「より快適な環境で遊びたい」と考えるユーザーたちをプレイステーション5へと誘う……というのが、SIEの狙いのようだ。

 また、SIEは、南米、東欧、中近東など、家庭用ゲーム機の普及率が比較的低い地域でも積極的にサービスを展開しており、世界中に流通網を確立している点も強みのひとつとのこと。

 さらにソニーグループでは『スパイダーマン』を始めとした、多数の映画IPやアニメIPも保有しているため、それらを使ったゲーム開発ができるという点も、興味をそそられるポイントだと語った。

マイクロソフト 理想のプレイスタイルを変革する

 ハイエンド機のXbox Series Xを発表したマイクロソフトだが、同社の施策からは、「ゲーム機のプラットフォームとしての意味合いを変えようとしている意気込みが感じられる」と、浜村氏は語る。

 マイクロソフトは、今後クラウドを利用した展開を模索しているようで、Project xCloudアプリiOSバージョンの公開や、インドの大手通信会社Reliance Jio Infocomとの提携といったニュースもその一環と考えられる。

 Xbox事業の責任者フィル・スペンサー氏は「ソニーや任天堂に敬意を払いつつも、今後の主要ライバルはGoogleやAmazonにシフトする」と言及しつつ、「ゲームストリーミングプラットフォームが登場するも、家庭用ゲームは終焉を迎えず、共存していく」とコメントしており、今後の動きも非常に気になるところだ。

 そのほかの展開としては、マイクロソフトでも同社IPのオープン化を進めている。まずは他社ゲーム機で作品に触れてもらいつつ、そこからXbox Series Xへの送客に繋げる……という方針を取る模様。

 また、2020年4月より、ゲームにおけるサブスクリプションサービス“Xbox Game Pass”が日本でもスタートし、こちらも同社のゲームサービスの根幹として、大きく成長していくことが予想される。

IT大手企業の動向

Google

 2019年11月より、米国など14ヶ国で“Stadia”のサービスがスタート。2020年4月の時点で、アプリのダウンロード数は100万件を突破している。

 各種機能の実装の遅れなど、改善点はまだまだたくさんあるが、Stadia専用タイトルの開発を目的に新スタジオを設立したり、インディーゲーム開発者向けにセルフパブリッシングプログラムを発表したりと、さまざまな施策を展開する。

  “Stadia”のモバイル展開はGoogle製スマートフォンだけの提供から始まったが、順次、他社のスマホ端末にも対応している。

 また、ハイスペックなゲーム機があまり普及していない地域でも快適なゲームプレイが楽しめるよう、GameSnacksという新たなプラットフォームも発表。

 GameSnakcsでは、低速な3G回線のみならず2G回線でも遊べ、メモリが1MBしかないようなスマートデバイスでも遊べるようなゲームを提供していくとのこと。

Facebook

 Facebookは、戦略の根幹としてVRゲームに注力している。

 Sanzaru GamesやBeat Gamesなど、VRでのゲーム開発に特化したスタジオを多数傘下に置き、今後は続々と新作を展開していくことになりそう。その一方で、スペインのクラウドゲーム企業PlayGigaを買収するなど、クラウドサービスにも食指が動いているようで、こちらの展開も気になるところだ。

 2020年4月には、ゲーム動画配信プラットフォームであるFacebook Gamingのモバイルアプリ立ち上げも発表し、配信事業にもさらに力を入れていくようだ

Amazon

 新たに開発スタジオを設立してコンテンツの拡充に注力。

 現状ではPC用ソフトのサードパーソンシューティング『Crucible』のサービスを開始し、MMORPG『New World』の発売が控えている。

 またAmazonといえば、自社でライブストリーミング配信プラットフォーム・Twitchを運営していることも強みのひとつ。

 昨年以降、非ゲームコンテンツも続々と配信されるようになり、これらも大きな視聴者数を記録しているという。

 その一方で、近年では他社の配信プラットフォームと、有力ストリーマーの獲得合戦が激化しているそうで、今後はコンテンツを充実させるだけでなく、配信者の獲得・育成にも力を入れていくことになる模様だ。

Netflix

 2018年に『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』を配信して以降、続々とインタラクティブコンテンツを展開。低年齢層向けのアニメにゲーム要素を加えたタイトルが多く、こちらも今後、さらに規模を拡大していくことが予想される。

クラウドゲーム

 国内における2018年の市場規模は11億円だったが、こちらは順調に伸びていき、2022年には125億円を突破すると予想。

 日本でも2020年6月よりGeForce NOWの正式サービスがスタートするが、こちらがどれほどのヒットを打ち出すのか、大いに気になるところだ。

 また、PCゲームのダウンロード販売プラットフォームであるSteamとEpic Game Storeも、それぞれ新機能の追加や、無料でのゲーム配布といったサービスを展開し、好評を博している。

 2020年はさらに、TikTokを運営する中国の大手企業ByteDanceも、ゲーム業界への参入を発表しており、クラウドを含めたゲームを取り巻く環境のさらなる活性化が期待される。

家庭用ゲーム市場の概況

 国内の市場を見てみると、2019年度の家庭用ゲーム機の市場規模は前年より微増だが、海外では地域ごとに差はあるものの、どのエリアでも減少。

 これを浜村氏は、「2019年はハイエンド機の交代期に当たり、それに応じてとくにハードの売り上げが大きく下がったことが原因である」と推測した。そうした状況下で、日本だけが好調な結果となった理由については、Nintendo Switchの躍進が大きいと語る。

 日本におけるメーカー別のゲームソフト販売本数を見てみても、任天堂およびポケモンが2019年度の売上の5割近くを占めており、交代期の落ち込みをNintendo Switchが穴埋めする1年となった。

テンセントの躍進

 また、海外市場を概覧するなかで特筆すべき点として取り上げられたのが中国・テンセント(腾讯)の動きだ。

 先述した任天堂との協業で中国国内でのNintendo Switch販売を始め、日本国内外のメーカーと業務提携・資本提携を行うなど拡大を続けている。

eスポーツ

 浜村氏によると「“eスポーツ元年”であった2018年に続き、2019年は全国的にeスポーツが広まった1年」であったという。

 世界のeスポーツ市場規模は、Newzooによると、7.76億ドルだった2018年より着実に増え続けていて、2023年には15億ドル超えも目指せるとのこと。

 国内でも、2018年は48.3億円だった規模は着実に増え続け、2023年には153億円にまで伸びると予測されている。

 とはいえ内訳を見てみると、国内外ともに収益の大半はスポンサーシップによるもので、大会の放送権やチケット代、関連グッズの売り上げだけでは、全体の半数にも満たないことも明らかになっている。

 スポンサーに頼りきりの現状を脱却するためにも、早急にビジネス環境を整えることが、eスポーツ事業における2020年の課題と言えるだろう。

 ちなみに日本では、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が経済産業省委託事業として、eスポーツを活性化させるための方策に関する検討会(e活検)を実施。

 議論の末、以下の3つの方針が打ち出された

  • 周辺市場・産業への経済効果を含めた国内のeスポーツの市場の長期目標の算出、海外主要国のeスポーツの発展経緯などの調査・分析
  • 今後のeスポーツのさらなる発展に向けた、中長期的に必要なアクションの提言
  • eスポーツのもつ社会的意義を深化させるために、中長期的に必要なアクションの提言

eスポーツ×地方創生

 JeSUの地方支部も、2020年5月現在全22支部に増え、さまざまな地方でeスポーツの活動が盛んに行われるようになっている。

 「eスポーツが地方創生や観光事業などとも連携することで、3000億円を超える経済効果も見込める」と語る浜村氏。今後の動向にも注目したい。

 また、今後、鹿児島県にて“全国都道府県対抗eスポーツ選手権2020 KAGOSHIMA”の開催が予定されているだけでなく(新型コロナの影響を受け、当初日程は延期に)、全国各地でeスポーツイベントが開催可能な施設や、トレーニングセンターなどがつぎつぎにオープンしている。

 浜村氏は「こうした施策を受けて、eスポーツの盛り上がりにもますます拍車がかかることを期待したい」と述べた。

新型コロナウイルス感染症の影響

 2020年上半期のゲーム業界を語るうえで外せないのが、新型コロナウイルス感染症の拡がりに伴う数々の影響。

 短期的に見てみると「業界にとってはプラスになった」という報道もあったが、中長期的な視点に立つと、また違った見えかたになるという。

 もっともわかりやすい“ゲーム業界にとってのプラスの要素”としては、さまざまなフィジカルスポーツの代替えとして、eスポーツが注目された点が挙げられる。

 サッカー、テニス、バスケットボール、さらにはF1まで、各界の選手たちがeスポーツで代替試合を実施。

 その模様が世界中に配信され、普段はフィジカルスポーツのみの観戦を楽しむ層に、eスポーツを見てもらえるきっかけとなった。

 そうしたプラスの面もある一方、すでに一定の知名度を誇り、多数の集客が見込めていたeスポーツ大会が延期・中止になったり、無観客での実施となってしまったことは、新型コロナによってもたらされたマイナス面の最たるものと言えるだろう。

 続いて、ゲーム業界全体が受けた影響について見ていくと、2020年3月から続く外出自粛と相まって、ダウンロード版のゲームを購入する層が爆発的に増えた点が最大の特徴として挙げられる。

 Steamの同時接続者数は、昨年末時点で1600万~1700万人といったところだが、2020年4月末~5月上旬にかけては2300万~2400万人と大幅に増加したようだ。

 現在、爆発的なヒットを記録している『あつまれ どうぶつの森』も、ダウンロード版の販売本数が約500万本を突破したと言われており、この盛り上がりはまだまだ続きそうだ。

 一連の説明の後、新型コロナウイルスが残した影響について、浜村氏は以下のようにまとめた。

短期的な影響

 外出自粛に伴う新規ユーザーの大幅な増加。および、長らくゲームから離れていた回帰ユーザーの増加。

 浜村氏は、「ゲームの売上上昇とともにゲーム人口も膨張し、“人と人を繋げるツール”という新たな役割がゲームに期待されるようになった」と述べた。

中期的な影響

 新作ゲームのリリースや、ゲーム開発における進行の遅延。

 これを受けて、開発タイトルの減少や、開発スタジオの統合・吸収といった事態が発生する可能性もある。また、現在開発中の新型ゲーム機のローンチにも大きく影響が出そうだが、これらはまだ挽回可能なファクターだという。

長期的な影響

 ゲーム開発のテレワーク化、展示会やカンファレンスのオンライン化、審査体制の刷新など。ちなみにこれらは、新型コロナウイルスが拡がる以前より“効率化を目指すうえで、いつか着手しなければならない問題”として、懸念されていた事案でもあった。

 よくも悪くも、新型コロナの影響で早急な変革が求められ、ゲームを取り巻く環境は、新たなステージに向けて跳躍する準備を整えることとなった。

まとめ

 最後に浜村氏は、任天堂、SIE、マイクロソフトが取り組んでいる、2020年の新たな展開について見解を述べた。

任天堂

 新型コロナウイルスによって生じた数々の問題に対する反応が好意的に受け取られ、“安心安全の任天堂”というブランド力はさらに高まった。

 ふだんあまりゲームで遊ばない層にも、“任天堂IPなら、いつでもどこでも安心して楽しめる”というイメージを定着できたことは、今後の戦略にも大いに活かせるはずだと語る。

SIE

 2020年の年末商戦に発売予定のプレイステーション5で見せてくれるであろう“新しいゲーム体験”に、多くのユーザーが注目している。

 もともとPSプラットフォームには、非常に多くの既存ユーザーがいるので、プレイステーション5の魅力をきちんと伝えていけば、ハードをバージョンアップする感覚で買い換えてくれることが期待できる。

マイクロソフト

 ハイエンド機のXbox Series Xだけでなく、クラウドを利用してプレイするスマホやPCであっても、快適に超大作を楽しめるのがうれしいところ。

 ゲーム機の売上のみに終始するのではなく、ゲームサービスそのものに注力していくという姿勢は、ますます多様化するゲームへのニーズに、うまく対応できるものとして期待している。

 と、各社それぞれについての展望を改めてまとめ、講演の結びとした。