先月、海外でサービスが開始されたGoogleのクラウドゲームサービス、Stadia。アメリカで“ファウンダーズエディション”を入手し、現地でいろいろ試してきたので、その模様をお届けしよう。
まずどんなサービスなのか?
Google Stadiaは、ソニーの“PS Now”やNVIDIAがβテストを実施中の“GeForce NOW”などと同じクラウドゲームサービスとなる。ゲームはクラウドサーバー上で実行され、プレイヤー側はそこから送られてきたストリーミング映像(ゲーム画面)を通じてコントローラー操作だけを行うため、高価なゲーミングPCやゲーム機がなくともハイエンドなゲームを遊べるというものだ。
この仕組み上、映像の質はインターネット回線に影響される。Stadiaの場合、十分な回線速度があれば最大4K解像度&秒間60フレームのHDR映像と5.1チャンネルのサウンドでゲームを遊べるというのが特徴となっている。
対応プラットフォームはChromecast Ultra/Chromeブラウザー(PC)/Pixelシリーズから
Stadiaを利用可能な対応プラットフォームは、現状ではChromecast Ultra(HDMI接続でテレビに繋がるGoogleの小型エンターテインメント機器)、PCなどのChromeブラウザー経由、そしてGoogleのスマートフォンであるPixelシリーズ(Pixel2以降)となっている。
ビジネスモデルは月額定額と単体購入のハイブリッド。今後単体購入のみのモデルも登場予定
ビジネスモデルは月額定額とゲーム単体販売のハイブリッド。現状では月額9.99ドルの“Stadia Pro”が必須になっており、Proプランには追加料金無しでプレイ可能なゲームが含まれているが(ローンチ時は2本、執筆段階で4本)、それ以外はタイトルごとにプレイする権利を購入する形になる。
一方、2020年登場予定の“Stadia Base”プランは無料で、最大解像度は1080pに制限される一方、購入したゲームを遊ぶ限りは追加料金はかからない。
想像以上のソフトローンチだった
さて、現状でStadiaをプレイする方法はふたつある。まずは129ドルのファウンダーズエディション/プレミアエディションを買うこと。これらにはChromecast UltraやStadiaコントローラー以外に3ヶ月間のStadia Proサブスクリプションの権利がついてくる。
もうひとつは、ファウンダーズエディションについてくる“バディーパス”を貰うこと。ハードはついてこないが、バディーパスは3ヶ月間のStadia Proの権利がついているので、Chromeブラウザー+PCゲームコントローラーなどの組み合わせで遊ぶことができる。
「え、じゃあ試すだけならバディーパスの方が良くない?」と思った人はご明察。本来は試すだけならなんかゲームを1本買って、Chromeブラウザーと適当なPC用コントローラー(デュアルショック4やXbox OneコントローラーをUSBケーブルで繋ぐんでもいい)でStadia Baseプランとして遊べるはずで、これなら多くの人がほぼゲーム代だけでStadiaを遊べたはずだ。
現状販売されているパッケージの値段に理由がないわけではない。Chromecast UltraとStadiaコントローラーがついてくるのは、それがテレビで4KHDRの60fpsプレイをする唯一の方法だからだ。「テレビで4Kストリーミングを試してみて欲しい」という意思表示なんだろう。
でもそれが特色とはいえ「ゲーム機がなくても手軽に遊べる」というクラウドゲームの理想と、129ドル払わないと遊べない現状は噛み合っていない。「ゲーム機は買えないけど4KHDRのテレビを持っていて、ハイエンドなゲームを遊びたい」という人はどれだけいるだろう?

もちろんこのふたつは別物で、本来Stadiaは「ゲーム機は買えないけどハイエンドなゲームを遊びたい」という人と、「4KHDRのテレビで遊びたい」という人を両方カバーできるサービスのはずだ。
ではなぜハイエンド寄りのみの施策になっているのか? それは現状のStadiaが、“対象地域に住んでいて、かつ129ドルを払える新し物好きだけが試せる”という“ソフトローンチ”になっているからだ。
一応説明しておくと、新製品や新サービスをいきなり市場に投下するのではなく、対象国やユーザーを限定してフィードバックなどを受けながら、正式ローンチに向けて徐々に改善・拡大していく方法をソフトローンチと呼ぶ。
実際に、機能も間に合っていないものが多い。当初はバディーパスの入手手段がなかったし、ゲームプレイのキャプチャー機能はあるものの撮影したものはモバイルアプリ経由でしか見られずシェアできない。ついでにコントローラーのGoogleアシスタントボタンは現在機能しない。
そして4K解像度でのストリーミングへの最適化が間に合っていないタイトルがあるとされているし、そもそもPixel以外のAndroidスマートフォンやiOSデバイスはマネージメント用のモバイルアプリは入れられるがStadiaを遊ぶことができない。「今はない」ものを挙げると割とキリがない。
健康で文化的な最低限度のStadia生活を目指して
オーケー、この際「ソフトローンチじゃ仕方がない」ということにして、日本にサービスが来た時には間に合っているものもあるかもしれないし、ないものを嘆くのはやめだ。そもそもゲーム機はいっぱい持ってるけど4KHDRのテレビなんか持ってないから検証しようがないしな!
そこで「いま現在、そもそもクラウドゲームサービスとして最低限の構成で実際遊んでどうなのか」という実体験の話に移ろう。
記者は(距離は少々離れているけど)Googleのお膝元であるカリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリア在住だ。そこで自宅はもちろん友達の家や、地元のWifiが通っているコインランドリーやカフェやらにStadiaを持ち込みまくり「さすがサンフランシスコ、変なセットアップでゲームやってるアジアンがいるぜ」という顔をされながら試してきた。先日のLA取材(The Game Awards)ではLAのホテルで試してみたりもした。
そしてその結果は……“適した環境ならば問題なく遊べるし、適したユースケースに該当していれば意義がある”という渋い回答になる。
悩ましいのは、クラウドゲームの仕組み上当然なのだが、プレイが回線環境に完全に依存することだ。カフェなどで顕著だったのだが、Googleの測定サイトで計測して一見何も問題ない環境でも、何かの拍子に回線速度が一瞬落ち込むとその影響を如実に受けてプレイ不可能なレベルまでラグりまくる。
当然「なら回線環境がいい所でプレイすればいい」という富豪的思考をすることもできる。でもコレ、シリコンバレーやLAのど真ん中でもこうなのだから、「ゲームをどこでも持ち歩いてWifi経由で遊べるぜ」というわけにはいかない、というのもまた事実だ。
あるいは「5G通信が普及すればそもそもWifiに乗る必要がない」と未来志向で行くこともできるだろう。だが4Kの場合に毎時20ギガバイト、720pの最低設定で毎時4.5ギガバイトの転送量を消費するのは「ギガが減る」どころの話じゃない。
アメリカでもT-mobileなど動画サイトでの視聴分を転送量から除外してくれる携帯会社があるが、それは転送量軽減のための再圧縮を承認した場合のことだ。“5G通信がクラウドゲームを扱える日”が来ても、“5G通信の転送量を気にせずクラウドゲームで遊べる日”が来るのはもう少し先のことになるだろう。
ビジネスモデルの課題
オーケー、ベセスダ・ソフトワークスが開発中のクラウドゲーム技術“Orion”のように、必要な回線速度や転送量は技術革新で切り下げられるとしよう(Orionは現状のクラウドゲーミングより「フレームあたり最大20%の遅延低減や必要帯域最大40%低下」が可能としている)。
再び切り下げを行って、では次は先に挙げた“適したユースケースなら”という所だ。これは(グローバルなローンチに向けて多少なりとも改善されていくだろう)Stadiaのクオリティそのものより、ビジネスモデルの部分になってくる。
クラウドゲームのユースケースはいくつか考えられると思う。例えば「ゲーム機やゲーミングPCを買うお金はないけどハイエンドゲームを遊びたい」とか、あるいはPS Nowが得意としている「ちょっと前のゲームを安価な固定料金で遊び直したい」とか、「普段は家でやっているゲームを外出先でも遊びたい」といった所だろうか。
StadiaではPro無料のゲーム以外は購入する必要があり、Pro向けのディスカウントも一部あるものの、基本的には家庭用ゲーム機版やPC版と同レベルのフルプライスだ。テストのためにインディーリズムアクションゲーム『Thumper』を買ってみたりもしたが、これで3本目になる。とてもじゃないが「お、『レッド・デッド・リデンプション2』をフルプライスでもっかい買うか!」という気分にはならない。
これは現状では上記に挙げたようなユースケースのどれでもなかなか辛いし、仮にマイクロソフトがProject xCloudとXbox Gamepassを組み合わせてきたりしたら太刀打ちできないだろう。
クロスセーブはひとつのカギ
ひとつ可能性を感じたのは、Pro無料のゲームとして提供されている『Destiny 2: The Collection』だ。本作ではクロスセーブに対応しており、記者がプレイステーション4で使っていたガーディアン(プレイヤーキャラクター)をそのまま呼び出して遊べたのは魔法のような体験だった。
まさに「普段は家でやっているゲームを外出先でも遊びたい」というユースケースと合致したのだ。Epic Gamesが技術提供をして推進しているようなクロスプレイ/クロスセーブが広まると、「家ではゲーム機/PCで遊んで、外ではクラウドゲーム」というプレイ形態が確立されていくだろう(Stadiaに限ったことではないが)。
というわけでStadiaにはビジネスモデル上の課題がある。これは古今のあらゆるクラウドゲームサービスと同様で、「ゲーム版のNetflixのようなもの」といった形に形容される理想形を目指すにあたって、Stadiaが現状解決できているとは思えない。
改善する方向性を夢想するならば、“Stadia Proは少し価格を上げてでももっとタイトルを拡充してXboxフランチャイズで言うXbox Live GoldとGamepassの合わせ技のような形に、その分Stadia Baseを少額の有料化”といったところ。
それで例えば『ボーダーランズ3』がクロスセーブ対応してPro無料で遊べたりでもすれば(実際はクロスセーブ対応していない)、記者は喜んでStadia Proを払い、普段プレイステーション4で遊んでいるキャラでコインランドリーの洗濯中にミッションを遊ぶことだろう。
“買い直さなくていい”他社クラウドゲームサービスの存在
なぜこんなことをぐだぐだ書いているかと言えば、すでに買ったゲームを買い直さないでいいクラウドゲームサービスが存在するからだ。
GeForce NowはSteamなどの他社ストアのライブラリーに持っているゲームを遊べるような仕様になっているし、フランス系のBladeグループが運営する“Shadow”のようにWindows 10マシンをクラウド経由で操作してSteamどころか何でもアプリを入れられるものも存在する。
もちろんその分、月額の契約料が高かったりするのだが(Shadowは通常月額24.95ドル)、外でも遊びたいほど好きなゲームだからって、買い直さずにサクッと遊べるのはありがたい。
日本ローンチまでの改善を望む
ここまで触れてきたように、Stadiaには技術的・ビジネス的な課題がいろいろと存在する。幸いなのは(あるいはあまりよくない評判が広まってしまって不幸かもしれないが)これがソフトローンチであることだ。日本を含めたグローバルなローンチまでに改善されるのを期待したい。