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『Life is Strange』に見る、ナラティブを最大限に活かす音楽の活用術【GDC 2019】
公開日時:2019-03-22 18:00:00
2019年3月18日~22日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコで行われている世界最大級のゲーム開発者のカンファレンス、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス) 2019。ここでは『Life is Strange』のセッションの模様をお届けする。
(取材・文・撮影:古屋陽一)
日本のゲームファンにも好評を博したアドベンチャーゲーム『Life is Strange』。同作の開発元であるDONTNOD Entertainmentのおふたり、クリエティブ・ディレクター&ミュージックスーパーバイザーのラウル・バーベット氏と、オーディオ・ディレクターのセバスチャン・ガイヤール氏により、GDC 2019の会期3日目にあたる2019年3月20日(現地時間)に行われた講演が“'Life is Strange': Music in a Narrative Driven Game”だ。ナラティブ中心のゲーム『Life is Strange』において、音楽をどのように扱ったかを語るセッションだ。
クリエティブ・ディレクター&ミュージックスーパーバイザーのラウル・バーベット氏。『HEAVY RAIN 心の軋むとき』でモーションキャプチャーを担当したらしい。なるほどイケメン! |
オーディオ・ディレクターのセバスチャン・ガイヤール氏 |
取り上げられたのは、世界観を同じくするDONTNOD Entertainment開発による『Life is Strange』、『The awesome adventure of Captain Spirit』(日本での配信・発売は未定)、『Life is Strange 2』(日本での配信・発売は未定)の3タイトル。
それぞれ開発環境が異なる。 |
3タイトルに共通するのは、“ナラティブを重視した、プレイヤーの決断が物語を大きく変えるアドベンチャー”、“3本とも同じユニバースで、納得感のあるキャラクターとストーリーを重視”、“現実世界の難しい問題に向かい合うことを意識”というもの。
そんなナラティブ重視の3タイトルにおいて、音楽とサウンドは非常に重要だったという。「シーンの持ち得る深みをより上質なものにするために、最初からナラティブと音楽をリンクさせようと考えていた」(ラウル氏)というのだ。
実際にゲームに収録する楽曲に関しては、既存曲と描き下ろし曲のどちらも使ったとのこと。「世界設定が現実世界に近いので、シーケンスが惹起する感情によっては既存曲もうまくなじむから」と考えたためだ。ただし、「この曲が好きだから」という理由で既存の曲は使わなかったという。もし好きという判断で使えば、「ジュークボックスと同じ」になってしまう。「ミュージックスーパーバイザーとして、既存曲を使うならば、なぜここでこの曲を使うのか、という理由を求めた」とラウル氏。既存曲と描き下ろし曲のバランス取りにも神経を使ったようだ。
では、技術的な側面ではどうだったのだろうか。実際のところ、「音楽を差し込むだけなら難しくない。どう組み込むかにこだわりました」と、セバスティアン氏は語る。「セリフ、演技(アニメーション含む)、ゲームデザイン、ゲーム内で取れるアクション、カメラワーク、そして音楽、すべてが一体となって体験を作りたかったんです」という。
以下は、ナラティブに音楽をうまく活かした具体例。
『Life is Strange』で、クロエの部屋にマックスが行き、CDを再生するシーン。ここで、プレイヤーに対して、キャラクターたちの個性をしっかりと示す必要があった。そこで、アンガス・アンド・ジュリア・ストーンの“Santa Monica Dream”を選択した。この楽曲にしたのは、キャラクターの精神状態を表現し、本作に通底する“懐かしさ”をしっかりと表現する楽曲だと判断したからだ。
このシーンでは、最初はゲーム内のスピーカーから再生されていたものが、途中からBGMに変更されている。セバスチャン氏は「3D空間から2Dに切り替える」と表現していたが、映画では一般的になされている手法ではある。「ゲームという芸術に、音楽を刻み込むために使った」とセバスチャン氏。
おつぎは、『Life is Strange 2 Episode1』より。楽曲はフェニックスの”Lisztomania”を使用。ティーンエージャーが学校から帰ったときの明るい印象を強調するためにこの楽曲を使ったという。「これが後の悲劇とのコントラストとして機能するようにしたんです。まるで描き下ろし楽曲みたいにハマったと自負しています」とのこと。さきほどとは逆に、この場面では2Dから3Dに切り替えたという。
『Life is Strange』のプールパーティーのシーンから。ここでは、キャラクターではなくて、“周辺環境”を表現する手段として音楽を使ったとのこと。当初2Dで再生していた音楽を、カーテンを開いた瞬間に3D空間で鳴らすようにした。これは、“別の場所”の感覚を生み出すためだ。ここでは、オーディオソフトのWwiseを駆使して、3Dスピーカーとステレオ2D(トイレに入ったタイミング)、加えて5.1ch(メインステージの音、サラウンド使用プレイヤー向け) を切り替えるようにしていた。さらにUnreal Engineのマチネーを使うことにより、時間を巻き戻したときも音楽の同期が取れるようにできたという。
さて、『Life is Strange』と『Life is Strange 2』の描き下ろし楽曲はジョナサン・モラリ氏によるもの。マックスの性格やゲームの雰囲気を考えたときに、最初に浮かんだのがモラリ氏の音楽だったという。「懐かしさ、切なさ、美しいメロディがぴったり」とラウル氏。モラリ氏は、各種映像作品に楽曲を提供していたが、ゲームでは初。合計30分の音楽が8つのシーンで使用された。「ゲームのストーリーを考えると、同じテーマを何度も使えないことはわかっていたので、先に進むに連れて変化していくようにした」という。
モラリ氏の仕事は素晴らしく、「美しい楽曲であるだけでなく、ゲームで必要になるループ処理にも対応するものにしてくれた」ようだ。たとえば、今回紹介する3作には、いずれもいわゆる“禅シーケンス”というものが存在する。これは、いろいろな思いが浮かぶシーンで、プレイヤーが自分の気が済むまでその状態でいられるシーケンスだ。
『Life is Strange』の後半のとあるシーンでは、マックスの気持ちを表現するようなアコースティックギターの音色が入るが、そのギター部分をキレイにループするようにして、思う存分浸れるようにしたという。プレイヤーの気が済んだらつぎのグリッドに遷移し、そしてフェイドアウトする。フェイドアウトには長めに時間を設定したそうだ。
そしてメニュー画面。3作はいずれもエピソード式なので、メニューはゲーム世界を反映していく。そのため、メニュー画面はとても重要だった。曲は同じなので、これがすべての状況を一貫して彩る。ただし、『Life is Strange 2』では、“事件”前後で画面だけでなく曲が変わるようになっている。
そしてメニュー画面。3作はいずれもエピソード式なので、メニューはゲーム世界を反映していく。そのため、メニュー画面はとても重要だった。曲は同じなので、これがすべての状況を一貫して彩る。ただし、『Life is Strange 2』では、“事件”前後で画面だけでなく曲が変わるようになっている。
今度は、既存曲をゲーム内楽曲的に活用したシーンを紹介しよう。『Life is Strange』のネイサンのシーンだ。ネイサンは多くのファンに愛されるキャラクターだったので、とくに力を入れて作ったようだ。「ここでは楽曲以外にも沈黙(間)、ラジオ音声、留守電音声といろいろな要素を重ねているが、音楽の面でも感情を掻き立てるところでギターを入れ、さらに緊張感が高まるところでドラムを入れるなど、どんどん曲の厚みを増していった」という。「カメラチームとオーディオチームの連携が機能し、高い完成度になった」とラウル氏も自信のシーンだ。
さて、今回紹介した3タイトルでは、アーティストにリスペクトを示しながらも、音楽をインタラクティブにしたシーンがあるという。たとえば、『Life is Strange』で、自分の部屋で大好きな曲を聴きながらギターを引くシーン。3D空間でかかる音楽に ギターを重ねるシチュエーションだ。10代の女の子らしくときたま間違えたりもするが、曲が終わってもギターだけは弾いているのが印象的だ。『Life is Strange 2』の、流されている“The strees On a Flip of a coin”の歌に合わせて、下手くそに歌おうとするところも同様だ。ちなみに、声優さんは、下手に歌うことを本当に嫌がっていたとのことで、それはわかるような気もする。
ダンスなどをしているシチュエーションでは、プレイヤーが止めることを明確に選択するまでは、好きなだけ踊れるようにループさせたという。
講演では、外部アーティストの選びかたのプロセスも紹介された。
[1] とにかくたくさん楽曲を聴いて(そんな時間はないけど)
[2] オーディオチームと協議しつつ、候補者を決める(誰も賛成してくれない)
[3] シーンで試す(なかなかうまくいかない)
[4] 楽曲使用の価格を確認する(高すぎる!)
[5] 承認を得て契約する(アーティストが“ノー”と答えることも度々)
と、このようにだいたいどこかで何か問題が起きるので、「絶対に余裕を持って作業を進めることをおすすめする」とのことだ。
「ゲームと音楽は錬金術みたいなもの。錬成するのは難しいけれど、成功するととんでもないモノになる」とラウル氏。「音楽を使いすぎないこと。すごく大事なところに使うように」とのコメントも説得力を持つ。DONTNOD Entertainmentが開発した3タイトルは、その音楽への深いこだわりゆえに、“錬成”に成功した、類まれなタイトルということは言えるのかもしれない。
開発者向けの講演ということで、最後は“ジュークボックスを作ってはいけない”、“フィードバックを聞く人数が多すぎるとよくない”、“決断者をひとりにすることが大事”、“プランBやCも用意しておくこと”といった、ある種実務的なアドバイスも。 |
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