世界中のゲームファンの心を揺さぶるインタラクティブなアドベンチャー作品を生み出してきたフランスのスタジオQuantic Dream。ファミ通ではQuantic Dreamを訪問し、独占取材を行った。独占取材記事第6弾となる今回は、圧倒的なクオリティーでプレイヤーの感情を揺さぶる最新作『Detroit: Become Human』(以下、『デトロイト』)制作の要を担う、ゲームの開発に使われるソフトウェアなどのさまざまなツールを作成する、ツールチームへのインタビューをお届けする。

 世界中のゲームファンの心を揺さぶるインタラクティブなアドベンチャー作品を生み出してきたフランスのスタジオQuantic Dream。ファミ通ではQuantic Dreamを訪問し、独占取材を行った。独占取材記事第6弾となる今回は、圧倒的なクオリティーでプレイヤーの感情を揺さぶる最新作『Detroit: Become Human』(以下、『デトロイト』)制作の要を担う、ゲームの開発に使われるソフトウェアなどのさまざまなツールを作成する、ツールチームへのインタビューをお届けする。

 非常にクオリティーが高いことで知られるQuantic Dream作品だが、その裏にはツールチームの活躍がある。まさに縁の下の力持ちとしてゲーム開発を支えるチーム。我々の目に見えないゲーム制作の裏側で行われる作業について、どのような思いで取り組んできたのかうかがった。

ジャン=シャルル・ペリエ氏

3年前からツール開発を担当するテクニカルディレクターとしてQuantic Dreamに参加。ツールチームをまとめることに尽力している。

アントワーヌ・ギャルブラン氏

テクニカルディレクターとして長い経験を持つ。6年前からQuantic Dreamに参加し、おもにキャラクターの操作まわりのツール開発を担当。

どんな業務にもツールを用いる!?

――リアリティーを重視した作品でゲームファンを驚かせてきたQuantic Dreamですが、最新作の『デトロイト』では、どういった環境で制作されたのでしょうか?

アントワーヌ 我々はふだん、業界では有名なMaya(オートデスク社が開発する、モデリング、レンダリング、シミュレーション、テクスチャリング、アニメーション用のツールを搭載した3DCGアニメーション制作ソフト。)というモデリングソフトを使ってゲームの制作をしているのですが、毎回Mayaだけを使うのではなくて、自分たちで新しく機能を拡張するプラグインを制作するようにしています。今回も『デトロイト』の企画が立ち上がったとき、まず新しいプラグインを作成して、リアルタイムに3Dモデリングを行えるような環境を整えてから、背景やキャラクターモデルの制作に入りました。

――毎回、新作の開発のたびに、ツールを拡張するプラグインを新たに作るのですか。

アントワーヌ はい。とくに『デトロイト』はプレイステーション4用のソフトになるため、モーショングラフィックスなどで、膨大な量のデータを管理する必要が出てきてしまって。ですので、新しいツールを作ってでも、大量のデータを正確にモニターすることは、開発を進めるうえでも非常に大切になってくるのです。何しろ、数年をかけて開発するわけですから、最初にやっておくのが肝心です。

ジャン 僕らの仕事は、ゲームを制作するうえで起こりうる要望を想定しつつ、開発環境を快適にしていくためのツールを作っていくことですね。ゲーム開発のチームと足並みを揃えて、スムーズに作業を進めるのに便利なツールを考えます。たとえば、プレイステーション4版の『BEYOND: Two Souls』(以下、『ビヨンド』)にも搭載されていた遊びとして、プレイヤーの行動を情報として集めて比較できる要素がありましたが、こうした機能も我々が“テレメトリー”という専用のツールを開発して組み込んでいったものでした。『デトロイト』でも同じ機能があります。たとえば、東京ゲームショウなどのイベントに出展した際に、試遊したプレイヤーの行動から、何%のプレイヤーが、“人質”のチャプターで、本筋とは関係のない“水槽から出て苦しんでいる魚を助けたか?”といったデータを採集していて、なかなか興味深い結果が採れていますよ(笑)。

――世界各地の魚救出率がわかるんですね(笑)。各国での反応の差なども気になります。

アントワーヌ テレメトリーで集めた情報はゲーム内に取り込んでいます。この魚のケースはほんの一部で、さまざまな種類の統計を取ってゲーム内に反映させています。

――『ビヨンド』のときより進化していますね。

アントワーヌ 確かにゲーム内にここまでプレイヤーのプレイデータを反映させることは、『ビヨンド』にはなかった機能かもしれないですね。インターネットにつなげれば、チャプターの最後に出るフローチャートで、どのくらいの人が特定の行動を選んだのかをパーセンテージで見られるようにもなっています。

テレメトリーは、世界中のプレイヤーのプレイデータを記録し、統計するツール。統計されたデータは開発に役立てられるほか、ゲーム内に盛り込まれ、プレイヤーに表示されることも。
世界中のプレイヤーの選択が見られるのも、ツールチームのおかげ。魚を助けたプレイヤーのほうが多いようだ(2018年5月末時点)。

――プレイヤーの行動で物語が細かく変化していく作品なので、ほかのプレイヤーがどういった行動をしたのか統計が閲覧できるのは興味が湧いてきます。ほかにも、制作にあたって特別なツールを開発したのでしょうか。

アントワーヌ 『デトロイト』はリアリズムを重視しているので、ちょっとすれ違うだけの人物の服装など、プレイヤーにとってささいな要素であってもリアルに表現できているかどうかを重要視して制作されています。服装などのリアリティーを表現するためには、とくにライティングによる表現が大切になるのですが、ここでも専用のエディットツールを作っています。

ジャン キャラクター表現に焦点を当てている作品なので、陰影の表現をパワフルに行えるツールが必要になったのです。ですので、物理ベースのシェーダーを使って精密な影を描けるようなツールを作りました。絵画にたとえるなら、影や光を絵の具のように重ね塗りできるツールと言えばいいでしょうか。リアルな映像を追求すべく、ライティングを物理的に組み合わせられるようなツールを作って、グラフィックチームに使ってもらうわけですね。

――なるほど。

アントワーヌ こうしたシェーダーなどでの3Dモデルの影を表現する際には、ふつうはパラメーターの数値を変えて簡素に設定していくものが多いのですが、『デトロイト』では、現実世界ならどのように光が当たって影が生まれるのか、その表現を現実と差がないレベルで再現することを目指して徹底的に考えなくてはならず……非常にたいへんでした(笑)。光と影ひとつとってもこれだけたいへんなのですから、そのほかの大量に登場するオブジェクトを正確に表現して、しかもぶつかったときに動くようにする、といったことは、考えるだけでクラクラしますよね。

独自のアセンブリングツールも開発。イベントシーンのグラフィックをリアルタイムに調整する機能などもある。

――確かに(笑)。そうした多くのデータを扱うからこそ、専用のツールが必要になるのですね。そうしたツールは、毎回どのような発想から作っていくものなのでしょうか。

ジャン やはり開発スタッフが壁にぶつかったときに、それを乗り越えるためのツールとしてイメージし始めますね。ほかの業界人の話を参考にしたりもします。ただ何よりも、ツールが必要とされるのは、たくさんいる開発スタッフが全員同じぺースで仕事を進めていけるようにするためなんですよね。得意なことがいろいろ異なるスタッフがいますが、みんなが自分の能力を快適に発揮できるようにするために、我々がツールを作っていくわけです。

既存のツールだけではゲームは作れない?

――そうしたツールで、具体的にスタッフはどんなことが便利にできるようになるのでしょうか?

アントワーヌ そうですね。わかりやすく言うと、ビジュアルに関するツールならば、プログラマーではない人でも使いかたを学べば3~4日くらいでグラフィックを調整できるようになります。自画自賛になってしまいそうですが、それほど使い勝手がいいんです(笑)。リアルタイムですぐに結果が反映されますしね。

ジャン “ポップコーン”と名付けた動画用のツールもありまして、これも映像編集をしたことのある人なら数日ですぐ使えるようになるもので、ビデオやオーディオなどの異なるトラックを並走させて別々に編集できるんです。市販品の映像編集ソフト『Adobe premiere』に似た機能を持ちながら、ゲームの動画編集に特化させたようなものですね。そのほかにもさまざまなツールがあるのですが、とくに“ショットライティング”という、場面内のライティングを一気に調整できるツールが重宝されています。『デトロイト』には約35000のシーンがあるのですが、それは映画に換算すると10~20本分くらいになるボリュームですから……。

――それを個別に調整していたら、日が暮れてしまいそうですね……。

ジャン そうなんです。ほかにもいろいろなツールがあるのですが……こうして説明していると、基本的にスタジオで行っている作業のすべてに、それぞれ専用のツールを作っている感じかもしれないですね(笑)。

フィルミングツールも独自開発。ゲームの映像編集に特化しており、ほかの製品にはない便利な機能も搭載されているため、効率化が図れるという。

――それだけ用途の違うツールがいくつも開発されているとは、驚きです。

アントワーヌ フェイシャルアニメ、アニメーション、データのトラッキング……などに用いるツールもあるので、もはやソフト会社かと思うときもあります(笑)。ツールチームは40人なのですが、Quantic Dreamにとっても重要なチームになっています。ふつうの開発会社には、おそらくツールチームにこんなに人数はいないのではないかと思うのですが。

――既存のさまざまなエンジンがある中でここまで多種多様なツールを作るということは、それがないとQuantic Dreamのゲームは作れないということでしょうか。

アントワーヌ 世の中に出回っているツールも使うのですが、どうしても足りないと感じる部分は、自分たちで補う必要があります。物理演算に関しては、他社の有名なミドルウェアも使っています。ですが、“足りなかったら社内で作る”というのが、スタジオの基本的な方針ですね。予算も節約できますから。

ジャン すでに提供されているほかのエンジン群は、FPS向きだったりと特定のジャンルのゲームに特化していたりするものが多いので、我々が望むことができないケースも多いんです。

アントワーヌ 最終目標は、“もっともいいゲームを作ってユーザーに提供すること”なんです。そのためには、既存のツールだけを使っていたのでは、世界中のユーザーに“もっともいい”と思ってもらえるレベルに到達するのはまず不可能だと感じているのかもしれません。だからこそ、エンジンとツールを自作して、いままでにないユニークなゲームを生み出すパイオニアを目指そうとしているのだと思います。

――ツール開発チームとして、ゲーム発売後に完成したゲームを見て、どのようなやりがいを感じられていますか?

ジャン やはり発売後に問題がなくゲームが動いて、プレイヤーに喜んでもらえれば大満足ですね(笑)。

 ついに発売された『デトロイト』。『デトロイト』をすでに楽しんでいる人も、まだ手に入れていない人も、今回のツールチームへのインタビューだけでなく、ぜひほかのQuantic Dream特集のインタビューを読んでいただきたい(ほかのインタビューへのリンクは下記)。また、すでに発売中の週刊ファミ通2018年5月31日号では、Quantic Dreamの独占スタジオツアーを誌上再現した52ページにおよぶ総力特集を掲載している。今回のインタビューで興味を持った方は、ぜひ誌面の特集も読んでいただきたい。なお、明日の2018年5月30日(水)夜には、Quantic Dreamの演出チームとサウンドインタビューを掲載予定だ(記事を公開しました)。こちらも楽しみにしてほしい。

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Quantic Dream特集記事リンク