世界中のゲームファンの心を揺さぶるインタラクティブなアドベンチャー作品を生み出してきたフランスのスタジオQuantic Dream。ファミ通ではQuantic Dreamを訪問し、独占取材を行った。独占取材記事第3弾となる今回は、最新作『Detroit: Become Human』(以下、『デトロイト』)の発売を記念して、作り込まれたビジュアルで見るものを圧倒する、アートチームへのインタビューをお届けする。
3体のアンドロイドの視点で2038年のデトロイトを舞台とした物語を体験し、“人とは何か”という深遠なテーマを描く『デトロイト』。本作を手掛けるQuantic Dreamと言えば、現実世界と見まごうような高品質なグラフィック表現で、世界観を描き出してきた。そのQuantic Dreamで作品の顔となるアートを作り出してきたアートチームは、いったいどのようにして世界観を構築していくのか。ついに発売された『デトロイト』の制作にスポットを当て、独自の思想からこだわりまでを語っていただいた。
クリストフ・ブリュソー氏
フリーランスのアーティストとして映画やCMなどを手掛けたのち、2001年にQuantic Dreamに入社。『ファーレンハイト』以降の作品に携わり、『デトロイト』にはグラフィックディレクターとして携わる。
エミリー・ラゴ氏
ファッションデザイナーから一転、2007年にQuantic Dreamに入社。『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』(以下、『ヘビーレイン』)でコスチュームデザインを手掛ける。現在は同社グラフィックプロダクションマネージャー。
実際に縫製ができる服をゲームに登場させる
――エミリーさんは衣装専用のデザイナーを担当されているとのことですが、ゲーム制作に衣装デザイナーという役職があるのは海外では当たり前なのでしょうか?
エミリー ふつうはいないでしょうね(笑)。コンセプトデザイナーがキャラクターの衣装も手掛けていることが多いので、Quantic Dreamの衣装専用のデザイナーという役職は、かなり珍しいと思います。
クリストフ ファッションデザイナー出身のエミリーに衣装をデザインしてもらっている理由は、現実味のある衣装をキャラクターに着せることで、その存在を身近に感じてもらおうと考えたからです。我々が『デトロイト』を含め、これまでのタイトルで役者さんに実際に演技をしてもらって、それをすべてモーションキャプチャーでゲームに落とし込んでいるのも、そういった現実の延長線上にあるような身近さを感じてもらいたいという考えかたの一環なのです。
――確かに、いま現在を生きる我々が見ても違和感を覚えるような衣装はないですね。
エミリー そうですね。とくに最新作になる『デトロイト』ではリアリティーを追求して、アンドロイドが着る衣装はごくふつうの服装に感じられるようにしました。スタイリストやファッションデザイナーたちの意見をもらいながら作ったので、構造としてありえない服は登場しません。たとえば、東京ゲームショウ2017に『デトロイト』のコーナーがあったと思いますが、あそこに並んでいたアンドロイドは、ゲーム中のアンドロイドの服装を再現した衣装を着ていたんです。多くの方に見ていただいたと思いますが、CGでしか再現できない構造の衣装ではなく、実際に作れるようにしていたので、違和感はなかったのではないでしょうか? しかも、服をデザインする際には、ファッションデザイナーが実際に使っているツールを使っているので、完成したデータを工場に送ればそのまま服を作ってもらえるくらい精巧なんですよ(笑)。
――それはすごい! そのまま発売してほしいくらいです(笑)。それにしても、すさまじいクオリティーへのこだわりですね。
エミリー もちろん材質などの関係もあるため、プロの製品としては通用しないかもしれませんが、ポケットなどは正しい位置に付いていますから、服としては十分に機能します。
プレイヤーに物語を感じさせるグラフィック
――Quantic Dreamが作品の“絵作り”でいちばん大事にしているものはどのようなことなのでしょう。
クリストフ もっとも意識しているのは、ゲーム全体に統一性を持たせることです。環境や、キャラクター、アクションのすべてにおいて、ストーリーとの整合性が取れているようにするのです。Quantic Dreamでは、グラフィックの美しさだけを追求することは目指していません。我々は“ナラティブグラフィックス”という言葉を使っているのですが、グラフィックそのものや衣装といった要素を、それに注目するだけでも物語を感じ取れるようにデザインすることで、よりゲームの世界を味わっていただけると考えています。言葉を使わずに、ゲームプレイからも物語をプレイヤーに感じさせることは、Quantic Dreamのゲーム作りのスタイルと切っても切れない関係にある重要なキーワードです。
――その“ナラティブグラフィックス”というキーワードは、ほかにはどのような要素で感じられますか。
クリストフ 背景やそこに配置される小物などを含めたセットですね。制作中は“見えざるナラティブ”という標語を掲げて、配置してあるちょっとした小物や、セット自体の表現にすべて意味を持たせていまして、セットに関するあらゆるものから、背景となるストーリーやキャラクターについて、プレイヤーがもっと深いことを知ったり、感じたりできるように要素を加えています。たとえば、友人のアパートが登場するシーンがあるとしますよね。その部屋を見るだけでも、その友人の趣味や、好き嫌い、どういう生活をしているのかがわかるような作りになっているんです。『デトロイト』では、とある古い邸宅が登場するのですが、そこにはビリヤード台があるものの、台の上にはいろいろな雑誌が置かれていて、埃が積もっています。その状況から、住人は家にビリヤード台を用意するほど好きだったものの、台に荷物を置き、そこに埃が積もってしまうほど遊ばなくなってしまった。生活が何か変わってしまったということがわかるようにしているわけです。
――深い……! そうした“見えざるナラティブ”の実現には、キャラクターへの理解が不可欠だと思います。アートチームの皆さんは、どのようにしてその理解を深めていくのですか?
クリストフ デヴィッドとの会話でキャラクターのイメージを育てていきます。シナリオやキャラクターのベースを作っているのはデヴィッドとシナリオチームですが、彼らとの会話の中で、アートチームから『デトロイト』に登場する刑事のハンクというキャラクターは、“クラウドの音楽サービスではなくて古いレコードで音楽を聴いている”というようなアイデアを提案することもあります。作品の世界をデザインするにはイメージが必要になるので、デヴィッドとはお互いに意見を出し合って、よりいいものを目指しているのです。そうして形作られた、ストーリーにはない情報は“バイブル”と呼んでいる設定集にまとめて、キャラクターのイメージをチーム内で共有します。
エミリー こういった会話とアイデアの積み重ねで、リアルなものを作れるようになるんです。衣装で言えば、どんな服を着て、どんなアクセサリーをつけているかという点で、キャラクターをより詳細に表現できますから。