世界中のゲームファンの心を揺さぶるインタラクティブなアドベンチャー作品を生み出してきたフランスのスタジオQuantic Dream。ファミ通ではQuantic Dreamを訪問し、独占取材を行った。独占取材記事第4弾となる今回は、最新作『Detroit: Become Human』(以下、『デトロイト』)で、膨大な分岐で変化するシナリオがどのように構築されたのか……その疑問に迫るべく、シナリオチームへのインタビューをお届けする。

 3体のアンドロイドの視点で2038年のデトロイトを舞台とした物語を体験し、“人とは何か”という深遠なテーマを描く『デトロイト』。ゲームオーバーは存在せず、プレイヤーの選択や行動で変化していくインタラクティブな物語にこだわって作品を作り続けてきたQuantic Dreamは、どのように本作のシナリオ制作を進めていったのか、じっくりと語っていただいた。

『Detroit』インタビュー プレイヤーの選択に物語はどう寄り添うか。膨大な分岐で応えたシナリオチームが語る【Quantic Dream特集その4】 _01

アダム・ウィリアムズ氏

勤めていたテレビ局を退社してQuantic Dreamに参加。『デトロイト』ではシニアシナリオライターを担当。

シモン・ワセラン氏

『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』(以下、『ヘビーレイン』)からゲーム開発に携わり、『デトロイト』ではリードデザイナーを務める。

グレゴリー・ディアコヌ氏

アソシエイトゲームディレクターとして、『デトロイト』のストーリー執筆に深く関わる。

すべての選択肢に納得できる“一貫性”を求めて

――Quantic Dreamでのストーリー執筆はどのような流れで作業を行われているのですか。

アダム たとえば『デトロイト』のストーリーは、シナリオチームがデヴィッド(デヴィッド・ケイジ氏。ディレクションからシナリオまでを手掛けるQuantic DreamのCEO)と共同で書いていったのですが、最初から丹念にひとつのストーリーを追求するやりかたではありませんでした。シナリオに映画並のクオリティーを保つのは当然なのですが、それに加えて、Quantic Dreamとしては、起伏あるストーリー展開の中でプレイヤーの選択によりストーリーが変わっていくという、インタラクティブなストーリー作りを目指す必要があるのです。

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人質を取って立てこもるアンドロイドと交渉する場面では、プレイヤーの選択によってあらゆる結末に変化。ゲームオーバーはなく、物語はそのまま展開する。

――プレイヤーの選択によってストーリーが変化していくということは、一本のストーリーを書くだけでは終わりませんよね。

アダム その通りです。プレイヤーが自分で物語を紡いでいったような体験を覚えるために、多岐にわたるインタラクティブなストーリーを作る必要があります。また、自分たちの入れたいことが各シーンに反映されているかどうかを、アニメーターやほかのチームといっしょに、ひとつひとつのシーンで確認する作業もあります。

――Quantic Dreamのゲームは、美しくリアリティーがあるという点だけではなく、コントローラーを握って遊んでいると、その世界に本当に入り込んでいるかのような没入感があります。デヴィッドさんとともにシナリオ部分に関わられている皆さんから見て、物語のどのような点が没入感を生んでいると感じられているか教えてください。

シモン 自分が書いてきた部分のシナリオはどうしても客観的には見られないのですが、あらゆる場面においてプレイヤーが行うであろう、いろいろなケースを考えながらシナリオを組み上げてきたからこそ、プレイヤーの行動に応える物語として没入感を生んでいるのではないでしょうか。とくに『デトロイト』の場合は、膨大に分岐するシナリオを書かなくてはなりませんでした。

――『デトロイト』には、Quantic Dream作品でも過去最大規模のシナリオ分岐があるそうですね。多岐にわたって膨大な変化を見せるシナリオは、いったいどのように書いていくものなのでしょうか。

シモン ストーリーを考えるうえで、いろいろな可能性をグループとして捉えるのです。たとえるなら、シナリオ上に設定した“可能性のグループ”を、まるでボールをジャグリングしているかのようにとっかえひっかえして書いていく感じでしょうか(笑)。 たとえば、マーカスが暴力的な行動をとろうとする場面があるとします。ここでプレイヤーは、マーカスの行動に対して“さらに暴力的な行動で応えようとする”のか、それとも“平和的な答えを出そうとする”のか。さまざまな分岐があるにせよ、まず大きなふたつの可能性をグループとして置き、そこからさらに細かい変化について書いていくのです。

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アンドロイドを率いることになるマーカス。彼を操作するチャプターでは、人間とどう関わるのかについての大きな選択を迫られる。

――そうした可能性については、多くのプレイヤーが選びそうな“正しい答え”とでもいうべき選択を、あらかじめ想定されていたりするのですか。

シモン いいえ。『デトロイト』のシナリオには、アンドロイドの迫害や失業者問題など、さまざまな社会的なトピックが描かれていますが、それに対してプレイヤーがどういう判断をしたかについて、こちらで良し悪しを決めてはいません。“こういう場合だったら、どうしますか”という状況を作って、その後にプレイヤー自身が選択したことについて“信じられる”ような展開や答えを、それぞれに用意しておきます。

――状況によっては、かなり考える選択も出てきそうですね。

グレゴリー そうですよね。ユーザーテストを行った際に、数人のプレイヤーが“ある決断”を前に……45秒ぐらいでしょうか、固まってしまってなかなか決められなかった姿を見ました。その方は結局ゲームを中断して、「もう一度考えてから再開します」と言ってきたんです。僕たちとしては、まさにそういった“選択が難しい状況にプレイヤーを追い込みたい”と思っていました。

アダム プレイした数日後などに、自分がゲームで下した決断や社会的な課題について考えたり、ほかの人とディスカッションしたり……そういった機会が『デトロイト』で生まれることを楽しみにしているほどです。「誰かの考えを統一したい」とか「変えたい」というわけではなく、“自分が下した選択について深く考える”ということですね。

シモン 僕もアダムと同じ考えです。『デトロイト』はディープなテーマやアイデアを提供している作品ですが、こちらからは、そこに“特定の反応”を期待しているわけではありません。目標としてきたのは、プレイヤーの“心が動かされる”ことであり、それを掲げて作ってきたのです。だからこそ、キャラクターたちに感情移入をして、プレイヤーが“人間として”どう考えるかということにもっともフォーカスしてもらいたいです。

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