世界中のゲームファンの心を揺さぶるインタラクティブなアドベンチャー作品を生み出してきたフランスのスタジオQuantic Dream。ファミ通ではQuantic Dreamを訪問し、独占取材を行った。独占取材記事第5弾となる今回は、最新作『Detroit: Become Human』(以下、『デトロイト』)で、息づくかのようなキャラクターやイベントシーンを実現した、3Dアニメーションチームへのインタビューをお届けする。
3体のアンドロイドの視点で2038年のデトロイトを舞台とした物語を体験し、“人とは何か”という深遠なテーマを描く『デトロイト』。その中で生きているかのように感じるほど高品質なキャラクターモデルを生み出す工程に迫る。Quantic Dreamがこだわるリアルな表情や身体の3Dアニメーション、そして『デトロイト』での注目ポイントについてうかがった。
アンジェリーヌ・リオ氏
身体や乗り物、動物などのアニメーションを担当する責任者。制作には『BEYOND: Two Souls』(以下、『ビヨンド』)から参加する。
ヤン・ギャボリオ氏
表情のモーションキャプチャーデータを管理し、そのすべてのクオリティーを確認する役割を担う。
マリー・セラヤ氏
『デトロイト』では表情アニメーションの品質を管理している。Quantic Dreamが技術デモとして発表した映像作品『The Dark Sorcerer』の制作にも参加。
キャラクターごとの表情を決めて演技をしてもらう
――皆さんは、3Dモデルにアニメーションをつけていく担当のチームですが、その作業工程について教えてください。
アンジェリーヌ 最初に、モーションキャプチャーで収集した俳優の演技のデータを、キャラクターに落とし込む“リターゲット”という工程を行ってから、キャラクターの骨格を作っています。この段階では指の動きなどのデータはないので、そうした細部は別途、俳優の手に機材を付けてデータを取ります。
ヤン 私は表情のアニメーションを中心に担当しています。アンジェリーヌと同じように、俳優の顔のあちこちにつけた表情の動きを読み取るマーカーのデータから、表情のアニメーションを作っていくのです。そのデータをアニメーションに落とし込むには、特性の異なるふたつのツールを使っています。そのひとつが、『デトロイト』から導入した新しいツールです。この新しいツールでは、役者の動きを正確に手早く再現できるのですが、その反面、ときどき変な動きが出てしまうこともあって。そういうときは、これまでの作品で使ってきた、扱いに慣れている専用ツールで細かく修正をかけていきます。
マリー 私の作業は、ヤンがいまお話したように作り上げたモーションキャプチャーのデータをさらに磨き上げるように修正していき、アートチームが制作したキャラクターイメージの表情に近づけていくというものです。キャプチャーしたデータを、単純に3Dモデルにそのまま流し込んだだけでは、どうしても不自然なアニメーションになってしまいます。作品全体で、各キャラクターの統一性を保つために、あらゆる表情の仕上げをするイメージでしょうか。
――アートチームが制作した表情のイメージというのは、各キャラクターに細かく用意されているのでしょうか?
マリー はい。たとえば、“コナーの笑顔はこんな感じ”というイメージが決まっているんです。ちなみに、そのコナーの笑顔というのは、コナーが人間のふりをして、無理矢理に笑顔を作ろうとする場面があって。そのぎこちない笑顔が、個人的にすごく好きな表情です。
――それは早く見てみたいです! Quantic Dreamが作るキャラクターの動きの滑らかさは、業界内でもトップクラスのクオリティーだと思います。キャラクターCG制作分野において、ほかの作品から影響を受けることはあるのでしょうか?
アンジェリーヌ パッと思いつくタイトルはないのですが、自分たちのベストを尽くそうと日々取り組んでいるものの、他社のゲームがさまざまなことに挑戦しているのを見ると、自分たちも負けていられないという気持ちになりますね。
ヤン 完成度の高い作品が世に出ればゲーム業界全体の水準も上がっていくと思うので、高品質な作品がたくさん作られるようになってほしいと思っています。そのためには、まずは我々もできることをひとつずつこなしていって、業界全体のレベルを上げることに役立ちたいです。
――『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』(以下、『ヘビーレイン』)、『ビヨンド』と時代を経てどんどん技術が進化して求められるクオリティーは上がっていると思いますが、一方でテクノロジーが進化した結果、皆さんの作業はラクになっているのか、むしろたいへんになっているのか。どちらなのでしょう?
アンジェリーヌ いろいろな作業が自動化されたので、楽になっている……のかな(笑)。でも、扱うデータも作るアニメーションも増えたので、たいへんなことには変わりないですね。
ヤン ツールが改善されたぶん、作業は快適になりますが、アニメーションのリアリティーをつねに追求していて、改善できないかと考えているので、快適になったぶん、さらにたいへんなことに挑戦しているイメージです。とくに、唇の動きを役者と同期させる“リップシンク”については、技術が進歩しても苦労します。
――やはり、技術が進歩しても相応の苦労が生まれるわけですね。
マリー モーションキャプチャーでは、1秒間30フレームとして、フレームごとの演技の動きをトラッキングしていくわけですが、どうしてもトラッキングできないデータがあって、こぼれてしまうことがあるんですね。それで、トラッキングがこぼれてしまった際には、キャラクターの動きができるだけ自然になるようにフレームのあいだの動きを自動で補完していく“キーフレーム”という手法で修正します。でも、補完されたものがすべて完璧というわけではないので、エラーが出ているところについては、地道に手作業で最適化していくのです。この作業が、たいへんでたいへんで……(笑)。さらに、シーンによっては小道具を持った状態で演技をして、そのキャラクターとともに小道具の動きを調整する作業などもあるので、やっぱり骨が折れますね。
――最終的には、手作業がクオリティーの差を生むことになるわけですね。モーションキャプチャー自体の工程には、過去作と最新作ではどのような変化が生まれているのでしょうか。
ヤン 『ヘビーレイン』では身体と表情は別々にキャプチャーしていたのですが、『ビヨンド』からは、同時にデータを取れるようになりました。キャプチャーを行う道具についても、『ヘビーレイン』のときはマーカーを付けたヘルメットを装着して演技をしてもらっていたのですが、役者さんの演技にも影響してしまうので、『ビヨンド』からはヘルメットをやめて、頭や顔に小さなマーカーをたくさんつけてもらって演技をしてもらうようにしました。
アンジェリーヌ 『ヘビーレイン』のときには、役者さんから「ヘルメットがあると演技しづらい」という意見があったんです。ですが、『ビヨンド』で使った小型のマーカーを使用してデータを取る手法も、下を向いたときの表情を読み取れないという問題点があって……。ただ、何よりも優先すべきは演技ですので、できるだけ俳優が演技しやすい環境を優先しました。