世界中のゲームファンの心を揺さぶるインタラクティブなアドベンチャー作品を生み出してきたフランスのスタジオQuantic Dream。ファミ通ではQuantic Dreamを訪問し、独占取材を行った。独占取材記事第2弾となる今回は、最新作『Detroit: Become Human』(以下、『デトロイト』)の発売を記念して、スタジオ設立からいまに至るまで、CEO兼ゲームクリエイターとしてスタッフを取りまとめるデヴィッド・ケイジ氏へのロングインタビューをお届けする。
3体のアンドロイドの視点で2038年のデトロイトを舞台とした物語を体験し、“人とは何か”という深遠なテーマを描く『デトロイト』。CEOとしてスタジオをまとめながら、ディレクター兼シナリオライターとして本作のクリエイティブにも深く携わるデヴィッド・ケイジ氏に、本作に込めた想いと、スタジオが目指す未来についてうかがった。

ゲーム制作の難しさを知らなかったからこそ起業できた
――そもそも、デヴィッドさんがゲームクリエイターを目指したきっかけはなんだったのでしょう?
デヴィッド 私のスタートは音楽でした。5歳のころからピアノをやっていて、ミュージシャンとして作曲をし、そこからプロになったんです。ただ、もともとゲームが好きだったのもあって、途中からゲーム音楽にも興味を持ったんですね。ちょうどゲームのメディアがCD-ROMになり、本物の音楽をゲームの中に取り入れられるようになった時代というのも大きな影響があったと思います。そんなときに、アメリカのラスベガスで行われていたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)という家電の見本市に行って、そこで初めてプレイステーションを見て、『闘神伝』(タカラ(当時)が発売していた3D格闘ゲーム)をプレイしたんです。本当に驚きました。いちばん印象的だったのはリアルタイム3Dで、キャラクターが世界の中で動いているところでした。プレイヤーが操作する俳優が動き出し、その世界のストーリーを変えていく。プレイヤーが俳優になったということです。
――まさか『闘神伝』が、デヴィッドさんにそこまでの衝撃を与えていたとは……!
デヴィッド 私は10歳からゲームのファンでしたが、もともと6歳からずっとストーリーを書いていたんです。プレイステーションで『闘神伝』を遊んでからは、その技術をずっと勉強して、いつかリアルタイム3Dで表現した世界で、インタラクティブにストーリーを表現できるゲームを作れたらなと思っていました。そこで一念発起して、ゲーム業界の数人に「いっしょにゲームを作りませんか」と声をかけたんです。自分は作曲家だったうえに、会社はまだないわけですが、幸運なことにそれに同意をしてくれた人がいたので、会社を作ることになったんです。それが21歳のときで、その後に作ったのが、私の1作目『Omikron: The Nomad Soul』というゲームでした。音楽は、デヴィッド・ボウイが担当してくれたんですよ。
――1作目にして、世界的なロックスターの起用には驚きました。ところで、大手の会社に入るのではなく、みずから起業しようと思ったのはなぜだったのでしょうか?
デヴィッド いま思い返せば、21年前にゲーム業界を目指してとった私の行動は、じつにおかしなものだったかもしれません。必要な書類を集めて、いろいろなパブリッシャーに行ってはひたすらに自分の思い描くゲームの話をしたのですが、経歴を聞かれ「……作曲家です」と答えるたびに、必ず「ゲーム作りの経験がないならまず無理ですね」と断られてしまって。そうするうちに、ゲームを作るのをあきらめて作曲家を続けるか、新しく会社を立ち上げるかという、ふたつの選択肢が残ったのです。ですので、会社を立ち上げることを決意しました。
――会社を立ち上げたということは、ゲームを作る自信があったのですね。
デヴィッド いいえ、ありませんでした(笑)。そもそもゲームを作ったことがなかったので、どのくらい難しいのかまったく理解していなかったんですよね。当時の自分の中では、とてもシンプルなことだと思っていただけで。逆に、そのときからゲーム制作が難しいことだと知っていたら、Quantic Dreamはなかったかもしれません。自分がやりたいこともはっきりわかっていない状況だったからこそチャレンジできたのだと思います。若いですね(笑)。でも、最初から不可能だと思っていたら、そもそも会社など作りません。
――ちなみに、Quantic Dreamという社名はどういった経緯で付けられたのでしょうか?
デヴィッド 最初は6人くらいの小さなチームでプロトタイプを作っていまして、そのときに付けようとした社名は“ファントムフィジックス”(ファントム=亡霊、フィジックス=物理学)でした。物理の結び付きに魔法があると感じていたのですが、どこか変な感じがして……けっきょくその名前はボツにしました。その後、科学と魔法がいっしょになった名前にしようと思い立ち、Quantic Dream になりました。“Quantic”はフランス語の“Quantique”が由来となっており、英語では”Quantum”、すなわち“量子”を意味します。“Quantic”はスタジオが切り開く先端技術を、“Dream”はスタジオの芸術的、感情的なクリエイティビティーを意味し、それらが融合する会社名となっています。
――それから、こうして21年もゲームを作り続けてこられたのですね。
デヴィッド 我々が作ってきた、インタラクティブにストーリーを体験するタイプのアドベンチャーゲームというのは、15年前にはまったく“アドベンチャーゲーム”だとみなされずに、“おかしい”と言われることもありました。けれども、いまは業界全体の流れも変わってきて、最近では、感情を主軸に置いた体験的なゲームもたくさん出てきているので、いい流れになってきていると思います。

ゲームはプレイヤーとともに作る物語
――スタジオ設立時からブレずに、ストーリーとインタラクティブなものを融合させたゲームの制作を目指していたのでしょうか?
デヴィッド ストーリーを語るゲームではなく、プレイヤーといっしょにストーリーを語っていく作品にすることを意識しています。ゲームはプレイヤーとともにストーリーを作っていくことができ、プレイヤーごとに違ったストーリー、違った結末を迎えられることがおもしろいと感じています。
――Quantic Dream作品は、インタラクティブなストーリーが特徴ですが、一方で、ストーリーの分岐を絞れば、すぐに映画や小説といったものにもできると思います。デヴィッドさんがゲームというメディアにこだわる理由は?
デヴィッド ゲームがメディアとしてすばらしいのは、プレイヤーがアクティブに動いて感情が生まれるところです。それぞれのプレイヤーが違う経験をしたり、悲しみやうれしさなど、違った感情を抱いたりします。私たちはゲームを通じてプレイヤーを笑わせることもできますし、泣かせることもできる。私がもっとも重要視しているのは、作品から何を感じ取ってもらえるかです。ふだんからそういったゲーム自体のにプレイヤーに伝えるべき何かがあるか、ということを意識しながらゲームを作っています。抽象的な概念なので、いつもプロットを作るときに、ほかの人に説明したり、おもしろさについて説得したりするのがたいへんなのですが(苦笑)。プレイヤーの感情を揺さぶるというのはおもしろい考えですが、やはり具体性が伝わりませんからね。
――なるほど。
デヴィッド 最初は我々も、ゲーム制作の手法としてはトラディショナルな作りかたをしていたのです。しかし、いくつかの作品を作り終えたときに、感情やストーリーなどの表現が自分の理想とするレベルに達していないと感じて。そこから、もっと自然にプレイヤーの感情を揺さぶるというテーマを前面に出したいと思いました。そうした思いから開発したのが、『ヘビーレイン』でした。『ヘビーレイン』の作中には、“誰かを殺さないと息子を助けられない”というシーンがあるのですが、それはプレイヤーの中にあるモラルや考えを問う場面でもあります。
の主人公の視点から、誘拐された子どもの父親に数々の理不尽な試練を与える、謎に満ちた犯人の素顔に迫っていくアドベンチャー。2010年に発売された。
――『ヘビーレイン』は、遊んだときに本当に何度も悩み込んでしまいました。
デヴィッド 究極のジレンマを突きつけていますからね。プレイヤーは、そうしたゲームでの体験を通して、自分自身のことがだんだんとわかっていくのです。
――逆に、デヴィッドさんがプレイしたゲームの中で感情を揺さぶられた作品はありますか?
デヴィッド 上田文人さんのゲームです。詩的なイメージがすばらしいですね。自分のやっていることとは違いますが、非常に尊敬しています。
――そのほかに、お好きなゲームを教えてください。
デヴィッド うーん……好きなゲームがたくさんあるので悩みますが、3本挙げるとするなら、まずは『鉄拳』。あとは『INSIDE』もとても楽しかったです。Playdeadはすばらしいチームですね。そして、最後の1本は『みんなのGOLF』です。ユーモラスな部分もありながら、同時にすごく深いところまでゴルフのプレイを突き詰めているという素敵な部分もある。そのふたつがある点に惹かれます。
これからもブレないゲーム作りを探求
――デヴィッドさんが感じるQuantic Dreamの強みは?
デヴィッド チーム内の関係がいいところです。みんな才能があり賢く、いつも一生懸命仕事をしていますが、ゲームを作る楽しさも忘れていません。そんな彼らといっしょに仕事をできてとても楽しいです。
――Quantic Dreamにとってのライバルはいますか?
デヴィッド ほかにもインタラクティブな作品を作っている人たちはいるので、それはすごくいいことだと思います。このジャンルはQuantic Dreamだけが作れるジャンルではないんです。競争相手がいるということはとてもいいことです。自分たちのゲームをもっとよくしていこうとチャレンジできますから。それでも、自分たちのゲームを作ることに精いっぱいで、ライバルを直接名指しすることはできません。それに、ライバルを作るよりも、ベストを尽くすほうがプレイヤーにも喜ばれると思いますし。
――Quantic Dreamの未来は今後どのようにしていきたいですか?
デヴィッド これからもクリエイティブでオリジナルな作品を作っていきたいと考えています。ただ、必ずしも現実的でストーリーを中心にしたものでなくてもいいかなとは思っています。あと、会社としてはあまり大きくしたくないので、職人の工房のようなスタジオのままがいいですね。いまは200人弱スタッフがいるのですが、これより大きくはしたくないです。これからもユーザーの琴線に触れるような新しい作品を制作し、発見できるように努めていきたいです。

