ファミ通コンピュータ町内会

とがわK投稿卒業記念インタビュー

本誌週刊ファミ通7月20日号、町内会グランプリ2016内にて発表された、とがわK投稿卒業宣言。長きにわたり常連投稿者として町内会を牽引し、レジェンドとまで呼ばれた彼の身に、いったい何が起きたのか!? そのすべてが、いま明かされる……。

公開日時:2017-07-14 19:35:00

とがわバナー

突然の卒業宣言から1週間後、町内会宛にとがわから“ちょっとナッツいいから来て”と殴り書きされた1枚のはがきが届いた。明らかに年下の人間からの馴れ馴れしいメッセージに、ナッツは少々引っかかるところもあったが、去年から貯蓄していた、なけなしのお金と豆と虫を使い、指定された山梨のとある場所へ向かった。

01

もう本格的な夏が近づいていたが、小雨のせいだろうか、まだ薄ら寒い山梨の某所にたどりついたナッツは、目の前にある厚い鉄の扉をノックした。その瞬間、扉越しに「誰!? 誰なの!? 超怖いんですけど!!」という、やたら動揺した声が聞こえたので、「ナッツ!!」と力強く叫ぶと「あぁ、なんだ……どうぞ……」と力なく返答があった。

厚い扉を開けると、そこには自作のお面を被ったとがわKと見知らぬ3人の子どもたちがいた。子どもたちはいっせいに私を見たが、すぐに興味をなくしたのか、ふたたび遊び始めた。「まあ、座ってください」。とがわが正面の椅子に座るようナッツに言った。テーブルの上のダンボールには無造作に大量のガバス入れられていた……。

02

ナッツ こ、この子たちは……?

とがわ はい、近所の子どもたちです。僕、休日に近所の子どもたちを集めて、ある英才教育を行なっています。子どもたちもいまでは完全に僕のことを尊敬し、心奪われてます。いまはちょうど、たまたま偶然珍しくベイブレードで夢中に遊んでいますが、完全に僕に心酔しております。僕が彼らに向かって発する言葉は一語一句彼らの心に刻み込まれます。完全に僕の虜なんです。まあ、くわしいことは後々お話します。

ナッツ ここは……とがわ君の家?

とがわ 僕のアトリエです。いつもここではがきを描いています。何年ぶりだろう? 中年の男性がここに立ち入るのは。

ナッツ この大量のガバスは、とがわ君のもの?

とがわ ええ。僕が19年かけて貯めたガバスです。これで約90万ほどあります。どうです? これだけあるとキラキラして鯖みたいでしょう? 現在、僕が世界でいちばんガバスを手元に置いている人間だと思います。それは誇らしくもあり、同時に……同時に悲しくもあります。

遊んでる子どもたちの「キャッキャッ」という笑い声が部屋に響く。

03

ナッツ 今回、4コマグランプリの審査員、及び投稿を卒業するということだけど……?

とがわ いろいろ思うことはあるのですが、理由は大きく分けて3つあります。まずひとつ目は、僕が現在まったく投稿していないこと。投稿していない人間が審査員をするのは、ちょっと違うかなと思いました。それに審査されるほうも納得がいかないと思います。

ナッツ 確かに今年はまったく投稿してないけど……。

とがわ そしてふたつ目。これが重要なとこなんですが、なんかめんどくさいよね。毎回毎回。僕イヤになっちゃった。もういい加減、ふつうの男の子に戻りたい。ふつうの男の子と同じように恋したりしたいんだよね。

急な角度からのタメ口に戸惑いを隠せないナッツだったが、なんとかメンタルを立て直し、そのまま質問を続ける。

ナッツ えーと、3つ目は? 

とがわ あ、もうないです。すいません嘘つきました。ふたつだけです。

04

そこまで話し、お面のわずかな隙間からエナジーを注入するとがわ。「飲まないとやってられねぇよ……あーエナジーエナジーっと……」独り言のように小さな声でつぶやく。

05

とがわ でもね、ナッツさん。僕は確かに描いてないけど、じつはネタのストックはたくさんあるんですよ。

とがわが急に言い訳がましい言葉を発した。そして、急に黙り込んだ。明らかに理由を聞いて欲しいという濁ったオーラを醸し出しているのがナッツにも見えた。

ナッツ なんで描かないの?

しかたなく、腹から絞り出すように質問した。この男、まともにやり合うと、じつに厄介だなと改めて思った。

とがわ 漫画家の冨樫先生知ってますか?

ナッツ 『遊幽白書』とか『ハンター×ハンター』の?

とがわ ええ。

ナッツ ……えっ!? あれ? まさか!? えっ!?

とがわ はい。そうです。データを取ればわかると思いますが、僕が描かない期間と冨樫先生の休載の期間が一致するんですよ

06

ナッツ …………。

とがわ 一致する! 

ナッツ …………。

とがわ 一致するんだな! これが!

ナッツ 冨樫先生ととがわ君の関係は?

とがわ とくにないです。ただの読者です。

ナッツ じゃあ冨樫先生が休んだら、とがわ君も描かないことに……?

とがわ ええ、決めたんです。僕決めたんです。

ナッツ あれ? 冨樫先生、6月下旬から連載再開してるよね?

とがわ …………。

ナッツ …………。

とがわ …………。

ナッツ ……だったらとがわ君もか…

やった! 2ポイントだ!」子どもたちの歓声がナッツの言葉を引き裂いた。

07

とがわ そんなことより……。

少しの沈黙の後、とがわが口を開いた。

08

とがわ 僕ね、すごく怒ってるんです。こんなに腹が立ったことは、いままでありませんよ!

お面で表情はわからないが、声のトーンで本当に怒っていることがわかる。

ナッツ どうしたの?

とがわ 僕ね、ツイッターを始めたり辞めたりをくり返していて、現在はやってるんですけど、フォローしている人が3人いるんです。塩味電気君と村主君と富永さん。この3人。

ナッツ 塩味君と村主君はわかるけど……富永さん? そんな投稿者いたっけ?

とがわ 富永京子さん。どこかの大学で准教授やってる人です。なんか小難しいことを学生に教えているみたいです。詳細はわからないけど4コマじゃないことは確かです。

ナッツ その3人がどうかしたの?

とがわ 僕ね、昔からこの3人を我が子のようにかわいがってきたんです。なのにいまは! いまは!!

ナッツ いったい何があったの?

とがわ 富永京子さんは、彼女がまだ貧乏学生のころ、1度だけ紅茶とケーキをおごってやったことがあるんです。新宿で。たしか7、8000円くらい払ったんじゃなかったかな? 超高級喫茶店だったような気がします。レシートはもう捨てたんで証拠はありませんが、確か紅茶とケーキで7、8000円払ったと記憶してます。僕、記憶力だけはいいので。

ナッツ そんな喫茶店あるかなあ……?

とがわ はい。確か紅茶とケーキで8、9000円はしたと思います。彼女とても喜んでいましたよ。食べ終わって「これで勉強がんばれます!」って、「いつか絶対恩返しをします!」って深々と頭を下げてました。言わば彼女の恩人ですよ、僕。

ナッツ えーと……ほかのふたりは?

とがわ あの例の3人集まったときあったじゃないですか。 

あのとき

とがわ あのとき僕、ふたりに山梨で買ったキーホルダーをあげたんですよ。山梨でキーホルダー探すのって本当にたいへんなんですよ。まだ焼け野原だし。でもふたりのために、なんとか探し出して……あれも確か高かったな……。ひとつ……7、8000円はしたと思います。レシートはありませんが覚えてます。僕、記憶力だけはいいので。

ナッツは思った。この男は話を盛り、嘘をつく。

とがわ ふたりとも本当に喜んでいましたよ。なにせ、憧れの僕にキーホルダーもらったんですからね! 「がんばります!」って、ふたりとも言ってました。対談が終わって駅まで歩いているときも僕に向かって「がんばります! がんばります!」って、ふたりでずっと連呼してました。僕は「恥ずかしいからやめてくださいよ」と言ったけど、ずっと「がんばります! がんばります!」って。何をがんばるのかわからないけど。

ナッツ 俺もその場にいたけど……そんなこと言ってたかな?

とがわ 言ってた! 絶対そう! 絶対言ってたし! で、それから数年後のいまですよ。僕がツイッターで呼びかけても、誰ひとりロクに返信しないんです。とくに塩味電気ことおほしんたろうなんか完全無視ですよ。薄情もんです! メガネかけてるし!

興奮し全国のメガネ使用者及びメガネ業界を怒らせるような発言をするとがわ。しかしナッツはテーブルの隅に、ダンボールで隠すように置いてあるメガネを見逃さなかった。

09

ナッツ まあ、塩味くんも、いま忙しくなってきてるから……。

とがわ 僕だって忙しいですよ! つか、僕がいちばん忙しいですよ! ちょっと有名になって、もう僕のことなんて忘れてるんです! 恥ずかしいと思ってるんです! きっと! そもそも彼、筆が荒れてます! あっ! そうだ! 卒業する理由の3つ目ありました! 忘れてたわ! これです! この3人のせいで僕は卒業するんです! これがいちばん大きい!!

ナッツ うーん……よくわからないけど、そういうことならナッツツイッターをフォローしてくれれば、返信くらいするよ! フォローしてよ! 

とがわ あ、もうツイッターやめるんで大丈夫です。

10

とがわ そうそう。ツイッターの話はいいから、見ていただきたいものがあります。

そう言うととがわは立ち上がり、壁に飾られている4枚の額縁を指差した。

11

ナッツ これは……4コマ?

とがわ そうです。4コマに限ってですが、僕がいままで町内会を読んできた中での最高峰作品ベスト4です。

12
13
14
15

とがわ すばらしいですよね。ホントにすごい作品たちです。もうね、美しいんですよ。最初から最後までの流れが。そうだな、たとえるなら……そう! まあ、いまパッと浮かびませんが、すごいですよね。

ナッツ うーん……全部シュールコーナーで採用された4コマだよね。ちなみに、この中でいちばんは決められる?

とがわ まあ……この……『ヤサイ』ですよね……。

ヤサイ』という作品は、とがわが絶頂時にシュール特集で採用された4コマだ。当時、とがわKの自信とプライドをバキバキにへし折り、とがわみずから“とがわ殺し”と勝手に呼んでいたらしい。実際、その後のとがわの投稿量は激減した。

ナッツ 以前も言ってたね。この作品のことは。

とがわ ええ。これを読んでから、しばらく4コマが描けなくなりましたから。ショック過ぎて「なんでいままで、これ描けなかったんだろう」って毎日自分を責めてました。プライベートでも災難が続きました。いい感じでクルマに轢かれたんです。あと好きな子にフラれたり、10年飼っていた犬に初めて噛まれたのもこの年です。もちろんこの『ヤサイ』とは関係がないことかもしれませんが……でも、ひとつひとつ原因を探っていくと、この『ヤサイ』にたどり着くような、そんな気がするのです。

ナッツ そんな不幸を呼び込む作品なのに、飾っているんだね。

とがわ はい。ずっと眺めていたいという気持ちのほうが強くて……ホント恐ろしい作品です。

先ほどとは打って変わり、やけに大人しくなるとがわ。きっといろいろな思いがこの作品に複雑に絡みついているのだろう。

ナッツ とがわ君は、この机ではがきを描いてるの?

とがわ えっ? あ、うん。そうだよ。なんで?

またサラッとタメ口だ。この男は定期的に神経を逆なでる。

ナッツ 机の上に置いてある、この4コマは投稿しないの?

16

とがわ あぁ、これは寝かせているんですよ。描き終えて、しばらく寝かすと味が出るんです。ワインといっしょですね。でも、もういいんです。これ出さない。もういい。

ナッツ え? なんで? 急にどうしたの?

とがわ 僕の話はもういい! ここにいる子どもたちの話をしましょう……。最強の投稿者の話をね!! 

ナッツ さ、最強の……投稿者!?

とがわ 最初に僕は、この子たちに英才教育を行なっていると言いましたよね。そうなんです。僕はまだ幼い子どもに4コマを教えています! 今日はたまたまベイブレードに夢中ですが、頭の柔らかいいまのうちに、僕が19年で得たイロハを叩き込みます! 計画では、彼らが中学生になったときに、最強の町内会投稿者が生まれます! ウフフ……そう、近い将来、さっきの4作品をも超える作品を生み出す! 最強投稿者が! 3人も現れる!

ナッツ でも……ずっとベイブレードやってるけど……。

とがわ たまたまですって! 彼らはナッツさんがいるから恥ずかしいんです。だからベイブレードで照れ隠しをしているんじゃないのかな。先ほども言いましたけど、彼らは僕に尊敬の念を抱き、つねに僕を目標としてます。ジャニーズで言ったら、入って間もないジュニアたちとメリーさんみたいな関係です。

「そこはメリーさんじゃなくてマッチじゃないのか」という言葉が喉まで出かかるが、めんどくさいことになるのがイヤでナッツはそれを飲み込んだ。

とがわ そうだ!! 写真! 写真を撮ってください! 将来の最強投稿者たちと僕の4人の写真を! 

とがわが子どもたちに向かって叫ぶ。

とがわ ガスト! バーミヤン! サイゼ! ちょっと集まって!!

子どもたちのコードネームだろうか? とがわが叫ぶと3人とも渋々近寄ってきた。「せっかく勝ってたのに……」。おそらくガストと呼ばれる年長の少年が、ポツリと口にした不満の言葉をナッツは確かに聞いた。

とがわ ナッツさん、3枚くらい撮って! 3枚! はい! みんな笑ってー! おじさんのほう見てー!

うれしそうなのはとがわだけだったが、ナッツは言われるままに3回シャッターを押した。

17

18
19

ナッツ それはそうと……改めて確認しておきたいんだけど。

とがわ ♪はいはい、なんでしょう? 何でも聞いてください!

写真を撮って、とがわはご機嫌だ。

ナッツ 4コマグランプリの審査員を卒業するのはしかたないとして……投稿まで辞めるって宣言する必要はないんじゃないかな? 

とがわ お引き取りください。

ナッツ いや、また気が変わることがあるかもしれないし……。

とがわ もうお話しすることはありません。お引き取りください。

ナッツ 気が向いたときだけでも……。

とがわ お引き取りください。子どもたちも怖がってます。

ナッツは元気にベイブレードで遊ぶ子どもたちを再確認した。

とがわ 僕は……もう誰も信じない! 卒業記念のパーカーだって70000円かけて作ったのに! できあがりがダサすぎるよ! あんなダサいの誰が着るんだよ! 70000だぞ! 僕の70000! そもそもアレに応募くるのかよ! 話題にもなってない! 70000もかけたのに! どうせみんな塩味電気派だろ! 読者もネットの奴らも、みんな塩味電気派だ! 正直あんなパーカー僕がいちばん着たくねぇよ!

ナッツ おい! しっかりしろ!

とがわ そもそも山梨は猿とか猪が出すぎなんだよ! 毎日毎日、花火で追い払いやがって! うるさいんだよ! 僕の70000返して! 払え! ナッツ70000払え! 山梨来るな! 80000返せ! 僕の80000!

ナッツ いや、でもそれはとがわ君が勝手に……。

とがわ 帰って! お前も4コマにしてやろうか!

大声を出され、半ば強引に部屋から追い出されたナッツ。厚いドアを閉めようとするとがわにナッツは叫んだ。

ナッツ とがわ君! 僕たちまた会えるよね!?

とがわは半分閉めかけたドアを止め、3秒ほどお面越しにナッツを見つめ、そのまま静かにドアを閉めた。部屋の中からベイブレードで遊ぶ子どもたちの声だけが聞こえた。

帰り道、ナッツは思った。あのとき……あの最後の3秒……とがわKは泣いていたのではないか。もちろんお面で表情は見えない。想定はしていたがインタビューは最初から最後まで想定以上の支離滅裂だった。ここ数年でいちばん酷いインタビューだ。19年間町内会に投稿し続け90万ガバスを貯めた男の最後があれなのか……。

とがわKは戻ってくるのだろうか? 
ナッツの声はとがわの心に届いたのだろうか? 
そしてあの子どもたちの未来は? 

そんなことを考えながら歩き続けた。

途中、遠くで“パンッ”という乾いた花火音が聞こえた。


おわり


文&写真:山梨県 とがわK

 


とがわK卒業記念プレゼント!

とがわがみずからの引退を記念し、70000円の巨額を投じて勝手に作成したパーカーとキーホルダー。本誌週刊ファミ通7月20日号で希望者を募ったが、案の定余りまくっています。そこで、コンピュータ町内会でも引き続き大盤振る舞い。こちらの投稿フォームから、コーナー名“とがわプレゼント”を選択し、投稿内容欄に“パーカー希望”、または“キーホルダー希望”と明記のうえ、ご応募ください。パーカー希望者は、S、M、Lの中から欲しいサイズも忘れず記入すること。記事の感想などを書いてくれても構いません。締切は8月31日! 

20 21
KIMG0524

※キーホルダーのデザインはランダムです。
※応募者多数の場合は抽選とさせていただきます。
※当選者の発表は商品の発送をもって代えさせていただきます。

この記事の個別URL

ファミ通コンピュータ町内会