『レッドシーズプロファイル』や『D4: Dark Dreams Don't Die』などのアドベンチャーゲームで海外にカルト的な人気を誇るゲームデザイナー、SWERY氏。同氏が『パンツァードラグーン』や『ファントムダスト』などを手掛けた二木幸生氏が率いるグランディングのチームと共同で開発する新作『The Good Life』のクラウドファンディングがKickStarterで開始した。

 現状での対応プラットフォームは、プレイステーション4とPCで、リリースは2019年第3四半期予定。価格は米ドルの場合、PC版が29ドル、プレイステーション4版は39ドルとなっている。

 なおクラウドファンディングでは、PC版は3000円以上の出資(人数限定で2500円)、PS4版は4000円以上の出資(人数限定で3500円)から、さまざまな特典とともにソフトを入手することができる。

イギリスの片田舎を舞台にした“借金返済生活RPG”

 『The Good Life』は、“借金返済生活RPG”と称し、イギリスの片田舎の町“レイニーウッズ”に滞在することになったフォトグラファー“ナオミ”の暮らしを描く。

 写真を撮影して新聞社などから収入を得たり、奇妙な住人たちと交流したり、殺人事件に巻き込まれたり。ナオミは次第に住民が夜は猫(犬)に変身するというレイニーウッズの秘密にも迫っていく。

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『The Good Life』Swery氏の奇妙な“借金返済生活RPG”がクラウドファンディングを再始動。進化の内容とインタビューをまとめてお届け【GDC 2018】_03

充電期間の間にパワーアップし、一度クリアーした額に目標を再設定

 本誌で過去にお伝えした通り、本作は昨年9月にFig.coでクラウドファンディングを実施。約7000万円以上の出資を集めたものの、残念ながら希望額に到達せず、今回は再始動という形のクラウドファンディングとなる。

 今回のクラウドファンディングの出資希望額は6800万円で、これは予定している開発費用の約40%にあたる。残り60%についてはソニー・ミュージックエンタテインメント傘下のUNTIES(アンティーズ)をはじめとするパートナー企業からの出資でまかなう見込みだ。

 また、再始動までの期間も開発が続けられており、ゲームデザインの改善やグラフィックも向上。特に背景アートなどはローポリゴンなスタイルから、より細かいディテールへと一新されている。

AIで住人たちが勝手に動き出すチャレンジも?

 というわけで本作は再始動にあたってどうなっているのか? 先週サンフランシスコで行われたGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)に合わせて渡米していたSWERY氏と二木氏にインタビューを行ったので、その模様をお届けしよう。

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SWERY

『レッドシーズプロファイル』や『D4: Dark Dreams Don't Die』などを手掛けたのち、White Owlsを設立。本作では原案・脚本・監督。

二木幸生(ふたつぎ ゆきお)

本作では開発監督としてグランディングの開発チームを率いる。『パンツァードラグーン』や『ファントムダスト』などで知られる

――まず再始動という形になりますが、前回のクラウドファンディング時点からいろいろ変わっていると思いますので、まずはそこを説明お願いできますか。
SWERY まず今回再スタートにあたって、4点ポイントがあります。ひとつは我々だけでやろうとせずに、パートナー企業さんとのコラボレーションを組むことを決断しました。ふたつ目はこれによって可能になったんですけども、イニシャルゴール(最低ラインの出資希望額)を大幅に下げることができています。

――前回は150万ドル(当時約1億6600万円)で、今回はドルベースではなくて日本円で6800万円なので、ざっと言えば半分以下ですね。あとふたつはなんでしょう。
SWERY みっつ目がユーザーの皆さんの要望を踏まえて、ゲームデザインを大きく変更しているところがあります。一番最後に、グラフィックの向上ですね。これまでのもの(ローポリ風の表現)はアートスタイルとして選んでいたんですが、「アーティスティック過ぎる」という面もありましたので、もう少し一般の方にもわかる綺麗さを目指してグラフィックを向上させています。これらを踏まえて、イチからスタートするつもりでKickStarterでクラウドファンディングを行っていきます。

SWERY パートナー企業さんは何社かお話させて頂いているんですが、現段階で名前を出せるのは、まずUNTIESさん(※ソニー・ミュージックエンタテインメント傘下のインディーレーベル)に一社目のパートナーとして入って頂くことが決まりましたので、そういった会社さんをパートナーとして招いていって、最後まで開発を進めていきたいと考えています。

――ゲーム中の設定や、犬バージョン猫バージョンが別々にあるといったあたりは変更はあるのでしょうか?
SWERY ストーリー的な設定などは変わらないんですけども、犬バージョンと猫バージョンは今回異なる部分です。これまでは「ふたつのバージョンの好きな方または両方を買っていただいて、オンラインでクロスオーバーして遊んで下さい」というイメージだったのですが、今回はひとつのパッケージに犬バージョンと猫バージョンが入っていて、自分の意志で選択することもできますし、将来的にはどちらにもなれるというゲームデザインを採用していますので、一個のパッケージで両方遊んでいただけるようになります。

――その変更は結構大変だったんじゃないですか?
SWERY 今デザイン変更の面について二木さんとずっとミーティングを続けていまして、決まっている所とまだお伝えできない所があるんですけども、基本は良くなっています。
二木 まぁ開発は多少重くなっている所はありますけどね。
SWERY それでもいろんなモードを遊んでもらいたいという軸が固まったので、細かな設計を決めていく部分は作りやすくなったと思いますね。「犬と猫で同価格なのにバランスが違うのはどうなの」といったこともありましたから。

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猫でしか行けない場所や、犬でしかできないことなどがあり、当初の構想では両バージョンのプレイヤーがオンラインで交流することでお互い補完するという説明がされていた。今回も犬猫の違いやオンラインでの交流要素はあるが、ソフトとしては1本に統合されている。

――クラウドファンディングは国内外への情報発信が重要なパートになると思いますが、そのあたりは今回どうなのでしょう? 今回こうやってGDCに合わせて渡米してプレス対応をされているのもその一環だと思いますが。
SWERY これまでメーリングリストなどでKickStarterの告知を続けてきましたが、ローンチ後はまず4月に行われるPAX EAST(毎年春にボストンで行われるゲーマーイベント)に出展して、実際に動くビルドを見せながら毎日2時間、僕と二木さんでステージをします。それ以外にもICOパートナーズというロンドンのPRコンサルタントと契約していまして、彼らのプランに則ってやっていますね。

――ちなみに、前回のクラウドファンディングの感想は?
SWERY 一言で言えば、しんどい(笑)。
二木 最初からユーザーさんに見せるというのは、これまでのパブリッシャーさんに見せて開発費を頂くというのとまったく違うというのを痛感しました。これは大分思い違いしていたな、と思いましたね。これは多分GCC(3月30日に開催予定のゲームクリエイターズカンファレンス)でまた話すと思います。
SWERY 毎日マスターアップな感じですよね。
二木 情報をとにかくどんどん更新し続けなければならないのと、ユーザーさんの反応を見てちょっと変えたりもしていかなければならないので。
SWERY 「ここはこうならないの?」という反応が来た時に、ちゃんと聞いて、できない時でもできない理由を説明した方がいいですから。英語でのレスポンスの悪さというのも反省した部分ですね。

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――“勝算”みたいなものはどうでしょう?
SWERY 先程説明した4つの変更点の中で、イニシャルゴールを引き下げられたのが大きいんですね。というのはFig.coでのキャンペーンでも68万ドルは集めているんです。なので今回は一度クリアーした金額ですし、さらに今度はもっと大きいクラウドファンディングサイトでのキャンペーンになるので、みなさんが『The Good Life』のことを忘れていなければ行けるのでは、と踏んでいます。

――写真を撮って生活費や借金返済費用を稼ぐという要素については何か違いはあるのでしょうか?
SWERY 写真を撮影することが生活の糧であり、それがイベントやミッションなどにもなって……というコアの設計は変わらないです。
二木 むしろ強化していますね。フレーミングで何を捉えるかはプレイヤーの選択で、後は絞りとかシャッタースピードを弄る面倒くささがないように、いい装備があればいい写真が出来上がってくるという形で考えています。RPGなので、軽くて性能の良い装備を手に入れればより遠くに行けていい写真が手に入れられる……という感じです。
SWERY ズームレンズがないと遠くのものは撮れないとか、シャッタースピードが速いカメラじゃないと高速に飛ぶ鳥は撮れない、みたいな部分を装備を強化して「RPG的に強くなる」、そしてより収入も増す。
二木 また“フラミンゴ”という写真サイトがゲーム中にあって、そこに作品をアップするとイイネがつくたびにお金が貰える仕組みがあります。そこで細かくお金を稼いでいくことも、本来のクライアントである新聞社(モーニングベル)に持っていくこともできるようになっています。
SWERY “フラミンゴ映え”する写真を撮るだけでもゲームをクリアーすることはできるんです。でもモーニングベルから依頼をクリアーできれば、より多くのお金を貰えるので、より早く完済に近付く。それはプレイヤー次第です。

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SWERY でもフラミンゴだけで行く場合、例えばライバルカメラマンがモーニングベルでどんどん出世しちゃう。そういった所で自由度とストーリーの動きを作っていこうと思っています。
二木 あとはフラミンゴの中に流行のタグとかがあるので、「いまこういう写真を撮るといっぱいイイネが貰えそう」みたいなプレイもできます。あとはゲーム内の時間の進行に応じて「クリスマスっぽい写真を撮れば……」とか。そういうのがデイリー的なミニイベントになっている感じですね。
SWERY そうですね、トレンドがハッシュタグになっていたり、後は「高速撮影のプロ」的な人をフォローしておくと「こんな写真が撮れるのか!」というのがわかったりします。

――それは面白そうですね。運動会シーズンのお父さんみたいに、他人の作品に煽られていい装備が欲しくなってくと。他に何かゲームデザインでの変更点は?
SWERY これは非常に大きいので言っておきたいのですが、住民の生活パターンが変わります。これまでの僕のゲームの踏襲というか、テーブル(行く場所などを設定したデータ表)があって24時間それで生きてるように行動するイメージを考えていたのですが、それを取っ払ってAIで動かそうと。
二木 基本的にはキャラクターにいろんな“欲求”が設定されていて、それに応じて行動するんですが、それがプレイヤーやNPC同士の行動による影響を受けてどんどん変わっていくという形のアルゴリズムを考えています。
SWERY 欲求というのは「働きたい」とか「人に会いたい」とか「トイレに行きたい」といったものですね。
二木 NPC同士でも影響し合うので、自分たちにもどうなるのかがわかりません。自分のプレイではAさんとBさんという老夫婦の仲がいいけど、SWERYさんの方だと別れてて、お爺ちゃんが若い女の子と一緒になっている……というようなことも起こりうる。あとは「夜に星を見る」という欲求がブームになってみんなで星を見るようになったりとか。そういったことができるように今仕組みを考えている所ですね。

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――それはヤバそうですね! “風が吹けばナオミが儲かる”的なことが起こるかもしれないと。

SWERY そうです。それと以前から“エリザベスの殺人事件”という要素があるのをお伝えしていましたが、事件自体は今回も起きます。でもプレイヤーの行動によって犯人が変わるかもしれません。

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SWERY 時系列などが変わるわけではなくて、怪しい奴が何人かいる中で、プレイヤーがNPCたちの中を調査していきますよね? そしてそれがNPCの関係性や行動に影響を与えていきます。その中の最大の変化として、エリザベスを殺した犯人が変わるかもしれない、というのを入れようとしています。
二木 大筋が変わるわけではないんですけどね。

――では最後に意気込みなどを。
SWERY 今回KickStarterでキャンペーンを始動するにあたって、準備期間をたくさん頂きました。その間に二木さんとアートディレクターの堀田(昇)さんにも入っていただいてミーティングを重ねて、現場の方にも動いてもらって、皆さんに初日から驚いてもらえるものをお届けしようとやってきましたので、ぜひキャンペーンページを覗いていただいて、よろしければそのままポチッと(出資のボタンを押)して頂ければと思います。その出して頂いた分は発売前からの応援ですから、絶対に裏切らないようにしっかりやりますので、ぜひよろしくお願いします。
二木 初代プレイステーションの頃とかって、どんなものかわからない、ちょっと他と違うゲームがたくさんあったと思うんですよ。今はそういうゲームを作るのは難しくて、そういったタイトルも減ってきたと思うんですけども、『The Good Life』って、クラウドファンディングという環境を使ってそれをもう一度やってみよう、あまり見たことがないゲームを作ってみようというチャレンジでもあるんです。

 ゲームを完成していくプロセスをみんなに公開しながら作っていく形になるので、一緒に作るわけではないですけど、「こう変わってきたんだ」「こういう風にしてって言ったのがこうなってるんだ」といった楽しみもバック(出資)の見返りとして味わって貰えればと思います。ふたりで喧々諤々とやり合いながら作っているんですけども「こんなこと考えているのか」と驚いてもらえるのではないかと。

――タッグチームとして機能してきたという感じでしょうか。
二木 SWERYさんはストーリーから考えていくやり方なんですけど、僕はシステムから考えるやり方で、操作感とかアクション的な部分をより大事にするような所があるんですね。それが合わさって、ひとつのゴールに向かってふたつの方向のアプローチから「ああそうなんだね」と直接確認しながら作っていっているような感じなので、すごく面白いゲームになるのではないかと思います。
SWERY 衝突もするんですけど、ちゃんとお互い尊敬があるので、6時間ミーティングをやっても落とし所までちゃんと行けるんですよ。それが今やっていて一番楽しい所ですね。