不思議な秘密を持つ田舎町を舞台にした“借金返済生活RPG”

 現在ワシントン州シアトルで開催中のゲームイベント“PAX West”で、『レッドシーズプロファイル』や『D4: Dark Dreams Don't Die』などのアドベンチャーゲームで海外にカルト的な人気を誇るゲームデザイナーSWERY氏が、新スタジオWhite Owlsの処女作『The Good Life』を正式発表した。
 同時にクラウドファンディングプラットフォームのFig.coで本作のクラウドファンディングを開始。出資希望額は150万ドル(約1億6600万円)で、1ヶ月以内に一般のファンからの少額出資と投資家からの出資の合計がこの額を超えるとプロジェクト成立となる。

 『The Good Life』の舞台はイギリスの田舎町“レイニーウッズ”。プレイヤーは大借金を抱えてニューヨークからやって来た写真家“ナオミ”として、カメラでの撮影やさまざまなアルバイトによる借金返済や、偶然遭遇した殺人事件の調査を行いつつ、夜は住人たちが猫になるというレイニーウッズの秘密を探っていくことになる。

 なお、ゲームのリリースは2019年第3四半期を予定。対応プラットフォームは、まずプレイステーション4とSteamでのPC版が決まっており、PAX Westでは出資希望額を超えた場合の追加目標として設定される“ストレッチゴール”の第1弾として、Switch対応を追加予定であることを発表。なおゲーム本編は29ドル以上の出資から入手可能となっている。
 今回本誌では、渡米中のSWERY氏へのビデオインタビューを実施。本作について話を聞いてきたので、その模様をお届けしよう。

SWERY氏の“借金返済生活RPG”『The Good Life』が正式発表&クラウドファンディング開始。インタビューでその内容に迫る_05
▲発表が行われたパネルディスカッションには、本作を共同開発するグランディングの二木幸生氏も登場(Twitchでの中継映像より)。

Figと組んだ理由

――『The Good Life』はWhite Owlsとしての処女作となりますが、なぜクラウドファンディングを、そしてなぜFigを選んだんでしょうか。
SWERY なぜクラウドファンディングか、という部分には実はあまり意味がなくて、作りたいゲームがあって、それをどういう形でユーザーにお届けできるかというのを考えた上での選択です。
 FigのJustin(CEOのJustin Bailey氏)にはBit Summitの時に会ったんですけども、その時にFigについて「パブリッシャーだけど、クリエイティブに関しては一切口を出さない」と約束してくれたんです。絶対にクリエイターが作りたいビジョンを損なうようなことはしないと。
 もうひとつ、Figはクラウドファンディングと言いながらも、彼らのビジネスプランとしては、(※通常のクラウドファンディングではファンからの小規模出資を前提とするのに対し)大口の出資者も集めて新しいファンドを作っている形で、自分たちはパブリッシャーだと言うんですよ。

――Figはクラウドファンディングに昔ながらの投資家からの出資を組み合わせた形になっていますが、パブリッシャーだと言い切るのは面白いですね。確かにクラウドファンディングも組み込んだソーシャルなパブリッシャーと考えることもできる。
SWERY そう、「我々はパブリッシャーであり、ピッチ(提案)を受けたものからFigやFigのパートナーのブランドを作るためにちゃんと作品を選んで、いいものしか出さない」と言われたんですよ。
 このふたつの理由、まず「作りたいものに口を出さない」ということと、「パブリッシャーとしてちゃんと機能する」という約束が魅力的に感じたというのが大きいですね。「お金は出すけど口も出す」という所はたくさんいらっしゃいますけど、「お金を集める場を用意して口は出さない、その代わりしょうもないものは出させない」という所にうまいバランスを感じたというか。

――プラットフォームと時期はどうなるのでしょう?
SWERY 2019年第3四半期が発売時期で、イニシャルゴールがSteam版とプレイステーション4です。そしてこの記事が出る頃には、最初のストレッチゴール(※)としてSwitchへの対応予定を発表している予定です。(※当初予定額であるイニシャルゴール以上の出資が集まった際に実現するプラットフォーム。ビデオゲームのクラウドファンディングキャンペーンでは、目標額以上が集まった時に“ストレッチゴール”として追加の対応プラットフォームや機能が追加目標として提示されるのが一般的)

――ちなみに、Figって日本から支援することができましたっけ?
SWERY クレジットカードがあればできますし、もうすぐPaypalに対応するそうなので、キャンペーンをやっている間にそれも使えるようになるのではないかと思います。

White Owlsとグランディングによる共同開発

――今回グランディングさんが開発に関わっているということですが、実際White Owlsとはどういう関係で作っていくのでしょうか?
SWERY White Owlからは僕やアートディレクターが入って、ビジョンとかゲームデザイン、シナリオを完全に監修します。それで実制作ですが、White Owlsはまだ出来たて(=人的リソースが十分でない)なので、グランディングさんから『Crimson Dragon』のチームのコアの人たちに参加してもらい、そちらで行ってもらう形になります。White Owlsもグランディングさんも、すごい挑戦的なものを出していこうという方向で一致しています。

――そのグランディングの二木幸生氏が関わるとのことですが、SWERYさんと肩書き上はどういう関係になるのでしょうか?
SWERY カッコつけた言い方をすると、お互い既存の役職名にはまりにくい仕事をしています。お互いの仕事に意見を言い合ったり、時には譲歩し合ったり。ただはっきり言えば僕がディレクターで、二木さんが開発責任者といったところですね。それで言うと、僕は“面白さ責任者”かな(笑)。

――面白さに問題があったらSWERYさんの責任と(笑)。ちなみにグランディングさんと組むというのはどういう経緯なんでしょう。
SWERY このプロジェクトに関しては、すごく相性のいい会社でありチームだと思っています。まずはアートもプログラムもしっかりやられているという上で、ボードゲームの『街コロ』作られたりとか、繰り返し遊べるように作り込むということをやってきた経験ですね。僕が得意とするストーリーラインや世界観を軸に、くりかえし遊べるロールプレイングゲームを作ろうと思うと、やはりそういうパートナーさんが大事だなというのがひとつ。
 それと二木さんも僕も、Xbox Oneの立ち上げの時のタイトルをやっていますので(※『Crimson Dragon』と『D4: Dark Dreams Don't Die』)、ある意味、同じ戦場を戦った戦友ですかね。「お互いの良さが出るようなものをやりたいね」というようなことはずっと言っていて、その後に僕が独立したので、今回ようやく機会に恵まれたという感じですね。

さまざまな「ライフ」を中心にしたゲームを目指して

――最初に出たティザートレイラーだと、ポップな絵柄の2Dゲームかと思った人も多いかと思います。でも今回PAXで公開されたトレイラーやFigのページを見るとローポリゴン気味の3Dですね。実際グラフィックのスタイルとしてはどうなるんでしょうか。
SWERY 実際のゲームは3Dで、カメラも動かせますし、街の中を自由に移動できるゲームデザインです。そして限られた空間ではあるのですが、箱庭型のゲームです。オープンワールドと言うと相当広いイメージになってしまいがちなのでここは気を付けたいのですが。イギリスの田舎町を模した箱庭のなかを自由に歩き回れるスタイルのゲームだと考えてください。

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――今までのSWERYさんのゲーム、例えば『レッドシーズプロファイル』や『D4: Dark Dreams Don't Die』は、リアル寄りというか、頭身高めのスタイルだったと思うんです。今回結構ポップで頭身も少し低めですが、それはなぜなんでしょう。
SWERY “借金返済RPG”というジャンル名をつけているんですけど、街の中で生活をするゲームで、『どうぶつの森』とか『牧場物語』とか『Stardew Valley』みたいに、長くゆっくりのんびりと遊ぶようなシーンもあるんですよ。それを濃いビジュアルの世界やキャラクターでやることもできるんですけど、それよりもまずはポップな中で生活を続けてもらって、そこにギャップとか軽妙さを入れていったら多分面白いし、大人も喜ぶようなものができるんじゃないかというビジョンであのデザインにしているんです。だからと言って子供向けというわけではなくて、大人向けの絵本とかあるじゃないですか、ああいうノリのものにしたいなと思っています。

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――いま生活の話が出ましたけど、『The Good Life』にはいろんな“ライフ”が入っているわけですよね。イギリスで暮らすアメリカ人としてのライフがあり、カメラマンライフがあるし、カメラマン以外のバイトも含めた借金返済ライフもある。探偵ライフもある、猫ライフもある。このいろんな“ライフ”が重なっているのは重要なポイントと言えそうですね。
SWERY 皆さん『レッドシーズプロファイル』や『D4: Dark Dreams Don't Die』の物語などに注目して頂けるんですが、僕のゲームは実はどれも“生活”という共通点があって、『レッドシーズプロファイル』ではひとつの街、『D4: Dark Dreams Don't Die』ではデイビッド・ヤングの小さい部屋の中の生活を描いていたつもりなんです。
 それを同じスタイルのまま持ってきても、まだ生活より人間が中心に来てしまう。それよりも「今度は物語中心のゲームではなくて、生活の方が中心のゲームを今度作ってみたいなぁ」という考えで、いろんな“ライフ”を織り交ぜたものになっています。

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――イギリスの幸福度の高い田舎町を舞台に都会からのよそ者がやってくる話と言うと、エドガー・ライト監督の映画「ホット・ファズ」がありますが、関係は?
SWERY いろんな作品を見ていますから何から影響を受けたというのはあまり言えないのですが、「ホット・ファズ」は大好きです。みんな大好きでしょ?

夜は住人たちが猫になる不思議な世界

――今回、その田舎町の名前が“レイニーウッズ”で、SWERYマニアの人にしてみれば、これはもう「『レッドシーズプロファイル』の初期タイトルだな」とピンと来ると思うんですけども、なぜレイニーウッズなんでしょうか?
SWERY 「『レッドシーズプロファイル』と関係がある」と言うと語弊があるんですが、もちろん単なる偶然ではないです。僕の作ってきたゲームはいろんな会社さんが権利をお持ちですが、作家としてはすべての作品を繋いでいる、ひとつの同じ世界の土台で成り立っているように全部こだわっているんです。
 例えば『レッドシーズプロファイル』のヨークがなぜああいう超人的な力があるか、なぜ(D4の)デイビッド・ヤングは過去に飛べる超能力があるのか、これは明らかにしていませんが、僕の中には設定があるんですよ。そういう意味で今回の作品も、そういう“SWERYバース”(※)のひとつであって、同じ世界のルールの上で存在している作品ではあります。(※アメコミなどでは、同じヒーローでも異なる設定の世界を描く時に“マルチバース”という多元宇宙的な考え方を使う。ここでは“SWERY宇宙のひとつ”的な意味)

――夜は猫になるというギミックですが、それによって猫じゃないと行けない場所などがあるのでしょうか?
SWERY もちろん猫なので、狭い所に入ったりとか、塀や屋根に登ったりもできますし、入れなかった家に屋根裏部屋などから入れるということもあります。あとは、住人が猫になると、人間よりもう少しオープンになるんです。猫っぽいコミュニケーションをすることによって普段見せないような姿が見られたりとか。

――人間性とか人間関係も、猫性とか猫関係になることで、ちょっとした違いが出てくるわけですね。
SWERY そうです。そしてさらに、その夜の行動が昼にも影響するようにデザインしています。

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▲猫としてひさしの上に乗っているっぽいシーン。

――こうして説明されると、アートスタイルなどが違ってもやっぱりSWERYさんのゲームだという感じがしますが、“SWERY性”というものがあるとすればなんだと思いますか?
SWERY 僕は“SWERYズム”(※SWERY主義、ぐらいの意)と呼んでいるんですが、まずは「無駄なことを愛しましょう」ということですね。ゲーム作りはやっぱりお金とのバランスですから、必要最小限が美しいというような考えもあるじゃないですか。でも無駄なことを楽しもうというのがひとつ。
 あとは「現実世界との境界をいかに曖昧にするか」という所を一番工夫していますね。リアルな映画の話を入れてみたりとか、食べ物を通じて街の土地柄を表現してみるとか、「もしかしたら本当にこれ現実にあるかも?」というギリギリを攻められるように、というのを意識していますね。

――お金の話が出た所で恐縮ですが、もしFigで希望額が集まらなかった場合はどうなるのでしょう?
SWERY その時のことは後で考えたいなぁと思っています。だから皆さんにしっかり応援して頂きたいな、というのが正直な所ですね。

――となると日本から出資する場合に気になるのが、言語対応です。ゲームに日本語はつくのでしょうか?
SWERY 現段階で言うと、(トレイラーなどで使われている)音声は日本語です。だから日本語音声をサポートしたいのですが、それもファンディングの規模次第だと思っています。日本語字幕は100%つきます。できればボイスは日本語英語の両対応にしたいな、というイメージですね。

この素晴らしき、クソ田舎の不便な町へようこそ

――主人公のナオミがエリザベスという女性の死体を発見するという要素が明かされていますが、これは連続殺人事件的に発展していくのでしょうか、あるいはこのエリザベスの事件が大きな存在になっていくのでしょうか?
SWERY そこまで詳しく話すと怒られそうですが、「期待通りの展開になります」と言っておきます(笑)。

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――今回カメラマンという職業で、「カメラで撮る」というアクションが存在します。これについて説明をお願いできますか。
SWERY すごい穿った言い方で言うと、みんなシューティングが大好きじゃないですか、狙って撃つという行為が。それは暴力的なので、ファインダーを通じてそのメタファーをやろうというのがひとつ。もうひとつはファインダーを通すことによって世界を切り取っていくわけですけども、切り取っていく行為によってレイニーウッズという町が現実感を増していくような仕掛けを考えています。これもまた現実との境界をなくしていく仕掛けのひとつですね。

――写真を撮ることでお金を稼げるんでしょうか?
SWERY そうですね。ナオミはニューヨークで借金を背負って、それを返済するためにクライアントから派遣されてきているんですよ。なので、撮った写真とレポートをまとめてクライアントに送るとお金が入ってくる。これが基本の収入になります。
 そしてもっと稼ぐには、同じ写真・同じレポートでは入ってくるお金は少ないので、新しいものを探すという手がひとつ。それと写真にもピンぼけとか手ブレの概念があって、最初のうちはカメラの性能や自分のスキルによって自動でボケる(=写真のグレードが下がる)ことがあります。それがカメラや技術が良くなるとどんどんいい写真が撮れるようになって、お金もたくさん入ってくる、そういう仕組みになる予定です。

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▲ツルハシ担いでエンヤコラという感じのシーン。どうもカメラマン以外のバイトがあるようだ。

――撮ったものをスクリーンショット的に書き出すことはできるのでしょうか?
SWERY そうですね、今時やらないとマズいですし、プレイステーション4などにはSHAREボタンがあるわけじゃないですか。あれより面白くしないとな、どうしようかな、という所はありますよね。

――ちなみに、SWERY作品の重要なアイテムであるコーヒーは出てきますか?
SWERY そこは悩んでいるところですね。紅茶は出てきますけど。主人公のナオミはニューヨークでコーヒーを飲んでいたと思うんですよ。だけどイギリスの田舎に来たら紅茶しかない。口の悪いキャラクターなので、そのことについてボロクソ文句を言いながら、徐々に好きになっていく……みたいな流れがあったら面白いかなと思って。

――ナオミが少し男口調だったのが意外でしたね。
SWERY 相当口が悪いキャラクターなんですけども、キャラクターをしっかり作りたいので、よくあるキャラにしたくなかったというのがありますね。彼女は大借金を作るような人なので、そういう個性を考えた上での仕掛けも考えているところです。

――確かに破天荒なお姉ちゃんだなという感じはしました。
SWERY そうですね。女の人にかっこいいと思ってもらいたいのと、男の人のプレイヤーも多いと思うので、ナオミに惚れるというより、仲間や自分の分身のように感じさせたいというのがひとつあります。

SWERY氏の“借金返済生活RPG”『The Good Life』が正式発表&クラウドファンディング開始。インタビューでその内容に迫る_06
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▲イメージ画像だが、人間/猫モード双方の外見のカスタマイズ要素がある模様。

――では最後に、レイニーウッズという町を訪れようか気になってきたファンに向けて、町の観光PRをお願いします。
SWERY レイニーウッズは「世界一幸福な町」と言われています。そんな町を訪れて、何が幸福かというのを皆さんの目で確かめて欲しいですね。できるだけクソど田舎で不便な町にしようと思っているので、その不便さを楽しめる広い心を持った人がこの町を幸福と呼べるのではないかと思っています。皆さんの支援によって町の施設や規模が充実していきますから、支援をよろしくお願いします。