2018年3月19日~23日(現地時間)まで開催されていたゲーム開発者のための世界最大のセッションGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス) 2018のGDC EXPOホールにて、『Death Coming』が出展されていた。
2017年12月にSteamにて日本語版が配信されたこともあり、ご存じの方も多いかと思うが、上海のNEXT Studio開発になる同作は、主人公が死神の代理人として生き返るために町中の人たちの魂を集めていく1作だ。ジャンル的にはパズルアクションに区分けされるのかなあ……というところだが、プレイヤーはフィールドを歩き回るキャラクターを、死に至らしめるようにして、一定の魂が集まるとステージクリアーとなる。“死に至らしめる”というのは、死神の“神の手”によって、マンホールの蓋を開けて、市民を死に追いやる……といった具合だ。この例はあくまでひとつの単純な例だが、本作にはキャラクターを死に追いやるためのさまざまな仕掛けが用意されている。そのバラエティー豊富さぶりがたまらなく、パズル的にもとてもすぐれている。また、キャラクターを死に追いやるということで、ちょっぴりうしろめたい感じがしつつも、「もっと効率的な殺しかたはないものだろろうか……」と微妙に背徳的な楽しみがあったり。
さらに、本作の独特なユーモア感覚も魅力的。おかしな感性のキャラクターが登場したり、ちょっぴり呆れる殺しかたをしたりといった感じ(ちょっと的確な例が思いつかないが、浮気現場を発見されて殺されたりとか……)。ときに見える人間に対する微妙な悪意だったりが、なかなかに気になる1作ではあった。そんなわけで、せっかくの機会なので、お話を聞いてみたわけです。クイックインタビューに応じてくださったのは、ゲームデザイナーのハオ・ルー氏。
――『Death Coming』はどのような発想から生まれたのですか?
ハオ 同僚が階段から落ちて、骨折したという事件があったんですね。そのときに「人生っていろいろと危険なことがあるんだなあ」ということで、インスピレーションが浮かびました。あと、『ファイナル・デスティネーション』という映画がずっと大好きで、そこから大きなインスパイアを受けていますね。
――『Death Coming』の原点は『ファイナル・デスティネーション』ですか! では、死神を登場させた理由は?
ハオ アーティストの意向で、「こんな感じにしたい」と突き詰めていったら、死神になってしまったという。長い顔がおもしろくありません?
――キャラクターを殺すというのが、なかなかに背徳的だったりもしますが……。
ハオ ですよね。アートがカートゥーンスタイルということもあり、罪悪感や残酷さは軽減できるかなとは、もともと思っていました。あと、設定上、本作には本来は死ぬべきだったのに、何らかのアクシデントで死ねなかった人しか出てこないんです。それ以外の人は出てこないので、あそこで殺すのは、死ぬ運命にあるべき人だったことになっています。それで、罪悪感などを軽減しています。
――ええー! 町には相当な数の人がいますよ? あれが全部死ぬべき運命の人たちだと? そ、相当な設定の気が……。殺しかたにもけっこうなバリエーションがあって、ノリノリだった雰囲気が伝わってきますが……。
ハオ 正直言って、個人的にはとてもつらかったです。ストーリーが先にできていて、その状況でどう死ぬべきかを考えないといけなかったということもあります。痛いのも嫌ですし、もともとそういうのが得意ではないので……(北京語から英語に通訳してくれていた同僚の方が、「彼は本当に辛そうでした」と追加)。
――おお、そうでしたか。殺しかたを考えるのが苦手とのことですが、あえて聞いてしまいますが、本作でとくにお気に入りの殺しかたは?
ハオ お答えするのは難しいのですが、個人的にはひとつのギミックで大量に殺せるのが好きですね。雪崩で一網打尽にするとか、キング・コングがガンガン殺していくとか……。
――ははは。何だかんだいって楽しんでいるような……。ところで本作は独特なユーモア感覚がありますね。殺しかたにしてもそうですが。
ハオ ありがとうございます。殺しかたや設定に関しては、いろいろな人のアイデアが入っているのですが、とくにいちばん貢献してくれたのは、ドット絵のリードデザイナーですね。彼が僕のところに、「これどうだ?」っていろいろなネタを持ってくるんですよ。「なんで、こんなアイデアを思いつくんだろう?」って僕もびっくりしました。
――ああ、そのリードデザイナーさんが独特な感性なんですな。
ハオ あと、本作にはステージの中にイースター・エッグ的な要素も入れていて、ただ殺すだけではなくて、「こんなものがあったんだ」ということが楽しめるようにしています。いわゆる隠し要素ですね。たとえば、あるゲームの進めかたをするとエイリアンが登場したりとか。ステージクリアーには必須ではないんですけどね。キング・コングやインディー・ジョーンズのパロディも盛り込んでいます。日本の有名な怪盗をモチーフにしたキャラクターも登場します。日本のユーザーさんには喜んでいただけたかなあ。
――ところで本作は何人で作ったのですか?
ハオ コアメンバーが5人で、最大時20人ですね。約8ヵ月で作っています。
――世界中で大ヒットを記録しましたが、これは予想していましたか?
ハオ ぜんぜんです。やれることは全部やって、遊びやすさにはこだわったので、その成果かな……とは思っています。あと、世界中の方からフィードバックをいただいておりまして、中東の紛争地帯に住む方から「自分がゲームを遊べていること自体、幸運だと思います。遊んでいる時間がすごく楽しかったです。だから、“ありがとう”とお伝えします」というメッセージが来ていて、すごく心に沁みました。
――死神ゲームが人を生かす……という感じですね。いい話です。ヒットを受けての今後の展開を教えてください。
ハオ いまモバイル向けに新ステージを作っているのですが、クレイジーなアイデアがドット絵のアーティストから上がってくれば、さらに追加もあるかもしれません。プレイヤーの皆さんへの恩返しだと思っています。ちなみに、3月15日にiOS版『Death Coming』が配信されたばかりなのですが、日本のApp Storeで買い切りソフトの2位にランキングされていて、とてもうれしいです! 日本のユーザーの皆さんありがとうございます。Android版も近日配信予定ですので、楽しみにしていてください!
※【新作】ドット絵のキャラをあの手この手で事故死へ導くアクションパズル『Death Coming』(ファミ通App)
――ああ、スマホにはマッチしているかもしれませんね。ところで、続編の予定は?
ハオ いまのところ考えてないです。
――ということは、新作を作っている?
ハオ まだ方向性は定まっていませんが、新しいものには着手していますよ。スタジオ自体は並行していくつかのタイトルを開発しています。NEXT Studioにご期待ください。
別のプロジェクトということで驚かされたのだが、NEXT Studioは、Unreal Engineのカンファレンスで発表された、デジタルヒューマンのデモ“Siren”にも参画しているという。なんたる技術力! 『Death Coming』から“Siren”まで、相当な振れ幅の広さだが、なかなかに注目のスタジオのようです。
■取材協力/矢澤竜太