先日行われた東京ゲームショウ2017で、ポーランドのゲームスタジオ、Bloober Teamに取材をする機会を得た。

ホラーゲームの指針は“雰囲気”と“没入感”

 先日行われた東京ゲームショウ2017で、ポーランドのゲームスタジオ、Bloober Teamに取材をする機会を得た。日本では、2016年10月にプレイステーション4向けに『レイヤーズ・オブ・フィアー』をリリースした同社だが(日本での配信元はインターグロー)、この度、同作をNintendo Switch向けに移植した『レイヤーズ・オブ・フィアー:レガシー』を発表。今回の東京ゲームショウ2017でのビジネスエリアへの出展は、『レイヤーズ・オブ・フィアー:レガシー』と、海外で8月に発売されたばかりの同社の最新作『observer』の、パブリッシャー探しを目的に企画されたものだ。「ポーランドのゲームカルチャーは、日本のポップカルチャーと親和性があります」とのプロダクション・マネージャー コンラット・レキェッチ氏の言葉に象徴されるように、日本に対する強いシンパシーも、今回の出展に至った一因にあると思われる。とにもかくにも、ここでは、取締役 プロダクション・マネージャー コンラット・レキェッチ氏と、リードデザイナー ヴォイチェフ・ピェイコ氏のお話に耳を傾けてみよう。

Bloober Team
取締役 プロダクション・マネージャー コンラット・レキェッチ氏
リードデザイナー ヴォイチェフ・ピェイコ氏

 さて、Bloober Teamとはどんなスタジオなのだろうか? それに対する答えは、「サイコホラーを専門に扱っているスタジオです」(レキェッチ氏)と明確。2008年に創業した同社は、いくつかのタイトルを経て、2016年に『レイヤーズ・オブ・フィアー』をリリース。その成功を受けて、サイコホラーに専念できるようになったという。続けてレキェッチ氏は、語りたいことが溢れるかのように、ホラーゲームを作るうえでの指針として、“雰囲気”と“没入感”を挙げる。そのうえで、「私たちが提供したいホラーは、“ヒドゥン・ホラー”と名づけています。“ヒドゥン”とは“隠された”という意味なのですが、私たちは急に恐ろしいことが起こるようなホラーよりも、プレイヤーの心理に響くような、怖い気持ちさせるゲームを目指しているんです」(レキェッチ氏)という。物事を明らかにしない、つまり“隠す”ことによって、原因や理由が解明できない。それだけ不気味で怖い雰囲気を作り上げるというわけだ。

 「スタジオのことを紹介しようとすると、けっきょくはホラーの話になってしまいます(笑)。それだけホラーは私たちが愛しているテーマです」と、レキェッチ氏はにこやかに語る。ホラーへの愛を高らかに宣言する彼らにとって、極上のホラーを作ることが目標となる。

人間の孤独をテーマにした『observer』は、日本のゲームファンにも共感してもらえる

 そんなBloober Teamにとって、8月15日にリリースしたばかりの『observer』は、同社が“サイコホラーを本格的に扱う”ことを決意して以降、初めて取り組んだ、いわば“入魂の一作”だ。サイバーパンクの世界を舞台にしたホラーゲームで、海外ではプレイステーション4、Xbox One、PC向けに発売され、高い評価を得ている。

 リードデザイナーのヴォイチェフ・ピェイコ氏に、『observer』開発の経緯を聞いてみると、「本作では、“What is?”の作りかたをベースにしています」とのこと。「つまり、“そんなことができれば世界はどうなるのか?”を描いた世界なんです。たとえば、『ジュラシック・パーク』では、“もし恐竜が現代に蘇ったらどうなるのか?”がテーマになっています。私たちは、『observer』を発想するにあたって、“もし他人の頭をハッキングして人の経験を感覚することができたら、どんなことになるのか?”ということを想像してゲームを作ったんです」という。

 主人公は、他人の頭をハッキングする能力を備えた探偵で、被害者や瀕死状態の関係者の記憶を取り出して、犯罪を解決していくことになる。ときには法律を破る必要もあったり、恐ろしい現実に直面したり……という事態に相対することになる。observer(監視者)として存在しながら、監視対象の影響を受けたりもするのだ。なんともホラー向きの題材と言える。

 サイバーパンクの世界観をブレンドしたのは、ピェイコ氏によると「題材的にマッチしていたし、サイバーパンクの世界観をブレンドすれば、インパクトがあると思ったから」との意図によるもの。「ポーランドでは、私たちの世代にとって、サイバーパンクは親しい世界観です。なじみのあるジャンルなので、いい作品が作れるという自信もありました。サイバーパンクの世界観で行こうとなったときに、設定やストーリーがすぐに浮かんできました」(ピェイコ氏)という。

 「ただし」とピェイコ氏は注釈を入れる。「ひとくちにサイバーパンクといっても、国によっていろいろと異なります。本作はポーランドを舞台にした、ポーランド人の世界観で作られたものです。テイストや細かい味つけは少し違うところがあるかもしれません。各国のサイバーパンクのコンテンツに、大きなインスピレーションを受けています」のだという。いわく、『ブレードランナー』や『AKIRA』、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』、『BLAME!』など……。日本のコンテンツが多いのはうれしい限りだが、『ブレードランナー』というタイトルが挙がったのは少し納得。本作の主人公はルトガー・ハウアーが担当しており、まさにこだわりゆえのキャスティングだと思われたからだ。「本作で、ルトガー・ハウアーの協力が得られたことはうれしかったです。ゲーム中でつねに彼の声を聴けます!」とコンラット・レキェッチ氏。ちなみに、本作は一人称視点のため、ゲーム中では基本ルトガー・ハウアー演じる主人公を見ることはできないが、鏡や窓などに映る彼の姿は見られるという。

主人公を演じるのはルトガー・ハウアー。おじさん世代は超感涙。

 本作では、サイバーパンクのテイストが反映された、ビジュアルも特徴的。それは、“サイバーパンク風に作るための工夫”の一環とのことで、像の色ズレとなる“アベレーション”を駆使して、赤と青を分離する色収差の編集方法を駆使しているという。色遣いはアートディレクターの意識的な選択で、暗い未来(ディストピア)をイメージしたのだという。

 また、主人公が他人の頭をハッキングして、その記憶を見るシーンでは、画面の色彩感覚が一気に変わる。たとえば、頭をハッキングされた人がハッピーであれば、明るい色彩になるという。これは、押井守監督の『アヴァロン』における、映画自体はモノクロだが、バーチャルな世界に入ると色が付くという演出にインスパイアを受けてのもの(ちなみに『アヴァロン』の撮影場所はポーランド)。

 そんな例を引きつつレキェッチ氏は、「本作の細かいところをご覧いただくと、いろいろなゲームや映画などの影響を受けているのがおわかりいただけると思います。私たちにしてみれば、たくさんのプレイヤーの方から、“この映画に似ていますね”とか、“こんな作品の雰囲気に近いですね”というフィードバックをいただくのはうれしいです。その方たちは、プレイしながら自分の世界や自分の好みを私たちの世界に見つけてくださったわけですから」

 冒頭で、『observer』は日本のパブリッシャーを探していると書いたが、取材時に見せてもらったバージョンを見るとしっかりと日本語化されている。「あれ?」と思い問いかけてみると、翻訳ツールを使ってとりあえず日本語化しているとのこと。「ミスや編集の必要なところは多いです」とピェイコ氏。そこまで前のめりで日本語翻訳を進めているのか……と思うと驚きだが、「日本人にも受け入れられるという自信はありますか?」と聞いてみると、レキェッチ氏は「本作は、未来に対する恐怖という普遍的に通用するテーマを扱っています。いわば人間の孤独感ですね。誰しもが共感していただける話だと思っているので、日本でもいい評価がいただければうれしいです」という。

翻訳ツールを使って、とりあえず日本語化されている。

 さらには、「個人的なレベルでお話しをさせていただくと、私は『サイレントヒル』シリーズや『バイオハザード』シリーズ、『零』シリーズなど、日本のホラーゲームもたくさん遊んでいて、恩返しのつもりで、自分のゲームを日本のゲームファンにご紹介したいという思いもあります」(レキェッチ氏)という、うれしいコメントも聞かれた。実際のところ日本での展開に関しては、『レイヤーズ・オブ・フィアー』が好評だったこともあり、「興味を持っていただいているところは多いです」と好感触のようだ。もしかして、意外と近いうちに『observer』日本語版発売決の吉報が聞けるのかもしれない。

 ちなみに、海外で販売しているソフトに関しては、アップデートで日本語を入れる予定だという。アップデートは年内にも実施したいとのことで、「まずは翻訳を完成させるのが第一」とレキェッチ氏。いずれにせよ、何らかの形で『observer』の日本語版に触れられる機会はありそうだ。

『レイヤーズ・オブ・フィアー:レガシー』“没入感”とNintendo Switchは相性がいい

 一方で、今回Bloober Teamが東京ゲームショウ2017に持ち込んだもう1本、『レイヤーズ・オブ・フィアー:レガシー』に関しては、なぜ、Nintendo Switch版のリリースを決意したか聞いてみると、「私たちは、まず第一に任天堂のゲーム機を愛しています。昔から」とレキェッチ氏はきっぱり。さらに、「Nintendo Switchのモーションコントロールや振動などによって、以前にはできなかったことができるいようになります」(レキェッチ氏)と、機能面でも魅力に感じているという。「ゲーム中の世界とインタラクションするときに、現実的に物が動いたり、触れたりするような感覚が味わえる。本作にはドアを開いたり、物を動かしたりといった要素が多く、ゲーム中で手を動かしてみると、Joy-Conだとより現実感がある。それによって没入感がさらに高まり、より怖いゲームになるわけです」とレキェッチ氏。プレゼンの最初にレキェッチ氏は、ホラーゲームを作る指針として、“雰囲気”と“没入感”を挙げていたが、まさにホラーゲームを作るうえで大切な要素のひとつである“没入感”を高めるうえで、Nintendo Switchは極めて相性がいいというわけだ。そのうえで、レキェッチ氏は「Nintendo Switchにはまだホラーがあまりないので、いいホラーゲームをNintendo Switchに出したいという狙いもあります」というから、「ああ、たしかに!」といったところだ。

東京ゲームショウ2017の会場では巨大なポスターも展開するほどの気合の入れぶり。

 『レイヤーズ・オブ・フィアー:レガシー』の気になる進捗に関しては、「開発は年内で終わると思います。あとはパブリッシャーしだいですね。できれば来年の第1四半期には出したいです」(レキェッチ氏)とのことだ。

 『レイヤーズ・オブ・フィアー』のときは30数人だったというBloober Teamのスタッフは、『observer』の開発が終了した時点では70数人に。ポーランドでも大手スタジオのひとつに成長しているようだ。レキェッチ氏からは、「いままで開発したゲームのサポートも必要ですが、新しいプロジェクトにも取り組んでいます。新しいタイトルを発表したいのですが、発表のタイミングは決まっていないです」との気になる発言も。「それはホラーですよね?」と、聞かずもがなの質問をぶつけてみると、「はい!」との元気なお返事が。

 最後に、ヴォイチェフ・ピェイコ氏からは、「日本の皆さんには、私たちが楽しんだ日本のホラーゲームをありがとうと言いたいです。そんな日本のゲームに影響を受けた、私たちのゲームを楽しんでください」、またはコンラット・レキェッチ氏からは「とにかく怖がってください!」とのメッセージをいただいた。Bloober Teamの作品が、日本に上陸することを期待したい。

 ちなみに、まったくのこぼれ話になってしまうが、ポーランドでは伊藤潤二が大人気で、ここ数年間で、ほとんどすべてのマンガが翻訳されているという。恐るべし、伊藤潤二!

こちらは『レイヤーズ・オブ・フィアー』の画面写真