希望のひとつは「できるだけオープンに」

 2015年5月8日~5月10日の3日間、東京・秋葉原UDXにて、インフレクション・ポイント・キャピタル(IPC)とユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社主催による、インディーゲームのイベント、東京インディーフェス(TIF) 2015が開催された。

 “東京で初めて開催される本格的なインディーゲームのイベント”として注目を集めたTIF。ファミ通.comでは、TIFの終了後にTIFのチーフ・オーガナイザーを務めるIPCのアレキサンダー・デ・ジョルジョ氏にインタビューを敢行した。ファミ通.comでは、TIF開催前にアレキサンダー氏のインタビュー記事を掲載させていただいたが、今回の取材は、その“成果”をうかがうという形で実施したもの。アレキサンダー氏にTIF開催の手応えなどを、率直に語っていただいた。

東京インディーフェス 2015の仕掛け人が語る 東のインディーゲームイベントとして、まさにここからがスタート_02

――まずは、改めての質問になりますが、TIFを開催した経緯を教えてください。
アレキサンダー きっかけは、昨年に開催したBitSummitでした。BitSummitという日本のインディーイベントに触れて、「これほどの人が集まり、これほど盛り上がるのか」と、とても感動したのです。翻るに、「なぜ東京でBitSummitのようなイベントがないのか?」と疑問に思い、東京に戻ってからいろいろなインディークリエイターやスポンサーと話をさせていただきました。

――BitSummitの熱気が、アレックさんを突き動かしたのですね。
アレキサンダー とはいえ、自分がイベントの主催者になるとは思ってもいませんでした。TIFの開催が決まったのは東京ゲームショウの1ヵ月くらい前で、東京ゲームショウの会期中に行われたIndieStreamでは、TIFの開催をアナウンスしたのですが、そのときは具体的なことは何も決まっていなかったんです。東京ゲームショウのインディーブースは大いに盛り上がりましたが、あくまでも東京ゲームショウという大きなイベントの中の1コーナーという位置づけです。「インディーゲームだけのイベントを開催したい」とは、そのときに改めて思いました。TIFに向けて実際に動き始めたのは11月くらいからですね。

――実際に開催するとなって、どのような方針で進めたのですか?
アレキサンダー 最初はインディーメーカーさんから、これまで開催されたインディーイベントでの体験談を聞いて、いろいろとアイデアを膨らませていきました。会場選びもたいへんで、すでに11月の時点で予約がいっぱいだったりもしましたね。東京都内で……ということを考えると、秋葉原の会場が理想的だということで、最終的には秋葉原UDXに落ち着きました。会場となった秋葉原UDXのAkiba Squareは全面的に窓が広がっており、解放感な雰囲気でこれまでのゲームイベントとは違う感じになるという予感がありましたね。

東京インディーフェス 2015の仕掛け人が語る 東のインディーゲームイベントとして、まさにここからがスタート_01

――たしかに会場は明るい雰囲気でしたね。
アレキサンダー 一方で、私はTIFが、ビジネスマッチングや勉強会のようなワークショップにより、インディーメーカーを支援することも大切だと思っていました。一部で、「同じ場所でワークショップやセッションをすると、中途半端になってしまうのでは?」と不安視する方もいらっしゃいましたし、「展示しているのと同じ場所でパネルセッションをするのはちょっと……」というご意見もありましたので、セッションは離れた場所で行うことになりました。そういう意味でも、UDXの会場は理想的でした。

――TIFにパネルディスカッションやワークショップを入れたいというのは、アレキサンダーさんのアイデアでしたね。

東京インディーフェス 2015の仕掛け人が語る 東のインディーゲームイベントとして、まさにここからがスタート_03

アレキサンダー そうです。インディーゲームのイベントでパネルディスカッションはあまりなかったので、ぜひとも実現したいと当初から思っていました。GDCで行われるような講演は魅力的でしたし、インディーイベントで開発のノウハウを共有する機会はあまりなかったので、用意しておきたかったんです。自分たちのゲームを出展することなのはもちろんです重要なのですが、成功した人の話をセッションで聞き、いいアイデアや情報を手に入れられるのであれば、イベントの価値が上がると考えました。

――登壇者はインディー業界のスターを揃えたかのような豪華な方ばかりでしたね。
アレキサンダー はい。人選に関しては、ほかの方からのアドバイスもいただきつつ選ばせていただきました。中にはどうしてもスケジュールが合わない方もいらっしゃったのですが、皆さん「やりますよ」と快諾していただけけて、とても感謝しています。

――中には、トイディアの松田さんのように、主催者に近い立ち位置で協力してくださる方もいらっしゃったり?
アレキサンダー はい。スピーカーさんにしても出展者さんにしても、“東京で本格的なインディーゲームのイベントを”という主旨に賛同してくださって、積極的に応援してくださいました。大手メーカーさんからも「こういうイベントが必要だ」と言っていただきましたね。

――UnityやID@Xbox、Cocos2dxなどもTIFにはスポンサーとして参加していますね。
アレキサンダー おかげさまで。皆さんインディーゲームにご理解があるので、熱心に参加してくださいました。そんな中、とくにうれしかったのはネクソンさんが参加してくださったことですね。ネクソンさんは、いまの日本のインディーシーンにとても興味をお持ちのようで、今回TIFのスポンサーとしてご協力いただきましたね。

――ビジネスマッチングやセミナーなど、TIFならではの特徴がありますが、そのほか、開催にあたっての方針としては、どのようなものがあったのですか?
アレキサンダー 私自身の思いとしては、できるだけオープンにしたいという希望がありました。この手のゲームイベントだと、“○○は撮影禁止”といった規制が多いのですが、TIFでは“来場者に見せたいものを出展するから、なんでもOK”という状態にしたかったんです。

――ああ。制約はつけたくなかった?
アレキサンダー そうですね。あと、各ブースであえて座る場所を設けないというのも、ひとつの狙いではありました。

――あら、それはまたなぜ?
アレキサンダー 椅子を用意してしまうと、ほかの出展者と話をする機会が少なくなってしまうのでは……と思ったんです。

――ああ! 立食パーティーじゃないけど、フットワークが軽くなって交流が図られるということですね?
アレキサンダー そうなんです。「出展者どうしで話ができて、いろいろな繋がりができました」という声はいただきましたね。ビジネスマッチングだけではなくて、インタビュー開発者どうしが繋がって、“今後何か協力できるかもしれない”と感じられるコミュニティーを作りたかったんです。それは今回のTIFでもある程度実現できたのではないかと思っています。

――確かに、それはすばらしいことですね。
アレキサンダー そういった交流の輪が広がることによって、さらにコミュニティーが強くなる。そのようにしていけば、日本のインディーゲームの影響はより強くなると思います。

――今回のTIFは、意外と海外からの出展者も多かったですね。
アレキサンダー そうなんです。その点もおもしろかったです。100社中75社程度が日本スタジオで、残りが海外です。アメリカ、カナダ、スペイン、中国、台湾……。中でもいちばん多かったのは韓国ですね。海外の開発スタジオも日本のマーケットには興味があるようです。海外のインディーメーカーさんも、「日本でゲームを出したい」という強い希望があるようで、「どうしたら日本のゲーム市場で成功するのか?」というのは、20年前くらいからかなり聞かれる質問です。海外の開発スタジオが日本のイベントに出展することで、日本のパブリッシャーとつながったり、実際に日本のユーザーの反応を見たりするのは、とてもいいことだと思います。

――なるほど。では、実際にTIFを開催されての手応えを教えてください。
アレキサンダー メディアさんへの露出という意味では、確かな手応えを感じました。小さなスタジオのゲームも記事で取り上げられていて、それを見て喜んでくださっていましたね。一方で、スタジオさんのほうも「もっとメディアに取り上げられたい」、「自己マーケティングをしないともったいない」と感じたようです。TIFを通して、皆さんも「自分で自分のゲームをアピールしないとダメだ」と、やる気にさらに火がついたみたいです。

――自作をいかに知ってもらうかというのは、いまの日本のインディーシーンの大きな課題ではありますね。

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アレキサンダー また、出展者の皆さんからは「初めて他人に作品を見せて、いろいろな意見が聞けたことですごくやる気になった」とか、「ゲームをフィニッシュして、ちゃんとリリースしたいと思った」という声を聞きました。インディーの方たちは自分たちだけでずっとゲームを作っていて、他人からの意見を聞く機会がないケースが多いです。いま作っているゲームが本当にいいものなのか、それとも欠点があるかどうかはわかりにくい。しかし、TIFのようなイベントに出展することによって、お客さんのプレイを見てその場で修正をしたり、高く評価された部分を集中して作ったりと、さながら"ゲームテスティング"みたいなことができるわけです。TIFでは、そういったことが多かったようで、とてもうれしかったです。

――ああ、そのへんはイベントに参加したからこその効果と言えるでしょうね。出展者からは、ほかにはどのようなフィードバックが?
アレキサンダー おおむね、ポジティブなご意見でした。

――ちなみに、3日間の来場者数はどのくらいだったのでしょうか?
アレキサンダー 一般のお客さんが2日間で1300人、ビジネス関係者が250人くらいですね。最初にトータルで1900人くらいと考えていましたが、結果としてはその予想を上回る入場者となりました。

――少し無理矢理なご質問をしてしまいますが、TIF2015の点数をつけるとすると、100点満点でどれくらいです?
アレキサンダー 難しい質問ですね(笑)。私は意外ときびしいのですが、80点くらいです。もし来年開催するとしたら、90点までいきたいですね。

――開催前にうかがったときは、「毎年開催したい」とおっしゃっていましたが、来年の開催も決定した?
アレキサンダー まだ正式決定はしていません。皆さんからも、「来年も開催してください」とは、言っていただいていますし、私としてもぜひとも来年もやりたいと思っています。

――“継続こそ力なり”と言いますからね。
アレキサンダー まだTIF 2015が終わったばかりなので、具体的に「来年こうしたい」というのはいま考えているところです。ただ、いろいろなことをもっとスムーズにできるようにしたいと思っています。いただいたご意見を参考にして、よりよいイベントにしていきたいですですね。とくに今回はとても少ない人数で運営したので、そのへんで出展者の皆さんにご迷惑をおかけしてしまいました。来年やるとしたら、もう少し運営のための人数は増やしたいです。出展者の方からは、「もっと規模を大きくしてください」というご意見も多かったです。じつは、そこがいちばん悩んでいるところでして……。あの会場はスペース的にギリギリでしたが、雰囲気はとてもよかった。会場が広くなった場合、お客さんの流れが難しくなるようですし……。

――「正式決定はしてない」とおっしゃりながらも、すでに動き始めているようですね(笑)。何はともあれ、会場を決めるのはたいへんそうだ。
アレキサンダー 本当にたいへんです。さっそく明日から探さないといけないかもしれません(笑)。

――なにはともあれ、東京でインディーゲームのイベントを開催したということの意義は大きいですね。
アレキサンダー はい。まさに“ここからがスタート”です。スタート地点としては盛り上がったようで、“Mission Complete”といったところで、とてもうれしいです。

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