KADOKAWA Game Linkageが運営するプロゲーミングチーム“FAV gaming”。その格闘ゲーム部門に所属するりゅうせい選手が、2021年3月に行われた“FAVCUP2021 sponsored by v6プラス”『ストリートファイターV チャンピオンエディション』部門にて優勝。2018年のプロデビューから約3年を経て初の個人戦優勝となった。本稿では、FAVCUP2021優勝の心情と、プロとして活動した3年間について聞いた。
りゅうせい
『ブレイブルー』シリーズで数々の大規模大会で優勝を経験。2017年は世界最大規模の格闘ゲーム大会“Evolution 2017”で世界王者に輝く。その後、より大きな戦いの舞台を求めて『ストリートファイターV』の競技シーンに参戦。メインタイトル変更からわずか1年でCAPCOM Pro Tour グローバルランキングの100位内にランクインし、CAPCOM推薦枠としてジャパン・eスポーツ・プロライセンスを獲得した。
※りゅうせいTwitter:@RYUSEI_CARL
※りゅうせいMildomチャンネル
これまでのりゅうせい
りゅうせい選手は、2018年にFAV gamingの格闘ゲーム部門に若手育成枠として加入。アマチュア時代に取り組んでいた『ブレイブルー』から『ストリートファイターV』へとタイトルを変更しての挑戦となった。
デビュー当初はゲーマー社員としての職務をこなしつつ、プロゲーマーとして日々練習に取り組む毎日。プロ1年目は、先輩のsako選手が海外大会を渡り歩く一方で、国内に居残りFAV gamingのトレーニングルームで地道に練習を続けた。同年の格闘ゲーム世界大会“EVO2018”では、いきなり9位入賞を果たして実力の片りんを見せることに。
2年目となる2019年よりカプコンプロツアーに本格参戦。海外大会に数多く出場し、CEO2019にて初のプレミア大会トップ8に入賞した。当時の大会参戦や苦労については、こちらのりゅうせいの大会参戦記に書き綴っている。
少しずつ実力がつき、結果を残し始めた3年目の2020年は、国内最高峰のリーグ戦“TOPANGAチャンピオンシップ”で7位。公式チームリーグ戦“ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020”では“トキドフレイム”としてときど選手、板橋ザンギエフ選手、ストーム久保選手とチームを組み、準優勝の成績を残した。
そして、2021年3月、ウメハラ選手、ときど選手、ガチくん選手など、日本が誇るトッププレイヤーを招待した“FAVCUP2021 sponsored by v6プラス”にて、待望の個人戦初優勝を果たした。
※格闘ゲーム部門は8:46:00あたりから。
個人戦初優勝! その理由は偉大な先輩たちにあり!?
――まずはFAVCUPの優勝おめでとうございます。りゅうせい選手初の個人戦優勝でした。sako、ウメハラ、ときど、ガチくんなど、世界大会優勝経験のあるメンバーの中での優勝はすごいですね。
りゅうせい自分が優勝する確率は決して高くないですが、チャンスはあると思って参加しました。大会が2試合先取という短期決戦だったので、そういったルールに助けられた面もあったかとは思います。
――あれだけの選手が参加するトーナメントで優勝のチャンスがあると思えるのは、力が付いた証拠では?
りゅうせいじつは、去年(2020年)くらいから練習や大会での勝率が上がっていたので、もしかしたらいけるんじゃないかという自信はありました。
ただ、2021年2月にゲームがバージョンアップして、新システムの“Vシフト”が僕が使ってるキャラクターと相性が悪いと思い、不安しかありませんでした。実際にいままで通りの戦い方でやっていたら勝率が下がってしまい、このままではドンドン勝てなくなるなと、危機感を覚えました。
そこで、“ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020”でチームメイトだったときどさんの動画をしっかり見て、戦略の幅を広げることを意識して練習に取り組むようにしました。ときどさんは僕と同じユリアンというキャラクターを使っているのですが、プレイスタイルがまったく違うのでいろいろ学ぶところがあるんです。
――りゅうせい選手とときど選手のプレイスタイルで、明確に違う部分はどこなのでしょうか?
りゅうせい一言で表すと僕より“歩く”。自分は必殺技の“溜め”を作りながら立ち回って、必殺技の“チャリオットタックル”を決めていくスタイルでした。ですが、ときどさんはそれだけではなく、歩いてじっくり“ライン”を上げていきます。歩いたときに相手の対応を見て、それに合わせて動きを変えながら、細かいダメージを積み重ねていくんです。どちらかというと、もともと使っていた“豪鬼”の動きがミックスされているイメージです。
――ときど選手のほうが慎重かつ対応力が高いんですね。
りゅうせいそういったときどさんの戦い方を参考にしながら、自分のこれまでの戦い方をイチから見直すこともしました。各キャラクターに対してのテンプレートのような基本戦術は固まっていたのですが、それをあえて崩して、極端に言えば以前なら悪手だと思っていた選択肢を試してみたり。そうすると、相手の意識が変化して、その後の展開が変わることもわかり、新しい発見がたくさんありました。そうやって少しずつ戦い方のバリエーションを増やしていったのが、いい結果につながったのかもしれません。
――先入観にとらわれずテンプレートを崩すという取り組みは、チーム加入直後のりゅうせい選手からすると大きな成長のように思えます。
りゅうせいたしかに(笑)。これはFAV gamingの先輩であるsakoさんの影響が大きいですね。sakoさんとよくオンライン上で対戦するんですけど、あの人の野試合は“遊び”が入っているんですよ。もちろんマジメに練習してはいるんですけど、その中にも遊びがあって、たぶんそれは本番ではやらないことなんですが、「これをやったらどうなるんだろう?」といろんなことを試しているんだと思います。そうやってつねに新しいことを試しているから、つぎの日には動きがガラっと変わっていたりするんです。そんなsakoさんの姿を間近で見ていたから、自分もこの取り組み方を実践すれば成長できるという手ごたえがありました。
ーーsakoさんのそういったところが、あえてテンプレートを崩すという取り組みにつながったんですね。
りゅうせいsakoさんとの対戦は、会話してるような感じなんですよね。DiscordやLINEといったツールを使ってメッセージを送ったり通話をするわけでもないんですけど、「こんな戦法を考えてきたけどどう?」とプレイで表現して見せると、しっかりゲーム上で答えを返してくれて、対戦内容がどんどん変わっていくんです。ゲーム上でコミュニケーションを取りながら、力を引き出してもらえる感じがするんですよ。
――そうやって切磋琢磨できるのは素晴らしい関係ですね。1、2年前のりゅうせい選手のプレイはいわば“機械的”にも感じましたが、いまは考え方からして変わってそうですね。
りゅうせいそうですね。機械的に強い行動メインで戦うのはすごく強いんですけど、それだと新バージョンで勝率が下がってしまったので、今後も競技シーンが続く中で生き残れないと思いましたからね。意識を変えていかないと。そういう意味では、新バージョンへのアップデートは視野を広げるいい機会になったと思っています。
尊敬する先輩たちとの対決
――FAVCUPでは、お手本にしているときど選手、sako選手に当たりました。
りゅうせいそうですね。ときどさんとは“ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020”でチームメイトとしてやっていて、すごく頼もしかったし、お手本にしたいと思っていたんですけど、やっぱりひとりのライバルとして、1対1で戦いたい思いもありました。だからこういった舞台で対戦できたのはうれしかったです。
――ときど選手だけではなくsako選手にも勝利をおさめました。
りゅうせい2021年はsakoメナトが大活躍する年になると思っています。そのくらい仕上がっていて強いですよ。だから実際にはあまり自信はなかったんですよね。前バージョンで僕が使っているユリアンが最強キャラと言えるくらい強かったときから負けていたし、新バージョンになったあとにやったらもっと勝てなくなっていましたから。
――それでも大会で勝ったのはりゅうせい選手でした。
りゅうせい“ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020”の話にさかのぼるんですけど、決勝でsakoさんと当たる可能性があったときに、ときどさんと一緒にsakoさんのプレイを研究して対策を立てたんです。それがFACUPのときにうまく出せたのかなと。もちろん、2先という短期決戦の中でうまくかみ合った部分が大きいから、まだ長期戦で勝てるまでにはなっていないと思いますが。
ーーリーグでときど選手と組めたのは本当に大きかったようですね。
りゅうせいあのリーグで、トキドフレイムに入っていなかったらいまの自分はなかったと思います。ときどさんはどうやったら伸びるかをつねに考えていて、ゲームに対するプロ意識がものすごく高く、それを近くで見れたのは大きかったなと。プレイヤーとして大きく成長したと思いますし、その経験は本当に財産ですね。
――それは素晴らしい経験になりましたね。これまでは、自信のない組み合わせはそのまま負けていた印象があります。ですが、sako戦のように自信がない組み合わせでも、工夫して結果的に勝利をもぎ取れてるようになったのは、大きな成長と見ていいのではないでしょうか?
りゅうせいそれは自分でも成長したと思っています。長くゲームに触れているのと、いろいろな人たちにゲームの知識はもちろん、取り組む姿勢なんかも教えてもらって、そのうえで練習を続けられたからなのかなと。その結果、戦略の手札が増えて、不利な相手には不利なりの戦い方ができるようになったんだと思います。最初のころより戦いかたや気持ちの切り替えができるようになったのかもしれません。
――その成長は、FAV gaming加入以来つねに対戦してきたsako選手に伝わったのではないでしょうか?
りゅうせいsakoさんにはプレイを通して伝わっていると思います。FAVCUPで試合が終わったあとに一礼したら、sakoさんに「強かった」と声をかけてもらったんです。
sakoさんはゲームに対して妥協のない人だから、よっぽどのことがないと他人を褒めないんですよ。そんな人に認められたのはすごくうれしかったですし、勝者に対してそう言えるsakoさんがとてもカッコいいなとも思いました。だって、最年長であれだけの実績がある人なのに、年下の僕に対して素直に強かったと言えるのはすごいなと。
無意識のうちに放った勝負の一手
――決勝戦では板橋ザンギエフ選手にルーザーズから勝ち上がって勝利を納めました。不利な状況からの逆転はすごかったですね。
りゅうせい対ザンギエフは、やられてしまうときは一瞬でやられてしまう組み合わせなので、負けていてもそこまで精神のブレはなかったですね。だからルーザーズ側で不利な状況というのもそこまで気になりませんでした。
――ウィナーズで当たって負けたことを引きずらなかったんですね。
りゅうせいそうですね。一度負けたときは、相手の攻めがループしてしまったのと、少し後手にまわってしまった印象ですね。攻めがループするのはザンギエフというキャラクターの特性上仕方のないことなので、立ち回りを変えていこうと切り替えました。振り返ると、Vトリガーの“エイジスリフレクター”を発動する前にやられることが多かったから、さきに発動していこうというのを意識したプランで挑みました。そこからは試合展開がかなり変わったと思います。
――次第にりゅうせい選手が優勢な展開に持っていけましたね。
りゅうせい板橋ザンギエフさんとは、ふだんから互角くらいですし、その日は僕が“持っていた”という印象です。
――最後はまさかの前ジャンプ攻撃が突き刺さりましたね。
りゅうせい試合を決めたあのジャンプは、自分でもビックリしました。じつはあのジャンプをしたことをまったく覚えてないんですよ(笑)。頭が真っ白で、気が付いたら勝手に飛んでいて画面を見たら「あれ? なんか当たってる!?」って(笑)。それで咄嗟にコンボを入れたら勝ってしまったという。
――そんなだったんですね。見ていてもふだん絶対やらない行動だなと思ってみていました。
りゅうせい勝ちたい気持ちから無意識に跳んだんだと思うんですが、本当に勝ちたかったんだろうなと。板橋ザンギエフさんより僕のほうが少しだけ勝ちたさが上回ったというか。でも、これは長く続くような勝ちかたじゃないから、もっと練度を上げていきたいですね。
――それはまったく同じことをふ~どさんがウメハラさんに勝ったときに言っていましたね。対空されたら終わりの場面だから野試合じゃ絶対やってなかったんだけど、気持ちで跳んだら通ってしまったと。
りゅうせいそれまったく同じですね(笑)。最後の最後は勝ちたい気持ちが大切なのかも。
『ブレイブルー』の経験があったから折れずに続けられた
――個人戦で優勝するまでに約3年かかりましたが、長かったですか? それともあっという間でしたか?
りゅうせい個人的には「長かったなあ」と思いました。最初の年は野試合でまったく勝てないし、去年(2020年)くらいからようやく野試合で少しずつ勝てるようになってきて、大会の成績も少しずつ上がってきて、でも新型コロナウィルスの流行で試合が減ってしまって……。これがなかったら2020年中に1個くらいは勝てたかもしれないという自信はあったので少し残念でした。
――少し遅れてしまったかもしれませんが、結果を出せたのは何が一番大きかったのでしょう?
りゅうせい「折れずに続けられたのが大きかったですね」。練習すれば練習するほどにうまくなっている実感はありましたが、勝てるようになるのかわからない取り組みを3年間続けられたのは、ある意味ふつうじゃないですよね(笑)。そう考えると、このプロゲーマーという仕事は自分に向いていたんじゃないかなと。でも、こうでもないと競技シーンで生き抜くのは難しいですよね。
――苦しいときもあったと思いますが、続けられた原因はなんでしょうか?
りゅうせいこれは『ストリートファイターV』以前に『ブレイブルー』をやり込んだ経験が大きいんだと思います。最初は勝てないんだけど、すごく練習して、それを継続したら勝てなかった人に勝てるようになるという成功体験があったから、それがプロになってからの『ストリートファイターV』にも生きたんだと思います。折れないで続けるということが学べた『ブレイブルー』の経験は、自分に取って本当に大きな財産だと思っています。
――『ブレイブルー』は10代にガッツリやってましたもんね。
りゅうせい17歳くらいから23歳くらいまでの5~6年間やり続けて、最初は勝てなかったけど、最後のほうはかなり勝てるようになりました。
――当時『ブレイブルー』で切磋琢磨していた人たちも、りゅうせい選手の活躍を見て喜んでいるのでは?
りゅうせいじつは本当にすごく応援してもらっていて、FAVCUPで優勝したあとは、TwitterやSNSでたくさんの人に祝福してもらえてうれしかったですね。当時はあまり話していなかったような人も、僕の試合を追いかけてくれてるみたいで、そういった意味では今回優勝した姿を見せられて本当によかったなと。ファンの人もそうだし、チームや会社の人にも喜んでもらえたし。とくに、とよまんは『ブレイブルー』のころから応援してもらってるからな(笑)。
――立川〇軍みたいなチーム名で全国大会“ぶるれぼ”に出てたころから取材してますからね(笑)。感謝という意味では、3年間りゅうせい選手と歩んで来たキャラクター、ユリアンにも感謝なのでは?
りゅうせいユリアンには本当に感謝。カプコンさんには作ってくれてありがとうと。とにかく楽しかったからモチベーションを保てたし、ユリアンもやり込みに答えてくれましたからね。
■ブレイブルー時代のりゅうせい選手関連記事
好スタートが切れた2021年
――2021年はチームリーグ戦“ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020”で2位、個人戦としてFAVCUPで優勝と、とてもいいスタートが切れたんじゃないでしょうか?
りゅうせいそうですね。スタートとしてはいい形になったと思いますが、取り組み自体に変化はないですね。いままでも大会が発表されるかどうかにかかわらず、普段からずっと練習を続けて、いつ大会が来てもいいように身体を作っておくというのは『ブレイブルー』時代からやってることです。だから取り組み方はこれまで通りだと思いますし、そういう意味ではいつも通りの1年ですね。
――準備は普段から行っておくのが大切と。
りゅうせい対戦するのが楽しくて仕方ないですからね。本当にプロゲーマーは天職だと思います。
――大会以外の活動はどうでしょう? Mildomでほぼ毎日配信もやってるみたいですが。
りゅうせい配信も楽しみながらできてます。『デッドバイデイライト』だったりホラーゲームを中心に。
――配信を見ましたが、ホラーゲームをプレイしてるりゅうせい選手のリアクションはすごいですね(笑)。
りゅうせいあれはガチのリアクションで演技ではありません(笑)。怖いからプレイするのにカロリーを使うんですけど、おもしろいから今後も続けていきたいですね。あと、コロナが落ち着いたらオフラインのミーティングもできたらいいと思っています。ファンの皆さんにリアルでお礼を言う機会が作れればと。
――では最後にファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
りゅうせい僕は応援してくれる人ありきだと思っています。自分を応援してくれてる人に優勝した姿を見せられてよかったです。これからも競技シーンで勝てるように練習に励んでいくので、応援していただけるとうれしいです。
筆者「りゅうせい選手優勝おめでとう!」