2019年9月4日~6日まで、パシフィコ横浜にて開催している日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けのカンファレンスCEDEC 2019。同カンファレンスより、『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』をテーマにした、“エースコンバット7 VRが実現したエースパイロット体験のひみつ”のセッションの模様をお伝えしよう。

 このセッションには、前半は『エースコンバット7』でリードVRエンジニアを務めた山本治由氏。後半は『エースコンバット7』のVRモードディレクターを務め、現在は『エースコンバット7』DLCディレクターである夛湖久治氏が登壇した。

 『エースコンバット7』のVRモードについて、前半はエンジニア視点から『エースコンバット7』の開発について、後半はディレクター視点から“エースパイロット没入体験を深める施策”が、解説された。

セッション前半に登壇したリードVRエンジニアを務めた山本治由氏
セッション後半に登壇したVRモードディレクターで、現在は『エースコンバット7』DLCディレクターである夛湖久治氏

試作とボツのイテレーションで作り上げた“没入感の高さ”!

 山本氏は、以前は同社の格闘ゲーム『鉄拳』シリーズのチームに所属していて、もとは同チームからスタートしている『サマーレッスン』に携わり、『エースコンバット7』VRモードのリードVRエンジニアになったという経緯がある。

 当然のことながら、『エースコンバット7』でも『サマーレッスン』で得た知見が多いに生かされているとのこと。開発の前半は“幅広く試作し、実在感を削がない表現方法を探る”ことを行い、後半には“違和感がなくなるまで、ひたすらブラッシュアップ”という、イテレーション(くり返し)を重視した開発を行ったということだ。

 この試作のくり返しのなかでは、さまざまなボツ案が生まれた。

 まず試作したのは“周辺視野を制限”するというもの。これは最大の懸念である“VR酔い対策のひとつ”で、プレイヤーの視野のなかにパイロットのヘルメット形状を模した黒いモヤをつけて視野を制限することで情報量を少なくして酔ってしまうことを抑えようとしたそうだ。

 ただこれは、「なんで視界に黒いモヤがかかっているの?」という疑問がどうしても生まれるし、納得できる説明が難しかったそうで、不自然なものがあると没入感が削がれてしまう。ゲームの興奮が冷めてしまうので導入を断念したという。

 また、視界を制限することでUIの視認性も下がってしまいゲームプレイにもストレスを与える結果になってしまったという。

 続いての試作ボツ案は“進行方向表示”というもの。

 VRではプレイヤーの視界をゲーム側が勝手に動かすと酔いを引き起こしやすいので、離陸前の滑走路を移動するシーンで右に曲がったり左に曲がったりする場面で、進行ルートをプレイヤーに見えるように表示するというものだ。

 だがこれも、なんの前触れもなくゲーム的な表示を見せる事に違和感が生まれるところがあり、プレイヤーも周囲を見ていて事前にルート表示を見せてもあまり覚えていないだろうということで、ボツにしたそうだ。

 これら試作からのボツのくり返しから見えてきたのは、“標示物に違和感があるとプレイヤーはさめてしまう”こと、そして“プレイヤーとゲームのテンションが乖離するとさめてしまう”ということで。

 そして、これは『サマーレッスン』と同じものだったという。

 では、これらの試作のくり返し、とくにVR酔い対策は、最終的にどのようになったのか?

 まず離陸前の滑走路移動シーンでは、自機の前方を味方の機体が走行するなど“プレイヤーの視線を誘導する仕組み”を導入。「僚機が右に曲がったので自分もこのあと右に曲がるのだな」と心の準備ができることで、画面移動による酔いを抑えている。

 飛行中には、敵機の方向を示すアロー(矢印)を表示するようにした。『エースコンバット』シリーズではプレイヤーは敵機がいる方向を基本的に見ていくので、それが進行方向を自分から見るのとイコールになってくる。そこで、積極的に敵機のいる方向をUIで見せて、プレイヤーが自分から意識してその方向を見るようになると、酔いが抑えられるということだ。

 コックピットの表示をブラッシュアップし、ゲーム的なUIをコックピットの計器類に自然と統合させて違和感を取り払ってもいる。これにより“UIを見てゲームを遊んでいるという体験”だったものが、“このコックピットの機能を使って自分が機体を操作して戦っているという体験”に変わってくれたそうだ。

 もうひとつボツにしたのは“ベイルアウト”(航空機から非常時に脱出する射出座席)の演出。

 いかにもな派手さがありおもしろい演出と思えるのだが、その演出を入れると、敵機に撃墜されるという緊張感が最大に高まったところから、射出されてパラシュートが開いてゆっくり降りてくるという演出を入れると、安心感が前面に出てプレイヤーの緊張感が途切れてしまう。

 だが、ゲームとしてはもう一度コンティニューしてリトライしてもらいたいところがあり、ゲームの進行とプレイヤーの心境に乖離が生まれてしまうので、ボツにしたということだ。

 これについては、ダメージを受けると警告ランプが点灯してプレイヤーに緊張感を持たせつつ、これから撃墜されるかもしれないという心の準備をプレイヤーにさせるように変更。さらにダメージを受けるとコックピットに煙が充満して爆発する演出が入るようになった。

 この演出は約10秒ほどと長めになっているのだが、時間をかけて撃墜されたことをプレイヤーに認識させることで没入感が削がれるのを防ぐことができるそうだ。

 こうした試作とボツのくり返しを行った山本氏は、違和感を排除することで没入感を向上できるという経験を得たということだ。気づきにくい細かな違和感なども積み重なるとゲーム体験に影響を及ぼすので、キレイに取り除いていくことが大切だと語る。一見すると完成系に思えるものでも、まだまだそういう余地があること、それらの没入感を高めることがまだまだできるということだ。

プレイ開始前に“没入ライン”を越えるだけの期待と興奮を用意することが重要!

 違和感を取り払い没入感を損なわないようにするトライ&エラーが語られた前半に続いて、後半には『エースコンバット7』VRモードディレクターの夛湖久治氏から、積極的に没入感を高めていく施策についての話が語られた。

 VR体験のための守りの話から、後半では攻めの話をするというわけだ。

 夛湖氏は、そもそも1993年にナムコよりアーケード用にリリースされたフライトシューティングゲーム『エアーコンバット22』から始まり、大型筐体の体験が魅力だった『機動戦士ガンダム 戦場の絆』など、アーケード用中大型機の制作経験を経ている。

 そうした体験を作ってきた経験から夛湖氏は、“VRゲームの没入に重要になるのは、ゲーム開始前の機体と興奮のコントロール”だと語った。

 没入ラインというものがあり、プレイヤー期待や興奮が一定量高まってその没入ラインを超えられれば、没入感に至るという。

 では、どうやって没入ラインを突破するのか。その答えは1990年に登場した業務用アトラクション『ギャラクシアン3』にあったという。

 『ギャラクシアン3』は円状に配置されたムービングシートにプレイヤーが座り、周囲を覆うスクリーンに映し出される映像で楽しむ大型シューティングゲーム。

 大型アトラクションだけに、このプレイの前にはまず銀河連邦宇宙軍のクルーを演じるスタッフから作戦説明室でブリーフィングを受ける。まず、こうした雰囲気作りによってプレイヤーの気持ちを高めている。

 ブリーフィング後、警報が鳴り響くなか雰囲気たっぷりのゲートを通り、シートに座ってゲーム開始となっていくのだが、ゲーム開始時にはスクリーンにエレベーターが降りていく映像が流れ、シートが上下に大きく動いて、プレイヤーは思わず声が出るほどの体験を味わえる。

 夛湖氏いわく、『ギャラクシアン3』の体験としてはここまでが最高潮。その後はふつうにシューティングゲームを楽しむことになる。

 これをグラフで表現すると下の写真のようになり、ブリーフィングからの雰囲気作りによって期待と興奮が右肩上がりし、没入ラインを越えていく。それによって酔いも感じにくくなるので、冒頭で期待と興奮を高めることは非常に重要だということだ。

 ブリーフィングなどプレイの構成として似通うところがある『エースコンバット7』のVRモードだが、『ギャラクシアン3』とは違い、プレイステーション VRではヘッドマウントディスプレイを被ることに対して、プレイヤーは酔いや手間など、さまざまな疑念がある。

 それによってなかなかプレイヤーの期待と興奮が没入ラインを越えないところが難題であり、それでも没入ラインを越える期待と興奮を創らなければいけないのが課題だという。

 そこで『エースコンバット7』のVRモードでは、プレイ開始から出撃までに多くの演出や工程をはさんで“なかなか遊ばせてくれない”という時間をあえて作ったそうだ。

 これはまず“VRに慣れてもらうための時間”でもあり、“じらすことで期待を高める”という効果を狙っているという。

 そうしてプレイヤーをじらしたところで、出撃前にサプライズを置いている。いよいよ滑走路を通って出撃というところで、敵機からの爆撃があり、プレイヤーの間近に激しい爆発が起きていく。その興奮によって、高まった期待と興奮が出撃前に没入ラインを越えてくれるというわけだ。

 出撃後にプレイが始まってからは、酔いを抑えながら高まった興奮がさめないようにしていく“体験の防御戦”が始まっていくという。

 夛湖氏は総括として、『エースコンバット7』のVRモードでは、アトラクションの知見をもとに、プレイヤーの心理を重視した構成を行っており、プレイヤーが酔わずに興奮してVR体験を楽しめるよう工夫していること、そうした工夫が最後まで気持ちよく遊んでもらえるポイントであったことを語り、講演を締めくくった。