ゲーム業界の新鋭・MyDearestに迫る

 2016年に設立され、VRゲームだけをリリースしているMyDearest。VRの魅力に憑りつかれ、さまざまなチャレンジをし続ける新進気鋭のメーカーだ。同社の最新作『東京クロノス』は、SteamのVR部門売り上げランキング世界1位を記録したほか、Oculus用ソフトとしては、Oculus公式のオススメ作品である“Oculus Essentials”に選ばれるなど、世界中で注目を集めている。同社がVRにこだわる理由、そしてVRゲームの未来を、代表取締役・岸上健人氏に語ってもらった。

岸上健人氏(きしがみ けんと)

徳島県出身。“編集者×クリエイター”が集う、ゲーム会社MyDearestを立ち上げ、VRゲームを制作する。最新作の『東京クロノス』では、総合プロデューサーを務める。

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――まず、MyDearestは完全にVR1本で勝負されていますが、VRにこだわる理由というのは?

岸上本当に単純な理由で、2014年にVRを初めてやったときに、ものすごく感動したんです。それでVRのゲームを作りたいな、と。もともと自分自身、アドベンチャーゲームが好きだったので、VRでアドベンチャーゲームをやれたら楽しいだろうなと思い続けての『東京クロノス』なんです。

――『東京クロノス』に至るまでには、どんなことを?

岸上VRとノベル、VRとマンガといったVRと別のコンテンツを組み合わせるような作品を作ってきました。これはいろいろと試してみたかったという理由ですね。

――制作してみての手応えは?

岸上基本的に我々はナラティブ(※1)というか、物語を見せるタイプのVRの作品を出してきました。VRの中でとくに“物語”を見せたいという想いが強くて。VRというとアミューズメント施設などにある体感重視のものだったり、短時間で遊べるものが多いですよね。そんな中で、完全に逆張りで物語を思いっきり見せる、ドラマがあるVRゲームを出したいと。あと、じつはアドベンチャーゲームに出てくる選択肢の重みが、VRでやると段違いなんですよ。やはり、画面越しよりもはるかにグッときます。ドキドキするというか。

――自分の選択がこの世界を変えるみたいな。

岸上そうですね。選択肢を選ぶときにとても感情が揺さぶられるので、VRとアドベンチャーゲームは非常にマッチしていると思います。

※1:ナラティブ……物語、語りという意味を持つ言葉。

――2014年にVRを初めてプレイした際に感じたVRの魅力とは、どんなものでしたか?

岸上情報量の増えかたがまったく違うな、というものでした。これまでのゲームの情報量の増えかたは、どんどんキレイに、美しくなっていくという足し算的なものだったのですが、VRになることで、自乗みたいな増えかたに変わって。掛けるどころではなく何乗も増えたイメージでした。やはり、エンターテインメントって同じ方向に進むだけでは飽きがきてしまうので、つぎはVRだな、と思いましたね。

――これまでにVRゲームを作ってきて苦労した点や、やり甲斐を感じる点というのは?

岸上やり甲斐を感じるのは、プレイしてもらったユーザーさんの喜びの声が聞こえるということですね。苦労は、VRがとにかく普及しなかったことです。VR業界みんなが思っていることかと(苦笑)。2016年に商業VRが初めて登場して注目を集めましたが、翌年の2017年はいちばんの冬でした。「VRこないじゃん、ぜんぜん売れないじゃん」と思っていた時期です。2018年になってちょっと温まってきて、その流れで2019年に一気に加速しつつある、という状況ですね。とにかく、耐え忍ぶというか、地道にやっていくしかない時期がたいへんでしたね。いまはちょっと伸びかたがすごいんですよね。劇的に普及台数が伸びています。

――その要因というのは?

岸上PS VRが出たばかりのころって、遊べるコンテンツがそれほどなくて。VRゲームは家庭用ゲーム機と同じで、終わりのあるものが多いですから、ひとつの作品をプレイし終えたらつぎの作品が発売されないと飽きてしまうじゃないですか。そういう理由で2016年から2017年に、勢いが止まってしまったのだと思います。2018年になったあたりから、2015年から2016年ごろに知見を溜めていた人たちが新たな作品を出し始めてきたんですよね。いまいちばん流行っている『Beat Saber』などのタイトルも2018年から出始めて。なので、ちゃんと広まってきたと感じられたのは、2018年以降だと思います。

――確かにコンテンツの供給がないというのはきびしいですね。とくにVRゲームってプレイ時間が短いじゃないですか。

岸上短いですよね。

――とはいえ、プレイヤーからしたら、そんなに長くVR機器を装着していられない、という気持ちもあります。そういった面は今後どうなっていくのか、イメージはありますか?

岸上じつは長く装着していられるようにハード側が進化してきています。あと、ゲーム側も長く遊んでもらうためにどうするべきかという知見が溜まってきましたね。どうすれば酔わないか、といった部分も、ゲーム開発者たちが共通で持っている状態になってきました。いまこのタイミングでVRで酔うゲームが出たら、むしろ、なぜそれをいま出すのだと言われてしまうくらいの空気になりつつあります。

――研究がもう進んでいるのですね。

岸上そうですね。『東京クロノス』はとにかく酔わない作りなんですよね。自分が動くと酔いやすくなりやすいのですが、『東京クロノス』は自分がそれほど動くゲームではないですから。

――なるほど。VRって自分の動きとは違う動きを見せられることで酔いやすくなってしまうな、と感じるのですが、そういうところがだいぶ緩和されてきているわけですね。

岸上いまはもう、ほとんどないと言っていいと思います。よっぽど自分の動きと画面の動きで違うものを見せたいのであれば、俯瞰的な神視点にするとか、ゲームの作り自体を工夫するようになってきています。

――そんな中で、まさにPS VR版が開発中の『東京クロノス』ですが、こちらはどんなタイトルなのでしょうか?

岸上『東京クロノス』はVRのアドベンチャーゲームですが、全部でだいたい20時間くらいの長さがあります。VRゲームでこの長さは、なかなかないと思いますね。VRゲームとしては初と言っていいくらいの超長編アドベンチャーゲームです。『シュタインズ・ゲート』や『ダンガンロンパ』といったタイトルが好きな方には楽しんでもらえるかと。時が止まった、誰もいない渋谷に閉じ込められた8人の高校生が、その中の誰かがじつは人を殺しているかもしれない、誰かが死んでいるかもしれないという謎を探りながら、脱出を目指す話です。

――プレイヤーはその中のひとりになるという感じですか?

岸上そうですね。主人公視点となっていますね。あとは、やはりVRらしくと言いますか、各キャラクターの視点にもなったりします。いろいろな角度から謎に迫る、という感じです。

――『東京クロノス』で得た経験で、今度はこういう作品が作れるのではないか、というものはありますか?

岸上VRのアドベンチャーゲームはどんどん発展進化させられると感じましたね。「テキストアドベンチャースタイルのゲームをVRでやるなんて無理だろ」とよく言われるんですけど、『東京クロノス』では成功したんですよ。ですから、この枠組みを今後は多くの人たちが使っていくんじゃないか、と思っています。

――むしろアドベンチャーゲームのつぎの進化がVRにあるのではないか、というくらいの。

岸上アドベンチャーゲームってどちらかというと、FPSなどの作品よりもいろいろな表現が許されるというか、多様性のあるジャンルだと思います。だから、何か表現で挑戦したいという人に向いているジャンルじゃないかと。あとは物語を表現したいといった方にもオススメですね。

――一時期、恋愛アドベンチャーゲームなどがすごくたくさんリリースされた時期があったじゃないですか。そういうことが今度はVRの中で起こりそうな?

岸上起こりえると思いますね。『東京クロノス』はその先駆けにならないといけない、という使命感もありますね。『東京クロノス』がすごく売れたら、VRアドベンチャーゲームが今後どんどん増えていくのではないかと。あと、日本でも勝負できるなとは感じましたね。日本のディベロッパー、ゲーム開発者がこういうジャンルだと戦えるな、と。VRは明らかに世界の市場なので、世界中の人が遊んでくれます。表現をする人にとっては、これはひとつのチャンスだと思います。

――世界の市場にいくと、今度はやはり“Oculus”のような自分自身の動きも反映させる体感型のゲームがウケそうな印象がありますが、そういうわけでもない感じですか?

岸上もちろん、そういった作品がメジャーではあるのですが、アドベンチャーゲームも闘えると思います。実際『東京クロノス』は、海外の人にもウケていますしね。多様性が必要だと思うんですよ。本来はJRPGみたいなものをVRで作るといいんでしょうけど。そういったタイトルが出てくるのは、もう少し先かもしれないですね。

――RPGでありつつ、VRでの体感もできるような。

岸上PS VRがつぎの世代にいけば、そういったタイトルも遊べるようになると思うんですよね。Oculusは2019年5月にOculus Questをリリースして、どんどん技術が進化してきているんですよね。

――確かに、Oculusは機器自体も簡略化されてきて、どんどん進化していますよね。この数年でいろいろなVR機器が発売されましたが、VRがゲームユーザーに浸透した感覚ありますか?

岸上正直な話をすると、まだ浸透はしていないと思っています。ただ、2019年になってようやく浸透し始めてきたなとは感じました。PS VRが世界で500万台売れていることが発表されていますし、すごく伸びてきている。PS VRはゲームも豊富なんですよね。最近すごく増えたんですよ。だから、もうコンテンツ切れみたいなことも起こさないのではないでしょうか。ホコリ被っていたけど、またプレイし始めた、という声も聴くようになってきました。

――ぶっちゃけ、一時期のPS VRなどの盛り上がりがあって、そこで買ったものの、いまはもうプレイしていないという人も多いと思います。

岸上めちゃくちゃ多いと思いますね。

――そういう人たちに、「とりあえずこれやっとけ!」と言えるようなタイトルはありますか?

岸上『東京クロノス』は当然オススメするとして(笑)、もっともわかりやすいのは『Beat Saber』ですね。つかみとしてはバツグンだと思います。あと、『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』(以下、『ASTRO BOT』)はすごくよく出来ているので、誰でも楽しめますね。あともうひとつ僕が好きなゲームで『MOSS』というゲームがありまして。ネズミが主人公のゲームで、あれがすごく好きで。神視点でネズミを操作していくのですが、『ASTRO BOT』は縦視点なんですけど、どちらかというと横スクロールで操作していく感じのゲームです。あと、もっとも酔いにくいゲームだと思います。あれはVR初心者にいちばんオススメしやすいタイトルですね。

――VRをより浸透させるために、ゲームファンに伝えたいことはありますか?

岸上とりあえず、「もう買って大丈夫だ」ということを強く言いたいです。最先端の技術を楽しみたい、という人だけではなく、カジュアルにゲームをプレイしているような人たちも買って大丈夫だと、明確に言えるタイミングになりました。

――岸上さんは、VR自体がゲーム業界の中で、現在どういった立ち位置にあると感じられますか?

岸上カルト的なニッチジャンルだと思います。熱狂的人気はあるけどニッチ、みたいな。

――これを変えていくきっかけは何になると思いますか?

岸上意外と“徐々に”だと思いますね。気づいたら普及しているみたいな。現在もそういう傾向があるんです。じつは徐々に浸透していっていて、コンテンツも増えてきたし、酔いにくくなったから飽きにくくなった。あとはVRでいうとソーシャルVR系のタイトルで、一気に火が付く可能性があると思います。海外で『Rec Room』というタイトルがリリースされているんです。複数人で遊べるミニゲームが多数用意されたソーシャルVRというジャンルのゲームで、世界中のユーザーがロビーに集まって交流をしつつ、カジュアルゲームで遊ぶ、というものになります。これがとてもよくできているんですよ。いまVRでカジュアルゲームを作っても売れないのは『Rec Room』があるから、と言われるほどです(笑)。

――(笑)。

岸上『Rec Room』は絶対に日本にもくると思うので、ぜひそのときはプレイしてみてほしいですね。VRの見えかたがまた変わると思います。

――岸上さんはカルト的なニッチジャンルと評したVRですが、一方でMyDearestはそれ1本で戦っています。勝算はあるのですか?

岸上ニッチジャンルってユーザーが増えたら、爆発的に駆け上がっていくんですよね。だから、最初のパイオニア枠を取っておきたいという狙いはあります。まず初めてプレイするVRゲームが『東京クロノス』になれば、という感じですね。じつはいま『東京クロノス』は、そういうタイトルになりつつあって。今年(2019年)5月にOculus Questがリリースされたのですが、日本から発売されているゲームは2本しかないんです。『東京クロノス』がそのうちの1本で。リリースするための基準がきびしいんですよ。そこに入れたので、日本人がまず初めにやるタイトルになれたのではないかと思っています。

――最後にVRは、今後どのように進化していくと思いますか?

岸上ちょっとまだ先なのかもしれないですけど、やはり“クラウドゲーム”が重要になると思っています。5Gでは間に合わないかもしれないので、6Gくらいかもしれないですけど。ゲームがクラウド側で動かせるようになれば、メガネでもいいわけですよね。頭から被るような機器が必要なくなってくる。そういう流れになると思います。メガネ型でたぶんAR、VR兼用みたいになるんじゃないかと。

――MyDearestとしては、そんな未来に向けてゲームファンにどんなゲームを見せていきたいですか?

岸上これまでとあまり変わらないですが、ちゃんと物語があって、キャラクター性があって、ゲーム性があるものをVRで出していきます。日本の正統な系譜にあるものを今後もずっと作っていくと思いますね。

――アニメではおなじみになっていますが、VRで遊べるMMORPGのようなタイトルは視野に入っていますか?

岸上やっぱりやりたいですよねー。そっちに合流していくと思います。そこはやっぱりVRを作っている人間、誰もが思っていることなので。世界中のVRゲーム開発者が。

MyDearestの最新作
PS VR用ミステリーアドベンチャーゲーム
『東京クロノス』
発売日:8月22日発売予定
価格:4612円[税抜](4980円[税込]/ダウンロード版も4980円[税込])
総合プロデューサー:岸上健人、監督:柏倉晴樹、シナリオ:瀬川コウ、プロデューサー:三木一馬、キャラクターデザイン:LAM
※Steam VR、Oculus Questなどで配信中
『東京クロノス』公式サイト
『東京クロノス』公式Twitter
『東京クロノス』公式Instagram