Playdead作品をプレイしていると、驚くほど操作と一体化した非常に滑らかなアクションを見せられる。プレイヤーに深い没入感をもたらすこうした“動き”は、どのような思想から作られているのだろうか。

 独特の作風で世界中で話題を呼んだ『LIMBO』と『INSIDE』を生んだ、デンマークのゲーム開発会社Playdead。

 「ほとんどのインタビューは受けられません」。Playdeadは自社のWebサイトにこのように掲載するほど、取材を受けることは稀だという。だが、ファミ通では、直接コンタクトを取り、Playdeadを訪問。世界を魅了した『LIMBO』と『INSIDE』の誕生秘話を始め、絶妙なレベルデザインの構築方法、そして、会社の設立とこれまでをうかがった。
 
 Playdead特集第3弾となる本記事では、プレイヤーに深い没入感をもたらすPlaydead作品が描く滑らかなアニメーションに注目。そこに作られた異常なまでに作りこまれた“動き”は、どのような思想から作られているのだろうか。リードアニメーターへの初取材から紐解いていく。

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アンドレアス・ノーマン・グロンヴェ

アンドレアス・ノーマン・グロンヴェ氏(文中はアンドレアス)。アニメーターとしてさまざまなスタジオで作品に関わった後、Playdeadへ入社。リードアニメーターを担当。日本 のアニメの大ファンでもある。

「6年かけて作り上げた衝撃」

『INSIDE』における重要キャラクター、“ハドル”。この巨大な肉塊のような存在が、いつ、どのように登場し、何を意味するものなのかはゲームをプレイして感じてみてほしい。

――アニメーターとして、Playdeadで初めて取り組んだ仕事はどんなものだったのでしょう。

アンドレアス 『INSIDE』のチーム内で“ハドル”と呼んでいる、複数の人間が融合したようなキャラクターのアニメーションを作る作業です。ゲーム中で最後に出てくるキャラクターですね。

――あのキャラクターですか! 初めて見たときはものすごい衝撃を受けました。

アンドレアス それはうれしいです。プレイヤーの感想を見ていても、そういう人が多かったみたいですね(笑)。

――ハドルの動きは非常に衝撃的でした。動かせることに対する驚きがあり、操作していて得体の知れない感情が湧き上がったほどです。入社直後からあの動きを作り始めていたと。

アンドレアス モーテン(・クリスチャン・ブラムセン氏。おもにアートワークを担当)がハドルのイラストを描いたのですが、その絵をひとまず動かすことから始めようと着手しました。それは、最終的にゲームに入っているものとはまったく異なるものでしたね。

 確かにハドルの動きにはプレイヤーの皆さんはとても驚いたかと思いますが、ああいったカタチで最終的に完成させるまでには、Playdeadのスタジオすべての人が関わっていると思います。私はハドルを動かすアニメーションに関してできることを行ってきましたが、それをスタッフ全員でシェアしつつ、手直しをし続け……6年かけて完成させたのです。

――全員で6年もかけて…… !?

アンドレアス はい。“ハドルを納得できる形に作り上げて世に出さないと、『INSIDE』というゲームを作る意味がない”という共通認識のもとで、皆で一所懸命に妥協することなく作っていきました。その結果、6年かかったということです。ハドルは人間の集合体と言える存在なので、体内に複数の意思があるのです。

「1個のすごくいいものより10個のいいものを」

――『INSIDE』は、非常に滑らかなモーションが特徴のひとつだと思うのですが、こうしたモーションを生み出すために心掛けている点や、注意して取り組んでいる点はどのような部分にありますか?

アンドレアス ひとつ心掛けていることは、タイトルの中で、ものすごいアニメーションをひとつ作るのではなくて、“10個のいいアニメーションを作ろうとしている”ことです。

 ふつうのアニメーターは、おそらく逆のことを言うかもしれません。イラストを動かすのがアニメーションなのですが、ものすごいクオリティーのアニメーションをひとつ作ろうとすると、完成度を重視する余り、動きを見せるための線が決まりきってしまって、できあがりに違和感を感じることが多いのです。

 それに、時間がかかる。だからこそ、ものすごいクオリティーのアニメーションを作るよりも、そのあいだに10個のいいアニメーションを作れるほうが有益なはずだと考えているのです。

複雑なものを時間をかけて描くよりも、シンプルなものを多く作るほうがいいと話しながら、ナプキンにスケッチするアンドレアス氏。

アンドレアス 動きをイメージする際に共通しているのは、ボディーがあり、筋肉があり……そして、“個々の意思がある”部分です。

――意思ですか。

アンドレアス ですので、ハドルの中の複数の人間が同じ意思を持って行動しようとしている中で、その意思を持たない人間の動きも出てきて、おもしろい動きが生まれます。

 たとえば、せまい場所を通り抜けなくてはいけないときに、ハドルの中で別の意思を抱く人は、積極的に通り抜けようとせずに、流されるようについてくるような動きになる。こうした場面では、個々の意思がどうであれ、大多数の人が決めた意思に、ハドル全体が流されて動きが決まっていく……そういうことを意識してアニメーションを制作しました。

ハドルのアニメーションについてのラフスケッチ。

――なるほど。

アンドレアス それにもうひとつ、つねに注力して取り組んでいるのは、プレイヤーの操作が、そのままアニメーションを動かしているかのように滑らかに動くようにするという点ですね。プレイヤーの操作入力に反応して、走ったり歩いたりするアクション用の汎用アニメーションから、たとえば崖につかまって落ちそうになりながらも這い上がる、といったような、操作するのではなくアニメーションとして見せる部分のつながりです。

 こうした箇所は、すべて計算して自分でプログラムをして調整しています。そうすることで、少年の動きに滑らかなタッチが生まれてきます。ここは非常にこだわっているところです。

――具体例を挙げられるシーンはありますか?

アンドレアス 『INSIDE』にはブレーカーを下ろすシーンがたくさんあったと思います。そのアニメーションを作るのには、ふつうはつかんで下ろす動きだけで終わり。しかし、私は少年がブレーカーに対してどれくらい離れた位置に立っているかによって、ブレーカーを下ろすアニメーションを複数のパターン作っています。

 少年がブレーカーすれすれの場所にいたとしたら、少し離れてから手を伸ばして下ろすようにするとか、ブレーカーに対して少年が斜めに向いて立っていたら、きちんと正面に体を向け直してから手を伸ばすようにする、といったように。非常に細かくて、神経質な男の話を聞いているように思うかもしれませんけど(笑)。

――いえ(笑)。それが、ものすごいアニメーションをひとつ作るあいだに、10のいいアニメーションを作る、ということなのですね。

アンドレアス そうです! こうしたシチュエーション別の細かいアニメーションの数々は、おそらくほとんどのプレイヤーがふつうにプレイをしているだけでは目にしないものです。ですが、それでもあらゆるシチュエーション別に異なるアニメーションを、できるだけ作っては入れるようにしています。

――そこまで作り込むのは、なぜなのでしょうか。

アンドレアス プレイヤーが特定の場所に入ったときに、何か特別な動きが起こる。すると、プレイヤーは「これはすごい発見をした」という感情を受け取ると思うのです。プレイヤーごとに異なる操作から生じるアニメーションを、“自分だけの体験”であると思える形で、操作をしている人に届けたいのだと思います。

――確かに『INSIDE』をプレイしていると、少年のアクションで状況が変化したときに、まるで自分自身の体験のように感じて、非常に感情を揺さぶられました。

アンドレアス よかった(笑)。少年が土手を上がって何かを越えて物事が起こったときなど、まさに状況が変化するポイントでは、特別なアニメーションを作っていることが多いです。

 アクションゲームなどでは、ステージがいくつか用意されていてクリアーするとつぎのステージに切り換わって展開することが多いですが、『INSIDE』では、すべてが途切れないアニメーションで地続きになっています。それが作品全体に“滑らかさ”を与えて、プレイヤーにリアルな体験だと受け取られているのです。

 プレイヤーに大きな衝撃を与えたキャラクターは、スタッフ全員で6年もかけて作り上げられていた。Playdeadの開発手法には驚かされるばかりだ。本記事以外にも、ファミ通では、Playdeadへの取材で、具体的な作品作りのフローや、人材集めや組織作りに迫るインタビューなどをしており、記事を公開している(下記を参照)。また、特集の最後となる“Playdead特集4”では、現在開発中の最新作を直撃。『LIMBO』、『INSIDE』の生みの親・アーント氏がファミ通だけに明かした衝撃の最新情報などをお伝えする(記事は2019年1月7日公開予定です)。

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