今年の吉田プレジデントは何を語る?
2018年9月20日(木)から9月23日(日)まで、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ2018。開催期間中に実施した、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント吉田修平氏へのインタビューをお届けしよう。
吉田 修平氏(よしだ しゅうへい)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント。
――TGS前日の2018年9月19日、プレイステーション クラシックが発表されましたね。とても驚きました。
吉田びっくりしましたね(笑)。私も、もちろん知ってはいましたが、あのタイミングで発表するということは忘れていて。「あ、発表したんだ!」と、慌ててretweetしました。
――プレイステーション クラシックには、吉田さんはどのように関わっていらっしゃるのでしょうか?
吉田ほとんど関わっていないですね。もちろん、話は聞いていて、経過の報告も受けてはいましたし、収録するタイトルについては関わっている部分はあります。でも、プレイステーション4やプレイステーション Vitaなどのプラットフォームの開発に関わったような形ではないですね。商品企画チームを筆頭に準備を進めているのを、横で見ていたような感じです。
――手触りやコンパクトさなど、すごくいいものになっていますよね。
吉田そうなんですよ。公開した映像では“45%小さくした”という表現をしていますが、受ける印象はもっと小さいですよね。実際、確かに縦横の長さは2分の1くらいですが、容量、体積にするとその三乗になりますから、だいたい80%ほどコンパクトになっているんです。
――収録タイトルはまだ一部しか発表されていませんが、なかには吉田さんが関わられた作品もあったり……?
吉田どうでしょうね(笑)。でも、タイトルのセレクションはアツかったみたいですね。担当者の思い入れがぶつかりあったというのもありましたし、メーカーさんとの交渉や、ものによってはライセンスが切れていて出したくても出せなかったり、あるいは技術的な課題があって出せないとか、そういった苦労もあったようです。最終的には、日本と海外では異なる、特徴を出したラインアップになりました。発表が楽しみですね。
――最近のプレイステーション4では、『Marvel's Spider-Man(スパイダーマン)』が非常に好調で、発売3日で世界累計330万本以上を販売する大ヒットとなりましたね。
吉田似たような発表を、『ゴッド・オブ・ウォー』のときにもやったばかりなんですが(笑)、非常にうれしいですね。E3などのイベントで体験してもらったりして、非常にいい感触を得ていましたので、もちろん期待感は持っていました。
吉田私自身も、今年は年末に向けてものすごいタイトルラッシュが控えていますから、それに備える意味でも、すでに遊び倒して、プラチナトロフィーを取っておきました。いつ『アサシン クリード オデッセイ』が来ても大丈夫です(笑)。前作の『アサシン クリード オリジンズ』が、アクションゲームとしての手触りがとてもよくて大好きなので、今回もすごく期待しているんですよ。舞台もギリシャで、美しい風景が楽しめそうですよね。それを楽しむために、『Marvel's Spider-Man(スパイダーマン)』は遊び尽くしておきました。
――Twitterでは、親子でプレイなさっているとTweetされていましたね。
私が家でプレイする時には娘がスイング担当です。スイングだけでも楽しいとかw
『Marvel’s Spider-Man』 制作秘話トレーラー:スイング篇 https://t.co/FqS1bNN1W9 via @YouTube
— Shuhei BOT Rescue Mission (@yosp)
2018-09-11 14:09:42
吉田横に娘がいて、スイングだけをやりたがるんですよ。いいよ、とやらせてあげるんですが、わたしが遊んでいる難易度では、戦闘が難しいらしくて。そこで、戦闘はわたしがクリアーして、移動は娘が担当で(笑)。そうやってふたりで遊べる時間になったのも、楽しかったですね。
――TGSでの出展タイトルについてですが、今年の注目は、やはり『Days Gone』でしょうか?
吉田『Days Gone』は、今年のTGSでもものすごく大きく展開していて、日本のプロモーションチームありがとう、という感じです。昨年も『Detroit: Become Human』ですごいブースを作ってくれましたが、海外のスタジオで作っているタイトルを、もっと日本の皆さんに知ってほしいということで、近年とても力を入れてくれていますね。
『Days Gone』に関しては、“フリーカーモード”、海外では“Horde mode”と読んでいるものですが、何百と襲いかかってくるフリーカーを、限られたツールでいかに倒すかという非常におもしろいモードがあって、それがTGSで体験していただけるようになっています。これは、『Days Gone』ならではのものなので、ぜひ味わっていただきたいですね。
――来年以降のタイトルを見ると、『Dreams Universe』や『アッシュと魔法の筆』など、創造力を刺激するようなタイトルが目立つような印象を受けました。
吉田そうですね。SIEは、新しいIPとか、クリエイティブなものが好きなんですよね。初代プレイステーションのころから、個性的なゲームをいっぱい作ってきましたし(笑)。とくに『Dreams Universe』は、それ自体が新しいクリエーションのプラットフォームのようで、サービスとして長く続けていけたらと考えています。そのあたりはやはり、つねに新しいことにチャレンジしたいという、会社のカルチャーがあるからだと思います。――そういった海外スタジオのタイトルが目立っている感がありますが、JAPANスタジオの作品についてはいかがでしょうか?
吉田JAPANスタジオは、VR作品が元気ですね。今年のTGSでは、SIE ワールドワイド・スタジオとしてはプレイステーション VR用タイトルを4タイトル出展していますが、そのうち3タイトルはJAPANスタジオが開発したものです。とくに、2018年10月4日に発売される『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』は、3DのアクションゲームをVRで作るとこうなる、という、とても新しく革新的な体験をお届けできるものだと自信を持っています。
――この作品は、『THE PLAYROOM VR』の中のひとつのアクティビティーだった『ROBOT RESCUE』をベースにしたものですね。
吉田あれはひとつのステージだけが遊べるものでしたが、ユーザーさんから、VRの3Dアクションとして非常におもしろい、ぜひフルゲームにしてほしいという声がすごく多く寄せられたんです。その反響を受けて制作したもので、全26ステージで、けっこうなボリュームがある本格的なアクションゲームになっています。
PS VRも、最初は目新しさが先行して、小さな規模でいろいろ試してみよう、という段階から始まりましたが、発売から2年が過ぎて、ユーザーさんからも、もっと深い体験を楽しみたいという要望が増えてきています。それは我々も想定していたことですので、規模的にも、ゲームプレイの深さ的にも、ゲーマーさんにしっかり喜んでいただけるものを提供していこうと。先日発売した『Firewall Zero Hour』も、本格的なFPSで、4vs4の戦いが楽しめるものになっていて、とても高い評価をいただいています。
同じように、3Dのアクションプラットフォームを、ひとつのアクティビティーとしてではなく、たくさんのステージがあり、ボス戦があり、隠されたアイテムを探したり、といったゲーマーの皆さんが期待されるフィーチャーをすべて備えたフルゲームを作ろうと考えて作ったのが、『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』です。これは本当にオススメで、12歳以上のすべての方に遊んでいただきたいですし、まだPS VRを持っていない方は、ぜひこの機会にお求めいただきたいです。
――VRタイトルでは、『みんなのGOLF VR』も発表されましたね。
吉田遊んでいただくとわかると思いますが、かぶった瞬間に、自分がゴルフ場に立っているんですよ。ゴルフ場ってすごくきれいなんですよね。芝生がバーッと広がっていて、すがすがしくて。そんな空間に、ぽんと飛んでいける気持ちよさがあるんです。また、『みんGOL』チームが作っていますから、ゴルフをやらない人でも、ものすごく上手になったかのように、気持ちよくプレイできるようになっています。
ワイヤレスコントローラー(DUALSHOCK 4)でも遊べますが、プレイステーション Move モーションコントローラーを使うともっと楽しくて、スイングするとボールがビシューンと、『みんGOL』らしく飛んでいくのが本当に気持ちいいんです。
――現実のゴルフは苦手な人でも、気持ちよく楽しめそうですね。
吉田現実のゴルフは、私も昔やりましたが、あまりうまくならなくて、ストレスが溜まり(笑)、やめてしまいました。そういう人にこそ楽しんでほしいです。ただ一方で『みんGOL』って、物理計算などはきちんとやっているので、うまい人ならうまい人ほど、納得感を感じられるという面もあります。スイングの軌道とか、フェイスの角度に応じて、きちんとした挙動でボールが飛んでいきますから。
――今後、さらにVRを普及させるための鍵になるのは何だとお考えでしょうか?
吉田鍵は、ひとつではないと思います。皆さんは、ゲームを遊ぶためにハードを買ってくださるわけですから、すばらしい体験を作り続けて、どんどんよくしていくことがいちばん大事だと思っています。私自身もそうですが、VRは新しいメディアで、ゲームを何十年も作り続けてきた人でも、新しい学びがたくさんあります。2年前にPS VRを発売したときには、そういった学びを、みんなどうやって得ていくんだろうと思っていましたが、スピードがものすごく速いですね。VRのクリエイターさんは、横のつながりが強くて、誰かがいいものを発明すると、すぐに伝わっていくんです。
たとえば2年前は、VRではプレイヤーが移動するのは難しいだろうということで、ポイントを指定してワープするような形にすることが多かったのですが、いろいろな工夫を発見することで、「こうすれば人間の脳は違和感を感じず、気持ち悪くならないんだ」と。たくさんの発見があり、それが共有されていくことで、ものすごいスピードでデベロッパーの知識、経験の蓄積が進んできています。
『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』は『THE PLAYROOM VR』チームがリリースする2作目ですし、『ライアン・マークス リベンジミッション』も『PlayStationVR WORLDS』チームの2作目、水口哲也さんの『Tetris Effect』も、『Rez Infinite』に続く2作目ですよね。デベロッパーの開発における経験値も、2作目、3作目に入ってきていて、こなれ具合といいますか、すごくいいターンに入ってきていると思います。
さらに長い目で見れば、ハードの解像度を上げてほしいとか、もっと多くの表示ができるようにしたいといった要望もあります。それはロードマップとして、業界全体で進んでいくと思いますし、とくにPCでは早く移り変わっていくと思います。ただPS VRに関して言えば、家庭用ゲーム機として、同じハードをなるべくたくさん普及させて、デベロッパーさんが安心してひとつのターゲットに向けていいものを開発できるようにして、そこでさらに多くのユーザーさんに遊んでもらえるようにする、といったエコシステムを作ることが基本方針です。ですので、PS VRはマイナーチェンジはしてきましたが、基本は同じで、デベロッパーさんの経験を活かして、よりよい体験を生み出していただく。また、タイトルの規模やゲーム性を深くしていっていただきたいと考えています。
――今年のTGSは、例年にも増してインディーコーナーが充実していて……
吉田(食い気味に)はい、とても楽しみにしています。日曜日はじっくり見て回ろうと思っています。今年は、私の大好物なVRゲームとインディーゲームのコーナーが並んでいるのがいいですよね。作り手の方がブースにいらっしゃるので、お話しをするのも楽しみです。
――吉田さんのインディー好きは、もう有名ですものね(笑)。ところで近年は、Nintendo Switchもインディーゲームのプラットフォームとして非常に盛り上がってきていますが、プレイステーション4としては、インディーをどのように盛り上げていこうと考えていらっしゃいますか?
吉田グローバルで見ると、インディーは一時的なブームの時期を過ぎて、完全に定着したと思っています。PS4は普及台数も多いですし、我々がいままでやってきた取り組みが実を結んだというところもあって、PS4でたくさん売り上げて、すごく活躍されている“スーパーインディー”的なクリエイターさんもたくさんいらっしゃいます。そんな状況ですので、いままで通りの取り組み、たとえばイベントなどでの試遊展示といったことは続けていきますが、これ以上に何かをしなければいけないとは感じていません。
日本では、かつては市場全体であまりインディーに目が向いていなかったので、私が個人的に好きだというのもあって、どうやって普及させていくか考えてきましたが、徐々に日本でも、海外のクオリティーの高いゲームが発売されたり、『Salt and Sanctuary』のようなヒット作も増えてきています。海外の開発者の方が日本に来てくれて、ユーザーの皆さんとコミュニケーションを取るケースも多くなっていますよね。BitSummitでは、SIEとマイクロソフトさん、任天堂さんのブースが横に並んでいたりして(笑)。インディー担当者どうしも仲がよくて、いっしょに盛り上げていきましょうという感じなんですよね。我々だけで何とかしようとするのは限界があります。TGSのインディーコーナーについても、我々がずっとサポートしてきましたが、そういった取り組みを業界全体ですることで、ユーザーさんが手に取る機会が増えますし、インディーデベロッパーさんにとっても可能性が広がります。そうやって、業界全体で盛り上げていきたいと思いますので、ファミ通さんもよろしくお願いします(笑)。