『PixelJunk』シリーズが10周年
2018年5月12日、13日に京都で開催されたインディーゲームの一大祭典BitSummit Volume 6にて取材させてもらった、クリエイターさんへのインタビューをお届けする。
今回お届けするのは、ご存じキュー・ゲームス 代表取締役 ディラン・カスバート氏。BitSummitのキーパーソンのひとりとも言えるディラン・カスバート氏だが、今回のBitSummit Volume 6では、『PixelJunk』シリーズ10周年を語るステージイベントなどに登壇し、相変わらずの元気な姿を見せてくれた。
『PixelJunk』も10周年かあ……ということで月日の過ぎるのは早いものだが、何を隠そう記者が初めてキュー・ゲームスを訪れ、ディランに取材するきっかけを作ったのもこの『PixelJunk』シリーズ。週刊ファミ通のバックナンバーを紐解いてみると、ちょうど『PixelJunk』シリーズの第1作目となる『PixelJunk Racers』が配信される直前の2007年7月にキュー・ゲームスを訪問しており、「プレイステーション3のメニュー画面の“波”は、うちが作ったんだよ」なんて話をしたのもなつかしい思い出。考えてみると、当時記者が『PixelJunk』を取材したのも、“プレイステーション3で、カジュアルゲームをオンライン配信する”というプロジェクトに驚かされたからであり、そう考えると相当時代を先取りしていた取り組みだったなあ。などと想い出話をしだしたら、インタビューとして与えられた貴重な15分間があっというまに過ぎ去りそうだったので、気持ちを切り換えて質問を切り出してみた。
人は年を取る。「これからは2年以内の開発期間でゲームを作りたい」
――『PixelJunk』シリーズも10周年ですね。この10周年はいかがでしたか?
ディラン わりと狙い通りにいろいろなことができたと思っています。
――たしかに、この10年でいろいろなタイトルを出されていますよね。
ディラン 結構な数を出していますね。『PixelJunk』だけでも派生タイトルを入れると17本。それ以外にも、任天堂と作った『スターフォックスコマンド』(2006年)や『スターフォックス64 3D』(2011年)など、いろいろやったなあ。
――わけても、とくに印象に残っているタイトルやキュー・ゲームスの転機になったタイトルはどれですか?
ディラン もちろん全部好きですけど、『The Tomorrow Children (トゥモロー チルドレン)』と『PixelJunk シューター』は、本当にいい感じにできたなと思いますね。
――『PixelJunk シューター』は海外でも受けましたもんね。
ディラン そうですね。日本でも海外でも評判よかったです。
――『The Tomorrow Children (トゥモロー チルドレン)』は非常に革新的な取り組みで、僕らもワクワクしていたのですが、作り手が楽しんでいる様子も伝わってきました。
ディラン 作っていて楽しかったし、いままでなかったゲームを作っているなという感覚がありました。個人的にはああいうゲームは好きです。
――非常にスケールが大きなゲームでもありましたね。
ディラン そうですね。でも、じつはわりと小さいチームで作っていました。35人くらいかな。だいたいそれくらいの人数で作れましたね。最近のは、もっと大きな人数で作るタイトルもありますが、それに比べるとけっこうコンパクトな体制で作れて、そこもよかったなと思っています。
――サービスが終わってしまったのは残念でしたが、少し時代的に早かったのかしら……。
ディラン ソニーさんもいろいろとがんばってくれたのですが、アメリカやヨーロッパでは、フリー・トゥ・プレイのタイトルではなくて、ふつうにパッケージタイトルのような売りかたになってしまったのは残念でした。フリー・トゥ・プレイの作法とは、また少し違うので……。日本のソニーもがんばってくれて、ある程度結果も出せていたのですが……。もし、将来的にこの手のゲームを作るとしたら、ローンチしたあとの戦略が大事なのだということを、わからせてくれたタイトルですね。
――なるほど……。キュー・ゲームスとしては、今後どのようなことを考えているのですか?
ディラン フリー・トゥ・プレイタイプのゲームはまだ考えていないのですが、とにかくおもしろいゲームを作っていきたいとは思っています。とくにビジュアル面の技術でおもしろいもの。その方向性を進めたものが先日は配信された『PixelJunk Monsters 2』です。少しかわいいビジュアルで、ほかのゲームと比べて明らかにクオリティーが高いことがわかるような。そういうタイトルを今後も作っていきたいです。その最新事例が『PixelJunk Monsters 2』なんですけど、いま開発中のタイトルがいくつかあるので、これから1年のあいだに、ちょくちょく公開することになると思います。ビジュアル的にかなりユニークだし、ゲームプレイ的にもおもしろいゲームを、これまでよりも早いペースで出していきたいですね。『The Tomorrow Children (トゥモロー チルドレン)』の開発には5年間かかっているのですが、正直なところ5年間は長過ぎるし、自分たちも年を取っていくので、もっとたくさんのゲームを作っていきたい。実際のところ、これからは2年以内の開発期間でゲームを作りたい。もちろん、それよりも短い期間でもいいです。その期間のなかでクオリティーを高く作りたいので、そのへんのバランスをうまく取りながらやっていきたいと思っています。
――ハードの性能が上がるにつれて、ゲームの開発期間は長くなりがちになってしまいますからね。
ディラン で、Nintendo Switchはかなり楽しいし、僕も息子も大好きで、『PixelJunk Monsters 2』はとくにNintendo Switchで評判がいいです。これからもNintendo Switchのタイトルは、積極的に作っていきたいですね。
――Nintendo Switchは、どのあたりに魅力を感じるのですか?
ディラン 携帯ゲーム機にもなるので、すごく便利。さらに言えば、いままでの携帯ゲーム機は両手で持たないといけないのですが、Nintendo Switchはテーブルに置いてプレイできる。飛行機に乗ったときや、カフェで暇つぶしに遊ぶ……といったことが可能で、家で遊んでいるのとけっこう近い感覚になれるのがいいですね。パワーもけっこうあるので、それを使っておもしろいゲームを作っていきたいなと思っています。
――それは期待したいですね。
ディラン もちろん、今後のテクノロジーの進化にも注目しています。新しいものも好きなので……。新しいテクノロジーが入ってきたら、それに向けて斬新なゲームを作りたいというのは、僕たちのやむことのない欲求ですね。『The Tomorrow Children (トゥモロー チルドレン)』の続編というわけではなくて、同じ方向性ながらも違った遊びかたを提案できるゲームを、もうひとつくらい作りたいと思っています。
――キュー・ゲームスさんには毎回驚かされていますね。
ディラン 今回のBitSummitでも、『Sticky Bodies』を出展しました。あのタイトルは、とあるゲームジャムがきっかけで作ったタイトルで、開発期間は2ヵ月くらいなんですよ。「とにかくわけのわからないゲームを、すごいスピード感で出してみよう」ということで、作ったタイトルですね。
――2016年に出展された『Dead Hungry』も、ゲームジャムで作ったタイトルですよね。キュー・ゲームさんは、“新しいものに取り組みたい”という気風に、とにかく溢れているようですね。ところで、5月24日に『PixelJunk Monsters 2』がリリースされますが、せっかくの機会なので、ディランさんの口から、同作の魅力を教えてください。
ディラン 前作の『PixelJunk Monsters』は2Dだったんだけど、今回は3Dに変わりました。2Dから3Dになると、グラフィックの雰囲気やスタイルが大きく変わってしまうので、それがいちばんの心配でした。その点、本作はけっこううまく前作と同じ雰囲気に持っていくことができました。3月にタイトル発表をしたときに、ユーザーさんの意見で「前作の雰囲気からズレている」というコメントがひとつもなかったので、前作のかわいいスタイルをうまく3Dに持っていくことができたなと、うれしく思っています。
――けっこう試行錯誤したのですか?
ディラン 相当指示は出しましたね。僕は、『The Tomorrow Children (トゥモロー チルドレン)』のときアートディレクターも兼任していたのですが、アートには相当こだわります。本作のアートに関しては、スタッフがいっしょにきびしく判断しているのですが、「ちょっと雰囲気が違う」とか「もうちょっと顔を膨らませたほうがいい」とか、積極的に意見を交わしましたね。2Dから3Dに変えるというのは、とにかく大きな変化で、たとえば2Dのときは穴や隙間があってもあまり気づかないのですが、3Dにすると「あれ? ここに何もない」ということがすぐにわかってしまう。仮面のうしろに何もなくても、2Dではなんとも感じないんだけど、3Dになると、「頭がない、どうしよう」と、ちょっと気持ち悪くなってしまう。それを一切考えていなかったので、 知恵を絞って葉っぱで覆うことにしました。そういうディスカッションやチェックはみんなでやって、最終的なクオリティーコントロールは、僕がやっています。
――アートの部分はかなり時間をかけたのですか?
ディラン 完璧になるまでは6ヵ月くらいかけていますね。ゲーム冒頭に出て来る、くるくる回る敵とかも、当初は2Dの絵をそのまま持ってきていたのですが、3Dだと立体になるので(当たり前ですが)、妙にボデイが長すぎたりとか、変になってしまったんです。まあ、最終的にはうまく調整できました。3Dのビジュアルが行けるという手応えがつかめたときは、すごくうれしかったです。方で、プレイフィーリングに関しても、前作をベースにしつつ、前作と同じような手触りになるように緻密に調整していきました。まあ、そのへんはキュー・ゲームスの得意なところではあって、ゲームプレイのハマるところを作るのが好きなんですね。
さて……。インタビューを始めるや、「最近、ヘアスタイルが変わって……」といきなり口を開いたディラン・カスバート氏。たしかに相当ショートカットになった。まあ、『PixelJunk』シリーズ10周年に紐付けるわけじゃないけど、10年経てば人も変わるよね……ということで、なんとなくこの10年のディラン・カスバード氏の変遷を、ファミ通ドットコムの画像から引っ張ってきてみた。まさに、『PixelJunk』シリーズの歩みと歩調を揃えたということで……。ちょっと牽強付会か。