2018年5月12日・13日に京都勧業館 みやこめっせで開催されたインディーゲームの祭典“BitSummit Volume 6”。同イベントのメインステージで行われた『PixelJunk』シリーズ10周年を、キュー・ゲームスの開発メンバーが語るセッションの内容をお届けする。

 ステージ上に登壇したのは、同シリーズを立ち上げ、全タイトルに関わっているディラン・カスバート氏(キュー・ゲームス代表取締役)、アート、サウンド、DJなど多岐の分野で活躍するBaiyon氏(キュー・ゲームス クリエイティブ・プロデューサー)、同シリーズのディレクションに携わる富永彰一氏(キュー・ゲームス クリエイティブ・プロデューサー/一般社団法人 日本インディペンデント・ゲーム協会 理事長)の3人。

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写真左:富永彰一氏、写真中央:Baiyon氏、写真右:ディラン・カスバート氏

 『PixelJunk』は、2007年9月にリリースが開始された『PixelJunk レーサーズ』を皮切りに、以降もほぼ毎年新作や拡張版のリリースが続いている、同社を代表する人気シリーズだが、どういった理由でこのシリーズが作られることになったのか?
 そもそものきっかけは、3Dのゲームが溢れていた時代に、ディラン氏が2Dの作品を作りたい思いからとのこと。8bitの時代からゲーム開発に携わってきているディラン氏は、その後は時代の流れに沿って、自身も3D作品に多く携わるようになるが、プレイステーション3の登場を機に、2D作品を提供する場ができたことをよろこんだそうで、『PixelJunk』というシリーズ名を冠した作品に着手したそうだ。

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ステージのスクリーンには、昔のゲームをもとにHD化したらどうなるのかという考えのもとで作成したコンセプトアートを公開。最初の思い描いていたコンセプトとは異なるそうだが、この時点で同シリーズの持つ独特のエッセンスはかなり入っているとのこと。

 続いての話は、Baiyon氏が関わることになった『PixelJunk Eden』の話題に。『PixelJunk』シリーズが始動した2007年は、Baiyon氏はフリーランスだったそうで、キュー・ゲームスに正式に参加したのは、じつは2年前とのこと。ディラン氏によると、『PixelJunk』シリーズの3作目はアート性の強い作品にしたいとの思いがあり、そのためのアーティストを探し始めたところ、友人を通して知り合ったとBaiyon氏との出会いを紹介。当のBaiyon氏も、当時ゲームを作りたいという思いがあり、両者の思惑が一致して作り出されたのが、独特のグラフィックとサウンドで話題となった『PixelJunk Eden』というわけである。
 しかし、富永氏は「突然、つぎの『PixelJunk』はBaiyonを使って作るぞって言われて、驚きましたよ(笑)」と当時の思いを振り返りつつ、氏のポートフォリオから、その中にある植物が音楽によって生長したり死んだりする世界を作ってみてはどうかとの考えに至り、制作に着手。「このときの方針として、Baiyonのエッセンスをどれだけ活かせるか、それだけに集中して制作に取り組んでいました」と語る富永氏は「そのおかげで、統一したBaiyonのイメージが本作には反映されていると思います」と、生みの苦しみとそれによってもたらされた作品の完成度の高さを吐露していた。

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こちらのスクリーンに映し出されているのが、Baiyon氏が描いた『PixelJunk Eden』のコンセプトアートデザイン。このイラストの巨大プリント版が現在、キュー・ゲームス社屋の壁に貼り出されているとのこと。

『PixelJunk』のPRがBitSummit開催のきっかけに

 『PixelJunk』は、このような状況を乗り越えながらもシリーズを続けていき、海外での認知度は高まっていたものの、国内ではまだそれほど知られておらず、そのため富永氏は「もっとPRする手段はないのか」を模索。そこで、東京ゲームショウ(TGS)への出展を決意・実行するが、当時のTGSはインディー系の作品の出展は皆無と言っていい状況で当然のように注目度は低かったそうである。そこで、キュー・ゲームス自身でイベントを開催するというアイデアが出てきたが、自分たちだけのタイトルでは集客が難しいとのことで、関西圏でがんばっているインディー系のデベロッパーに「いっしょにおもしろいことをやりませんか」と声をかけて実現したのが、2013年に開催された第1回の“Bit Summit”というわけである。
 「そういった意味で、Bit Summitは『PixelJunk』から生まれたといっても過言ではないですね」と、富永氏より“Bit Summit”開催の秘話が語られた。

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 ここからは同シリーズ最新作、『PixelJunk Monsters2』の話題に突入。なぜ、『PixelJunk Monsters』の続編制作に至ったのかについては、ディラン氏の口より説明が行われていった。
 「『PixelJunk Monsters』は世界中にファンが多い作品です。そういったファンの方から連日のように「続編は作らないのか」という声をいただいていました。そこで昨年、『PixelJunk』シリーズが10周年を迎えることを記念して何か特別なことをやってみたいと思い、『Mondters』の続編化を健闘。オリジナル版の2Dから3D化に向けての課題も、担当モデラーやアーティストがいい感じに仕上げてくれたため、「それならこの方向で作ろう」という話になりました。今作はオンラインの協力プレイに対応しており、4人でいっしょに楽しんでもらえます」とのこと。『PixelJunk Monsters2』は、2018年5月18日にプレイステーション4、ニンテンドースイッチ、Steamにて配信予定。現在はプレイステーション4版の体験版が配信されている。

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 ここで富永氏より、キュー・ゲームスで動いているもうひとつの新作タイトル『Eden Obscura』が紹介された。本作は『PixelJunk Eden』に新たなコンセプトを追加したアプリで、『PixelJunk』シリーズとしては初のスマートフォン向けタイトルとなっている。
 制作に携わったBaiyon氏は「『PixelJunk Eden』も、『PixelJunk Monsters』のようにいまも遊んでくれているファンがいます。そこでモバイル用の“Eden”を作ってみようかという話をディランとして、制作に漕ぎ着けました。本作には以前から試してみたかった、スマホのカメラでリアルタイムにビジュアルを生成するという試みを採用しています」と、本作の制作経緯と特徴を紹介。

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 そして最後に、キュー・ゲームスの隠し球とも言える作品、『Sticky Bodies』を紹介。“Sticky”とは、ディラン氏の説明によるとベタベタといったような意味のようで、物理宇演算されたキャラクターたちが自由落下しながら繋がっていき、ステージクリアーを目指すといったもの。
 じつはこの作品は、昨年の12月に京都府が開催した“京都クリエーターズゲームジャム”に参加したキュー・ゲームス代+学生たちが、2日間で作り出した作品が原型。これを元に、市販化を目指して開発が行われているという、これまでのアプローチとは異なる状況が説明された。ちなみにこちらのタイトルは、今年4月に入社したばかりの新人プログラマーが担当しており、今後の製品化については、Bit Summitで試遊したユーザーの意見などをもとに考えていくとのこと。

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 キュー・ゲームスは、この先の10年も変わったことをし続けていくとのことで、これからの活躍にも期待したいところだ。

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