『人喰いの大鷲トリコ』トークショーで上田文人氏がトリコ誕生の経緯や開発時のエピソードを披露

2018年6月13日(水)から24日(日)まで、東京・国立新美術館で開催されていた“第21回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展”。同イベントの開催期間中の6月23日に、“エンターテインメント部門 大賞受賞者トーク:上田文人『人喰いの大鷲トリコ』”が開催された。その模様をお届けする。

 アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において、優れた作品を表彰して世間に広めようとする“文化庁メディア芸術祭”。今年のエンターテインメント部門は、プレイステーション4用ソフト『人喰いの大鷲トリコ』が、家庭用ゲーム機としては10年振りとなる大賞を受賞。2018年6月23日、東京・国立新美術館にて、“エンターテインメント部門 大賞受賞者トーク:上田文人『人喰いの大鷲トリコ』”が開催された。

今回のトークショーの募集人員は250名だったが、会場は満員状態に。

 上田氏が直接ファンに語りかけるトークイベントはなかなか珍しい機会ということで、会場となった国立新美術館・講堂には多くのファンが来場。『人喰いの大鷲トリコ』のクリエイティブディレクターを務める上田文人氏と、文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門審査委員を務めるゲームクリエイターの遠藤雅伸氏がステージに登壇し、エンターテインメント部門大賞受賞作品を生み出すきっかけとなった経緯や作品のコンセプトなどが語られていった。

遠藤 雅伸氏
[エンターテインメント部門審査委員/ゲームクリエイター]

上田 文人氏
[エンターテインメント部門大賞『人喰いの大鷲トリコ』]

如何にして人喰いと呼ばれる大鷲“トリコ”は誕生したのか?

 始めに、遠藤氏は「『人喰いの大鷲トリコ』はゲームの形をした新たな芸術表現の体現であるとともに、それが人に感動を与えるものであるという切り口の作品です。ゲームではありますが、新しいゲームの可能性を示しているという部分がすごく評価されました」と、本作が大賞を受賞した理由を説明。続けて、「(上田氏のことを)受け手が体験する感動を想定してゲームをデザインしていく、ナラティブ主導型ゲームデザインの第一人者である」と評価し、どのような経緯でこの感動作品が作られることになったかについての質問が行われた。

 『人喰いの大鷲トリコ』の制作に至った経緯として、上田氏はふたつの理由を紹介。ひとつ目の理由として挙げたのは、2005年にリリースした『ワンダと巨像』に登場するアグロ(AI:人工知能で行動する、主人公ワンダの愛馬)に対するプレイヤーたちの思い入れが非常に強かったこと。アグロのように、AIでプレイヤーに寄り添うキャラクターを中心にゲームを作ったらおもしろい作品ができるのでは……といった理由が、着想のきっかけであったと紹介。また、『ワンダと巨像』で得たAIキャラクターの知見と技術をゲームデザインの中心に据えれば、制作期間も短縮できるだろう……と考えたことも理由のひとつであると明かしていた。実際のところは2009年6月に開催されたE3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)での初報発表から発売まで、7年の歳月が費やされることになるのだが、発案当初は次作を少しでも早く提供したいとの思いがあったと、上田氏は語っていた。

トリコを印象づけるふさふさの羽毛について、「『ワンダと巨像』に登場する巨像は毛皮のような表現をしていましたが、ふさふさに見せるには、それぞれの毛を個別に動かす必要が出てきます。ですが、そのためには本数を減らさなければなりません。そこで、本数を減らしながらも一本一本の量を増やすにはどうしたらいいのかということを考えた結果の最適解が、羽根でした」と上田氏は述べ、「羽根を使うことから、鳥のようなデザインも思いつきました」と、表現手法がトリコのデザインに影響を及ぼしていたことが明かされた。

 メディア芸術祭の審査員の間でも高く評価されている映像表現に対しては、「『人喰いの大鷲トリコ』は写実的な作品ではありません。制作チーム内では原則、テクスチャーに写真素材を使用するのは禁止なので、すべてCG上で手を加えてレンダリングしたものを使って、全体の統一感を出しています」(上田氏)と説明した後、「ステージを制作する際、アート的な表現よりも、レベル(※)デザインの構築のほうが大変でした。たとえば柱を飛び越えていくステージでは、足場が安全そうに見えてもつまらないし、かといってまったく乗れなさそうに見えたら、プレイヤーが足を運んでくれません。その中間を狙いながら調整をしています」と、幻想的なステージを制作する際の苦労話を披露していた。

※レベル(エリアの空間設計や障害物、アイテムの配置など)

 作中で度々登場する印象的なシーンについても、「僕の中には、いくつかの見せたいビジュアルイメージがあるのですが、その場面にプレイヤーを導くようなレベルデザインは苦労しますね。たとえば、トリコが苦手とする色ガラスを乗り越えて少年を助けにくるシーン。これをゲームプレイ中に見せるには、まずトリコと少年を引き離す必要があります。引き離すには、道中に色ガラスを配置すればいいのですが、うまいプレイヤーだといったん引き離したとしても、こちらの意図に反してトリコの元へ戻ってしまうかもしれません。そこで、一度離れたら戻れないような起伏を道中に設けるといった、プレイヤーには気付かれにくい処理をしながら、狙ったシーンに導いていきます。プレイ中に動的に見せたい場面にプレイヤーを自然に導くためのレベルデザインを作っていくのは大変ですが、おもしろところでもありますね」といった、プレイヤーにそれと意識させることなく、制作者側の見せたい場面に導くための上田氏ならではのこだわりについても語られた。

トリコに自然な動きをさせ、愛らしく見せるためのアプローチ

 続いて、遠藤氏から「トリコはAIで動くキャラクターなんですが、プレイしているあいだにいつしか本物の動物であるかのように錯覚してしまい、結果的にそこから感動体験が生まれます。これは非常にうまい仕上がりですね」と、トリコの動きを成すAIについて話題が振られると、「もともとそれが狙いではありました。でも、僕を含めて制作チームのスタッフは、プログラムやポリゴン数といったトリコの構造を知り尽くしていたので、制作中はトリコを生きているように感じてはいませんでした」(上田氏)と、意外な反応が。ただ、「当初よりその志を持って制作していたので、発売後にそのように評価されたのは、報われた気がします」と、制作者としての思いを吐露。

 上田氏が手掛けてきた『ICO』や『ワンダと巨像』では、キャラクターのモーション制御にAIを活用。キャラクターはステージの中にあるさまざまなオブジェクトに設定された“興味の値”に対し、そこに近づいたときに決められたモーションを再現するという行動制御が導入されている。これは『ワンダと巨像』から引き続き採用された“アプローチポイント”と呼ばれる制御方法で、興味値が設定されたオブジェクトにある程度の影響範囲を持たせ、そこに近づいたトリコの動きをプロシージャルアニメーション(あらかじめ動きが決められたモーションパターンを用意するのではなく、対象との距離や位置関係など、各種パラメーターによって自動生成されるアニメーション)で再現する。この制御処理により、たとえば腕を伸ばすといった動作にしても、距離が遠いときは大きく伸ばしたり、近いときは腕を縮めてアプローチするなど、状況に応じた自然な動きを見せるようになる。上田氏は「このようなAIの処理については、プレイヤーの方が遊んでいて気がつくことはないと思います。でも、無意識のうちにトリコを生き物のように感じてもらえるのは、このような調整をくり返していき、不自然な動作を可能な限り潰していったからだと思います」と、トリコのさまざまな反応やリアクションが自然に見える仕組みを紹介してくれた。

『人喰いの大鷲トリコ』のステージに存在する各オブジェクトには興味レベルが設定されており、トリコはレベルの高いものに対して優先的にアクションを起こす。多くのファンが癒される水浴び行動も、こうしたAI制御とアプローチポイント処理などの技術を駆使した結果、もたらされているというわけだ。

 頭に角の生えた少年と囚われの少女が織りなす幻想的な物語『ICO』、魂を失った少女を救うべく謎の巨像群に立ち向かうワンダの活躍を描いた『ワンダと巨像』。そして、少年と大鷲トリコの絆と冒険をテーマにした『人喰いの大鷲トリコ』と、上田氏が手掛けてきた作品は、世界中で多くのファンを魅了している。これらの独特な作品・世界観は、どのようにして作り出されてきたのか。

 上田氏は「僕らは広く浅くといったように、いろいろな要素を盛り込むことはあまり得意としていません。いままで手掛けてきた作品はどちらかというと狭く深く、何かに特化した一点集中のやり方で作ってきました。『ICO』では“手を繋ぐ”という動作が最初にあって、それ以外のビジュアルやパズル要素は、“手を繋ぐ”という動作をゲームとして最善にするために用意したものになります。『ワンダと巨像』でも、“よじ登る”という要素ありきで、あの世界を構築しています。『人喰いの大鷲トリコ』に関して言えば、“AIキャラクターを中心にひとつのプロダクトを仕上げる”というのが、作品のベースになっています」と、これまでの作品が一貫したテーマに沿って作られてきてきたことを紹介。

 小さな少年と、巨大なトリコが同じ空間でアクションを行う本作では、カメラワークでの苦労も多かったそう。「ゲームとしてのわかりやすさだけを追求するのであれば、たとえば30メートルほどの俯瞰カメラで見下ろせばプレイヤーとトリコの位置関係もはっきりわかります。少年とカメラのあいだにトリコが重なってしまった場合も、トリコを透明にしてしまえばより見やすいかもしれません。しかし、俯瞰カメラでは小柄な少年と見上げるようなトリコの巨体との対比や、3Dで描画された世界の必然性が失われてしまいます。仮に現実世界に本物のトリコが居たとすれば、トリコがカメラの前に出てきてしまって、映っているものがなんだかわからなくなる……なんて臨場感のある瞬間が必ずあると思うんです。もちろん今のカメラの出来に満足しているわけではないのですが、ゲームとしてのわかりやすさと臨場感のどちらかを選ばなければならないとしたら、『人喰いの大鷲トリコ』のコンセプトとしては臨場感を選んだほうが筋が通ると思うんです」と、視点描写に対する持論を展開していた。

 インタラクティブ性のあるゲームでは往々にして、プレイヤーは制作者の意図しない独自の行動を取りたがるものである。フィールドの広がりや自由度の高い作品であれば、さらにその傾向が強くなってくるのだが、その点に関しては「考え方としては、ピンボールのようなものですね。ピンボールでは、ボールは決まったレールの上を通るわけではありませんが、ボールが飛んでいく先に跳ね返す役物があって、毎回違う反応をしながらもボールは必ず同じ場所に帰ってくるようになっています。ゲームも同じようなもので、切り立った崖や高いフェンスなどといった制限を設けたり、注目すべきポイントを用意するなどして、プレイヤーを決められた場所に導くようにしています」(上田氏)と回答。作り手が決めたルートに導きながらも、プレイヤーには操られていると感じさせないのは、本作のゲームデザインとレベルデザインが高いレベルで結実しているからこそと言えるだろう。

上田作品といえば、これでもかというくらいの高所や狭い足場が登場することでも有名。ちなみに、遠くに見えている構造物なども単なる背景ではなく、ステージの一部としてアーティストがしっかりと制作。細部までこだわり抜いたディティールも、上田作品の特徴のひとつ。

 続けて、アクションでの演出面について「上田さんの作品では、ギリギリの状況を乗り越えるといったシーンもよく出てきます。でも、このような難度設定にしてしまうと、そこから先に進めないプレイヤーが出るかもしれませんよね。これはどのように調整しているのでしょうか」(遠藤氏)と問われると、「たとえば足もとが崩れ落ちていくステージでは、あまり機敏に動けないプレイヤーの場合にはなかなか崩れないように、素早く動けるプレイヤーの場合はすぐに崩す……といったスクリプトの調整を行っています」(上田氏)と、プレイヤーの腕前や反応によって、危機的状況もリアルタイムに変化させていることが明かされた。上田作品を遊んだ際、誰がプレイしてもストレスをあまり感じず、でもハラハラドキドキといった緊張感を味わえるのは、このような細やかな調整が施されているからこそというわけだ。

 ここで上田氏は、本作の開発初期コンセプトで、トリコが最後までアシストをしてくれるという、ストレスフリーのシステムを検討していたことを披露。「『人喰いの大鷲トリコ』を作り始める際、ゲームオーバーが必要なの? というひとつの疑問がありました。もともとゲームオーバーは、アーケードゲームの回転率をあげるための仕組みのひとつでもあったと思うのですが、コンシューマーゲームでも一般的なものになっています。それは、ゲームオーバーによってもたらされる緊張感と、やり遂げた際の達成感のためだと思います。でも『人喰いの大鷲トリコ』では、“この世界にトリコといっしょにいる”という臨場感を提供できるのであれば、必ずしもゲームオーバーは必要ないのでは……といった考えを、開発初期に持っていました。そこで考えたシステムが、プレイヤーがまごまごしているとトリコが咥えて、先に連れて行ってくれる……つまり、ずっとトリコにしがみついていれば遺跡から脱出できるという仕組みでした。トリコの背中からはいつでも好きなときに降りられるので、ゲームをプレイしたい場合は降りればいいといったものです」(上田氏)。
 遠藤氏は、このストレスフリーのシステムは新しいゲームデザインで、いまの若い世代にはむしろ受け入れられるのでは……と語っていたが、「ただ、ずっと敵の強さを感じないままにトリコに鎧の兵士を倒してもらっても、あまりありがたみを感じません。敵がいかに強いのかということをプレイヤーに知らしめたうえで助けてもらわないと、爽快感が生まれないんですよね。最終的に、臨場感と爽快感がちょうどいいバランスになるようにしました」(上田氏)と、結果的に現在の仕様に落ち着いた経緯が紹介された。

少年を執拗に追ってくる鎧の兵士たち。少年は非力で抗う術がないため、ひたすら逃げることしかできない。しかし、トリコは兵士よりも断然強いので、うまく誘導できれば一蹴してもらえる。

 ここまで本作の制作に至った経緯やこだわりのポイントなど、さまざまな話が語られてきたが、最後に「『人喰いの大鷲トリコ』で、これはうまくいったという部分と、ここはもうちょっとというところがあれば教えてください」(遠藤氏)と、話が振られると、上田氏は「うまくいった部分でいえば、トリコのキャラクター表現ですね。本作のプレイ時間は15〜20時間程度です。その限られた時間の中で、いかにトリコとの絆、関係性を盛り上げていくかについては気を使いました。たとえば最初からトリコが友好的だった場合、そこからなついてくれたとしても、好感度の振れ幅が小さいものになってしまうんです。そこで、最初は言うことをきかない、少し恐い存在にしました。プレイヤーの皆さんにはゲーム序盤で我慢をしてもらいますが、いくつか困難を乗り越えていくなかでトリコがなついてくれると、好感度の振れ幅が大きくなることから、トリコに対する感情も違ってきます。このような接し方の演出や、AI行動に幅を持たせたことで、結果的にトリコを魅力的に感じてもらえたというのは、(AIキャラクターを中心に据えるという)ゲームのコンセプトとしては成功といっていいかもしれません。反省点としては、制作期間が長くかかってしまったことですね。今後、似たシステムの作品を作る場合は、それほど時間はかからないかなと思っています」と回答。
 遠藤氏は「これだけの作品なのだから、時間がかかってもしょうがないと思います。でも、個人的にはもっと上田作品が見たいですね」と、今後の期待が述べたところで、本イベントは幕を閉じた。

 上田氏のTwitterによると『人喰いの大鷲トリコ』の仕事は今回の“メディア芸術祭”関連でいったん終了となり、今後はネクストプロジェクトに集中するとのこと。この先、どんな発表がなされるのか。上田氏のこれからの動向にも注目していきたい。

 なお、以下の記事では文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門 大賞受賞を記念した上田氏のインタビューを紹介。上田氏のエンターテインメントの原点や、トリコを送り出して約1年半を経たいまの気持ちなど、トークショーでは触れられなかった内容が語られている。こちらも併せてチェックしてもらいたい。

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