『人喰いの大鷲トリコ』が“第21回文化庁メディア芸術祭”エンターテインメント部門大賞に輝いたことを記念し、クリエイティブディレクターの上田文人氏にインタビューを実施。その内容を紹介しよう。(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)

“受賞作品展”開催中の国立新美術館で上田文人氏にインタビュー

 2018年6月13日(水)から24日(日)まで、東京・六本木の国立新美術館とその他の会場にて開催されている、“第21回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展”。“文化庁メディア芸術祭”とは、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において、優れた作品を表彰して世間に広めようとする催し。今年、エンターテインメント部門で大賞を受賞したのが、プレイステーション4用ソフト『人喰いの大鷲トリコ』(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)だ。文化庁メディア芸術祭で、家庭用ゲーム機タイトルが大賞を受賞するのは10年ぶりの快挙となる。そこで、同賞の受賞を記念してクリエイティブディレクターの上田文人氏に、週刊ファミ通編集長の林克彦がインタビューを行なった。

エンターテインメント部門 大賞
人喰いの大鷲トリコ ゲーム
『人喰いの大鷲トリコ』開発チーム(代表:上田 文人)[日本]

「ゲームとしておもしろいものを作ろう」とした結果の受賞

『人喰いの大鷲トリコ』クリエイティブディレクター上田文人氏(写真左)

――“文化庁メディア芸術祭”ということで、ゲームアワードとはまたちょっと違った趣きですね。まずは、エンターテインメント部門大賞を受賞したお気持ちをお聞かせください。

上田文人氏(以下、上田) 普段からゲームをあまりやらない人に向けて“ゲームの可能性を感じてもらえたら”と意識しながら制作しているところがあるので、素直にうれしいです。今回の受賞をきっかけにして、そういった方たちに『人喰いの大鷲トリコ』に興味を持っていただけたら何よりですね。それと、自分がこれまで日本のアニメだったりマンガだったり……日本のサブカルチャーで育ってきたこともあって、日本国内で評価されるのは海外で評価されるのとはまた別のうれしさがありますね。

“文化庁メディア芸術祭 賞贈呈式”にて、開発チームを代表して表彰される上田氏

――僕らの世代だと、日本のいろいろなマンガやアニメに何らかの影響を受けて、いまに至っているじゃないですか。“文化庁メディア芸術祭”はマンガやアニメも対象ですけれども、そこと肩を並べた……同じ土俵に立ったんだっていうのも、思うところがありますね。今回、審査委員を務めた遠藤雅伸さんによる贈賞理由のコメントには「日本でしかつくることのできない、新たなゲームのかたち」とありました。

※贈賞理由全文は以下の記事に掲載

上田 まさに遠藤さんが評価してくださった部分に注力して作ってきたプロジェクトですので、このゲームの本質を捉えていただけてよかった、と感じましたね。日本ならではという部分は、自分ではあまり意識していないんですが。

――上田さんのゲームって“模倣”ではなく、上田さんにしか作れない作家性があると言いますか……そこが評価された喜びのほうが大きいということでしょうか?

上田 そうですね。ただ、ビデオゲームとしておもしろいもの、意味のあるものを作ることをメインに考えているので、メディアアートとか芸術とか、そういった方向性はあまり意識していないんです。作るなかで「ほかのメディアではできないことをやらないといけない」ということは常日頃意識していますが、それが作家性なのかどうかはわかりません。

根底にあるのは「映画的な娯楽体験をなんとかゲームで」という思い

――そもそも、上田さんのゲームづくりの原点、モノづくりに対して最初にあった思いって、どんなものだったんでしょうか。

上田 自分のなかでは映画が娯楽の原体験といいますか、記憶にある一番大きな娯楽体験なんです。だからといって映画を作りたいとか、映画みたいなゲームを作りたいと考えているわけではありません。モノづくりとしては、あのころ自分が映画という娯楽から受けた空想的な刺激というか、非日常的で現実を一時的に忘れるような濃密な体験を提供したい……そんな気持ちのほうが、より原点に近いかもしれません。表現の場として、“これまで培ったスキルがすべて活かせる”という理由からビデオゲームを選択しましたが、根底にあるのは幼いころに感じた「映画という存在に連なる娯楽体験をゲームで」という思いですね。

――なるほど。

上田 あと、僕はずっとゲームが好きなのですが、大学時代、一時的ににゲームから離れていたことがあったんです。そのときの自分や、周りの友人たちもそうだったんですが、成長するにつれゲームを卒業しちゃう人たちが多いんですね。ある種、通過儀礼のようなもの、というか。でも、映画や音楽のなかで好みのジャンルが変わったとしても、卒業する人ってあまりいないじゃないですか。そこで「ゲームはいつか卒業するもの」という考えに対する疑問を感じるようになって、「卒業しないゲームはないのかな」と考えるようになりました。

――一過性のエンタメじゃなくて、大人になってもちゃんとつきあえるゲームを作りたいといった思いですか。たとえば上田さんの『ICO』って、当時の中高生も熱心に遊んでいましたが、とくにターゲット層は絞り込んでいませんでしたよね。結果的に、女性も男性も大人も遊んだゲームで、それは『人喰いの大鷲トリコ』もそうですね。

上田 はい、そうなればいいなと思って作っています。

「幼い時に動物と触れ合った体験や、いままで見てきた映像記憶」が役立っている

国立新美術館での等身大のトリコの展示を前に

――『人喰いの大鷲トリコ』の発売直前インタビューで、「長い年月をかけて作ったので、自分の手を離れるのが寂しい」といったことをおっしゃっていましたね。それから1年半以上経ちましたが、現在はディレクターとしてどのような心境ですか?

上田 もうすっかり、あのときの気持ちではないですね。巣立たれて寂しい、という気持ちよりも「やっと終わったんだな」って感触がようやく芽生えてきたのかな。発売してからしばらくのあいだは、まだ全然終わった気がしていなかったんですけど、さすがに1年半も経ちましたからね(笑)。

――(笑)。実際に遊んだプレイヤーの声や感想も多く入ってきていると思いますが、どう感じていますか?

上田 制作時は「ここはウケるだろう」とか、「ここはさほど印象に残らないかな」といったことを想像しながら作っていたんですが、実際に遊んでもらうと、我々が思っていたのとは違う反応をされることが多かったですね。たとえば、トリコの頭が狭い通路に引っかかってしまう描写ですが、早いうちの実装で見慣れていたせいもあってか、新鮮味をすっかり忘れていたんです。でも、そんな仕草を「かわいい」とか「印象的だ」と言ってくれる意見が非常に多く、意外に感じました。反対に、ずっとひた隠しにしていたトリコのある能力は、プレイヤーへの強烈なサプライズになるだろうと目論んでいたんですけど、実際はそれほどでもなかったという……そういった感じ方のギャップがありましたね。こんなことなら変に隠したりせず、もっと早く公開しておけばよかったです(笑)。

――どちらかというと、トリコの日常的なかわいさ、挙動や仕草に共感する声が多かった印象はありますね。ちなみに上田さんって、ずっと身近なところに動物がいらっしゃったりしたんですか?

上田 幼いころから動物は飼っていましたね。飼ったことのない動物のほうが少ないんじゃないかってくらい、とにかくいろいろな種類の動物がいました。

――やっぱり。『人喰いの大鷲トリコ』って、動物に日常的に接している人とそうじゃない人で、感じ方に差があるという声をけっこう聞いていたんですが、それって上田さんがずっと動物が好きで身近に接していたからなのかな、と思っていたんです。

上田 たとえば、トリコの動きや仕草に関して「なんか違和感があるなぁ」と感じたとき、基本的には資料を参考にしながら調整するんですが、自分が幼い頃に動物と触れ合ったり、今まで見てきた映像記憶と照らし合わせて「これは自然だ」、「これは不自然かな」って細部を詰めていったので、そういった部分では動物が身近にいた経験が役に立ったのかな、って思います。

伝えたいことは言葉ではなく「作品、作ったものですべて出す」

――AIで動くトリコを作り終えたいま、AIの可能性をどのように感じていらっしゃいますか?

上田 ゲームの制作環境をよりよくするためであったり、効率化するためなど、そういった部分でのAIの活用にはすごく期待しています。ただ、意外に思われるかもしれませんが、個人的には“AIがゲームプレイをかつてなかったほどおもしろくする”、といった過剰な期待はいまのところしていません。しかしながら、仮にAIがビデオゲームに対して有効に働くとすれば、それはプレイヤーがゲームシステムに感じる“ロマン”の部分だと思っています。たとえばプレイヤーの行動によってゲーム世界の情勢が大きく変わるとか、何億通りものプレイルートがあるとか、プレイヤーが全てを体験することは現実的に不可能だったとしても、そのゲームシステムに”ロマン”を感じられる、ということが、ビデオゲームという娯楽メディアにとって重要視されてきた価値のひとつではあると思うので。ゲーム内のAIの効果、という部分ではそのように考えています。

――ゲーム内AIの発展に過剰な期待はしていないながらも、プレイを通じて感じるロマンに期待されるというのは、上田さんらしい考えだと思います。ところで、6月23日に上田さんが登壇されるメディア芸術祭の大賞受賞トークイベントが開催されるんですね。このような場で上田さんがトークされるというのは珍しいというか、あまり記憶にないのですが、どのような話をなさるんですか?

上田 モデレーターを努めていただく遠藤さんとこれから打ち合わせをして決めることになると思いますが、『人喰いの大鷲トリコ』を作るうえで苦労した点、こだわった点、そういう話になるのかなとは思っています。

――上田さん自身やゲームに興味のある方はもちろん、エンタメ全般やメディアアートに興味がある方が聴講されると思います。上田さんのなかには「思いを伝えたい、発信したい」といった思いはあるのでしょうか。

上田 実はあまりないかもしれません(笑)。当然ですが、作品を楽しんでほしいとか、より多くの人に知ってもらって体験していただく機会を増やしたい、という思いは持っています。ただ、伝えたい思いみたいなものは、作った作品にすべて入れ込むべきかな、と思っているので、作品の外で何かを伝えたり、アピールしたいという気持ちはあまり持ってないかもしれませんね。

「ある程度時間が経ってから、また世界をのぞきに来て」

――最後に、まだ『人喰いの大鷲トリコ』をプレイしていない読者と、すでにトリコを愛でているファンに、ひとことずつメッセージをお願いします。

上田 ゲームでしか体験できないものを作ったつもりですので、まだ遊んだことのない方には是非体験していただいて、「ゲームにはこんな表現もあるんだ」と可能性を感じてもらえたらとてもうれしいです。また、すでにプレイしていただいた方には、できればずっと忘れずにいてほしいです。毎日遊ぶとか、何周もくり返し遊ぶというよりも、ずっと手元に置いていてもらって、ふと思い出したときに、また世界をのぞきに来てくれるような遊び方をしてもらえたら一番うれしい……作り手としてはそう思っています。

(2018年6月12日、国立新美術館にて)

エンターテインメント部門 大賞受賞者トーク:上田 文人『人喰いの大鷲トリコ』

 エンターテインメント部門大賞受賞作品を生み出すきっかけとなった経緯や作品のコンセプトなどを作者自身が語るトークイベント。

日時:2018年6月23日(土)15時30分〜16時30分
会場:国立新美術館 3階 講堂
住所:東京都港区六本木7-22-2

出演:上田 文人 [エンターテインメント部門大賞『人喰いの大鷲トリコ』]
モデレーター:遠藤 雅伸 [エンターテインメント部門審査委員/ゲームクリエイター]

※定員250名
※プログラムの構成および内容は変更になる場合がございます。

エンターテインメント部門 大賞受賞者トーク申込ページ

<第21回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展>
会期:2018年6月13日(水)~6月24日(日)
メイン会場:国立新美術館[2階企画展示室2E]
開催時間:10時~18時 ※6月19日(火)は閉館
※金・土曜日は20時まで ※入場は閉館の30分前まで
ほかサテライト会場:※開館時間は会場によって異なります。
入場料:無料
主催:第21回文化庁メディア芸術祭実行委員会