2018年6月13日(水)から24日(木)まで、東京・六本木の国立新美術館にて、“第21回文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催中だ。“文化庁メディア芸術祭”とは、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において、すぐれた作品を広く世間に知らせようという催し。ゲームはエンターテインメント部門に分類され、過去にも『イングレス』(2015年)や『Wii Sports』(2008年)、『大神』(2007年)などが大賞に輝いている。

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 そして今年、エンターテインメント部門の大賞に選ばれたのは、プレイステーション4用ソフト『人喰いの大鷲トリコ』(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)。6月12日には一般公開に先駆けて内覧会が行われ、開発チームを代表してクリエイティブディレクターの上田文人氏が来場した。当リポートでは、上田氏と『人喰いの大鷲トリコ』を中心に、“受賞作品展”の模様をお伝えする。

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内覧会で『人喰いの大鷲トリコ』について解説する上田文人氏。
エンターテインメント部門 大賞『人喰いの大鷲トリコ』ゲーム
『人喰いの大鷲トリコ』開発チーム(代表:上田 文人)[日本]

等身大のトリコと展示ホールで触れ合える

 会場の国立新美術館企画展示室には、各部門の大賞受賞作を中心に、優秀賞や新人賞などの受賞作品がディスプレイされていた。『人喰いの大鷲トリコ』については、ゲームと同じAI技術によって動く実物大のトリコが、巨大スクリーンに投影される展示が中心。過去の“東京ゲームショウ”でも同様の展示があったが、今回も来場者の動きに合わせて反応してくれる。静粛な美術館の中に、トリコの唸り声と来場者の驚きの声とが響きわたる、なんとも楽しげな展示だ。

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等身大のトリコとコミュニケーションをとる来場者。

 ほか、プレイステーション4用『人喰いの大鷲トリコ』や、プレイステーション VR専用『人喰いの大鷲トリコ VR Demo』を体験できるコーナーも。また、『人喰いの大鷲トリコ』メディア芸術祭大賞受賞記念トレーラーも常時上映されていた。

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プレイステーション4用『人喰いの大鷲トリコ』体験コーナー。
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プレイステーション VR専用『人喰いの大鷲トリコ VR Demo』体験コーナー。

開発をあきらめなかったのは「トリコに情みたいなものを感じてた」から

 ゲーム以外にも多彩なジャンルの作品が展示される催しのため、内覧会には美術専門メディアなど、多様な報道関係者が集まった。上田氏は、実物大のトリコの展示を前に「少年を操作し、巨大な生き物トリコとともに、巨大遺跡を脱出するゲーム」と、作品を簡潔に解説。「この作品に少しでも触れていただいて、ビデオゲームの可能性を感じていただけたら嬉しい」とコメントした。

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上田氏は報道関係者を前に『人喰いの大鷲トリコ』について説明。

 また、内覧会に続いて行われた“文化庁メディア芸術祭賞贈呈式”では、文部科学大臣の林芳正氏より、『人喰いの大鷲トリコ』開発チームを代表して上田氏に、トロフィーが贈呈された。

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“文化庁メディア芸術祭賞贈呈式”にて。

 上田氏は受賞スピーチにて「『ICO』や『ワンダと巨像』の反省から、できるだけ短い期間で作るプロジェクトだったんですが、結果的にはこれまで以上の時間を要してしまって、その間には本当にいろんなことがありました。PS3からPS4に変わったり、新しいスタジオを作ったり……。何度か諦めそうになったこともあるんですが、諦めるという選択を取らなかった理由のひとつとして、僕自身がトリコというAIキャラクターに、なにかこう、情みたいなものを感じてたというのが大きかった」と明かしつつ、「『人喰いの大鷲トリコ』を愛してくださったファンのみなさまに改めてお礼を申し上げたい」とメッセージを贈っていた。

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林芳正文部科学大臣(写真左)と、スピーチする上田氏(同右)。

模型のタミヤや、アニメ『この世界の片隅に』などの展示も

 さて、“受賞作品展”には、マンガやアニメなど、バラエティに富んだ受賞作品が並んでいた。そのなかから、ゲーマーとしてのセンサーに引っかかった展示をピックアップして、作品展全体の雰囲気をお伝えしよう。

 とくに目を引いたのが、世界的な模型メーカー、タミヤ製品の展示。RCカーやミニ四駆、クルマや戦艦のプラモデルとそのボックスアート(パッケージの箱絵)などがディスプレイされていた。これは、タミヤ代表取締役会長・社長である田宮俊作氏が、功労賞を受賞したから。プラモデルが「世界や物語と接続する「メディア」として機能し、現在活躍する多くの技術者やアーティストの、クリエイティビティの源泉ともなっている」(工藤健志審査委員のコメントより一部抜粋)との贈賞理由による。

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ホールの一角にはタミヤ製品が展示されていた。
功労賞 田宮俊作 実業家
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功労賞を受賞した田宮俊作氏。

 アニメーション部門では、女優の“のん”が声の出演をしたことでも話題となった片渕須直監督『この世界の片隅に』と、湯浅政明監督『夜明け告げるルーのうた』の2作品が大賞を受賞。制作資料の展示や、“受賞作品展”のために新たに作られた関連映像の上映が行われていた。

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制作の過程がわかる資料の展示や、関連映像の上映が行われていた。
(左写真)
アニメーション部門 大賞『夜明け告げるルーのうた』劇場アニメーション
湯浅 政明[日本]
(右写真)
アニメーション部門 大賞『この世界の片隅に』劇場アニメーション
片渕 須直[日本]

 エンターテインメント部門で興味を引かれたのが、ウェブアプリケーション『PaintsChainer(ペインツチェイナー)』だ。線画をアップロードすると、AIが自動着色してくれるというもの。淡くやわらかい階調の“たんぽぽ”、ムラのないグラデーションで着色する“さつき”、筆のようなタッチとにじみの出る“かんな”という、擬人化された3種のAIから選ぶことができる。会場ではAR(拡張現実)を利用したデモンストレーションが体験可能。

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自動着色アプリ『PaintsChainer』の関連デモンストレーション。
エンターテインメント部門 優秀賞『PaintsChainer』ウェブ
米辻 泰山[日本]

 アート部門では、ウェブブラウザからログインすることで展示物を操作できる『アバターズ』や、視覚化されたコンピュータのメモリの中を探検する『I'm In The Computer Memory!』など、ネットやコンピュータを使った作品が多数受賞していた。なかでも、ゲームを連想させたのが『進化する恋人たちの社会における高速伝記』。人間社会を模した進化生態系シミュレータが自動的に作り出す人生ドラマを鑑賞する作品だ。人の一生は約1分半で計算され、誕生、恋愛、離別、死などをスクリーン上で知ることができる。

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男性は角ばった形状、女性は丸い形状で表現。小さいのは子供で、“もの”は三角形だ。
アート部門 優秀賞『進化する恋人たちの社会における高速伝記』メディアインスタレーション
畝見 達夫/ダニエル・ビシグ[スイス]

 マンガ部門の展示コーナーでは、実際の原稿を間近で見たり、単行本を読むことができた。ちなみに、当リポートで撮影を担当した和田貴光カメラマンのオススメは、新人賞を受賞した板垣巴留の『BEASTARS』。肉食動物と草食動物による学園モノ、と聞いただけで興味がわく。

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マンガ部門の展示コーナー。左に『BEASTARS』の展示が見える。

6月23日には上田文人氏と遠藤雅伸氏のトークイベントを開催

 なお、“受賞作品展”は入場無料で、誰でも観覧可能。また、6月23日(土)には“エンターテインメント部門 大賞受賞者トーク:上田文人『人喰いの大鷲トリコ』”というイベントが企画され、上田氏自身が作品誕生のきっかけや作品のコンセプトなどを語る予定だ。司会進行役は『ゼビウス』などのゲームクリエイターとして知られる、エンターテインメント部門審査委員の遠藤雅伸氏。トークイベントは事前申し込み制(無料)で、文化庁メディア芸術祭[受賞作品展・コンテスト]ウェブサイト(http://festival.j-mediaarts.jp/)にて受付中だ。実際に申し込んでみたところ、ちょっとわかりづらかったが、トップメニューの受賞作品展→イベントから、当該イベントを探し出し、クリックすると受付画面に遷移した。定員250名とのことなので、興味のある方はお早めに。