2018年3月16日、東京・六本木の国立新美術館にて、第21回文化庁メディア芸術祭の記者発表会が開催され、受賞作品が発表された。

 “文化庁メディア芸術祭”は、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を表彰するフェスティバル。その第21回において、プレイステーション4用ソフト『人喰いの大鷲トリコ』(開発チーム/代表:上田文人氏)がエンターテインメント部門・大賞を受賞した。

『人喰いの大鷲トリコ』が第21回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門で大賞を受賞_03

 受賞理由は以下の通り。“信頼関係を築けるほどに緻密な“トリコ”の表現”“カメラワークやアクションなど、体験のすべてを通して良質な物語を提供する新たなゲームのかたち”が高く評価されたといえる。

「この作品が目指しているのは、架空の動物に対する心の絆という、これまでのゲームの文法とは全く異なるゲーム体験である。そのため、プレイヤーがトリコを動物として違和感なく感じられるよう、惜しみなくAI技術がつぎ込まれている。身近に実在する動物をモデルとしたモーションや質感は、コンピュータが動かしているCG映像に過ぎないという認識を突き崩し、信頼関係を築ける存在としてトリコを意識させる。また、ゲームメカニクスはアクションアドベンチャーだが、先の展開を自然と視界に入れるカメラワークは、操作性が犠牲となることを上回る良質なナラティブ(物語)を提供している。さらに重要なシーンでは、スローモーションを使った演出が行われるが、アクションのタイミングや間合いによっては失敗する場合もある。しかしこの失敗も、より印象に残るナラティブとして見せるなど、これは日本でしかつくることのできない、新たなゲームのかたちと言える。」(遠藤雅伸氏)

「映画のように美しいグラフィックスが目を惹くが、むしろ一冊の良質な文学を読んでいるような気持にさせられる。余白や行間のようなものが感じられ、そこからあふれでる感情の交流がすばらしい。ゲームが新しいステージに上がったのではないかという期待も込めて、大賞に選出した。」(工藤健志氏)

上田文人氏より

『人喰いの大鷲トリコ』が第21回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門で大賞を受賞_07

 トリコの自然な挙動を作るために膨大なコストをかけたので、そこに注目していただけてうれしく思います。僕は「ゲームにあまり興味が無い人にこそ遊んでほしい」という気持ちで作品を作ってきたので、そのきっかけになる賞を頂けたと考えております。ありがとうございます。

ーー審査員講評にあるような「ゲームが新しいステージに上がった」という実感は、上田さんや開発スタッフの中におありですか?

 まだ作り終えてからそれほど時間が経っていないこともあり、実感はないかもしれません。ただ、製作中も「ビデオゲームを作っている」という意識はなくて、キャラクターとコミュニケーションを取りながら進める“冒険”そのものを手掛けているイメージがありました。ですので、あまりゲームらしくない部分を評価して頂けたのは本望ですね。

アート部門 大賞『Interstices / Opus I - Opus II』

映像インスタレーション
受賞者:Haythem ZAKARIA [チュニジア]

『人喰いの大鷲トリコ』が第21回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門で大賞を受賞_01

アニメーション部門 大賞『この世界の片隅に』

劇場アニメーション
受賞者:片渕 須直[日本]

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アニメーション部門 大賞『夜明け告げるルーのうた』

劇場アニメーション
受賞者:湯浅 政明[日本]

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マンガ部門 大賞『ねぇ、ママ』

受賞者:池辺 葵 [日本]

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 今回の発表を受けて、国立新美術館にて2018年6月13日~24日のあいだ、“受賞作品展”も開催される。受賞作品の展示とともに、シンポジウムやトークイベント、ワークショップ等の関連イベントが実施予定。

 また公式サイトでは受賞作品の一覧も公開されている。新たな時代を表現した作品群にぜひ目を通していただきたい。なおゲームからは他に『Fate/Grand Order』、『ピーポーパニック!』が審査委員会推薦作品に選ばれている。

■文化庁メディア芸術祭 公式サイト

第21回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展 開催概要

会期:2018年6月13日(水)~6月24日(日)
会場:国立新美術館(東京・六本木) 他
入場料:無料
主催:第21回文化庁メディア芸術祭実行委員会
会長:宮田 亮平(文化庁長官)
運営委員:青木 保(国立新美術館長)/ 建畠 晢(多摩美術大学長)/ 古川 タク(アニメーション作家)