2018年6月12日〜14日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスにて開催されている世界最大級のゲームイベントE3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)2018。このE3に合わせて、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ(SIE WWS)プレジデント 吉田修平氏にインタビューを実施。先日、E3に先駆けて行われた“PlayStation E3 2018 Showcase”の感想や、今後のタイトルラインアップについて聞いた。
吉田修平(よしだしゅうへい)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント
──今年のメディアショーケース(PlayStation E3 2018 Showcase)は、これまでとは趣向を変え、回遊型のアトラクションのような手法になっていましたね。
吉田私もびっくりしました。話には聞いていましたが、「これを作ったんだ!」という感じで。やはり、エンタテインメントのビジネスですから、毎年同じことをやっていてもつまらないですよね。そこで、新しいアイデアを考えたうえでの取り組みだったと思います。いまはタイトルひとつひとつの規模が大きくなっていて、単にゲームを作るだけではなく、キャラクター、ストーリー、そして世界全体をユーザーさんに楽しんでもらうために掘り下げて作っていますから、それをプレゼンテーションでも反映させて、観ている人にゲームの世界に入ってもらうのが狙いです。
──まさしく、冒頭の『The Last of Us Part II』のプレゼンテーションはそれを体現していましたね。教会のような場所で、しかも軋むような効果音が会場で流れていて。その後、バンジョーの生演奏、そしてゲーム映像が流れるわけですが、ダンスシーンから一転、凄惨なシーンが映し出されたり……。あのあたりの演出は、吉田さんが監修されたりしたのでしょうか?
吉田私も初めて観ました。メディアショーケースで披露された映像は、すべて各チームが作ってきたもので、私は事前には観ていないのです。
──盛り上がりを見ていかがでしたか?
吉田楽しかったですね。ハラハラしたり、ドキドキしたり。『Ghost of Tsushima』は、なんて美しい“ジャパンビューティ”なんだと。
──『Ghost of Tsushima』の映像が披露された会場は、巨大なパノラマスクリーンにススキの野原が映し出されていて、海外の方の反応も上々でした。
吉田舞台となる対馬そのものは小さな島なので、場所によって気候が大きく変わるようなことはないのですが、拡大解釈して日本の美しいシーン、侍のカッコいいシーンを贅沢に取り入れていこうという考えで作られています。ただ、日本人が見て「これはヘンだよね」と思われないようにしたいというのは、開発を手掛けているSucker Punch(サッカーパンチ)の強いこだわりでもあります。私たちJAPAN スタジオも協力していますが、その思いの強さは日本のSIEのメンバーをしのぐほどです。Sucker Punchのメンバーはたびたび日本に来ては、取材を重ねています。
──映像で侍が英語を話すことに違和感があったのですが、これについてはいかがでしょうか?
吉田日本語のセリフはもちろん日本で収録しています。じつは、メディア向けのクローズドなプレゼンテーションでは、日本語のバージョンを使っていると聞いています。これは、海外メディアに対しても同様です。
──あ、そうなのですね。
吉田「なぜ?」と私も聞いたのですが、じつは『Ghost of Tsushima』を発表した際に、セリフは日本語でプレイしたいというリクエストが多かったそうなんです。ですから、実際の製品版では侍が話すセリフは日本語、字幕で各言語に対応する形になります。やはり、侍が日本語以外の言語を話すのはおかしいということで、日本市場向けだけではなく、全世界向けに日本語を収録することをSucker Punchは決めたそうです。
──今回のメディアショーケースでは、『The Last of Us Part II』、『Ghost of Tsushima』、『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』、『Marvel's Spider-Man(スパイダーマン)』の4タイトルを中心とした発表でしたが、これらのタイトルに注力していることをアピールする狙いがあったのでしょうか?
吉田そうですね。これらの4タイトルは我々もとても期待していて、かつ力を入れています。プレイステーション4ならではの、プレイステーション4を代表するタイトルになるべく、作っているということを伝えたいです。
──プレイステーション4が世に出てから4年半になり、今年もソフトの年(収穫の年)と言えるでしょうか。
吉田そうですね。去年あたりから日本で作られたタイトルが世界でも評価されて、その流れが今年も続いていますよね。『モンスターハンター:ワールド』も、海外でとても人気と聞いています。今年の9月から来年の2月までのタイトルラッシュはすさまじいですよね。そのうえにアップデートがくり返されるゲームもあるわけで、本当に遊びきれない状況かなと思っています。そういった中でも、いいタイトルを出せばたくさんのユーザーさんに遊んでいただけるので、いまの市場の大きさ、深さを感じます。まだ発売から2ヵ月ほどですが、プレイステーション4の『ゴッド・オブ・ウォー』もものすごい勢いで売れていますし、去年発売した『Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ・ドーン)』もずっと売れ続けています。そうした状況を見るに、ユーザーさんのゲームに対してのアピタイト(欲求)はかなり高いと感じます。
──『Detroit: Become Human』は日本でも好評ですよね。
吉田おかげさまで、いい評判をいただいています。『Detroit: Become Human』は、ほかの人のプレイをストリームで観ていても楽しいですよね。「え、こんなシーンあったの?」と(笑)。私も、6つくらいエンディングを観ていますが、それぞれでまったく異なる結末なのに、それでも初めて見るシーンがけっこうありますから。よくここまで作ったなと。
──こうしたハイクオリティーな作品が目立ってきたのは、やはりクリエイター側のプレイステーション4に対する熟練度が上がってきたということなのでしょうか?
吉田そもそもプレイステーション4は、非常に開発しやすいハードです。ここ1〜2年で発売されて評価いただいているタイトル、あるいは来年発売されるようなタイトルは、じつはプレイステーション4の発売前から取り組んでいたものが多いです。ローンチタイトルはどうしてもスケジュール優先になりますが、それ以降のタイトルは、できるだけクリエイティビティに制約をつけずに、できることをやってみようという考えになります。そうなると、オープンワールド、アクション、アドベンチャー、RPGというところに行き着きますよね。そして、それらはとても開発に時間がかかります。そうしたタイトルが、いま続々と登場している状況なのかなと。
──現在は、スマートフォンのゲーム市場が盛り上がっていますが、コンシューマもより盛り上がっている印象がありますね。
吉田モバイルゲームは手軽ですし、毎日遊ぶような仕掛けがあって、それはすごくいいと思います。でも、家庭用ゲームのような高品質なグラフィックス、インタラクティブ性の高いものはありませんよね。UI(ユーザーインターフェース)そのものがまったく違いますし。ゲームのコアユーザーは家庭用ゲーム機でしっかり遊び、外ではスマホでも遊ぶ、といったように、両方楽しんでいただくのがいいのではないかと思います。
──コンシューマとモバイル、住み分けはできているように感じます。
吉田ええ。いま、とくに日本のパブリッシャーさんも家庭用ゲームを見直していただいていて、そちらのほうにも力を入れていただいていると感じます。そこはうれしいですね。
──一方で、プレイステーションVRのタイトルも発表が続いています。
吉田VRについても手応えを感じています。インディー系のデベロッパーが作っているものも年々クオリティーが上がってきていて、ゲーム性も深まっています。我々も『Firewall Zero Hour』、『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』、『ライアン・マークス リベンジミッション』といったタイトルを今年出展しました。2年前のプレイステーションVRが登場した時期は、VR技術でどんな新しい体験ができるんだろうと、まるで金脈を掘り当てるかのように、いろいろなものを短期間でトライして作ってきました。体験の鮮度を優先するために、ミニゲームのようなものが多かったのです。その中で、この体験をもっと楽しみたい、もっと大きなゲームにしてほしいとリクエストがあったのが、『PlayStation VR WORLDS』内の『The London Heist(ロンドン ハイスト)』だったり、『THE PLAYROOM VR』内の『ロボットレスキュー』だったと。ゲーム性をより深くして、ゲーマーがより楽しめるVRタイトルとして取り組んでいるのが、今年の出展タイトルです。
──フロム・ソフトウェアの宮崎英高氏とSIE WWSのJAPANスタジオが手掛ける『Deracine(デラシネ)』にも注目ですね。
吉田『Deracine(デラシネ)』については、宮崎さんがVRに触れたとき、キャラクターの存在感をいかにうまく使うかというところで、宮崎さんなりの発想があったのではないかと思います。
──宮崎さんがこれまで手掛けてきた作品のダークな世界観とは打って変わって、プレイヤーは“妖精”という……(笑)。
吉田びっくりですよね。ハートウォーミングなお話になるようで。宮崎さんの別の一面を見てほしいですね(笑)。VRについては、デベロッパーの知見の蓄積によって、初年度に心配していたVR酔いなどはほとんどなくなりました。いまはより深いゲーム性であったり、没入感を表現できるようになってきています。さらには、ネットワークを活かしたソーシャルVRですとか、VRならではの遊びを追求している。業界全体として、いい形で進んでいると思いますね。
──確かに、VRはプレイヤーがどんどん動くようになってきましたよね。
吉田VRにおけるプレイヤーの移動は、“ポータルを使ったワープ”が標準かと思っていましたが、ユーザーさんの願い、そしてデベロッパーの技術によって乗り越えていますよね。VRタイトルは、フリーで動けるオプションを用意することが期待されていて、この状況は私の想像を超えています。今後が楽しみですね。
──最後に、先日発売日が発表された『Days Gone』の開発状況についてお聞かせください。
吉田順調です。ゲームは最初から最後まで通してプレイできる状態にまでなっています。私もプレイしていますし、いま磨きをかけている状況ですね。ぜひ、期待していてください。