今年のE3で発表され、話題を呼んだサイバーパンクアドベンチャーゲーム『The Last Night』。本作のパブリッシャーであるRaw Furyが、メインクリエイターのTim Soret氏が発表までの背景について語る約11分の映像を公開していたので(元は海外IGN誌が今秋に公開したもの)、その内容をご紹介しよう。
2014年のゲームジャム版『The Last Night』
きっかけは2014年、ゲームジャム(決められたテーマと期間のもとでさまざまなチームがゲームを開発するイベント)のひとつとして、”サイバーパンクゲームジャム”が行われたこと。ここで開発されたゲームジャム版『The Last Night』が、現在開発中の製品版の原型となっている。
ゲームジャム版を開発するにあたってのインスピレーションの源流となったのが、『アウターワールド』や『フラッシュバック』といった往年のプラットフォームアクションアドベンチャーゲーム。戦闘のアクション性よりも、さまざまなギミックが隠されたフィールドを探索し、謎解きをして進んでいく要素が大きいタイプのゲームたちだ。
もうひとつサイバーパンク的なイメージの源泉となったのが香港。実はSoret氏は2012年に高級ジュエリーブランドのカルティエのアートディレクター兼モーションデザイナーとして現地で働いたことがあるそうで、その経験をもとに、サイバーパンクの代表的な作品である映画『ブレードランナー』や押井守監督によるアニメ版『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』にも通じる、香港のネオン輝く雑多なカオスの再現を目指すことになる。
そして6日の開発期間を経て、ゲームジャム版『The Last Night』は完成する。Flashで動作するものが今も公開されているので(https://timsoret.itch.io/the-last-night)、遊べる環境がある人は実際に触れてみて欲しい。
あくまでゲームスタイルとビジュアル面のコンセプトの実現に徹した非常に短い作品なのだが、ドット絵の香港的世界が『アウターワールド』的な不穏さとともにイキイキと動くさまはなかなかのもの。かくして250本以上の作品の中で1位を獲得することとなり、製品版を目指した開発に繋がっていく。
ゲームジャム版から製品版への模索
では、製品版にするにあたってどのように発展させていくか? ここで例に挙がっているのが、『餓狼 MARK OF THE WOLVES』などの描き込まれたドット絵の背景。「こういった背景が、見た目だけではなく体験のコアになるとしたら?」という発想で開拓が進められていく。
まずはゲームジャム版を土台に、よりきめ細かなドット絵にアップグレードした画像を作成してイメージを固めていく。同時に本格的な開発を行うためにフランスからロンドンに移住し、スタジオとなるOdd Talesを設立する。
またキャラクターアニメーションの方法として、『アウターワールド』や初期『プリンス・オブ・ペルシャ』などに使われていたロトスコープを採用。これは実際に演技した映像を絵でトレースしていくという伝統的な手法で、独特の生々しさを与えることができる。
こうして出来たキャラクターアニメーションと多重スクロールする背景にライティングを重ねた2Dイメージが出来上がるのだが、これはやや物足りないものだった。
そこで生まれたのが、それぞれ細かくアニメーションするドット絵を3D空間に配置して、現代的なライティングやポストエフェクトを重ね、3Dのカメラワークで演出するという現在の2.5D的手法だ。
限られたリソースを集約しつつ、いかに編集技巧で伝えるか
この辺りで時は2016年に。組織面では、Xboxプラットフォームのインディーゲーム部門であるID@Xboxとの契約と、イギリスの政府系ファンドであるUK Games Fundからの支援、そして新興インディーパブリッシャーのRaw Furyとの契約などが決まっていく。
そういった中で「2017年のE3でのトレイラー発表はどうか?」という提案があり、”実際のゲーム映像のみで構築する”、”4K解像度で秒間30フレームの映像にする”、”75秒に収める”、”45日間で実現する”といった指針が固められる。
しかしチーム構成は全部で4人に過ぎず、ゲームはまだ完成まで遠く、できることは限られている。そこで内容的には”(ローンチトレイラーのように全部見せるようなものではなく)新たなIPとして紹介する”、”ビジュアルスタイルを見せる”、”(全部を見せるのではなく)ストーリーやゲームプレイをそれとなく感じさせる”という方向に専念することに。
実際の作業にあたっては、まず18のシーンの絵コンテを設計して、コンセプトアートに合わせて素材を作ってゲームエンジン内に組み込んでいき、カットアップ的に映像を繋いでいくというフローになっている。
コアチームがもともとビジュアルアーティスト寄りということもあって、細かいところではヒッチコック映画で有名なドリーズームなどを利用していたりする。
また全体の流れも、世界の提示に始まって、街の雰囲気→その中にいるキャラクターの様子→彼らが抱える問題→それに対するアクション→さらなる内容へのほのめかし……と、順を追ってクローズアップしていくような編集技法に則っていることが解説されていて興味深い。
それだけでなくカラーリングも、主人公であるチャーリーにクローズアップして危険なシーンが入っていくに連れて、落ち着いた濁った感じの配色から、次第に点滅が入ってきたりアシッドカラーの派手な色になっていくという流れになっているという。
サウンド面では、初期プロトタイプからダークでざらついたイメージ統一のためにフランスのエレクトロニックアーティストLornの楽曲を仮トラックとして使っていたそうなのだが、ある日その本人からメッセージが届くというサプライズが。トレイラーでは彼の”Acid Rain”が使用されている。
またオーディオディレクターでサウンドデザインなども担当するJoe Kataldo氏は、E3の大ステージで映えるように、効果音なども含めて5.1チャンネルでミックスしたとのこと。
そして完成したトレイラーがXboxカンファレンスの大舞台で流れたわけだが、ここでちょっとおもしろいのが、想定した盛り上がりのカーブに合わせて、YouTubeのいわゆる”リアクションビデオ”の様子を重ねているところ。一旦「スゲーけどこれで終わり?」と思わせてから一番カッコイイエアタクシーのシーンで盛り上がるところまで、まさに狙ったとおりのバズり方というわけだ。
初出しは大成功。実際のゲームプレイは?
さて件のトレイラーは、もともとビジュアルマーケティングのプロだった人物が、そのテクニックを注ぎ込んで実現したものだったということになる。
それ自体はまったく悪いことではないのだが、こういったアート先行のタイトルで気になるのが、「……で、ゲームとしては大丈夫なの?」ということ。またTim Soret氏の兄弟であり、リードアーティストを務めていたAdrien Soret氏が2016年12月の時点で離脱しているといった事情もある。E3でのメディアセッションも、実際にゲームエンジンのUnity上で組まれたトレイラー用のシーンを見せてくれたものの、ゲームプレイの詳細は明かされなかった。
プラットフォームアクションアドベンチャーの伝統に則るということであれば、(玄人的な調整によるアクション面の手触りなどより)キモとなるのはどういうプレイヤー体験を設計するかが大きいから意外となんとかなる……のかもしれないし、そうはいかないのかもしれない。末尾では「次に実際のゲームプレイをいくつかお見せするのが楽しみです。僕らはまた驚かせることができるのではないかと思っています」と締めくくられている。
『The Last Light』は、Xbox OneとPCで2018年にリリース予定。日本語対応も予定されている。