国産ゲームの評価は、海外で高まったのか?
2017年5月10日から14日まで、“TOKYO SANDBOX 2017”が開催。11・12日には、開発者向けのサミット“PUSH”がTKPガーデンシティ渋谷で実施された。ここではそのサミットの中から、“アジア発のゲームを欧米市場に売り込むには”と題したパネルディスカッションをリポートする。
本講演には、藤井隆之氏(DMM.com Labo ゲーム企画営業本部)、岩澤泰洋氏(ネクソン モバイル事業本部プロダクションチーム プロデューサー)、アダム・マッククラード氏(オリゴ・ソフトウェア CEO)、ロバート・ポントウ氏(アクティブゲーミングメディア 執行副社長)の4名が出席。まず4人の略歴が紹介された。
藤井氏はKONAMIに約20年在籍し、海外事業に精通。某サッカーゲームを海外向けにローカライズするなどして経歴を持つ。岩澤氏はレッド・エンタテインメントやgumiなど、さまざまなメーカーを経て、現在はネクソンでモバイル事業を手掛けている。アダム氏は1990年代からゲーム開発に携わっており、現在はアメリカでパブリッシング会社を立ち上げ、PC向けに世界中のIP(知的財産)をローカライズしているとのこと。ロバート氏はアクティブゲーミングメディアで、海外のゲームを日本に、また国産のゲームを海外に向けてローカライズしている。4人の多種多様な経験を踏まえ、ローカライズやプロモーションについての問題点や課題について、来場者からの質問に答える形で浮き彫りにするセッションだ。
最初の質問は、「日本などアジア圏のゲームについて、欧米はどういった点に魅力を感じているのか?」というもの。ロバート氏は、とくに日本のマーケットは特徴的で、かなり前から存在し、ゲーム以外にもアニメやマンガも人気だとし、いわゆるファミコン世代は日本のゲームやアニメなどを見て育ってきているので、懐かしさを感じているとした。アダム氏は、日本のポップカルチャーが海外に与えた影響はまだ理解されていないのはないかと分析している。最近なら『ソードアート・オンライン』、遡れば『忍者龍剣伝』や『悪魔城ドラキュラ』などが与えている影響は無視できないので、自分たちのブランドの確立を意識したうえで、なじみ深いコンテンツを作ることが大事だとした。
岩澤氏は、アジア圏とひとくくりにするのはアバウトすぎるのではないかと指摘。氏が所属するネクソンだけを見ても、日本、韓国、中国ではまったく特徴が異なるので、それぞれユーザーをカテゴライズしていくことが重要だという。たとえばアニメファンでも、『ドラえもん』が好きなのか、深夜帯に放送しているアニメが好きなのかで大きく変わってくるので、詳細な分類が重要だと語る。
藤井氏は、3人の意見とほぼ同じとしながらも、独特の視点で分析。とくにアメリカで日本のゲームが人気を集めたのは、ファミコンなどではなく、プレイステーション2が発売された時期ではないかと指摘した。その理由は、それまでの欧米のゲーム市場はPCゲームが中心だったからなのだという。ファミコンの登場で、子どもにも家庭用ゲーム機が身近になったとはいえ、開発者サイドから見ると、開発しにくい環境が続いていた。そんななか、「Xbox 360の登場がゲームチェンジャーだった」と指摘する藤井氏。マイクロソフトが開発環境やツールをすべて英語で用意し、さらにそれらがWindowsで動くことはじつに画期的な出来事だったはずと語る。以降、ハリウッド映画のようなハイクオリティーのビジュアルがゲームにも登場するようになり、そしてそのジャンルは日本人は不得手だったので、『コール オブ デューティ』のようなハイクオリティーのビジュアルも楽しめるFPSの時代が始まり、それに合わせてゲームを遊ぶようになった“ニュー・ジェネレーション”が大きく増え、現在のハイデフゲーム市場を牽引しているという仮説を立てた。つまり現在のゲームファンは、ファミコン世代(藤井氏曰く“おっさん世代”)と、“ニュー・ジェネレーション”に分かれているそうだ。
続いて、日本のゲームを海外で販売するにあたり、どの程度マーケティングやプロモーションが重要なのか、という質問。藤井氏は「めっちゃ重要です」と即答した。「いいゲームを作れば、ユーザーがきちんと評価してくれる」という考えを否定し、欧米ではとにかく目立たなければ遊んでもらえないとした。ゲームのプロモーションは、日本では初出から発売まで、メディアに出す情報を調整し、徐々に発売に向けて盛り上げていく手法なのに対し、欧米ではいきなりラスボスを出す。「最初に大事な情報を出してどうするの?」と藤井氏がそのメディアに尋ねると、「いや、最初に注目されないゲームが盛り上がるわけないじゃん」と一蹴された経験を語ってくれた。有効なプロモーションを展開するには、各地域に即したプロモーションが重要だとした。
最後は、「以前と比べ、日本のゲームがグローバルに売れるようになったのではないか?」という質問。藤井氏は、返す刀で「分母が増えたので、分子も増えた」、つまり、ゲームをプレイする人口が単純に増えたため、国産ゲームの販売本数も上がったのだろうと答えた。確かに、最近では『仁王』や『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』などがグローバルで●万本を売ったというニュースがあったが、藤井氏によれば、それ以上に『グランド・セフト・オートV』や『アサシン クリード』などは売れていると指摘した。プレイヤーの人数は増えたが、日本産のゲームをプレイする割合はそれほど変わっていないのではないかというわけだ。岩澤氏は、確かに売れる本数は増えているが、まだまだ日本のゲームが持つポテンシャルは発揮し切れていないと持論を展開。しかし、モバイルでは海外でも『ファイアーエムブレム ヒーローズ』が売れているように、日本のゲームの持つ魅力が浸透しつつあるのではないかと語った。
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