7年間の軌跡が明らかに!

 2017年5月10日~14日に、都内各所にて開催される“TOKYO SANDBOX 2017(東京サンドボックス 2017)”。2日目の5月11日には、AR/VRをテーマに、さまざまな講演が行われた。ここではその中から、Owlchemy Labs社CEOである、アレックス・シュウォーツ氏の講演の模様をリポートする。

 Owlchemy Labsは、2010年にテキサスで創業したVRゲームメーカー。『Job Simulator』というソフトが、HTC Viveに無料で付属したことで、その名を広く知られるようになった。今回の講演では、"Overnight success in VR, 7 years in the making”というタイトルで、同社が7年かけて成功した軌跡が語られた。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_01
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_02
▲7年間のサクセスストーリーを語ってくれたアレックス氏。

 冒頭ではまず、代表作である『Job Simulator』を筆頭に、手掛けた作品の数々を紹介。数多くの賞も受賞しており、Owlchemy Labsが世界でもトップクラスのVRスタジオであることが説明された。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_03
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_04
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_05
▲代表作の『Job Simulator』はトレーラーでじっくりと紹介。
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_06
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_07
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_08
▲多くのVRタイトルで、さまざまな賞に輝いている。

学生時代はPCに熱中!

 会社概要と作品紹介に続いては、いよいよ本題となる会社の軌跡についてだが、最初にアレックス氏が触れたのは、学生時代の話だった。

 アレックス氏いわく、学生のころは何をやりたいかわからなかったが、「とにかくパソコンと関係あるものがやりたかった」そうだ。ハイスクールではパソコンを使う授業はなく、ラボのようなところで、ひとりでグラフィックデザインなどを練習。当時は、好きだった『Halo』のマップをまねして作ったりしていたという。そんな中で教師の勧めもあり、WPIという大学に進学することとなる。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_09
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_10
▲パソコンに熱中していたハイスクール時代。

 大学では、ゲーム開発者を目指すクラスに在籍したアレックス氏。だが実際にそのクラスからゲーム開発者になった人は少なかったそうで、「ゲームを作る部活があって、むしろそこに在籍していた人たちのほうが、ゲーム業界で成功しています」と、アレックス氏は当時を振り返る。
 「教わるより、自分で決めて自分で作るほうが、ずっと大事だと思っています」(アレックス氏)。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_11
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_12
▲授業(左)より、部活(右)のほうが役に立った?

就職して数年で起業を決意!

 大学卒業後、アレックス氏はゲーム会社に就職し、ゲームデザインの仕事に従事していたが、1年半ほどで起業を志すようになる。資金もない状態で、それでも開発会社を設立。オフィスは自分と彼女(現在の奥さん)のアパートで、当初はとにかく、やりたい企画どころではなく、ひたすら頼まれた仕事をこなす日々だったそうだ。
 「当時の目的は、自分のゲームを作るために、他人のゲームを作ってまずお金を稼ぐこと。それを心の中で何度もリピートしていましたね」(アレックス氏)。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_13
▲起業当初は、住んでいるアパートがオフィスとなっていた。

 アレックス氏は続けて、会社を設立してからのリリース作品をフリップ画面で紹介。『SNUGGLE TRUCK』は、積んだヌイグルミを落とさないように、山の中でトラックを運転するゲーム。『JACK LUMBER』は、祖母を殺した木材にリベンジしていくという、ユニークなコンセプトが特徴的だ。いずれも評価を集めながら、セールスにはつながらなかったという。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_14
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_15
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_16
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_17
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_18
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_19
▲数多くのタイトルを手掛けるも、初期の業績は伸び悩んだ。

勝利への転機はVRイベント!

 ここまでの会社の歴史は、正直言って失敗の連続。ここからアレックス氏は、核心となる「ではどうやって成功できたのか?」という、マジカルなサクセスストーリーを語ってくれた。
 きっかけは2014年のHTC ViveのVRイベント。イベント終了後に帰宅したらメールが届いていて、それは“Secret meeting”のお誘い。「内容は言えないが、飛行機のチケットを取ったので来ないか?」というもので、「それ以上のことは何も告げられていませんでした」とアレックス氏はいう。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_20
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_21
▲一通のメールが、会社の未来に光明を導くこととなる。

 そして到着して言われたことは、HTC Viveが作る初めてのヘッドセットシステムにおいて、VRで物を拾ったりできるゲーム開発に関しての相談だった。
 「2014年の終わりです。いま手掛けているゲームを全部あきらめて、HTC Viveといっしょに作らないかと。それも2015年2月までにというスケジュールですから、ものすごい状況ですよね」(アレックス氏)。そうしてメンバーは、極寒のカナダに集結した。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_22
▲カナダに集まった開発メンバー。

 メンバーが揃った時点で、プロトタイプ作成までは1週間しかないという状況だった。そこでアレックス氏が考えたのが、物を拾っていろいろと組み合わせていくというパターンの内容だ。
 当時の状況についてアレックス氏は、「子どもみたいにしゃがんで手遊びするのが、リアルで楽しいと気づきました。その延長で考えたとき、いろいろな物が置いてあってそれを動かすのがおもしろいなら、仕事にして『Job Simulator』にしようかとジョークで言ったんです。それが実際のタイトルになっちゃいましたね」とコメント。またそのころ課題だったと思っていた点としては、VRの知名度の低さ、プレイヤーの少なさなども指摘した。VRタイトル開発に関して心配する周囲の声なども、もちろんあったそうだ。だがそれらを押し切って最終的に完成した『Job Simulator』は、大成功を収めることとなった。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_23
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_24
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_25
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_26
▲最初の発想は、積み木遊びのようなシンプルなもの。それが『Job Simulator』につながった。
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_27
▲会社は成長し、いまや20数名の規模に。

成功、そして新たな挑戦へ!

 苦節を乗り越え成功を手にしたアレックス氏とOwlchemy Labs。最後は、今後のチャレンジという部分に関してのスピーチとなった。新たな挑戦としてアレックス氏は、シリーズ作品への投資、理事会をたてること、成長への対応、パートナーとの関係、マルチプラットフォームという、5つのテーマを提示した。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_28
▲新たなチャレンジに向けての5つのポイントが提示された。

 続けてアレックス氏は、これから起業を考えている人へのアドバイスとして、「ニュースでは、そのゲームがヒットしたことだけが伝えられますが、実際にはそのゲームの裏側でいろいろな失敗があるはずです。そこがいちばん大事だと思います」とコメント。
 加えてアレックス氏が強調して述べたのは、アドバイザーの重要性で、つまりは人との関係を大事にすることが、成功につながるということだ。そしてラストには「これからゲーム会社を起業する人は……、ローラーコースターだから覚悟してください!」と、起業を目指す人が多数いるであろう来場者にエールを送った。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_29
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_30
▲起業を目指す来場者にとっては嬉しいアドバイスだ。

 なお講演ではラストに、サプライズニュースとして、グーグルが同社を買収してパートナーとすることが発表された。フィナーレではそれを祝し、来場者にお酒をふるまっての乾杯シーンも。アレックス氏はそのままフランクに来場者と雑談を交わして、温かいお祝いムードのなかで講演は終了となった。

『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_31
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_32
▲グーグルとの提携は即日でニュースにアップされた。
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_33
『Job Simulator』生みの親が成功までの道のりを告白!【TOKYO SANDBOX 2017】_34
▲講演のフィナーレは来場者全員にお酒をふるまい、みんなで乾杯!

[TOKYO SANDBOX 2017関連記事]
インディーゲームの複合イベントが開幕! 角川ゲームスの安田社長が基調講演で“日本のゲーム産業に対する大いなる誤解”を語る
VRが新たなUIの未来を切り拓く! VRコンテンツのトップクリエイターが描く“空間UI”の可能性
パルマー・ラッキー氏が語るVRの未来と、そしてコスプレ愛
モバイルからVR開発に転身した『キャンディークラッシュ』の生みの親が自身の経験を語る(ファミ通App)
VRゲーム開発者が語る日本のインディーVRゲームを世界に広める方法とは?(ファミ通App)