草薙素子役として、田中さん4回浮上した

 スカーレット・ヨハンソンが“少佐”役を演じることでも注目を集めるハリウッド映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』。同作の公開を間近に控えた2017年4月4日に、都内にて吹替版完成披露試写会が行われ、“公開直前緊急ファンミーティング”として、吹替版にて“少佐”役の声を担当する田中敦子さんをゲストに招いてのトークショウが行われた。

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『ゴースト・イン・ザ・シェル』“公開直前緊急ファンミーティング”で田中敦子さんが語る、草薙素子との数奇な縁_02

 2011年に公開された『攻殻機動隊 S.A.C. Solid State Society 3D』以来、6年ぶりに少佐を演じることになる田中さんは、ステージに姿を見せるなり「ただいま」と挨拶し、うれそうな表情を見せた。まずは、司会を務めるニッポン放送の吉田尚記さんからの“観客としての『ゴースト・イン・ザ・シェル』の感想”を問われた田中さんは、最初は役柄のために素材のDVDと台本を照らし合わせて映画を鑑賞したようだが、「ハリウッドは何とすごいことをしてくれたんだ!」というのが第一印象だったのこと。そのうえで、ルパート・サンダース監督の、オリジナルである『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』と押井守監督に対する愛が止まらないという印象を受けたという。

 そして、映画を見ていて、その後半で、田中さんは少佐とご自身の共通点を見つけて驚いたらしい。それは、ネタバレになるので詳しくは語れないとのことだが、田中さんが自身のTwitterに度々アップしている内容に関することで、「少佐も?」みたいなことだったという。その共通点を知って、田中さんは心の中でうきうきしたらしいが、「映画をご覧になったあとで、謎解きとして楽しんでいただければ……」とのこと。すでに試写を見ている吉田尚記さんはこのコメントだけで、ピンと来たようだが……。映画を見る楽しみが、またひとつ増えました!

 トークショウのおつぎのテーマは、“役者として”の田中さんの『ゴースト・イン・ザ・シェル』に対する感想。それに対して田中さんは、『ゴースト・イン・ザ・シェル』は『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』を思わせるシーンも多く、「アニメのシーンが浮かんできた」とコメント。そのため、アフレコ時はオリジナルキャストでの収録ということで、聞こえてくる声も同じで、「20年前のスタジオに戻った気分だった」という。

 なお、いまではアニメのアフレコは線画などの状態で声をあてることが多いようだが、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』を収録したときは、映像がほぼ完成されていた状態だったようだ。当時を振り返って田中さんは、収録時は緊張する場面も多々あったという。草薙素子は長セリフが多いうえに、押井監督からは「素子は感情を抑える感じで、表には出さないでほしい」と言われていたので、抑えたうえでの戦闘シーンや感情表現は難しかったそうだ。ちなみに、田中さんによると、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』は収録時から、「これはいままでにないアニメ」ということで、共演していた大塚明夫さんや山寺宏一さんも驚いていたとのことで、「絵の細部まで細かく見ている余裕はなかったが、映像表現にはドキモを抜かれた」(田中さん)という。

 『ゴースト・イン・ザ・シェル』では、そんな『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の映像をしっかりと実写で表現しているわけだが、田中さんがさらに強い印象を受けたのが少佐役のスカーレット・ヨハンソンさん。スカーレット・ヨハンソンさんの身長は160センチほどで、田中さんより低いらしいが、「画面で見る存在感がそれを感じさせないほど」の圧倒的な存在感に感じ入った様子。さらに絶賛したのが、スカーレットさんの美しさで、「まるで義体ではないかと思わせる美しさですね」と田中さん。

『ゴースト・イン・ザ・シェル』“公開直前緊急ファンミーティング”で田中敦子さんが語る、草薙素子との数奇な縁_04
※オフォシャル写真

 今回、『ゴースト・イン・ザ・シェル』の日本語吹替版で、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』のオリジナルキャストが再集結することになったことに関しては、「私たちを選んでいただいて光栄」と田中さんはあくまで謙虚。ファンからすると、当然のこと、「日本語吹替版はオリジナルキャストしかない!」とも思われるのだが、「キャスティングに関して、私たちができることはないから」と田中さんにとっては、今回のキャスティングは驚きだったようだ。トークショウでは、そのことに関連して、昨年カナダのアニメコンベンションに出席したときのエピソードを披露してくれた。それによると、同コンベンションで、「ただいま北米の最大の関心時は『ゴースト・イン・ザ・シェル』の実写化だが、敦子はどう思っているのか?」と質問されたときに、さすがに日本の声優の立場から実写化に対してコメントできることがなくて、「(田中さんの)最大の関心事は、日本語版の声優が誰になるかということ」と、冗談めかして返答したらしいが、それくらいキャスティングに関しては、不明だったようだ。「アフレコの制作会社が、オリジナルメンバーを選んでくれたことに感謝します」と改めて田中さん。

 『ゴースト・イン・ザ・シェル』で少佐を演じるにあたっての心構えについては、「内容に関しては、ハリウッドできちんと制作されたストーリーなので、完成品を拝見して、そこからインスピレーションを受けて演じました」とのこと。22年前のアニメを見てくれたファンに喜んでもらえるような吹替版を作りたいと思ったという。

 一方で、トークショウでは、『ゴースト・イン・ザ・シェル』にて荒巻を演じたビートたけしさんと草薙素子との意外な関係も明かされた。なんと、ビートたけしが審査委員長を務める東京スポーツ映画大賞の第5回(1996年)で、草薙素子が主演女優賞を受賞しているというのだ(ちなみに、その年の作品賞は『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』が受賞)。“ワールドプレミア”などでのビートたけしさんのコメントを聞いていると、もしかしてご本人はそのことをお忘れになっているのではないかとも思われるが、なんとも奇妙な縁というべきか……。

 オリジナルキャストが集結した『ゴースト・イン・ザ・シェル』の吹替版だが、実際の収録にあたっては、田中敦子さん、大塚明夫さん、山寺宏一さんに加えて、イシカワ役の仲野裕さんの4人が参加して、1日かけてじっくりと行ったという。いま洋画の吹替は、単独で行うことが多いらしいので、主要キャストが揃ってのアフレコには田中さんも感慨深げ。収録当日は、ハリウッドを背負う大作でもあるし、オリジナルのアニメも名作なので、田中さんは緊張したというが、一方で、大塚さんや山寺さんと久しぶりにいっしょに仕事ができるということでワクワクしていたとも言う。大塚さんや山寺さんは、田中さんにとって大先輩であり兄貴であり、騎士(ナイト)のような存在なので、「ジタバタしても始まらないなということで、いままでと同じようについていくことを考えた」という。「委ねて、草薙素子を引き出してもらうという感覚」で、収録に臨んだというから、長年のあいだで築かれた信頼関係だ。山寺さんから、少佐とバトーとの会話のシーンに対して、「目を閉じてセリフを追いかけていると、アニメを見ているような感覚で、アニメのシーンも浮かぶね」と言ってもらったのがうれしかったのだとか。

 また、収録にあたっては、キャスト陣が適宜台本の修正などもしていったようだ。それは、おもに役の口調に関すること。たとえば、当初の台本では少佐が荒巻に対して敬語で話していたようだが、オリジナルの素子は荒巻に対してぶっきらぼうな口調で通すので、田中さんのほうで台本の語尾を修正して提案したという。さらには、バトーが荒巻のことを“おやっさん”と呼びかけるとか、バトーが少佐に対しては丁寧な口調で押し通すなど、アフレコにあたっては「公安9課で熟知していることを反映した」という。吉田尚記さんも感心していたが、まさに「公安9課のようなチームワーク」だ。

 トークショウも終盤になり、今回『ゴースト・イン・ザ・シェル』で少佐を演じてみて、改めて「草薙素子をどう思うか?」と問われた田中さんは、「草薙素子はいちばん近くていちばん遠い存在だといつも思っています」とコメント。続けて、「演じているのは私ですが、少佐はとてもタフで、私とは真逆の存在ですし、私はいつも憧れてきました。少佐のようになりたいという思いもあって、それがセリフに反映されている部分も大いにあります」という。

『ゴースト・イン・ザ・シェル』“公開直前緊急ファンミーティング”で田中敦子さんが語る、草薙素子との数奇な縁_03

 続けて、田中さんは「ネットから浮上したのは4回目だと思っている」という、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』ならではの独特な表現で、草薙素子との関わりを教えてくれた。“ネットから浮上した”というのは、端的に言えば、草薙素子を演じるにあたって4回呼び寄せられたということだ。1回目は言うまでもなく『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)で、大規模なオーディションがくり返し行われて、最終的に田中さんが押井監督に選ばれた。2回目は神山健治監督の『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002年~)のとき。同作の制作が開始されたときも、当初は「違うキャストで」ということで、オーディションが行われたのだという。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のときにもオーディションがあったというのは驚きだが、そこで田中さんはオーディションに参加し、結果として、「素子に選ばれる」ことになった。3度目は『イノセンス』(2004年)。これは劇場公開時のパンブレットに書かれていることらしいが、押井監督は「素子はネットに潜ったので、声優は誰でもかまわないのではないか? 違う義体で声が変わったという設定もあり得る」と判断し、そのときも大規模なオーディションが行われたのだという。ところが、3回目も「素子が私を選んだ」と田中さん。そして4回目、つまり今回の『ゴースト・イン・ザ・シェル』。少佐役はふだんスカーレット・ヨハンソンさんを担当している声優さんでもよかったし、『攻殻機動隊 ARISE』の坂本真綾さんでもよかった。だが、「素子が私を選んだ」という。田中さんが草薙素子を引き寄せるのか、草薙素子が田中さんを呼び寄せるのか……。運命が結びつけた不思議な縁としか言いようがないのかもしれない。

 最後に田中さんは、草薙素子のいちばん印象的なセリフとして、「ネットは広大だわ」を披露し、来場者からの大歓声を浴びたあとで、来場者や『ゴースト・イン・ザ・シェル』を楽しみにしているファンに向けてのメッセージを送ってくれた。「ハリウッドが作った『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、本当にすばらしい『攻殻機動隊』の世界になっています。そして、それを私たち1995年のオリジナルの公安9課のメンバーがゴーストを吹き込むことができました。私たちが心を込めて作った日本語吹替版。ハリウッドの『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、アニメファンの方でも楽しめる作品になっていると思いますので、最後までじっくり見ていただけるとうれしいです」。

 『攻殻機動隊』ファンとしては、『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、断固日本語吹替版でも見ないといけないわけです!

『ゴースト・イン・ザ・シェル』“公開直前緊急ファンミーティング”で田中敦子さんが語る、草薙素子との数奇な縁_01