河津氏がRPGを見つめ直し、再定義した新たな『サガ』とは。『サガ スカーレット グレイス』開発スタッフインタビュー

PS Vita用ソフト『サガ スカーレット グレイス』の開発スタッフインタビューをお届け。家庭用ゲームとしては久しぶりとなる『サガ』新作に込めたこだわりについて語っていただいた。

●25年以上の歴史を刻む『サガ』の、新たな定義

 2016年12月15日に発売された、スクウェア・エニックスの『サガ スカーレット グレイス』。本作は、つねに変化し続けてきた『サガ』シリーズらしく、ゲームデザインやグラフィック、バトルなど、さまざまな要素において、挑戦が盛り込まれたタイトルとなっている。

 本記事では、ゲームデザイン・シナリオを手掛けた河津秋敏氏、リードデザイナー稲垣喜光氏、バトルプランナー生田泰浩氏のインタビューをお届け。家庭用ゲームとしては久しぶりとなる『サガ』新作に込めたこだわりについて語っていただいた。
※本インタビューは、週刊ファミ通2017年1月5日号(2016年12月22日発売)に掲載された記事に、加筆・修正を施した完全版です。

■写真左
リードデザイナー 稲垣喜光氏 Inagaki Yoshimitsu
アンリミテッド:サガ』や『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』にも参加。『ミンストレルソング』では、“レフティフォーク”について、ポーズモーションを織り交ぜながらカッコイイ演出にできないか試行錯誤していたことが思い出深いとのこと。デスやシェラハの攻撃も、こだわって作っていた記憶があるとか。(文中は稲垣)

■写真中央
ゲームデザイン・シナリオ 河津秋敏氏 Kawazu Akitoshi
言わずと知れた『サガ』シリーズの生みの親。今回はゲームデザイン・シナリオのほか、主題歌「胸に刻んで」の作詞にも携わっている。ちなみに本作では、楽曲のタイトルも河津氏がつけているそうだ。サウンドに関するインタビューはこちら。(文中は河津)

■写真右
バトルプランナー 生田泰浩氏 Ikuta Yasuhiro
サガ スカーレット グレイス』のバトルの大半を構築。TIPSの一部や技・術の解説のテキストも手掛けており、文から『サガ』らしさが感じられるように尽力したとか。(たとえばヒートビートの解説文などを読むと、ファンならニヤリとできるだろう)。『サガ』チームに参加する前は、『ファイナルファンタジーXIV』の開発に携わっていたとのこと。(文中は生田)
※生田氏によるバトルのアドバイスはこちら

●『サガ スカーレット グレイス』のコンセプトは約30年前にあった!?

――12月15日に『サガ スカーレット グレイス』がいよいよ発売となりました。発売を迎えてのいまのお気持ちを教えてください。

河津 楽しんでいただけているのかなという期待と不安でいっぱいです。発売日からプレイしてくださっている方の中には、もうエンディングまで到達した方もいるかもしれませんが、ひとりの主人公でクリアーしてもまだまだ楽しめますから、じっくりと遊んでいただきたいです。

稲垣 自分は過去に何作か『サガ』シリーズの開発に携わっていますが、正直、手応えのあったものも、なかったものもあり……そんな中、自分なりに答えを出して、「『サガ』はこうするべき」と取り組みましたので、そういった部分をプレイヤーの皆さんが受け入れてくださっているか、気になるところですね。

生田 自分は、初めてクリアーしたRPGが『魔界塔士サ・ガ』で、『サガ』シリーズがずっと好きだったんです。以前から『サガ』を作りたいと思っていたので、今回初めて『サガ』に関わることができて感無量です。ちょっと尖ったゲームではありますが、楽しいゲームですので、ぜひプレイしていただきたいです。

河津 生田くんは、チームに入ってもらう前に面談をしたとき、『サガ』が好きだという素振りは一切していませんでしたけどね(笑)。

生田 開発中は、『サガ』ファンだということはあまりアピールしたくなかったので……開発が終わって、ようやく言えるようになりました(笑)。

――(笑)。本作が発表されたのは2014年末でしたが、プロジェクトはいつから動き出したのですか?

河津 2013年の中ごろだったと思います。構想を始めたのはもうちょっと前ですが。当時
はどのタイトルも激動の時期で、チームのメンバーを捜しても、「(『サガ』を)やりたいんですけど、いま動けないんですよね」という人ばっかりだったんですよね。外交辞令か本音かはわかりませんが(笑)。そんな中で、稲垣くんが担当していたタイトルの開発がちょうど終わりそうだったので、「いっしょにやれないか」と話をしたら、稲垣くんを含む何人かのスタッフが「やりますよ」と言ってくれて、動き出した形ですね。生田くんには、もうちょっと後に合流してもらいました。

稲垣 当時はスマートフォンのゲームが台頭してきていて、自分の中で、「これからゲームはどうあるべきか」と悩みながら挑戦していた時期だったんです。そんな中で、“『サガ』をつぎに作るなら、こういうことをやってみたい”というアイデアはなんとなく温めていたので、河津さんに声をかけられて、“久しぶりに『サガ』をきっちり作りたい”と思い、参加しました。

河津 それから生田くんが合流するまでは、バトルの細かいところは置いておいて、ほかの部分を作っていきました。先にバトルの詳細を決めちゃうと、生田くんがやることがなくなっちゃうんで。プランナーって、ゲームを自分で作りたいものですから、そこは残しておこうと。細かいところが決まらないので、稲垣くんはちょっとたいへんだったかもしれませんが。

――河津さんは以前、本作のコンセプトは“プレイヤーに情報を与えて、自由に選ばせる”ことだとお話しされていましたが、そのコンセプトはいつごろ決まったのでしょうか。

河津 最終的なゲーム内容については、開発を進めながら固めていっているので具体的にいつとは言えませんが、イベントにせよ、バトルにせよ、“情報が全部見える状態にする”というのは、開発初期から考えていました。

──それは、いままでにないものを作ってみたい、という思いから生まれたコンセプトなのでしょうか。

河津 そうですね……たとえば、オープンワールドのゲームは自由度が高いと言われていますが、なんでもできると言いながら、意外と何も起きなかったりするじゃないですか。触ってみないとわからない。近づくと光るアイコンが出て、“これは触れます”と示したりする。けっきょく旧来の表現から抜け出していないんですよね。アイコンを求めて走り回る、それがプレイの大半を占めているのはちょっとおかしいんじゃないかと。それなら、起きることが目の前にすべて並べてあって、それにどんどん取り組んでいけるという形を作れないかなと思ったんです。

――ゲームの楽しい部分をぎゅっと凝縮させたような形を作るということですね。

河津 この発想は、もう『ファイナルファンタジー』の『I』や『II』を作っていたころからあったんですよ。大学の後輩が「町に行ったら、町の人がずらっと並んでいて、順番に話せればラクですよね」なんて言っていて。「それじゃゲームにならないだろ」と笑っていたんですが、極論すると、ゲーム自体はそれでも成り立つんですよね。その発想を、違和感のないようにゲームに落とし込むことにチャレンジしたのが『サガ スカーレット グレイス』です。約30年越しに、与えられた課題に対して答えを出せたなと思っています。

●グラフィックとバトルを作るうえで意識した独自性

──開発を進めていく中で、ゲームの絵作りについて、河津さんはどういったリクエストをされましたか?

河津 キャラクターはすべて3Dで作っていて、バトルは3Dで表現していますが、それ以外の部分は2Dイラストのような見えかたにしたいと思って、アート担当のチームにはそこを追及してほしいと伝えていました。リアルを意識的に捨てて、デフォルメしていく中での表現を研究してくれと。

稲垣 見ていただいてわかる通り、クセの強い絵作りではあるので、どのくらいに落とし込むのが正解なのかはかなり悩みました。デフォルメと言いつつも、子ども向けというわけではないですし、小林智美先生のイラストのイメージに合うようにするべきでもあるので、何回も何回もグラフィックを試作して試行錯誤していた時期もありました。リアルな絵作りではなく、かつ大人向けの世界観というのが『サガ』の目指す独自性だと思うので、キャラクターに関してもワールドに関してもそれを実現すべく取り組みました。

――ワールドについては、河津さんが「“観光地の地図”っぽさを意識した」と以前おっしゃっていましたが、“観光地の地図”っぽさを出すために、どのような要素を取り入れましたか?

稲垣 シンボリックな世界を絵画的に表現した状態を“観光地の地図”にたとえることに、とくに違和感はありませんでした。ただ、絵画的な表現と言ってもいろいろあるので、ワールドのデザイナー陣はこの部分にこだわってましたね。『サガ』は、キャラクターやアイテムや建造物には西洋風な要素が多くありますが、五行の概念や技名、魔法では無く“術”と呼ぶところなど、東洋風に表現する部分も多い点がおもしろいと思ってます。ワールドマップは、これらの要素を日本美術を意識して表現したものになっています。

▲こちらがワールドマップ。川の流れの表現などに、日本美術らしさを感じる。

▲日本らしさを感じると言えば、着物をベースにした衣装を着ているタリア。ちなみに、キャラクターモデルを担当したデザイナーは、タリアのモデルを作る際、着物の表現よりも、端整な顔立ちの落としどころに苦戦していたとか。

――続いて、バトルシステムについてうかがいます。生田さんは、具体的にバトルのどの要素を担当されたのでしょうか。

生田 タイムラインで行動する順番が見えること、バトル中に連撃が発生することは、自分がチームに参加する前から決まっていたのですが、ダメージの計算ですとか、キャラクターの成長など、そのほかの部分は自分がいちから構築していきました。情報が見えているという点をどう活かすか、どうやったらバトルがおもしろくなるのか考えながら作り込みました。

河津 作業量はかなり多かったのですが、生田くんのようなバトルが好きな人ならやれるだろうし、ちゃんとおもしろくしてくれると思っていたので、ほとんどお任せでしたね。

生田 『サガ』好きでしたので、楽しく作らせていただきました。ただ、今回はランダムエンカウントというものはなくて、このバトルではこのモンスターが出現するというのが全部決まっていたので、そのデータを作るのはかなりたいへんでしたね。

――出現する敵はすべて手作業で決めた?

生田 そうなんです。すべてがイベントバトルのようなイメージです。1000パターンくらいの敵パーティーのデータを作りましたね。モンスターの種類も、技も種類もいっぱいあるし……やり甲斐はあるけど、失敗はできないのでプレッシャーがありました。ですが、『サガ』のバトルをつまらなくするわけにはいかん! とがむしゃらにがんばりました。

――バトルを作るうえで、“ここだけはブレないように”と決めていたポイントはありますか?

生田 自分はカードゲームやボードゲームが好きなのですが、“使えない”と言われてしまうカードや要素が生まれてしまうのは好きじゃないんです。ですので、いろいろな技や武器が活きるようにしよう、敵にもそれぞれ輝く部分を作ろうと意識していました。状態異常の種類やキャラクターのパラメーターも、要らないと言われるものができてしまわないように注意しました。

――使えない技がない、というのはプレイして実感しました。途中で「この技、こういう局面で役立つぞ!?」と気づいて、うれしくなったりして。

生田 バトル中に発見することで「しめしめ」と思える要素は各所に散りばめています。できれば攻略情報を見る前に、自分で気づいて、「俺は気づいたぜ!」という気持ちになってもらえたらうれしいです。