リリースされたばかりのUnity 5はここがすごい!

 2015年4月13日(月)、14日(火)、東京・ホテル日航東京にて、Unite 2015 Tokyoが開催されている。同イベントは、ゲームの開発環境Unityの利用者を対象に、講演やラウンドテーブル、スポンサーによる展示などが行われる、国内最大の公式カンファレンス。2012年の開催開始以来今回で4回目を数え、Unity利用者の広がりとともに、年々その規模を拡大してきた。ちなみに、Uniteは世界各国で開催されており、Unite 2015 Tokyoのあとは、韓国や中国などでも立て続けに実施予定とのことなので、Unityの精力ぶりには驚かされる。

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▲ユニティ・テクノロジーズの創始者であるデイビット・ヘルガソン氏。

 会期中には40あまりのセッションが予定されているUnite 2015 Tokyoだが、開催初日にあたる13日には基調講演が行われた。基調講演では、ユニティ・テクノロジーズの創始者であるデイビット・ヘルガソン氏をホスト役に、先日提供されたばかりのUnity 5を中心に、同社のここ1年の取り組みが紹介された。昨年のUnite Japan 2014に次いでの登壇になるヘルガソン氏は、「この1年でいろいろなことがありました」と、自身がCEOを退いてジョン・リカテロ氏にその座を譲ったことなどに触れつつ、「正しい方向に向かっています」と、ユニティ・テクノロジーズの方針がゲーム業界の発展の方向性に沿うものであることを強調、その象徴がUnity 5だとした。今年のGDC 2015の会期に合わせて提供が開始されたUnity 5は、物理ベースシェーダーやリアルタイムグローバルイルミネーションなどの利用を可能にした、ヘルガソン氏いわく、「インクレディブル(途方もない)グラフィック」。そのすごさを示す一例として、会場ではGDC 2015でも公開されたテクニカルデモ“The Blacksmith”が公開された。

 ヘルガソン氏によると、この“The Blacksmith”は3人による小さいチームにより短期間で作ったとのことで、「本当にすごい映像を実現しています。とくに相手を倒したあとで、悲しげな表情をしているところがいいですね」と、Unity 5のテクノロジーでここまでの表現が可能になったことに対するうれしさを感じさせる表情で語った。

『Republique Remastered』のコードが無料アップロード

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▲Camouflajのライアン・ペイトン氏。

 ヘルガソン氏に紹介されて壇上に姿を表したのが、Camouflaj(カモフラージュ)のライアン・ペイトン氏。こちらは、同社のステルスアドベンチャー『Republique(リパブリック)』のPC版に、Unity 5が使用されていることから、登壇と相成ったもの。ペイトン氏は、2年前のUnite Japanで配信前の『Republique』をお披露目したことに触れながら、この2年のあいだに、iOS版、Android版、そしてPC版『Republique Remastered』まで完成できたことをうれしそうに語った(現時点では、PC版はエピソード1のみ)。「PC版『Republique Remastered』は、最新のUnity 5を使った“完全版”であり、Unity 5の特徴を使った最初のゲームになりました」とペイトン氏。

 ペイトン氏は、『Republique』の開発に取り組み際に、なぜUnityを選んだかを説明。『Republique』では、プレイヤーと主人公(ホープ)との人間関係がキモになることから、彼女の感情を伝えるためにはクオリティーの高いフェイシャルキャプチャーが必要との判断になったという。とはいえ、その目的を達成するための方法がわからずにいたところに出会ったのが、Unityだったのだという。そういう意味では、『Republique』の魅力のかなりの部分は、Unityに負っていると言えるのかもしれない。

 2014年に『Republique』の“2”と“3”のスマートフォン版がリリースされて、つぎなる目標になったのがPC版。とはいえ、スマートフォン版をそのままPCに移植したのではPCユーザーが満足しない……というところで出会ったのがUnity 5。最初にUnity 5のデモを見て、「これはいける」と判断したというペイトン氏は、『Republique』を作り直し、2014年夏に開発をスタートして、12月には『Republique Remastered』がほぼ出来上がったという。ペイトン氏は、スマートフォン版とPC版の画面を比較して、Unity 5のグラフィック性能の向上ぶりや、使いやすさを強調した。ユニテイ・テクノロジーズとCamouflajのコラボの顛末については、サイトに公開されているとのことなので(英文)、気になる方はご参考に。

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▲いずれも左がスマートフォン版で右がPC版の『Republique』の画面写真。スマートフォン版でも美麗さが話題だった同作だが、PC版ではさらに進化したのがわかる。

 『Republique』の今後に関しては、ペイトン氏の口より「PC版の残りのエピソードを年末までに出したい」、「日本語バージョンも今年には出したい」といったコメントが聞かれた。さらに気になるのは、Camouflajの次なるプロジェクト。ペイトン氏によると、シンラ・テクノロジーと組んでのストリーミングサービスを予定しているとのことだ。

 『メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』や『Halo 4』などの開発に携わった経験を持つペイトン氏は、“ゲーム愛”に溢れるクリエイター。「Unity 5のようなすばらしいツールを最大限に活用して、ユーザーの皆さんにすばらしい体験をしてもらえるのが目標です」(ペイトン氏)と熱く語った。

 ちなみに、基調講演では、ちょっとしたサプライズも! 『Republique Remastered』のプロジェクトデータを、無料でアップロードしたというのだ。こちらは、「Unityのユーザーに、『Republique Remastered』のデータを参考にしてほしい」という、ペイトン氏からの粋な計らい。『Republique Remastered』を使ってUnity 5のデモを披露すべく登壇した、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社 日本担当ディレクターの大前広樹氏は、「ライアンにとって『Republique』は人生のかかったプロジェクト。そのデータをダウンロードするというには、人の人生をダウンロードしているような感じがする」といった主旨の発言をしていたが、まさに納得のいく言葉。『Republique Remastered』のデータアップロードは、ゲーム業界のさらなる発展を考えての英断と言えるだろう。

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▲実際にアップロードされた『Republique Remastered』のデータを使ってデモプレイ。Unityユーザーの皆さんは、ぜひともご参考に!
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▲実際のデータはさすがに重いので……ということで、サイズを落としたバージョンでUnity 5の性能のデモを披露。さまざまな新機能が紹介された。

UnityはさらにVRに注力する

 引き続き登壇したヘルガソン氏が話題にしたのは、Unityのマルチプラットフォーム対応。「ユニティがここまで大きくなれた要因。誇りに思っています」(ヘルガソン氏)とのことだが、現在は21のプラットフォームに対応しており、その歩みはとどまることはなさそう。基調講演ではマルチプラットフォーム対応の一環として、ブラウザで3Dグラフィックを扱うWeb GL 2.0への対応や、C#で書かれたコードをC++に変換して動かせるIL2CPPのデモなどが紹介された。さらにヘルガソン氏からは、UnityのNewニンテンドー3DSへの対応も明らかに。「任天堂さんとの協力関係も7~8年になりますが、長い時間をかけて培った信頼関係があればこそです」と誇らしげにベルガソン氏。裏を返せば、それだけUnityがゲーム開発者にとって欠かせないツールになっているということなのだろう。

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▲最初に6つのプラットフォームに対応したときは、「これでいいのでは……」とも思ったともいうが、マルチプラットフォーム対応はUnityの宿命に! 現時点では21のプラットフォームに対応。
▲IL2CPPのサポートにより、性能は8倍に。
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▲スマートフォン向けゲームアプリもさらに快適に遊べるようになる。
▲Newニンテンドー3DSへの対応も発表された。
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▲Oculus VRのパルマー・ラッキー氏。

 そして、ここ数年で見逃せないプラットフォームと言えば、もちろんVR。基調講演ではOculus VRのパルマー・ラッキー氏が登壇し、「この1年はVRにとってすばらしい年でした。過去10年を合わせたよりも、この1年のほうがVR関連のコンテンツが多いくらいです。しかもその大半がUnityです」とコメント。サムソンやソニー・コンピュータエンタテインメント、Valve、Googleなど、VRに関わる企業も増えており、「それまでは開発者の“おもちゃ”的な存在だったVRが、一般的になりつつある」との言葉は、多くの人にとっても共通の感慨ではないかと思われる。

 サポート体制の強化も含め、VR関連を強化していくというUnityだが、Unity 5.1から、インテグレーションとして、該当項目をチェックするだけで、1発でコンテンツがVR化する機能が実装されることになった。壇上では、こちらのインテグレーションのデモを大前氏が披露。当然のこと、ヘッドマウントディスプレイがないと実際には体感できないわけだが、1発でVR化が実現するとは夢のような話。今後、VR対応のゲームも増えていくのは間違いなさそうだ。ふたたび登壇したラッキー氏は、「昨年のUnite Japanでは、“VRの開発に入るといいですよ”とある種のんびりと提案したのですが、今年は緊急に提案させていただきます。VRを作りたいという人は、いますぐ始めないと間に合わないです!」とのことだ。

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 そのほか基調講演では、Unity Cloud BuildやUnity Adsなどの新サービスも、ヘルガソン氏より紹介された。Unity Cloud Buildは、クラウド上でプロジェクトのビルド(ソースコードなどから最終的な実行可能ファイルを作成すること)を行うというサービス。最初は「ビルドをクラウドに置くなんて意味があるのか?」と思ったというヘルガソン氏だが、実際に試してみてその使い心地のよさにびっくり。通常ビルド作成時では待ち時間がもったいないが、Unity Cloud Buildを使えば、それらの待ち時間が一掃。サービス開始後は28万あまりのビルドが構築され、15万時間が節約されたという。

 一方のUnity Adsは、ゲームに特化したスマートフォン向けの動画広告サービス。トラフィックは高いが収益が上がらない……というコンテンツなどに、とくに有効らしい。現時点で1500のゲームアプリでUnity Adsが利用されており、北米上位10アプリ中4つでUnity Adsが使われている。日本では、サイバーエージェントとグリーがサポートチームに参画しているのだとか。

 「ここまで来られたのは皆様のおかげです」とヘルガソン氏。この1年の歩みを見るだけでも、その進化の道筋は驚くべきものがあるUnity。今後もますます、その存在感を増していきそうだ。

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▲クラウド上でビルドを行うというUnity Cloud Build。外出先で「ビルドが動かなくなった」というときにも便利。
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▲スマートフォン向けの動画広告サービスUnity Ads。『CROSSY ROAD』では3ヵ月で3億5000万円の収益があったらしい。
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▲最後に、Unityがニコニコ超会議2015に出展することも発表。飲食ブース“大鳥コロ屋”を展開(左)。さらにユニティちゃんのLINEスタンプも販売をスタートする(右)。このへんの遊び心もたまらない。
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▲左からユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの豊田信夫代表取締役会長、大前広樹氏、デイビット・ヘルガソン氏、Oculus VRのパルマー・ラッキー氏、Camouflajのライアン・ペイトン氏。
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▲協賛ブースエリアでは、Unityで作ったゲームがお披露目。
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▲対応が発表されたばかりのNewニンテンドー3DS用タイトルのデモも披露。
▲こちらは、『Hashilus』。イベントなどでおなじみのOculus Rift対応の競馬ゲーム。
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▲Oculusのデモルームでは、発売日も決まったGear VR(左)と、新型機Crescent Bay(右)が出展。Crescent Bayでは5種類のデモがつぎからつへとプレイ可能だった。体験した方に話を聞くと、「Oculus Riftに比べると、画面が美麗になり、反応もよくなっています。ヘッドフォンが付属しているのもいいですね」とのこと。