2013年4月15日、東京都のベルサール汐留で、ゲームエンジン“Unity”の技術カンファレンス“UNITE Japan 2013”が開幕した。Unity主催の公式カンファレンスとして過去7回にわたって行われてきたUNITEだが、日本では今回が初の開催となる。
 2日間行われるUNITE Japanの開催初日となる本日は、午前中に基調講演が行われ、Unityのデビット・ヘルガソンCEOやCamouflajのライアン・ペイトン氏が登壇した。

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▲左から、冒頭の挨拶を行ったユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの豊田信夫代表取締役会長、Unityの基本理念と今後の展望を語ったUnityのデビット・ヘルガソンCEO、そしてゲストスピーカーとして登壇したライアン・ペイトン氏。
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▲オープニングで流れたのは……。

“ゲームを民主化する”ということ、そして“Unity Forever”

 Unityの創設者のひとりであるヘルガソン氏は、Philosophy(哲学)、Environment(ゲーム業界の環境)、Future(未来)という3つのキーワードに基づき、Unityのこれまでとこれからを語った。

 “ゲーム開発を民主化する”という理念で開発が進められてきたUnity。当初はコアメンバーの3人が地下室で作業するところから始まり、現在は180万人の開発者(過去30日間のアクティブユーザーに限定しても40万人が合計500万時間使用)が使用し、テクスチャーやサウンドからエディターの拡張機能まで幅広い開発素材が販売されているアセットストアも28万人が利用し、6500パッケージが販売中。中にはアセットストアを通じて月に300万円売り上げる人もいるという。

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 こうしたUnityの躍進の背景となっているのが、ゲーム業界の“環境”の変化だ。ヘルガソン氏はApple Iが200台製造されてからPCが36年かけて15億台世に出たのに対し、スマートフォンは10年に満たずに15億台に、2018年には60億台に到達する見込みであることを比較して、その圧倒的な成長速度について言及。当然、スマートフォンはゲームがプレイ可能なデバイスでもあるわけで、2013年にはトップのiOSゲームは4億ドルを稼ぎだすのはではないかという推測もあるという。
 これと同時に、インディーゲームも市場での存在感を高め、洗練されてきている、とヘルガソン氏。

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 ここで話は、ヘルガソン氏がアタリ創業者のノーラン・ブッシュネル氏と会話した際に出たという“エンターテインメントの半減期”に飛ぶ。
 いわく、エンターテインメントの種類はどんどん増えていく中で、あるゲームの魅力が持続する時間のサイクルは早く、モバイルゲームの場合はさらに早くて、もっとも魅力的なモバイルゲームであっても2年ももてばいいほう。
 しかし一方で、ゲームとほかのエンターテインメントでは、旧作の扱いがかなり違う。移植・リメイクこそあれ圧倒的に新作中心の市場であり、ビートルズと市場で戦わなければいけないようなことはあまりないわけだ。
 サイクルが早い市場で物を作り続けるのは大変なことではあるが、だからこそ開発者がつねに必要とされ重要なのだ、とヘルガソン氏は参加者(もちろんほとんどが開発者である)に語りかけ、アイデアを具現化できる技術のある賢い人、そしてもちろんクリエイティブな人、情熱的な人……優れた人々がほかの業界にはないレベルで集まっているのがゲーム業界である、と続けた。

 今後については、よりクオリティをあげていくこと、リリースを加速化させ、より多くのプラットフォームをサポートしていくことなどを指針として提示した上で、“Unity Forever”というキーワードで、健全な財務基盤に基いて長期間・安定的にツールを提供していくこと、3人で創業した頃のような精神を維持し、コミュニティに対してフレンドリーであり続けること、そして「ゾンビのような形で存続しても意味が無い」としてスピード感についても維持し続けることなどを約束し、同氏の講演パートを締めくくった。

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すべては「壮大なゲームを作りたくて」

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▲ペイトン氏の掲げる「俺の好きなゲームトップ9」

 そしてゲストスピーカーとして呼び込まれた、Camouflajのライアン・ペイトン氏。同氏はゲームメディアのライターとしてキャリアをスタートし、KONAMIを経てマイクロソフトを退職後、自身のスタジオを立ち上げ、iOS/PC対応のゲーム『Republique』をUnityで開発中。昨年に行われたクラウドファンディングサイトKickStarterでの出資募集にも成功し、現在は完成に向けて制作を進めている最中だ。

 ペイトン氏はまず自身の好むゲームを9つ挙げ(ほとんど日本製)、こういった壮大な世界観、ストーリーがしっかりとしたゲームに必要な“5つのカギ”を提示した。
 まずはクリエイティブ面での自由。『killer7』を挙げて、須田剛一率いるグラスホッパー・マニファクチュアの創造性にできるだけ制限をかけないようプロデュースサイドが自由を与えたことが良かったと解説。
 次にチーム。KONAMIで小島プロダクションの開発現場に立ち会って、非常に多岐に渡るゲーム要素をビジョンに基づいて実現できる、優れたチームの重要性を実感したそう。
 そしてお金。当然のように非常に重要な要素だが、一方で『風ノ旅ビト』の成功を受けて、数億円規模でも壮大なゲームを作ることはできるのではないかと考えているそう。
 4番目はプラットフォーム。プラットフォームのおかげで挑戦的なタイトルでも大きく売れたり、逆にプラットフォームが売れていないから素晴らしい壮大なゲームが売れなかったりといったことがあり、シリーズの運命を決めてしまうこともある。ハリウッド映画ではこういったことはなく(映画は映画だからだ)、ゲームは特にプラットフォームに左右されるメディアであるとする。
 そして最後がゲームエンジン。効率的にクリエイティブを形にするにあたって重要な役割を担う。

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 自身の経歴を振り返って、「ラッキーだったと思う」と語るペイトン氏。念願の『Halo』フランチャイズに関われることになり、頂点となるはずだったマイクロソフトでのキャリアだったが、なぜ方針転換して独立することにしたのか?

 それは5つのカギを手に入れられなかったからだ。優秀なチームはあり、資金もあったが、クリエイティブの自由や好きなエンジンは得られず、何とプラットフォームにも満足できなかったのだという。主要プラットフォームのひとつであるXbox 360と北米で絶大な人気を誇る『Halo』フランチャイズだが、ほとんどがアメリカとイギリスであり、「1億人に遊んで欲しい」という夢には遠い、とペイトン氏。

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 そして貯めた資産を放出して作ったのがCamouflajであり、その第1作が『Republique』なのである。
 会社のビジョンは「1億人にプレイしてもらう」ということ。スマートフォンを主戦場に選んだのは、わざわざゲーム機を買う層以外にも遊んでもらうために、だれでも持っているものに向けて作る必要があったからだ。
 だからといってカジュアルに振ることはなく、ゲーム機のような壮大なゲームを作り、ハリウッドと勝負できるような作品を作る、それがペイトン氏が現在進めている夢なのだ。『Republique』は以下のような理念に基づいているという。

・ゲーム機のゲームのようなしっかりとした壮大なゲーム
・複雑な操作を習得する必要がなく、ワンタッチでコントロールできるゲームプレイ
・IPをパブリッシャーに売り渡すことなく、独立性を維持する
・意味のある世界を作る。(ネットの言論がテーマであるという)
・グローバルなゲームとして提供する

 ペイトン氏いわく、先の5つのカギをCamouflajと『Republique』で手に入れようと挑戦するのは、5年前なら不可能なことであったという。

 まずはクリエイティブ面での自由。5年前はそういった立場を手に入れられるのは、お金持ちか有名人か大きな会社にいないと難しかったが、今ならそこそこのスタジオを作れるし、ちょっと大きなプロジェクトも立ち上げられる。
 そしてチーム。現在は20人弱の優秀なチームを持っており、以前であれば有名スタジオのポジションを手放して来てくれるようなことはなかったが、現在はインディーの経験を試してみたい人がすごい増えているという。
 お次は資金。前はIPを売り渡すしかなく、Camouflajでも資金難に陥る局面があったそうだが、ちょうどDouble Fine ProductionsがKickStarterで約3億円の資金募集に成功。クラウドファンディングでIPを手放すことなくファンから直接出資が受けられる時代に。
 プラットフォーム面でも、5年前は現在のようにオープンなデジタル配信プラットフォームはそこまでなかった。
 最後にエンジン。5年前にUnityはすでにあったが、『Republiqueのような』シネマティックで壮大なゲームを作れるものではなかったとペイトン氏。ちなみにUnityを選んだのは、もっともフレキシビリティが高く、作りたいキャラクター、作りたいゲームを作りやすいからだったとか。ちなみにキャラクター面では、スマートフォンゲームであるにも関わらず、モーションキャプチャーやフェイシャルキャプチャー(顔のキャプチャー)を行い、肌の質感などを表現するスキンシェーダーなども積極的に盛り込んでいるそう。

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 夢に向かって順風満帆、と行きたいところだが、最近GDC 2013に出席し、不安になったこともあるという。
 もちろんGDCでは今年もインディーゲームの躍進が続いていたが、一方で『Republique』のアジア展開などにまつわるミーティングを行った際に、相手先のビジネスマンに「少額課金は使えるのか」とか「エンディングのあるゲームなのか」といった事ばかりを聞かれ、かなり落ち込んだようだ。
 そこでペイトン氏が危惧したのが、F2P(基本プレイ無料)モデルやソーシャルゲームマーケットなどの人々が大きな影響力を持つ中、自分が好きであり、作りたくもある壮大なゲームは生き残れるのかということ。自分が営業マンであれば、課金ゲームの方に魅力を持っても仕方がないかもしれない、と考えるペイトン氏。次世代ハードが出てくるにしても、それが失敗したらどうなってしまうのか?

 しかしその不安感は、iOS向けに有料アプリとしてリリースし、クリエイティブ面でも高評価を受けている『The Room』のチームと話したことで落ち着いたのだという。大きな会社に頼らずとも『The Room』はリリースできて成功できたし、『Republique』もリリースへの道を歩めているからだ。

 この経験を通じてペイトン氏は、『Republique』を成功させることにより、ストーリーの強いゲーム、リッチなモバイルゲームでも成功できるという道を作ろうという新たな目的を得たという。
 ちなみに日本向けのリリースについては、英語版リリースと間があきながらも8-4による着実なローカライズを行った『スキタイのムスメ』を参考にしつつ、同時リリースにするか、時間をかけてリリースするか、まだ検討しているとのこと。先のGDCアワードで高評価を受けた『The Walking Dead』のように第1章は無料で以降の章を販売するようなエピソード配信形式なども検討しているという。