数々の名作を生み出した名プロデューサーが大胆トーク!

 2015年1月31日~2月1日、千葉・幕張メッセにて開催された“闘会議2015”。ゲーム実況ストリートのソニーコンピュータエンタテインメントブースでは、“SCE JAPAN スタジオチャンネル”の出張版として、女優の結さんとSCE PR担当の北尾泰大氏をMCに公開生放送が実施された。
 ここでは、2日目に行われた、元SCEの名プロデューサー・小林康秀氏と、SCEプロモーション担当の西島卓氏を招いてのトークイベントをリポートしよう。

元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_01
元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_02
▲小林氏(写真右)と西島氏(写真左)。柔和な表情を浮かべる小林氏だが、じつは出番前、予定よりも1時間早く到着し、現役プロデューサーを説教していたんだとか(西島氏・談)。
▲2日間にわたり、SCEブースで終日MCを務めた、結さん(写真左)と、北尾氏(写真右)。お疲れ様でした。

ミリオンタイトル『みんGOL』の初期販売目標は、なんとわずか……?

 まず、小林氏とはどんな人物なのかの紹介から。『みんなのGOLF』をはじめ、多数のタイトルをプロデュースしてきた小林氏だが、現在では独立して興した“スマイルコネクト・イー”の代表を務めている。この“スマイルコネクト・イー”という社名は、頭文字をとって略すと“SCE”となるが、これは偶然ではないのだという。小林氏いわく、「17年間、SCEで領収書をもらっていたので。どんなに酔っ払っても間違えないように、略称がSCEになるように名付けました。単語の意味はないです(笑)」。飄々と語る小林氏の様子からは、これが本気なのか冗談なのか判断がつきかねるところだが、それだけ長いあいだSCEに務めていた重鎮である、ということだけは間違いない。

 そもそも小林氏は、SCEの創立初期からのメンバーだそうで、SCE ワールドワイド・スタジオの吉田修平プレジデントとは、同じライセンシー担当として、分担しながら仕事を進めた仲だったそうだ。ライセンシーとの折衝がひと通り片付いた後、販売企画部門を経て、希望してゲームを作る側の部署“制作部”に転属となった小林氏。そこで、すでに企画が進んでいた『戦闘国家』のプロジェクトを引き継ぎつつ、新たに自分が始めるプロジェクトとして選んだのが、ゴルフゲームの企画だった。

元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_03

 言うまでもなく、そのプロジェクトこそが、後の大ヒット作『みんなのGOLF』なのだが、じつはこの企画、社内ではスポーツゲームの制作に難色を示す空気があり、なかなかGOサインが出なかったのだという。小林氏が熱意をもって訴えるものの、なかなか事が進まず、最終的には「何本売れるの?」との問いに、「70000本売ります!」と宣言することで、何とか企画を押し通したのだそうだ。いまでこそ「『みんGOL』の目標がたったの70000本?」という感じだが、当時、もっとも売れていたプレイステーション用ソフトの販売本数が6万数千本というレベル。つまり、いままででもっとも売れるソフトにすることを宣言したのだから、じつは大胆な公約だったわけだ。その後、ご存じの通り、『みんなのGOLF』はミリオンセラーとなり、いまに至るまでシリーズ作品がリリースされ続ける人気IPとなっているが、その誕生の裏には、意外な苦労話があったのだ。

元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_04
▲初代『みんGOL』のころのひとコマ(小林氏は左から3番目)。これは雑誌の対戦企画に応えたときのもので、小林氏いわく、「プロデューサー権限で上だけ着させてもらっています」。ちなみにキャディーの格好をしているのは当時の宣伝担当・ステファニー林氏。両サイドにいる方は、現在は北尾氏の上司で、ふたりとも課長さんだそうです。

次元が違かった“上田チーム”

 その後、『ダーククロニクル』、『ICO』、『蚊』などなど、無数のヒットタイトルをプロデュースした小林氏。『みんなのGOLF』ではコースデザインなども手がけたそうだが、その後のタイトルについては、「ディレクターと仲よくやっていくのが、僕の仕事でした」(小林氏)と振り返る。つまり、「レベルファイブで言えば、日野さん(日野晃博氏)が気持ちよくゲームを作れるように。『ICO』なら、上田くん(上田文人氏)がへそを曲げないように(笑)」というわけだ。
 ちなみに『ICO』や『ワンダと巨像』については、「(ディレクターの上田氏が)芸術家肌で、求めている次元が違うんです。それはチーム全体もそうで」と回想する小林氏。「マスターアップしなければいけない時期なのに、モーション担当の女性から“まだいいでしょう!”と詰め寄られたり(苦笑)」(小林氏)といった苦労もあったそうだ。そのせいもあってか、『ICO』の映像を見ながら「やっぱり、いま見ても鳥肌が立ちますね」と語る様子からは、特別な思い入れがうかがえた。

元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_05
元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_06

『ローグギャラクシー』が樹立したうれしくない記録

 「手がけたタイトルの中で、とくに難産だったのは?」という話題で、小林氏が挙げたのは『ローグギャラクシー』だ。マスターアップのスケジュールが『ワンダと巨像』とほぼ同時だったこともあり、かなりたいへんな思いをしたのだとか。これには、その両方のPRを担当していた西島氏も同意し、「確か『ローグギャラクシー』は、PS2ソフトの中で、マスターアップから発売までの期間がいちばん短いということで、記録を持っていたと思います」と、あまりうれしくない記録を樹立してしまったことを説明。そのせいで多方面に迷惑をかけたこともあり、「“苦労が2倍”どころじゃなく、1000倍でした(苦笑)」(西島)と、当時を思い出して苦い表情を浮かべていた。
 もちろん開発の現場も大わらわで、できあがった新バージョンのROMを小林氏自身が福岡(レベルファイブ)から青山(SCE)まで運んだり、ときには日野氏がみずから運んできたこともあったのだとか。

 ちなみにこのステージ、ニコ生でSCEワールドワイド・スタジオの吉田修平プレジデントが視聴しており、ちょくちょくコメントをつけてくれていた。『ローグギャラクシー』についてトークしていた場面では、吉田氏も参加していたアメリカでの会議中、同作の制作上のアクシデントに対応するため、小林氏があわてて抜け出していったエピソードを暴露するコメントも書き込まれていた。

元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_07
元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_08

PS4『みんGOL』最新作は……!?

 そして気になる、『みんなのGOLF』最新作についてのトークも。現在はゲーム業界から離れている小林氏だが、『みんGOL』最新作には“関わっている”とのこと。すでに最新作がPS4用で開発が進められていることが明らかになっているが(詳細はこちら)、いったいどんな内容になるのか?
 ここまでかなりのぶっちゃけトークを展開してきた小林氏だが、さすがにこの件については、関係者から堅く釘を刺されているとのこと。慎重に言葉を選びながら、「これまでの『みんGOL』と、ものすごい違うんですけど、でも『みんGOL』そのものなんですよ。『みんGOL』そのものなんですけど、“いやあ、変わったなぁ”という感じかなぁ」(小林氏)と語った。もう少しだけ、とのリクエストには、「もちろん原点回帰をするわけですけど、でも、PS4ですから。PS4なりのこともやりたいよね、って。……というところかなぁ(苦笑)」(小林氏)とコメントしてくれた。

 というわけで、ゲーム業界を知り尽くしていながら、いまはゲーム業界から離れているという自由なスタンスの小林氏ならではの、興味深いお話が多数飛び出したステージ。なかなかに危ない発言も多々あったので、気になる方は、ぜひタイムシフトで全編視聴してみてほしい。

元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_09
▲小林氏みずから、『みんなのGOLF2』をプレイするひと幕も。十何年ぶりのプレイで、しかも当時と違って液晶テレビ由来の遅延もあったことから、勝手がつかめない様子の小林氏だったが、なんとかボギーにまとめて、胸をなでおろしていた。
元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_10
元SCEの重鎮プロデューサーが登場、『みんGOL』最新作は原点回帰、でも「PS4だから……」【闘会議2015】_11
▲最後にファンに向けてのメッセージを披露。「(小林氏は)延期はないけど、ギリギリまで作っていたことが多かったので。積年の思いを込めて」(西島氏)、「みんなも大好きな言葉でしょ? 本当、いつできるんだろうね。早くやりたいなぁ(笑)」(小林氏)。一瞬緊張した空気が流れた後、「繰り返しアナウンスされている通り、鋭意制作中ということで……」と北尾氏。

【SCEステージリポート・そのほかの記事】
『ぼくのなつやすみ』には雪山をそりで滑る冬休みバージョンが存在した!?【闘会議2015
『どこでもいっしょ』シリーズ生みの親が「PS4で出すならガッツリしたゲームに」と発言!【闘会議2015
『ワイルドアームズ』音楽担当・なるけみちこ氏が生演奏でアノ曲を披露、新作にも言及!?【闘会議2015
名作パズル『XI[sai]』の企画書はたったの1枚だけだった!? SCEトークステージリポート【闘会議2015
『パラッパラッパー』などの生みの親・松浦雅也氏が傑作連発の秘密を語る!【闘会議2015
『アーク ザ ラッド』初代と『2』は1本のゲームだった!? SCEトークステージリポート【闘会議2015
最初の主人公は少年だった!? 光田康典氏、下川Dが登場した『ソウル・サクリファイス』トークステージ【闘会議2015