3月22日に開催された“ゲームタクト スペシャル ガラ・コンサート”のリポートをお届け
全3回にわたってお届けしてきた“沖縄ゲームタクト 2014”のリポートもいよいよ大詰め。ここでは、2014年3月22日に行われた“ゲームタクト スペシャル ガラ・コンサート”の模様をお伝えしていこう。ちなみに“ガラ・コンサート”とは、特別公演のこと。それだけに、東京で練習を続けて沖縄へとやってきた奏者たちと、琉球フィルハーモニックオーケストラの面々、そしてこのイベントの意思に賛同して参加したアーティストたちが一緒になって、心に響く名曲の数々を演奏。アンコールを含む全19曲、2時間以上にも及ぶ大ボリュームとなった。
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コンサートの前には無料のゲーム音楽講座を開催!
ガラ・コンサートの開催前には、出演アーティスト4組によるトークショーが行われた。無料ということもあって、大勢の来場者の姿が。普段ゲームに馴染みのなさそうなご高齢の方々までもが、なかなか聞くことのできないゲーム音楽のアレコレに耳を傾けていた。
大編成フルオーケストラの魅力が爆発したガラ・コンサート前編
開演を飾ったのは、『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』から“オーバーチュア~オープニングタイトル(メドレー)”。大きな物語の始まりを感じさせる前奏曲からコンサートの幕開けにふさわしくファンファーレが高らかに鳴り響くオープニング曲の流れに、来場者ははやくも胸の高鳴りを感じていたはずだ。
2曲目は、声優の杉田智和氏が原案を務める『月英学園-kou-』から“天地神人(てんちじん)”。ラスボス戦の曲ということもあり、壮大さを感じさせるストリングスの上で金管楽器が勇猛に鳴りまくるという、なんともイトケン節を感じさせる一曲。曲終わりの銅鑼の音が鳴り響くと、場内からは大きな拍手が沸き起こった。
続いてステージに登場したのは、ノイジークロークのいとうけいすけ氏。自らの指揮で演奏したのは、PSP用交渉アドベンチャー『銃声とダイヤモンド』だ。曲調がクルクルと移り変わっていくドラマチックな組曲風な構成、そして少しサスペンス風味なゲーム内容に合わせるかのように、まるで悲鳴のようなヴァイオリンのひと鳴きが印象的な仕上がりとなっていた。
続いての一曲は、MMO-RPG『ファイナルファンタジーXI』から“Awakening”。恋人を殺された恨みからモンスターになってしまったボス“Shadow Load”とのバトルにて流れる曲ということで、原曲からして戦いを鼓舞するような勇ましい曲なのだが、フル編成でのオーケストラ演奏ということで、重厚さがさらにパワーアップ。金管楽器が軸となって曲の表情を形作り、 ドラや大太鼓などの鳴り物がバンバン入るという、ド迫力な仕上がりを聴かせた。
『ストリートファイターII』や『キングダムハーツ』シリーズなど多数の代表曲を持つ下村陽子氏だが、このコンサートでの演目として選んだのは『聖剣伝説 レジェンドオブマナ』のタイトル曲“Legend of Mana ~Title Theme~”。ベストアルバム『dramatica』に収録されたのと同じオーケストラアレンジは、ピアノの独奏に弦楽器が絡みつくように旋律をなぞっていくというもの。中盤からはテンポの速い勇壮なオーケストレーションとなり、畳み掛けるティンパニの刻むリズムがクライマックスを生み出す。そして一転、静けさの中で物悲しげなピアノの音だけが響く、物語性の高い一曲となっていた。
続いてのゲスト岩垂徳行氏が指揮をするのは、最新作曲である“逆転裁判5 法廷組曲”。ゲーム中で流れる開廷、尋問、追求、成歩堂のテーマとさまざまなシーンの曲がつぎつぎと演奏されて行く。そして楽曲の盛り上がりが頂点をむかえたところで、なんと全員が立ち上がって「意義あり!」と叫ぶパフォーマンス。続くクライマックスでは、“追求”の節に乗せて、なんと歌詞付き(作詞はシナリオディレクターのカプコン山崎剛氏)の合唱が! 思わぬ大胆なアレンジに観客が大喜びしたのはいうまでもない。なお、特別に掲載許可をいただいた歌詞を大公開。写真とあわせて、会場の雰囲気を感じて欲しい。
逆転裁判5 法廷組曲
作詞:山崎剛(Takeshi Yamazaki) 作曲/編曲:岩垂徳行(Noriyuki Iwadare)
※崎は旧字体
追いつめろ くらえ!
つきとめろー!
逆転の向こうに真実が燃える
つきつけろその手を 矛盾を打ち砕け
真実の炎は(信じる限り)蘇る
HA! HA! HA!
PHENIX!! Ah――!!
続いての演奏も岩垂氏の楽曲“グランディアのテーマ”。少年が冒険に旅立ち、そして世界を救うという王道ファンタジーにふさわしい勇ましい楽曲だが、この日はコーラスまでが加わったスペシャルな編成で演奏され、元からドラマ性の高い楽曲がさらにスケールアップしたものとなった。余談だが、練習を取材した際に岩垂氏が、ゲームのシーンからインスピレーションを受けて作曲を進めていった――たとえば、曲の中盤にあるくり返しのフレーズは世界の果てを越えようともがく主人公たちの姿をイメージ――ことを奏者たちに説明していたことを思い出した。そういった、“作曲者が何を考えてこの曲を作ったか”が体感できたのも、沖縄ゲームタクトならではの出来事であったといえる。
つぎの演目は、作曲・歌唱を務めた霜月はるか氏が歌う“コード・エテスウェイ
(Class::ETHES_WEI=>extends.COMMUNI_SAT/.)”。『Cielnosurge ~失われた星へ捧ぐ詩~』の挿入歌であるこの曲、ゲーム中で聴けるのは霜月氏による多重録音でコーラスを収録しているが、この日はゲームタクトオーケストラのコーラスが加わっての生歌が披露されるという特別なものに。複数の可憐な歌声が溶け合い、心に響く優しい響きを生み出していく。歌声をさらに盛り立てるオーケストラの音色もあって、生演奏の良さを再確認させてくれた一曲となった。
前半のトリを務めたのが、『WILD ARMS 2nd IGNITION』より“ワイルドアームズ2メドレー”。演奏前に登場したなるけみちこ氏は、「約半年前からみんなで作り上げた楽曲なのでお楽しみください」とコメントした。原作が“荒野と口笛のRPG”なだけに、この曲に欠かせないギターを中條氏、口笛を谷岡氏が担当。なるけ氏自身もパーカッションで加わる。メドレーはトランペットの悲しげなソロからスタートしオープニングテーマが流れ、パートが変わると一転して物悲しげな弦の音が。そこにアコースティックギターと口笛の音が加わり、ウェスタンな雰囲気を醸し出す。後半のバトル曲となると「We can Fight!」の掛け声も加わり、凛とした空気の中を生み出していた。
コンサート後半は破天荒なセガ無双から感動のエンディングへ
15分の休憩を挟んで再開となった後半1曲目は、『ファンタシースターオンライン2』より“The whole new world - Full Version - PHANTASY STAR ONLINE 2 OPENING THEME”。セガの小林秀樹氏作曲によるこの曲は、宇宙を感じさせる雄大さが持ち味。ヴァイオリンによって印象的に繰り返されるメロディは、実にオーケストラ演奏映えしていた。さらにこの日演奏されたのは、ゲーム中では聴くことのできない後半の展開も加わったフルバージョンとなっていた。
司会を務めた能登有沙さんの楽曲解説に続いて登場したのは、『アウトラン』や『ファンタジーゾーン』など、アーリーセガの名曲を多数生み出したHiro氏。そんな氏がピアノ演奏に加わって演奏されたのが、“Space Harrier Main Theme”、“After Burner”がの2曲。前者はビートの効いた原曲に対して、あえて打楽器でのリズムを抑えたオーケストラらしいアレンジ。明瞭なピアノの音色とも絡まり合う、新たなスペハリの世界観を感じさせた。
後者“After Burner”は、こちらも原曲はバリバリのロックにしてオケヒットが印象的な楽曲だが、ついに本物のオケによるアレンジが実現。そのアレンジは、原曲に近い早いテンポで弦楽器がメロディを奏でるパンチの効いたものに。三連オケヒットのあとを追いかけホルンがオクターブを駆け上がるなど、オーケストラならではの勇壮さも加わっていた。
続いてにこやかな表情でステージに登場したのは、同じくセガの光吉猛修氏。曲目はなんと、『DAYTONA USA』を代表する一曲“Let's Go Away”。ご存じ光吉氏のハイトーンボイスとオーケストラ演奏の共演という、これまたこのイベントでしか見られないスペシャルな演奏となった。いつにもましてノリノリで歌い光吉氏に、いつしか会場からも手拍子が鳴り響き(オーケストラコンサートなのに!)、さらにコーラス隊も加わって、ゴスペルにもにた荘厳な雰囲気さえ漂わせていた……かもしれない(笑)。
続いての一曲も光吉氏がボーカルに加わった『赤ちゃんはどこからくるの?』から“天国と地獄”。もともとクラッシックの名曲に歌詞を載せた楽曲だけに、オーケストラ演奏との相性はベストマッチ。ちょっと意味深な歌詞と、大人数との合唱もあって異様な盛り上がりを見せた。光吉氏も負けじと、いつも以上に気合いの入ったコサックダンスやラヴィジャンプを披露。演奏終了後には汗だくになるほどの大熱演であった。
興奮冷めやらないステージに、しずしずと登場したのは坂本英城氏と渡辺峨山氏。とくれば曲目は『討鬼伝』から“鬼討ツモノ”だ。ゲームのメインテーマであるだけに、とても厚みのあるこの曲は、冒頭から響く尺八の迫力ある音色が、いつしかトランペットなメロディと重なり合っていく。その様子はまるで、鬼へと立ち向かう勇猛果敢なモノノフたちの姿を思わせるものとなっていた。演奏後は、ひときわ大きな拍手が巻き起こる熱演となっていた。
演奏を終えた渡辺氏と入れ替わるようにステージに姿を現したのは、純白のドレスに身を包んだサラ・オレイン氏。「オーケストラとの共演が初めてなので楽しみです」とのコメントに続き、引き続き指揮をとった坂本氏のタクトにあわせて『TIME TRAVELERS』のエンディングテーマである“The Final Time Traveler”を披露した。切なく消え入りそうなメロディに乗せて、切ない歌詞を歌い上げるその姿は、まさに歌姫ディーヴァといって過言ではない。
コンサートもいよいよ終盤。作曲者であるプロキオン・スタジオ代表の光田康典氏が見つめる中で演奏されたのが、『ソウル・サクリファイス』から“ある魔法使いの生涯~魂の旋律”の2曲だ。“ある魔法使いの生涯”では、サラ氏が引き続きボーカルを務めたが、先ほどの繊細な歌声から一転して迫力のある中音域を響かせ、ケルティックな、そしてミステリアスな一曲へと仕上げていた。2曲目の“魂の旋律”は、おどろおどろしい響きを伴ったイントロから、勇壮な響きが轟くメインテーマらしい楽曲。生オケ、生コーラスによる麗美な演奏が、より楽曲のよさを際立たせていた。
ガラ・コンサート最後の曲となったのは、光田氏のデビュー作である『クロノ・トリガー』のテーマ曲。「これまでに何度かオーケストレ演奏されているが、また一味違ったものを聴かせられると思います」と光田氏がコメントしたとおり、これだけさまざまなゲーム音楽が演奏された中に埋もれない存在感は、まさに名曲のほまれ。トリを飾るにふさわしい一曲となった。
鳴り止まぬ万雷の拍手に応えて、もう一度坂本英城氏が登場。企画・制作、音楽監督としての立場から来場者、関係者に感謝の意を延べ「足掛け一年間の準備期間があり、半年前からは練習の段階から奏者と作曲家がいっしょになって作り上げてきたことは、たいへんだったが貴重なものとなった」と感極まった様子で語った。
そして最後に坂本氏は「僕がこの仕事を志すきっかけとなった思い出深い一曲」として『ファイナルファンタジーV』から“ファイナルファンタジーV メインテーマ”をアンコール曲としてチョイスした。説明するまでもないが、植松伸夫氏作曲によるこの曲は、勇壮な中にも憂いを含み、冒険心を感じさせる日本のRPG史に残る一曲。これまでのコンサートで演奏されたすべての曲、それぞれの思いまでをも乗せた“ゲーム音楽への感謝の意”だといっても過言ではないだろう。
唯一無二のゲーム音楽イベントとして今後の展開にも期待!
最後に僭越ながら、筆者の感想を記しておきたい。“ゲーム音楽を文化として残す”を合言葉にスタートを切った“沖縄ゲームタクト 2014”。初の試みということもあって客入り、運営などは万全とはいえなかったが、それでも“ここでしか聴けない”音楽、出会い、出来事が多数存在した、唯一無二のイベントになったと思う。
本来の意義としてのゲーム音楽とは、そのゲーム本編を彩るための要素のひとつだ。しかし、その枷から解き放たれ、さらに作り手の手によって命を吹き込まれたことは、生み出された楽曲たちにとっても幸せなことだったのではないだろうか。
こちらの記事(⇒こちら)でもリポートしたが、東京の奏者たちは昨年末から練習を始め、週末ごとに作曲家たちと一緒になってこの日のための演奏を練り上げてきた。また、多くの作曲家にとっての日常の場である東京を離れ、沖縄という非日常の環境での演奏は、何にも代えがたい貴重な経験となったはず。この先また、どこかの地で“ゲームタクト”の名を冠するイベントが開催されるこもを願いつつ、このリポートのまとめとさせていただく。いやぁ~、ゲーム音楽って本当にいいものですね!
追記:CEDEC AWARDS 2014にて坂本英城氏がサウンド部門最優秀を受賞!
イベント開催から約半年が経過してしまったが、その間に嬉しいニュースがあったので追記しておきたい。日本最大のゲーム開発者会議CDEDC 2014にて行われた“CEDEC AWARDS 2014”のサウンド部門に坂本英城氏がノミネートされ、さらに最優秀賞を獲得したのだ。ノミネートの理由としては“沖縄ゲームタクト 2014”の開催や、“おとや”といったトーク&ライブ番組の配信などによるファンとの交流で、ゲーム音楽を文化に昇格させるための取り組みが評価されてのものだが、最優秀賞はCEDECに参加しているゲーム関係者による投票によって決められる。すなわち、ゲーム業界的に、沖縄ゲームタクトに代表される坂本氏の活動が注目と評価を集めていたということ。
受賞後の坂本氏は「受賞するとは思ってなかった!」と驚いていたが、同時に「はやく(沖縄ゲームタクトに参加した)みんなに伝えたい」とも語っていた。そうした世間に対しての波を(周囲を巻き込みつつ)生み出していく坂本氏の姿勢があったからこそ、“沖縄ゲームタクト 2014”という前例のないイベントが現実のものとなったのだな、と改めて思った次第。おめでとうございます!