ストリングス(弦楽器)だけによって奏でられるゲーム音楽に観客たちはうっとり

 沖縄ゲームタクト 2014で、2014年3月21日のバンド・DJステージ(⇒関連記事はこちら)に続いて行われたのが、ストリングス(弦楽器編成)による“琉球フィルハーモニックストリングオーケストラ ゲーム音楽コンサート”だ。熱く激しいバンド・DJステージとは対照的に、弦楽器のつややかな音色で聴かせるコンサートに、来場者の誰もがじっくり・しっとりと聴き入っていた。公演から半年近く経過してしまったが、その模様を詳細にリポートする。

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▲バンド・DJステージとストリングスコンサートの間の時間で、参加アーティスト全員によるトークショーを開催。音楽のみに留まらない話題で盛り上がり、アーティスト同士の交流の深さが伺えた。反面、うっかり失言(詳細はナイショ)をしてしまった伊藤賢治氏が女性陣に大慌てで謝るシーンが飛び出しすといった珍場面も。
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▲トークショーに続いて参加者によりサイン会も行われた。ユーザーと作り手が直接触れ合うことのできる数少ない機会とあって、会場の誰もが活き活きと交流のひとときを楽しんでいたのが印象的であった。

 コンサートは、楽曲の作曲者・演奏者をゲストとして招き、解説や作曲時のエピソードをなどを交えてながら進められていった。最初に登場したのは、『クロノトリガー』や『ゼノギアス』の作曲家として知られる光田康典氏。リハーサルでの演奏を「とてもいい感じに仕上がっています」とコメントしたのに続いて、『ゼノギアス』から“盗めない宝石”が演奏された。原曲ではギターが奏でていたメロディがピアノが受け持つなど、元より情感的な楽曲がさらに温かみを増していた。
 続いて演奏されたのは、『クロノ・クロス』から“運命に囚われし者たち”。ミゲルとの戦いにおけるBGMとしてプレイヤーの記憶に刻まれている同曲の生演奏とあって、ゲームを知る人たちは物悲しげな楽曲を静かに聴き入っていた。

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▲作曲者の光田康典氏(右)と、ピアノ演奏を担当した谷岡久美氏(左)。元スクウェア作曲者による夢のコラボレーションが実現した。
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▲光田氏の楽曲の中でも、人気の高い2曲を弦オケ+ピアノで演奏。来場者の中には、夕日の染まる中での激しいバトルを思い出した人もいたことだろう。

 2曲目のゲストとして登場したのは、なるけみちこ氏。演奏曲目は、『RIZ-ZOAWD』のエンディングテーマ“峠の我が家”だ。児童文学『オズの魔法使い』をモチーフにした同タイトルの、冒険を終え懐かしの我が家へと帰ってきたドロシーを暖かく包み込むかのような温かみのある楽曲は、ぬくもりのあるストリングの音色と実にマッチしていた。さらに、楽曲の後半にはなるけ氏自らが金属製の縦笛・ティンホイッスルにて演奏に参加。明るい表情の音色が加わることで、楽曲の持つ“ほっこり感”がより強調されることとなった。

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▲原曲は麻生かほ里さんによる歌入りだが、この日はインストゥルメンタルバージョンにて披露。作曲者であるなるけ氏自身がティンホイッスルによる伴奏をする貴重なシーンもあり、演奏後は場内は温かい拍手に包まれた。

 3曲目のゲストは、『リッジレーサー』や『鉄拳』シリーズの楽曲を手がけたことで知られる佐野電磁氏。それらと並ぶ氏の代表曲としてコアな人気を持つ『ドラッグ オン ドラグーン3』から“尽きる3”が、この日の演奏曲目。原曲である“尽きる”は、オーケストラ楽曲のフレーズを取り込み、それを分解・再構築しているため、佐野氏の言葉を借りると「オーケストラへの冒涜と受け取られ兼ねない」が、その分強烈な印象を与える特異な一曲である。続編である“尽きる3”のオジリナル曲も。激しく左右にバンニングする弦楽器の音が不安さすら感じさせる一曲だが、この日の演奏では繰り返されるフレーズの持つ力強さが活きた、ドラマチックな仕上がりとなっていた。

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▲佐野氏の正装であるグリーンのスーツが醸し出す場違い感に、場内からはクスクスとした笑いも聞こえたが、解説しているトーク内容はいたってマジメ。これもまたゲームタクトならではの光景といえるだろう。

 続いてステージに姿を見せた岩垂徳行氏が手がけたのが『フォトカノ』より“オープニングタイトル”。主人公の男子高校生が写真撮影をテーマにヒロインとの関係を深めていく恋愛シミュレーションゲームだ。「楽曲はとても爽やかで、ひまわりが咲く頃をイメージして作った爽やかな楽曲」と岩垂氏がコメントするように、軽やかかつ少し切なげなメロディーは、聴いているだけで青春時代の気持ちに引き戻されるかのよう。岩垂氏が直々に指揮をしたこともあり、より気持ちのこもった仕上がりであったといえる。

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▲初めて生演奏された『フォトカノ』のオープニングテーマ。恋愛シミュレーションということで観客への馴染みは薄かったかもしれないが、楽曲単体としても素晴らしさを感じさせるものであった。

 コンサート冒頭でピアノ演奏を披露した谷岡久美氏が再度登場して演奏されたのが、『ファイナルファンタジーXI』より“Ru'Lude Gardens”。曲名となっている“ル・ルデの庭”とは、ゲーム中のジュノ大公国にある空中庭園のこと。そのマップでのみ流れる楽曲なだけに、『ファイナルファンタジーXI』プレイヤーなら必ず一度は耳にしたことがあろう曲。谷岡氏は「弦楽五重奏を想定して作った楽曲なので、生で演奏してもらえるとは思っていなかったのでとても嬉しい」とコメントすると、自身もピアノに加わり、まるで宮廷楽団が奏でているかのような優雅なひとときを演出した。

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▲“タニクミ”の愛称で知られる谷岡氏は、自曲でのピアノ演奏も披露。もとから弦楽奏であるだけに、原曲のよさを増幅しての生演奏となった。

 「さっきまで客席でしっとりした音色を聴いていましたけど、自分の曲が客席で聴けないのがすごく残念」とコメントしながらステージに登場したのは、カプコンやスクウェア(現スクウェア・エニックス)で名だたるタイトルの楽曲を手がけてきた下村陽子氏。その中から演奏曲として選ばれたのは、2014年に発売15週年を迎えた『聖剣伝説 レジェンド オブ マナ』から“滅びし煌めきの都市”。メインストーリーのひとつ“宝石泥棒”編のクライマックスで流れる曲として、多くのプレイヤーの涙を誘った曲だけに、ゲームプレイを思い出したのか、瞳をうるませながら聴き入っている観客の姿も目に止まった。

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▲引き続き谷岡氏が演奏するピアノが物悲しいフレーズを奏でると、それを後押しするかのように弦楽器の音色が重なっていく。なんともいえないドラマチックな空気に場内は包まれていた。

 続いての演奏楽曲も下村さん作曲による“-HISTORIA-”。ファンタジーRPG『ラジアントヒストリア』のエンディング曲だが、ここでさらにボーカルを担当した霜月はるか氏が登場し、歌声を披露していった。原曲の伴奏はアコースティックギターやドラムがリズムを刻むバンド調のアレンジだが、このステージでは当然オーケストラアレンジに。霜月氏の歌声と弦楽器の優しい響きが、融け合うようにホール全体を包み込んでいった。

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▲ライトグリーンのロングドレス姿で登場した霜月氏。持ち前の癒やしのボイスを、オーケストラ伴奏に乗せて会場中に響き渡らせた。

 コンサートが中盤を超えたところでステージに登場したのが、沖縄ゲームタクトの音楽監督でもあるノイジークロークの坂本英城氏と、尺八奏者の渡辺峨山氏という『討鬼伝』コンビ。坂本氏が「僕の楽曲は転調が多かったり西洋的で和楽器奏者を悩ませがちだったのですが、峨山さんの存在感のある尺八演奏によって素晴らしい仕上がりに導いてくれました」と語ると、渡辺氏は「湿度の高い沖縄の気候は尺八にとって最高です」と、尺八の豆知識を披露。来場者からは関心の声があがっていた。そして渡辺氏がオーケストラに加わり、まろやかで優しい尺八の音色が弦楽器とマッチした“ウタカタ”と、ユリ(アゴを動かすことでのビブラート)やムライキ(かすれた音)といった尺八ならではの奏法が多用されている“モノノフ本部”と、異なる表情の2曲を披露。普段は出会うことの少ない洋と和の音色が一体となって奏でられるハーモニーは、なんともゲーム音楽らしいといえる。

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▲西洋の弦楽器と和楽器尺八のコラボレーションは実にゲーム音楽的。互いの持ち味が存分に発揮された素晴らしい生演奏に、来場者たちは激しく魅了されていた。

 「私が初めて本格的に手がけた弦楽四重奏曲です」と、ステージに残った坂本氏が解説を始めたのが、続いての曲目『無限回廊』より“Prime #7”。坂本氏は「ゲームのリリースと同時に世界中から動画投稿サイトに演奏動画がアップされ、ゲームというメディアの力を意識した、作曲家人生の転機となった」とも語っていただけに、相当思い入れのある楽曲であるようだ。
 肝心の楽曲はといえば、主旋律を奏でるヴァイオリンの音色と、それを支える中・低音域楽器の伴奏とがハーモニーとなり、絶妙に調和のとれた響きを生み出した。

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▲線画のみのシンプルなゲーム画面と組み合わさることでとても印象的なものとなっている『無限回廊』のBGM。今回の演奏にあたってヴァイオリンコンチェルト的なアレンジが施され、コンサートマスターの宮良美香氏によるヴァイオリンソロがフィーチャーされた。

 続いては光田康典氏が、ミュージシャンのサラ・オレイン氏と共に登場。この顔ぶれとなれば、演奏曲はもちろん『ゼノブレイド』のエンディングテーマ“Beyond the Sky”だ。「英語の歌える女性ボーカリストを探しているときに、イメージにあったサラに出会ったことでこの曲が完成した」と光田氏は語り、サラ氏も「とても大好きで思い入れの深い曲。日本に留学したときに光田さんとの出会いがなければ(出身地の)オーストラリアに帰っていたかもしれないです」と、当時の様子を振り返った。
 そしてステージに立ったサラ氏は、オーケストラの音に負けない堂々たる声量で、かつ情感たっぷりに“Beyond the Sky”を歌い上げる。歌詞こそ英語だが、希望にあふれるその内容が言葉の壁を超えて感動を伝えたかのように、演奏終了後には割れんばかりの大拍手が贈られた。

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▲サラ・オレイン氏(左)と光田康典氏。透き通るようなサラ氏の歌声とストリングスの優美な伴奏は、観客に“鳥肌モノ”の化学反応を起こさせた。テレビ番組でのカラオケ対決で一躍時の人となったサラ氏だが、日本でのデビュー曲がゲームの楽曲ということを、我々ゲームファンはもっと誇りに思っていいはずだ。

 いよいよコンサートも大詰めとなり最後の曲に。ゲストとして登場した伊藤賢治氏は、なんと琉球王朝時代の伝統衣装である“琉装”をまとっての登場に、場内からは思わずオドロキの声が上がる。
 そんなサプライズ好きなイトケン氏が、自身もピアノ奏者として加わり披露したのが、近年の大ヒット曲“パズドラメドレー”。『パズル&ドラゴンズ』と『パズドラZ』の代表的な楽曲がオーケストラアレンジにて奏でられるという、沖縄ゲームタクトならではのシーンが演出された。

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▲按司(あじ)と呼ばれる高い地位にいる王族の衣装で登場したイトケン氏の第一声は「お腹がキツい!」。笑いを誘った伊藤氏だが、衣装の色や帯に対するうんちくを語るなど、なにげに強いこだわりがあったようだ。
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▲伊藤氏自らもピアノ奏者として加わり、“パズドラメドレー”を演奏。この日のためだけにアレンジされた一曲だ。

 これにて終演かと思いきや、鳴り止まぬ拍手に促されるように坂本氏が三度登場。アンコールとして『勇者のくせになまいきだ:3D』のエンディングテーマ“来たるべきセカイ”を演奏すると語った。原曲は、ピアニカ、オルガン、リコーダーといった小学校で習う楽器のみで演奏されているが、ここでのオーケストラバージョンは、ポップさは残したままに優雅さまでもが加わった豪華な仕上がりに。後半のドラマチックな展開もさらにドラマ性を増し、コンサートの最後を飾るのにふさわしい曲となっていた。

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▲全演奏終了後には、出演ゲスト全員が再登場してのカーテンコール。来場者への感謝、そして指揮を務めた後藤正樹氏にもねぎらいの拍手が贈られた。
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▲コンサートを終えた直後の記念撮影がこちら。皆さん充実しきった表情だが、それにしても伊藤氏の存在感たるや、である(笑)。