Virtuosはいかにして『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』を完成させたか? 開発者に聞く

中国屈指の開発会社であるVirtuos社。前回のCEOジル・ランゴリ氏への取材に引き続き、ここでは、同社が開発を担当したプレイステーション Vita/プレイステーション3用ソフト『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』の開発チームへのインタビューをお届けしよう。

●これだけ大きなタイトルに関われたことは幸せ

 中国屈指の開発会社であるVirtuos社。前回のCEOジル・ランゴリ氏への取材に引き続き(⇒記事はこちら)、ここでは、同社が開発を担当したプレイステーション Vita/プレイステーション3用ソフト『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』の開発チームへのインタビューをお届けしよう。世界中の大手メーカーの数々のAAA(トリプルエー)タイトルを手掛けてきたVirtuosをして、「過去最大のプロジェクトだった」と言わしめた『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』。その制作過程では、相当な苦労があったと想像されるが……。プロダクションディレクターのパン・フェンさん、テクニカルディレクターのパスカル・ボウビアさん、リード・ソフトウェア・エンジニアのミャオ・ウェイジュンさん、QAリーダーのシュウ・リーシャオさんの4人に聞いた。


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パン・フェンさん:プロダクションディレクター(左からふたりめ)
パスカル・ボウビアさん:テクニカルディレクター(左端)
ミャオ・ウェイジュン:リード・ソフトウェア・エンジニア(左から4人目)
シュウ・リーシャオさん:QAリーダー(左から3人目)

――そもそも、なぜ『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』を手掛けることになったのですか?

パン 当社はもともとスクウェア・エニックスさんとはお付き合いがあって、『ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア』(以下、『新生:FFXIV』)のキャラクターアセット制作のお仕事などをさせていただいていたんですね。そんな縁もあって、今回『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』をやらせていただけることになったんです。まあ、日本でVirtuosの代理店をお願いしているカイオスの記野さんの手腕によるところが大きいですね。

――スクウェア・エニックスさんの作品をフルで手掛けるのは初めてとのことですね。

パン そうなんです。まず最初に考えたのが、スクウェア・エニックスさんといえば、高いクオリティーが求められる。それをキープするにはどうすればいいのか……というのがひとつ。もうひとつは、戦略的にものを考えないといけないということ。ゲームプレイは同じですが、ハードが異なるということで、新しいものも要求されるようになる。開発期間が比較的短いということもあり、どう戦略的に動くか……というのは、最初に考えましたね。

――戦略的に動くといいますと?

パン 今回のプロジェクトでは、オリジナル版『ファイナルファンタジーX/X-2』のアセットやコードをすべてスクウェア・エニックスさんからいただいています。“オリジナル版の雰囲気を守る”という大前提のもとでリマスター化を実施したんです。いちばん気をつけていたのは、(1)ゲームプレイはオリジナル版とまったく同じものにしなくてはならない、(2)グラフィックもユーザーさんにとって同じオリジナル版と同じに感じられるものにしないといけない、ということですね。かといって新しいハードなので、まったく変えないというわけにもいきません。そのへんの調整がたいへんでした。

――実際に、HD化はどのようなプロセスで進められていったのですか?

ミャオ まずは、もともと提供してもらったオリジナル版のソースコードを、プレイステーション3なりPS Vitaなりで正しく起動させるところから始めました。HD化に際しては、オリジナル版のグラフィックをそのまま活かすケースもありますが、変えなければならないものもある。水の表現とか、光の処理とか……ですね。そのへんはイチから作り直しています。

――キャラクターの絵に関してはどうなのですか?

ミャオ もちろん、キャラクターの絵自体は変えませんが、グラフィックの画質はすべてレベルアップさせています。

――ゲームプレイに関してはどうなのですか?

パスカル プレイステーション3版にコンバートした際も、オリジナル版のコードで動くのであれば、そのまま手はつけませんが、そうもいかないケースもあります。“これはこのままキープしてもいいな”、“これは作り直さないといけないな”、“これは追加しないといけないな”というのを検証して、必要に応じて作り直したんです。

――“キープしてもいいな”というのと、“これは作り直さないといけないな”という違いは何になるのですか?

パスカル プレイステーション2とプレイステーション3はスペックが違うので、ソースコードをコンバートしても動かないことが多々あるんです。その場合はやっぱり、実際にオリジナル版に触ってみて、“こういう動きをさせないといけないのか”ということを把握してから、作り直す感じになりますね。

――そのへんは、開発者の感触に寄るところが大きいわけですね?

パン とくにPS Vitaは、コントローラが自体が違います。それでもやはり別のゲームに思わせてはいけないので、そこはすごく苦労しました。操作方法は異なれど、違うゲームにならないように気を使っています。

――PS Vita版の開発は、ひときわたいへんだったのですか?

パン そうですね。PS Vitaはインターフェースはもちろんですが、スクリーンサイズやスクリーンの構成なども違います。オリジナル版をそれに合わせるのはたいへんでした。でも、いちばんきつかったのはマシンスペックですね。今回プレイステーション3版とPS Vita版への同時移植を行ったのですが、プレイステーション3はパワーのあるマシンですが、PS Vitaはさすがにプレイステーション3ほどではない。さらに、据え置き機と携帯ゲーム機ということで、プレイステーション2と比較しても見劣りする部分はあるんです。それを最適化して、かつ新しく作るプレイステーション3バージョンと同じような見せかたをしないといけない……ということで、非常に苦労しましたね。

――たとえば、どのへんで苦労したのですか?

パン エフェクトに関しては、プレイステーション2というハードに準拠したものだったので、いずれにせよ全部変える必要がありました。プレイステーション3版に関しては、いくらでもいいエフェクトができるのですが、PS Vita版の場合はそこまでパワーがないので、いかにプレイステーション3版と同じように見せるかで、けっこう苦労はしましたね。プレイステーション2はひとつしかコアがないのに対して、PS Vitaは3つあるので、それでもある程度余裕はあるのですが、それでもプレイステーション3と比べて遜色がないように作るのは、本当にたいへんでした。

――ある意味で、PS Vitaの限界ギリギリまでを叩いているソフトと言えるかもしれませんね。

パン 開発陣はそう思っていますよ(笑)。実際のところはわかりませんが。


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▲『ファイナルファンタジーX』。プレイステーション2版(左)とプレイステーション3版(右)。

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▲『ファイナルファンタジーX-2』。プレイステーション2版(左)とプレイステーション3版(右)。

――“開発期間が比較的短い”とのことでしたが、何人くらいの人員で、どれくらいかけて作ったのですか?

パン アベレージで80人くらいいて、ピーク時は150人くらいいました。それで、だいだい16ヵ月くらいかけています。

――となると、そこまで短期間というわけでもないような気も……。

パン たしかに、1本のゲームで考えると16ヵ月というのはそれほど短くはないですが、けっきょくプレイステーション3版2本とPS Vita版2本で、4本作っているのと同じなんです。そう考えると、いかに短かったか、おわかりいただけるのではないかと。

――ああ、たしかに! 開発中はスクウェア・エニックスとのやり取りも密に取られていたかと思いますが、いかがですか?

パン コミュニケーションは密に取らせていただきましたね。1週間に1回のテレビ会議は基本として、メールや電話などで密にやり取りさせていただきました。基本的にあまり時差がないので(日本と上海の時差は1時間)、何かあったらすぐ連絡……という感じでした。

――スクウェア・エニックスは“クオリティーの高いものを求める”とおっしゃっていましたが、やはり要求されるものは高い?

パン 高いです。妥協は許されません。とくに印象的だったのがUIですね。オリジナル版をそのまま移植しても、プレイステーション3やPS Vita版とは画面比が異なるので、違って見えてしまうんです。それで、若干デザインをアレンジしたのですが、「できれば、オリジナル版と同じにしてほしい」とリクエストをいただきました。ユーザーの目に触れる機会が多いUIに関しては、厳密なこだわりがおありになるようで、「うわあ、きびしいなあ」と思いました。

ミャオ これはほかのソフトの話になりますが、たとえばゲーム自体が30fpsで動いていたとしても、ユーザーの入力は60fpsにしてほしい、という要望をいただいたこともあります。ユーザーさんがちょっとでも違和感を覚えることは気にされていて、“コントロールは正確に”ということに対する強いこだわりがありました。実際のところ、コンマ何秒でも違うと、操作に違和感を抱きますからね。

パン グラフィックでわかりやすいじゃないですか。“これは違う”というのが見た目ですぐにわかる。でも、スクウェア・エニックスさんは、そういうところはもちろんですが、さらに目に見えない部分にこだわる。「ああ、スクウェア・エニックスさんは、こんなところにこだわっているんだ」という、こだわりポイントの深さに感動しました。

――シュウさんはQA担当とのことですが、QAからのご苦労などありましたら。

シュウ 『X』と『X-2』はとにかく大きなゲームなので、それをモニターするのは本当にたいへんでした。大きいゲームに対して、ハイクオリティーを保ちつつ、安定した状況で提供しないといけない。さらに、コントロールやカメラも、プレイステーション2時代と違和感がないような形で提供しないといけない。そのプレッシャーの中で、モニターをしていたので、時間的にも労力的にもきつかったですね。

ミャオ 『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』の開発で、QAの果たす役割はすごく大きかったです。初期の段階からQAに入ってもらって、ほとんどプログラマーの隣に座ってもらうような感覚で、逐一修正をしていきました。

――開発とQAは、ほぼ同時進行だったんですね。

パン かなりQAに助けてもらいました。QAのおかげでストレスなくスムーズに開発ができたという感じです。『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』はあれだけのゲームなので、細かいところまで遊ぶとなると、ゲームプレイは1タイトルで100時間を超えます。しかも4タイトル分あるなかで、開発の最後のほうは、毎日のようにビルドを上げていたんです。QAのスタッフは、それを逐一プレイしていたかと思うと、本当にたいへんだったと思います。

――最後のほうは、『X』や『X-2』は見たくない……という気分になったり?

シュウ 暗記するほど覚えたので、さらに好きになりましたよ!


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――開発を終えてみての手応えなどはいかがでしたか?

パン 『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』がセールス的に好調で、スクウェア・エニックスのご担当者さんが喜んでくださったのが、すごく印象的でした。あと、レビューサイトのMetacritic(メタクリティック)で、『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』が85点を獲得したときに、喜んでくださっていたのを見て、私たちもうれしかったです。あと、何より励みになったのは、オリジナル版に関わっていたプログラマーさんからいただいた言葉です。そのプログラマーさんが、一度当社にお越しになったことがあるんですね。そのときは、スクウェア・エニックスさんの社内でも「10年前のプログラムコードだし、いろいろ問題もあるだろうから、中国の開発会社でできるわけがない」と言われていたらしいんです。そんなさなかにそのプログラマーさんが当社を訪れて、プレイステーション3版で最初に動く『ファイナルファンタジーX』と『X-2』をご覧になって、「うわー、すごい」、「じつはできるとは思っていなかったです」と言ってくださったので、すごく自信が持てました。

――『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』は、Virtuosのターニングポイントになったとのことでしたが、やはり大きな手応えがあった?

パン すごく難しいプロジェクトで、終えられたことがすごくうれしいです。これだけ難しいプロジェクトができたので、つぎに自信がつながりました。

パスカル テクニカルな面でも、ものすごくチャレンジしがいのあるプロジェクトでした。ある意味で、すごくいいレッスンでした。この経験を活かして、さらなるチャレンジを続けていきたいです。

ミャオ プログラマーとしても、『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』はものすごくチャレンジングな取り組みでしたね。私自身、『ファイナルファンタジー』シリーズのファンで、同じファンに対するリスペクトも抱いていました。『ファイナルファンタジー』のような大きなタイトルに携わることができたのを、とても誇りに思っています。その分、産みの苦しみもあったのですが、結果は満足のいくものになったと信じています。また、このようなすばらしいプロジェクトに携われたらうれしいです。

シュウ じつは、最初にこの仕事を受けたときは、とても怖かったんです。日本の特別なRPGだし、「本当に俺たちにできるのか?」という不安がありました。ですので、最終的にやり切ったことは、私たちにとっても大きな手応えになりました。「今後、何があってもいける!」という自信につながりましたね。このプロジェクトに関われて、本当に光栄です。

 Virtuos訪問記事の最後は、『ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア』のアート制作に参加したクリエイターへのインタビューをお届けしよう(2014年10月1日更新予定)。

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