すべてを喪った男、ブラスコヴィッチの地獄のような復讐行!

 日本でも2014年6月5日(Xbox One版は2014年9月4日)にベセスダ・ソフトワークスから発売が予定されているFPS『Wolfenstein: The New Order』。ひと足先に発売される海外版のレビューをする機会を得たので、その魅力をお伝えしよう。なおプレイしたのはXbox One版。

 本作は、id Softwareが生み出したFPSの始祖『ウルフェンシュタイン3D』の流れをくむウルフェンシュタインシリーズ最新作。開発はスウェーデンのMachineGamesが担当し、本家id Softwareはエンジン(id Tech5)の提供にとどまっている。
 シリーズで何度か繰り返されてきたリブートだが、今回は思い切ってマルチプレイを捨て、シングルプレイのキャンペーンモードに集中。以前のデモリポートでもお伝えしたように、濃い~い登場人物とぶっ飛んだ設定によるドラマに注力している。

マルチプレイを捨ててまで、ディープでぶっ飛んだドラマを作り込むという思い切った選択に乾杯! FPS『Wolfenstein: The New Order』海外版レビュー_01
▲すべてを喪った男の、怒りの銃弾を食らえ!

 物語の始まりは1946年。異常に進化した科学力を武器に猛威をふるうナチスに対して、その科学開発を担うデスヘッド博士の殺害作戦に連合軍の部隊が向かうところから始まる。しかし、主人公ブラスコヴィッチらの作戦は惜しくも失敗。デスヘッド博士の人体実験により仲間を喪い、ブラスコヴィッチも脱出時の負傷により自我を喪失し、空白の時を過ごすハメに。
 そしてようやく意識を取り戻した時にはすでに1960年。ナチスは戦争に勝利し、アメリカはとっくの昔に降伏。国も仲間も喪ったブラスコヴィッチの怒りの復讐が本編となる。

 要するに「もしナチスが超科学を手に入れ、大戦に勝利していたら……」という一種のifモノなのだが、ナチ版ビートルズのレコードが出てきたり、アメリカの代わりに月面進出していたりといった小ネタの数々にニヤっとさせられつつ、話のトーンはあくまでも真面目。しかも敵と動機がシンプルなので、ドラマパートは非常に力強く、思わず燃える話が展開される。
 FPS/TPSでは「とりあえず世界の危機とデカい爆発シーンを用意しておけばオーケー」とばかりに、シングルプレイキャンペーンのお話を雑に扱った作品も多い中、あえてFPSの始祖であるウルフェンシュタインを題材に、映画に負けないじっくりとした濃い大人のストーリーを描くことを選択したMachineGamesのスタッフには喝采を送りたい。
 詳細についてはネタバレを避けるため割愛するが、記者は「FPSのストーリー好き」という、ややマイナーな層として、設定がぶっ飛んでいて、なおかつしっかり描けているこんな作品をずっと待っていた。

マルチプレイを捨ててまで、ディープでぶっ飛んだドラマを作り込むという思い切った選択に乾杯! FPS『Wolfenstein: The New Order』海外版レビュー_06
▲月のナチス基地と言えば、映画「アイアン・スカイ」を思い出す。

オールドスクールなテイストも取り込みつつ、撃って撃って撃ちまくれるシステム

 じゃあゲーム部分はどうなんだとお思いの人もいるだろう。こちらはこちらで、往年のオールドスクールFPSにリスペクトを捧げつつ、新たな試みも取り入れたものとなっている。
 もっともユニークなのは、ヘルス+アーマー制という、20年近く前に主流だったシステムを採用していることだ(2014年にアーマーを拾いながら戦えるなんて!)。

 アーマーがある間はダメージが大きく軽減されるので、マップの端っこに落ちていたり、敵が落としたりするアーマーを拾っておくのは、下手をすれば体力の回復よりも大事な作業だ。これがあることで、集団の前に思い切って飛び出たり大胆な行動に出ても、乗り切れる。
 先ほど書いたようにドラマ演出で感情移入して、「やってやるぜ!」と燃えて戦闘に突入することが多かったのだが、序盤からマシンガンなどの二丁持ちが可能で、アーマーを拾っておきさえすれば多少のダメージを気にせずとにかく撃ちまくれるのが快感!(一方で、えげつない刺殺シーンなどもよくあるので、その辺の表現が苦手な人は覚悟すべし)

 また、隠れていればヘルスが完全回復するゲームが主流な中、本作では一部しか回復しないのだが、ヘルス全快の状態からでも、ヘルスパックを取ることで上限値を超えた体力にすることができる(時間が経つに連れて上限値へと減っていく)。これも懐かしいシステムだ。

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▲ビームライフルに魔改造したライフルも二丁持ち可能!

 一方で、単に撃つだけではないヒネりの要素もいくつか導入されている。例えば、たまに出てくる司令官クラスの敵“コマンダー”。彼らが襲撃に気付くと警報を鳴らされ敵が増員されてしまうので、プレイヤーはコマンダーにどう対処するか考えなくてはならない。
 弾とアーマーに余裕があれば勢いで撃ちまくるのもアリだし、ひとりしかいないのであればコマンダーから撃って警報を鳴らす前に倒すのもアリ。隠れて進み、ナイフで倒していくというスニーキングゲームライクな手もある。

 ちなみに、ナイフのみを持って隠れて進むしかないシーンもあるのだが、そこまで複雑でもないし、ちょっとぐらい見つかってもなんとかなる作りだったりするので、気分転換程度といったところ(スニーキングオンリーのエリアではコマンダーがいないし、敵も近接攻撃しか使わない)。

 戦闘能力を強化していくPerkシステムは、「ステルスキルで10人殺す」、「ヘッドショットで何人殺す」といった条件によりアンロックされるようになっていて、ランボースタイルでプレイしたり、ステルスプレイをすることで関連能力が上がっていくという方式。勝手にアンロックされていくので、普通にプレイする限りではほとんど気にしなくていい(高難度プレイでは堅い敵がキツいので、Perk込みで考えたほうがいいかも)。

 各ステージには昔はよくあった隠しエリアや隠し通路などが用意されているほか、「犬の餌で体力回復」、「無意味にトイレを流せる」といったFPSあるあるネタも散りばめられており、中にはオリジナル版『ウルフェンシュタイン3D』のプレイヤー爆笑の隠し要素も……。
 そのほかにもマップ探索型のサイドクエストがあったり、サブテキストなどが手に入ったりもするので、やりこみ派の人にはいろいろ覗いてみたりするのをお薦めしたい。こういったネタの仕込み方も、往年のFPSへのリスペクトたっぷりであり、大作なのにそんなことをする開発チームがプレイしてきただろうタイトルもなんとなく予想がつく。一杯おごりたい気分だ。

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▲ウルフェンシュタインと言ったら犬も大事な要素なんであすが、愛犬家にはキツいかもね。

Hail MachineGames!! 濃いだけに合わない人は合わないが、ピンと来たら!

 そんなわけで、15年以上前、中学生の時に好きだったFPSのテイストが最新技術で大作として実現しているわけで、完全に「これ俺のゲームだ!」とおかしなテンションになっているわけだが、確かにドロッドロに濃く作ってあるからこそ、合わない人には合わないと思う。
 少し触れたように、力任せにナチス将校やナチス犬を刺しまくるアクションなどもあるので、そういった暴力表現が苦手な人は「うっ」となるだろうし、一部大人のラブストーリー描写ぐらいはあるものの、それもすらも描写がハードコアで、基本的に復讐に燃えまくる殺伐とした話なのは「うーむ」と思う人もいるだろう。でも記者はそういうのが好きなんである。

 逆に「おっ」と思った人なら、ウルフェンシュタインシリーズや昔のFPSを知らなくても全然問題なし。本筋はあくまで、ぶっ飛んだ世界設定で、一癖も二癖もある連中が撃ちまくりながらディープなドラマを展開するって部分なので、「元ネタ」なんかわからなくっても大丈夫だ。

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▲アドレナリン出まくりの濃い人達が戦うゲームなんで、こういう絵面に「うわっ」って人には合わない。

 プロローグ部分で捕まった際に、デスヘッドの人体実験に捧げる相手として、戦友ファーガスを選ぶか、新兵ワイアットを選ぶかという選択によってストーリーが分岐するのだが(ドラマ演出とプレイ要素の一部に影響)、記者は最初ファーガス編(ワイアット死亡)を選び、クリアー後にすぐワイアット編をスタートした次第。普段は周回プレイクソ食らえってなもんだが、あいつらにまた会いに行きたいんだから仕方がない。できればあなたもそうだといいな、と思う。
(文・編集:ミル☆吉村)

マルチプレイを捨ててまで、ディープでぶっ飛んだドラマを作り込むという思い切った選択に乾杯! FPS『Wolfenstein: The New Order』海外版レビュー_08
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マルチプレイを捨ててまで、ディープでぶっ飛んだドラマを作り込むという思い切った選択に乾杯! FPS『Wolfenstein: The New Order』海外版レビュー_04
▲空気感や銃弾で柱が削れていく描写などがいい感じなので、出来れば次世代機でのプレイをおすすめしたいところ。

※Wolfenstein(TM): The New Order(TM)は1960年代の仮想世界に基づくフィクションです。各名称、登場人物、団体、場所、事象は架空のもの、またはフィクションに基づく描写によるものです。本作品のストーリーとコンテンツはナチス政権の信念、イデオロギー、事象、行動、党員、行為を解釈、称賛、是認を意図するものではなく、またナチス政権による戦争犯罪や虐殺、その他人権に反する犯罪を矮小化する事を容認するものではありません。