新しいハードで始まる、新しい主人公の物語
ついに発売まであとわずかとなった、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン)の新ハードPlayStation Vita(2011年12月17日発売予定、以下PS Vita)。このPS Vitaと、ロンチタイトルの魅力に迫る、インタビュー連載企画をお届け。今回は、チュンソフトの『真かまいたちの夜 11人目の訪問者(サスペクト)』開発スタッフにお話を伺った。
――最初に、『真かまいたちの夜』の開発のきっかけを教えていただけますか?
中嶋康二郎氏(以下、中嶋) 『かまいたちの夜』シリーズはチュンソフトの看板タイトルですので、『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』(2006年発売)の後も、つぎの作品をどうするかずっと考えていました。そして制作の前段階で、メインのシナリオを作家の黒田研二さん(※)にお願いすることになったのですが、いくつかプロットを出していただいたところ、初代『かまいたちの夜』を彷彿とさせるプロットが上がってきたんです。犯人がものすごく苦労して細工をしたというよりも、犯人とは関係のない部分が絡み合って、プレイヤーがだまされてしまうようなトリックが含まれている。「これは『かまいたちの夜』らしいな」と思いましたね。このプロットが上がってから、本格的な開発が始まりました。
――そのときは、どのハードで開発するかは決まっていなかったのですか?
中嶋 はい。据え置き機で作るか、携帯機で作るかも決まっていませんでした。そうこうしているうちに、PS Vitaの仕様がわかってきまして。SCEさんに伺ったり、質問させていただいたりと、打ち合わせを重ねた結果、まず「PS Vitaで作ろう」と決めました。プレイステーション3でも発売することを決めたのは、その後ですね。
伊東幸一郎氏(以下、伊東) PS Vitaで『かまいたちの夜』シリーズを育てたい、とも思っています。同じハードを持っていれば、続きのシリーズ作品が遊べるようにしたい、と。まだ『真かまいたちの夜』も発売されていないのに、気が早いですが(笑)。
中嶋 『真かまいたちの夜』は、チュンソフトとしては初のロンチタイトルということになりますね。
――本作のおもなターゲットは、どのようなユーザーでしょうか?
中嶋 やはり、これまでの『かまいたちの夜』シリーズを遊んでくださっているお客様ですね。ファンの皆さんのあいだでは、初代『かまいたちの夜』の人気が高いのですが、今回はその初代に似たテイストのシナリオになっているので、楽しんでいただけると思います。
伊東 基本的には、漢字が読める人すべてがターゲットです。誰でも遊べる、というのがサウンドノベルのウリだと思いますので。
中嶋 それから、『かまいたちの夜』シリーズはミステリーではありますが、サスペンス要素を求めて買われる方も多いので、難しくなりすぎないように気を配りました。
伊東 『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』は、言うなれば作者とプレイヤーの推理対決ゲームですから、ある程度の難しさが必要だったんですが、『かまいたちの夜』は違います。プレイヤーがシナリオの中に入り込んで、自分が探偵になったような気分で、謎を解いたときの快感を味わえることを大事にしています。
――ちなみに、シリーズファンの男女比はどのくらいなのでしょう?
中嶋 ほかのサウンドノベルに比べると、女性ファンが多いですよ。香山や透(初代『かまいたちの夜』から前作『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』までの三部作に登場するキャラクター)などが好きだとおっしゃる女性の方もいらっしゃいます。
伊東 じつは今回、主人公である坂巻快人の一人称を、漢字の“僕”にしているんです。ですから、透の一人称である、ひらがなの“ぼく”に愛着を持っていらっしゃる方は、違和感を覚えるかもしれませんね。でも、黒田さんが“僕”と書かれていましたし、シリーズの一新とともに新しい主人公になるということで、思い切って変えました。
――では、“僕”である坂巻快人を主人公とする『真かまいたちの夜』において、もっとも力を入れた部分はどこでしょうか?
伊東 『真かまいたちの夜』はサウンドノベルですから、読みものとして楽しいものであることを重要視しています。それから、作者が仕掛けたトリックを、どうゲームとして解かせるかに力を入れましたね。そのさじ加減が非常に難しいんです。アドベンチャー的なギミックを入れていけば、ゲームとしての楽しさは増しますが、物語の読後感が減っていく。最終的に「おもしろい物語を体験した」と思っていただけるよう、尽力しました。
中嶋 とはいえ、やはりPS Vitaで発売するということで、新しい要素も入れました。そのひとつがモーションセンサーとタッチスクリーンを使った“おさわり選択肢”ですね。
伊東 ファンの方から「シュプール(※『かまいたちの夜』の舞台)の中に入りたい」という意見をいただくこともありましたので。“おさわり選択肢”中は、物語の舞台に入ったような気分になっていただけるのではと思います。
――背面タッチを使用する“ふたりでかまいたち”も、PS Vitaならではの要素ですね。
中嶋 PS Vita特有の新機能を使って、何かをしたい……と考えたときに、『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』(2002年)にあった“ラブテスター篇”を思い出しまして。
――“ラブテスター篇”よりも、かなりシナリオが作り込まれていますよね。
中嶋 僕はこのシナリオのオチが大好きなので、ぜひ見てほしいです。
伊東 ぜひ、ひとりでプレイしてでも見ていただきたいですね(笑)。分岐も豊富で、選択肢の中には、ふたりが同じものを選べばどの答えでも正解になるものもあります。それから、ふたりの手が触れ合うように、左右のプレイヤーのタッチすべき箇所をあえて逆にしたところもありますよ(笑)。
――(笑)。続いて、“みんなでかまいたち”について伺いたいと思います。PlayStation Networkを使用して、ふたつのハードで同じモードを遊べるというのが斬新ですね。実現するのはたいへんだったのでは?
中嶋 いえ、そこまで難しくはなかったです。……というと、プログラマーに怒られるかもしれませんが(笑)。SCEさんの協力もあり、難航せずに実現できました。
※“みんなでかまいたち”の詳細はこちらの特設サイトの動画をチェック!
――なるほど。ところで、PS3版とPS Vita版、どちらをベースにして開発されていたのですか?
中嶋 PS Vita版です。
伊東 開発するにはPS Vitaを研究する必要がありましたので、PS Vita版から開発する必要がありました。
――PS Vitaの仕様の中で、どこが魅力的だと感じていますか?
伊東 画面の解像度の高さです。これまでの作品では、文章を句点で改行していたのですが、今回は句点で改行せずに、画面内の文章密度を上げたんです。携帯機では見づらくなるかな、と心配していたのですが、とてもキレイに表示されるので安心しました。
――そういえば、これまでは文章が画面全体に表示されていましたが、本作では画面の下半分にしか表示されませんね。
伊東 サウンドノベルは文字ばかり、と思う方が多いようですので、そのイメージを払拭したいと思ったんです。『忌火起草』(2007年発売)や『428 ~封鎖された渋谷で~』(2008年発売)などのサウンドノベルでは、画面の上半分程度の表示でページを切り換えていたんですが、そうすると背景が下のほうしか見えないことが多いんですね。でも今回は、場面の雰囲気を絵で見せたいとも思い、この形にしました。
中嶋 有機ELディスプレイには可能性を感じますね。しっとり滑らかな色をしていて、サスペンスやホラーの絵作りに向いています。黒がしっかりと表示されますし。
――なるほど、『かまいたちの夜』向きのディスプレイなのですね。
伊東 色味の調整はたいへんでしたけどね。後半は暗いシーンが多いですし……。
中嶋 本作では、後半、徐々に画面が暗くなるんです。
――えっ、そうなんですか?
中嶋 はい。じつは初代『かまいたちの夜』も、徐々に暗くなっているんですよ。
――気付いていませんでした! そう言われると、初代をプレイし直したくなります……。
中嶋 ゲームアーカイブスで配信中ですから、ぜひプレイしてみてください(笑)。
――(笑)。では、有機ELディスプレイ以外で、「いい!」と思うPS Vitaの機能はありますか?
中嶋 やはりタッチスクリーンが便利ですね。バックログを読むときのスクロールがとてもやりやすいですよ。
伊東 ワンタッチでPlayStation Networkにつながるところもいいですね。
中嶋 そういえば、GPS機能が付いているので、“遠野(物語の舞台)に行くと何かがもらえる”という仕様を入れようか、なんて話も出ましたね(笑)。実現はしませんでしたが……。
――次回作以降で、使用してみたい機能は?
中嶋 “near(ニア)”で何かやってみたいですね。
伊東 ニコニコ動画を使った仕組みが作れればいいな、と思います。配信を観ているみんなで推理できるような。あとは、マイクに向かって自分の考えを言うと、キーワードが画面に表示されて、そのキーワードがガチガチってハマっていくゲームとか……実現できるかわかりませんけど、おもしろそうですよね。
――新しい推理ゲームができるかもしれませんね。ところで、PS Vitaのタイトルで、注目しているものは何ですか?
伊東 『アンチャーテッド -地図なき冒険の始まり-』です。『アンチャーテッド』シリーズは、ゲームの部分と、映画的な演出の部分がシームレスにつながっているのが、とてもおもしろいと思います。
中嶋 SCEさんのタイトルは、PS Vitaの機能を活かしているので、参考になりますね。
――では、最後にひと言メッセージをお願いします。
中嶋 PS VitaとPS3、両方で遊べる推理ゲーム“みんなでかまいたち”を、ぜひ体験していただきたいと思います。プレイヤーの皆さんに、どう評価していただけるのか楽しみです。『かまいたちの夜』ファンの方も、今回が初めてのプレイという方も、ぜひ遊んでみてください。よろしくお願いします。
伊東 PS Vitaならではの機能も楽しんでいただきたいとは思いますが、『真かまいたちの夜』の本質はサウンドノベルとしておもしろいかどうかにあると思います。出来には自信がありますので、ぜひ読み物としてのおもしろさを体験してください。