ポーランドの大手パブリッシャーForever Entertainment。2010年の設立以降、数々のタイトルを世に送り出している同社だが、近年わけても注目を集めているのがそのリメイク戦略で、往年の名作のリメイク作を積極的に展開。2020年に『パンツァードラグーン:リメイク』をリリースしたのを筆頭に、『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』や『フロントミッション』など、複数タイトルを手掛けている。Forever Entertainmentのリメイク戦略に関して、プレジデントCEO、ズビグニェフ・デビツキ氏に聞いた。
ズビグニェフ・デビツキ氏((文中はデビツキ))
Forever Entertainment プレジデントCEO
■Forever Entertainment リメイクタイトルラインアップ
(タイトル名/発売日/プラットフォーム)
- パンツァードラグーン:リメイク/2020年4月2日発売/Switch、PS4、PC
- ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド:リメイク/2022年4月7日発売/ Switch、PS5、PS4
- フロントミッション ザ・ファースト:リメイク/2022年11月30日発売/Switch、PS5、PS4、XSX|S、PC
- ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド:リメイク Zバージョン(パッケージ版)/2023年6月15日発売/Switch、PS5、PS4
- フロントミッション ザ・ファースト:リメイク(パッケージ版)/2023年6月15日発売/Switch
- フロントミッション セカンド:リメイク/2023年10月5日発売/Switch
- フロントミッション セカンド:リメイク(パッケージ版)/2024年発売予定/Switch
- フロントミッション サード:リメイク/未定/Switch
- パンツァードラグーン ツヴァイ:リメイク/未定/未定
- ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド2:リメイク/未定/未定
※プラットフォームで発売日が異なる場合は最初に発売された日にちを記載しています。
※表中で、SwitchはNintendo Switch、PS5はプレイステーション5、PS4はプレイステーション4、XSX|SはXbox Series XとXbox Series Sの略です。
デビツキ氏の日本ゲーム好きからリメイクプロジェクトが生まれた
――せっかくの機会ですので、まずは日本のゲームファンに向けてForever Entertainmentのことを教えてください。
デビツキForever Entertainmentの設立は2010年8月になります。当初は、そのときメジャーになり始めていたiOSやAndroid向けタイトルを作っていました。そのころは、当時の私たちのような小さな会社では、プレイステーションやXbox向けにゲームを作るのは、すごく困難なことだったんですね。いちばん入りやすいのが、iOSとAndroidでした。家庭用ゲーム機向けタイトルを手掛けるのは、“将来の夢”でした。
――家庭用ゲーム機を手掛けるようになったきっかけがあったのですか?
デビツキ開発が昔に比べて容易になっていったというのと、あとは、Nintendo Switchの登場が大きかったです。当時Switchが発売されるや、ポーランドのゲーム会社ではいち早くSwitch向けのゲームを開発し始めました。Wii U向けにも1タイトルリリースしたことはあったのですが、それ以前はモバイルとSteam向けにしか作っていませんでした。Switchから、家庭用ゲーム機向けタイトルを積極的に手掛けることになった感じですね。
――ソフトを開発するにあたっての方針などはあるのですか?
デビツキチームによってはホラーゲームを手掛けたり、アクションゲームを担当したりしていますが、基本は任せています。私個人としては、戦略系のゲームや感動を与える素敵なストーリーのゲームが好きだったりするのですが、いろいろなジャンルのゲームを開発できる会社にしたいという思いはありますね。
――これまでソフトを出してきて、とくに印象的なタイトルは何ですか?
デビツキ私たちにとって、マイルストーンともなるべき、大きなタイトルがいくつかあります。まずは、『Frederic: Resurrection of Music』です。ポーランドの偉大な作曲家、フレデリック・ショパンをモチーフにしたリズムアクションで、2012年にiOS向けにリリースされました。2019年にはSwitch向けに『ショパンの復活 音楽を救え!』とのタイトルで発売されています。
そのつぎに『Sparkle』。2011年にスマホ向けに配信した、小さな微生物を徐々に巨大で美しい水生生物に成長させていくアクションゲームです。その後Switchに展開して、日本では『進化のひみつ』というタイトルで2018年に発売していますね。ファミ通さんでインタビューもしましたね(笑)。
2013年にモバイル向けに配信した『イザベル』も大きな反響がありました。そのつぎに『Hollow (ホロウ)』というホラーゲームを開発して、同作は2018年にSwitch版もリリースしています。
――とても印象的な社名ですが、由来を教えてください。
デビツキ社名の由来は、そのままの意味ですね。つまり、“エンターテインメントをプレイヤーの皆さんに永久にお届けする”という。“永久に”というのは、100年後や200年後というわけではなくて、どちらかいうと、“いつでも”というくらいの意味です。社名は聞いたら忘れないもののほうがいいと言われますが、“Forever”というのは少し言い過ぎかもなあと、最近は私も思っていますが(笑)、Forever Entertainmentは、“いつでも楽しみを提供している”という意味ですね。
――素敵な社名ですね(笑)。そんなForever Entertainmentでは、近年は往年の名作のリメイク作を精力的に手掛けていますが、その理由を教えてください。
デビツキそれは、私が昔からの熱心なゲームファンであるということに尽きるかもしれません。私はよく往年の名作を遊ぶのですが、ときにグラフィックが少し古かったり、プレイできるプラットフォームが限られていたりするのを残念に思っていたんです。“名作の数々を、グラフィックやUIなどを洗練させて、最新のプラットフォームで遊べるようにしたい”という思いが、Forever Entertainmentのリメイク作のきっかけでした。
――デビツキさんの長年のゲーム好きが突き動かしたプロジェクトだったのですね。リメイク化にあたっての方針などはあるのですか?
デビツキ昔のフィーリングを残しつつ、新しいプラットフォームで提供したいと思っています。世に出ている“リメイク作”と言っても幅が広くて、なかには世界観は同じであるものの、昔のフィーリングを残さずに、まったく違う操作性になっているリメイク作も見られます。しかし当社では、たとえば古いメカニズムだったり、現代には少し移植しづらい部分があるときは適宜変えたりはしますし、グラフィックは最新のゲーム機に合わせて最適化していますが、基本は昔のゲームのフィーリングを残すようにしています。
――システムや操作性にはあまり手を触れないで……ということですか?
デビツキその通りです。
――リメイクの第1弾は、2020年にリリースされた『パンツァードラグーン:リメイク』ですね。これはどのような経緯で実現したのですか?
デビツキ『パンツアードラグーン』は私たちのほうからオファーしました。私は『パンツアードラグーン』の大ファンで、昔はたくさんプレイしていたのですが、現行機では手軽に遊ぶことはできませんでした。だったら当社で……とセガさんにご提案したところ、ご快諾いただいたんです。
――Forever Entertainmentのリメイクプロジェクトが始動するときの典型的な流れだったのですね(笑)。
デビツキ『パンツァードラグーン:リメイク』は2019年に配信された“Nintendo Direct:E3 2019”で発表させていただいたのですが、ファンの皆さんが熱烈に迎えてくださいました。いまでも動画が残っていると思うのですが、『パンツァードラグーン:リメイク』を発表したときの、YouTuberの方の反響を集めた動画が公開されていて、皆さんとても喜んでくれたんですね。それがとても印象に残っていて、そこで私も「いい仕事ができているんだ!」という確信を持ちました。
――それはいい話ですね。
デビツキとはいえ、すべてが順風満帆というわけでもなかったんです。IPホルダーの方々にオファーを出しても、必ずしも喜んでいただけるわけではありませんでした。でも、『パンツァードラグーン:リメイク』、『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド:リメイク』(2022年)とリリースしたところ、いずれも反響がよかったので、徐々に認知度が高まっていった感じですね。
いまは、IPホルダーの方々と話し合って、適したタイトルのリメイクを……ということで進めています。ファンの方に評価していただけたおかげで、リメイクプロジェクトの幅が広がったのだと、私は認識しています。
――ちなみに、リメイク版の開発にあたっては、IPホルダーとのやりとりはどのような感じで進めるのですか?
デビツキリメイク版の開発にあたっては、IPホルダーさんとの密接なやり取りは欠かせません。メールだったり、オンラインチャットルームだったり、オンライン会議ツールだったりと、あらゆる方法を駆使して連絡を密に取っています。オリジナルのテイストを損なわずに、いかに新しくしていくか……という点において、IPホルダーさんとの意志の疎通は必須ですね。
――2023年に入って、6月15日には『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド:リメイク Zバージョン』と『フロントミッション ザ・ファースト:リメイク』の2作のパッケージ版が発売されましたね。
デビツキ両作のパッケージ版は、Forever Entertainmentのファミリーであるレイニーフロッグからの強い要望によるものです。とくに『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド:リメイク Zバージョン』は、2022年に日本で発売されたバージョンでは海外版にあった要素がなかったりしたので、日本のゲームファンのために……ということで、より海外版に近いバージョンをリリースすることにしました。
――言ってみれば、日本だけのオリジナルだったのですね。
デビツキもちろん、『フロントミッション ザ・ファースト:リメイク』のパッケージ版にもレイニーフロッグのちょっとした思いが込められています。パッケージ版にはオリジナルの冊子が同梱されているのですが、最近のパッケージ版は、ディスクやカートリッジしか入っていなくて少し寂しいと言うんですね。昔だったら、パッケージ版にはマニュアルも入っていて、ソフトを購入して自宅に帰るときに、電車の中とかでマニュアルを見ながら、家でゲームをプレイするのをワクワクしていたというんです。いい話ですよね(笑)。「本作はリメイクなので、当時と同じ気持ちになってほしい。だから冊子を同梱したい」ということで、「いいね!」ということになりました。
――リメイク版ならではの冊子ということですね。
デビツキちなみにレイニーフロッグは、2022年5月からForever Entertainmentのグループ会社に入ってもらっています。それより以前から数年間にわたって、当社タイトルの日本でのパブリッシングなどを担当してもらっていたのですが、どうせならグループ会社に……ということで、ごいっしょすることになりました。リメイクプロジェクトの推進にあたっても、心強い仲間になっています。
――2023年10月5日には、『フロントミッション セカンド:リメイク』が発売されましたね。
デビツキよりよいものをと試行錯誤したため、時間はかかりましたが、ようやくリリースできました。楽しんでいただけると嬉しいです。
――それにしても、リメイクプロジェクトには日本のタイトルが多いですね。海外タイトルのリメイク版も増えてくるのですか?
デビツキいま、いろいろな海外のIPホルダーさんたちとリメイク版に関しての調整を進めているところです。海外タイトルのリメイク版も適宜増えてくるかとは思いますが、私個人は日本のゲームのファンなので、今後も日本のタイトルのリメイク作をどんどんリリースしていきたいと思っています。
――楽しみです(笑)。どのようなタイトルのリメイク版を手掛けてみたいですか?
デビツキリメイク版を出したいタイトルが本当に多すぎて、10タイトルに絞るのも難しいくらいです(笑)。ユーザーの皆さんも楽しみにしていてください。
――リメイク作を出すにあたってのプラットフォームは、Switchが最優先になるのですか?
デビツキそうですね。Nintendo Switchが中心になっていて、任天堂様ともよい関係性を築いています。Switchはリメイク版を開発するにはとても適したハードです。メインはSwitchになりますね。
――ちなみにForever Entertainmentでは、今後もリメイクが中心になるのですか?
デビツキそんなことはありません。当社ではいまでもオリジナルタイトルを開発しておりまして、もうすぐ新しいタイトルも公開されるかと思います。先ほどもお話しした通り、リメイク版は私が個人的に好きだったゲームを現行機でプレイしたいという思いのもとにスタートしたプロジェクトです。リメイク版にも取り組みながら、オリジナルタイトルも開発していく予定でいます。
――最後に、Forever Entertainmentの今後の目標を教えてください。
デビツキ今後とも、魅力的なタイトルをお届けしていく予定でいます。今後の展開にご期待ください。