『進化のひみつ』の“進化の秘密”に迫る

 レイニーフロッグからNintendo Switch向けダウンロード用ソフト『進化のひみつ』が発売中だ。一風変わったタイトルを持つこのゲームは、小さな微生物を、徐々に巨大で美しい水生生物に成長させていくというアクションゲームだ。2011年にiOS版とAndroid版がリリースされた本作は、その後複数のプラットフォームでリリース。ワールドワイドでシリーズ累計50万ダウンロードを記録する人気ブランドとなる。

 本作のキモとなるのは、どの栄養成分(エレメント)を吸収するかで進化の方向性が変化することで、赤のエレメントを吸収すると肉食生物に、緑のエレメントでは草食動物に、青のエレメントは雑食生物となる。エレメントを吸収する際にユニークなのが、レイヤー(階層)の存在。一見するとフラットに見える画面は4階層以上に分かれおり、エレメントを入手するためには適宜RボタンもしくはLボタンを押して、レイヤーを移っていくことになる。

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 ちなみに、最初はエレメントしか吸収できない水生生物は、進化の過程で敵も食べられるようになる。ステージによっては、ボス(相当の敵)も登場するというから、プチ“怪獣大決戦”みたいなことになりそう。敵に攻撃されるとレイアーを飛ばされてしまうそうだ。

 Nintendo Switch版の新要素のひとつとして搭載されたのが、“競争モード”で、こちらはNPCの競争相手よりも多くエレメントを食べることを競うというルール。のんびり遊びたければ通常のモードで、競う楽しさを味わいたければ“競争モード”で……と、プレイフィールの幅が広げられたようだ。

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 さて、本作の開発を手掛けるのは、ポーランドに本社を構えるForever Entertainment。『ウィッチャー』シリーズのCD Projekt REDや『ダイイングライト』のテックランド、『This War of Mine』や『Frostpunk(フロストパンク)』の11 bit studiosなど、近年優秀なスタジオがどんどん出現していう感のあるポーランドだが、Forever Entertainmentは同国でもぐんぐん存在感を増しつつあるスタジオのよう。そんなForever EntertainmentのプレジデントCEO、ズビグニェフ・デビツキ氏がこの度来日。せっかくの機会……ということで、ファミ通ドットコムでは、デビツキ氏にインタビューを実施した。

 なお、デビツキ氏は大の日本通で、20回近く来ているとのこと。来日の大きな目的のひとつは日本ゲームのコレクション(!)で、「日本のゲームが大好きです。ソフトは1000本くらい持っているかなあ。来日する度に秋葉原のスーパーポテト(レトロゲームを販売している店舗)に行っていますよ」とのこと。海外の方から“スーパーポテト”という言葉を聞くとなんとなくドギマギしてしまうが、「好きなゲームは?」と聞いてみると、「格闘が好きだね。『ストリートファイター』シリーズや『鉄拳』シリーズ、『ソウルキャリバー』シリーズとか。さらにはクラシックJRPGや『ファイナルファンタジータクティクスス』、『ファイアーエムブレム』など……」と、日本のゲームのことを語るのが楽しくて仕方ないとばかりに淀みがない。「ポーランドには、日本のゲームが好きな人がけっこう多いですよ」と、うれしいお言葉も。

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デビツキ氏のコレクションの一部。引っ越し前で少し雑多な感じになっているとのこと。
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Forever EntertainmentのプレジデントCEO、ズビグニェフ・デビツキ氏。

クリエイティビティ、セールス、プレイヤーの期待。その三角形の真ん中を目指す

――まずは、Forever Entertainmentさんのことを教えてください。どのような方針のスタジオなのですか?

デビツキ 設立は2010年8月です。2004年に立ち上げたElement Studioが発展的に上場した会社になりますね。方針は、“作りたいゲームを作る”ということ。とはいえ、スタジオを継続しないと意味がないので、“できるだけクオリティーが高くて売れるもの”という点を重視しています。その点で『進化のひみつ』は、私たちのモデルケースになるタイトルですね。そういった意味では、クリエイターが作りたいゲームと人気を集めそうなゲーム、そしてプレイヤーが期待しているゲームというトライアングルの真ん中を目指すのが、Forever Entertainmentの方針だと言えます。

 ちょっとここで補足をしておいたほうがいいのかもしれない。“できるだけクオリティーが高くて売れるもの”と聞くと、「ちょっと現金な……」と思われるかもしれないが、ゲームはあくまで商品であり、いくらクリエイティブがすぐれていても遊んでもらわなければ意味がない。そのへんのバランスを重視すべきという発想なのだろう。ちなみに、デビツキ氏に近年、ポーランドの開発スタジオが増えているように思うとの感想を伝えたところ、「昔から開発ノウハウはあったのですが、お金がなくて自分たちが望むゲームが作れなかったんです。それが会社が上場して、人気タイトルも増えて、ポーランドの開発スタジオにお金が入ってきたんです」という。ちなみに、Forever Entertainmentも数年前に上場したときに株の価値が10倍(!)になったというから、ポーランドのゲーム業界の勢いがうかがえるだろう。「それでさらにいいゲームが作れるようになりました!」(デビツキ氏)というから、ゲーム作りにおける資金の必要性を、身を持って感じているのかもしれない。というわけで、インタビューに戻る。

――クオリティーの高いタイトルを作れる理由は?

デビツキ やはり人材ですね。経験豊富なベテランが多いので、クオリティーに関しては安心しています。

――ポーランドには優秀なスタジオが増えてきているように思いますが、Forever Entertainmentがほかスタジオに負けないと自信を持っているのはどの点ですか?

デビツキ ほかのスタジオがやらないような独自色のあるゲームを出すことを心がけているところでしょうか。ちなみにいま当社では、ゲームを開発するだけではなくて、ほかの会社が作るゲームのパブリッシングも手掛けているんです。

――海外では、力をつけたスタジオがパブリッシングを手掛ける場合が見受けられますね。

デビツキ スタジオ相互のネットワークが生じるので、勢いパブリッシングを担当するというケースが増えています。とくに最近は、Nintendo Switchに大きな可能性を感じているスタジオが多いように思います。Forever Entertainmentもいままでは社内開発タイトルがほとんどだったのですが、最近は他社のタイトルを扱うことが増えました。いまは15くらいのソフトを準備しています。

――15タイトルも!? ちなみに、パブリッシング事業はポーランドのスタジオのタイトルを世界に向けてなのですか?

デビツキ 当初はポーランドのタイトルを扱っていたのですが、いまはヨーロッパのタイトルを世界に向けて配信しています。フランス、ロシア、ドイツ、フィンランド、イタリア……。パブリッシングだけではなくて、サポートもしていますよ。当然のこと開発にあたってはアドバイスもしていまして、ちょうど昨日はブラジルのスタジオとやり取りをしていました。じつを言えば、今回来日にした目的のひとつに、日本のすぐれたタイトルを探すことも含まれているんです。

注力したのは、グラフィックに音楽に、アイデア

――なるほど……。順調に事業を拡大しているようですね。それでは、本題の『進化のひみつ』の話に……。“微生物を進化させる”というコンセプトが斬新ですが、どのようにして思いついたのですか?

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デビツキ 2006年にインディーゲームとしてリリースされた『flOw』にインスピレーションを受けました。同作をプレイしながら、「生物が進化したらどうなるんだろう?」と発想したんですね。インターネットで検索して、水生生物の進化の過程をたどったりして、「こうなったらおもしろいだろうな」なんてイメージを膨らませました。ただ、“進化”を前面に押し出してしまうと、どうしても固くなってしまう。そこで、もっとゲーム的にして、カジュアルユーザー向けに楽しめるものを方向性として据えました。そんなにプレッシャーを受けるわけではなくて、ある程度集中しなくても遊べるゲーム。2001年にモバイルでリリースしたときは、「禅のような体験ができる」、「リラックスのんびりして楽しめる」という評価をいただきました。

――“進化”をテーマにしたうえで、ユーザーに楽しんでもらうためのゲームシステムを構築するのはたいへんだったということですね?

デビツキ まさにそのとおりです。どこまでシンプルにするかでは、相当迷いました。結果として、“赤”、“緑”、“青”の3つのエレメントを用意することにしました。エレメントの見た目が違うのでわかりやすいし、バリエーションも豊富になる。エレメントを吸収することで、最初は少しずつ進化するけれども、レベルアップするときは一気に……といった具合にメリハリを付けることで、視覚的にも単調にならないようにしています。“赤”、“緑”、“青”で、何を吸収するかによって進化の道筋も変わるので、さらに楽しみが広がるわけです。

――シンプルさとゲーム性のバランスを取るのがキモだったようですね。

デビツキ 難易度の調整はしましたね。

――レイヤー間を移動できるのが、パラレルワールドを移行するみたいで、個人的には楽しかったのですが、なぜレイヤーを採用することにしたのですか?

デビツキ 最初は3D空間の中で自由に動けるようにしていたのですが、テストプレイをしてみると、難しくてどこにいけばいいかわからなかったんですね。そのときに、レイヤーというアイデアが浮かびました。カジュアルゲーマーからすれば、このほうが操作しやすいようです。お話しているとおり、2011年のiOS、Android版から端を発した『進化のひみつ』ですが、徐々に進化を重ねてきているんですよね。その進化の道程にNintendo Switch版はあります。

――おお、なるほど! 『進化のひみつ』はまさに進化しているというわけですね。ちなみにNintendo Switch版はどのように進化しているのですか?

デビツキ 言うまでもなく、グラフィックは段違いにキレイになっています。モデルやテクスチャもキレイに調整しています。AIとの“競争モード”はなかったですね。あと、難易度も少し調整しました。モバイル版はエレメントを100%集めないとステージクリアーにならなかったのですが、Nintendo Switch版では、後半のステージは全部集めなくてもクリアーできるようにしています。後半になるにしたがって、ステージが広くなるので、全部のエレメントを集めるのがたいへんなんですね。それで、90%くらい集まればOKとしました。

――“競争モード”を入れた理由は?

デビツキ ゲーム性を加味したかったからです。従来は、どれだけ時間をかけても大丈夫だったので、のんびり遊べたのですが、相手がいると早めにエレメントを集めないといけないというプレッシャーがかかる。人間適度なプレッシャーも必要ということで、両方楽しんでいただけるようにしています。ご自身の好みで遊んでいただければと。

――あと、本作ではBGMにも注力しているとのことですね。

デビツキ そのとおりです! 音楽は『進化のひみつ』でもっとも気を配った点のひとつですね。順番的には、(1)グラフィック、(2)BGM、(3)アイデアの順番です。本作を初めてご覧になった方は、「見た目も素敵ですね」とおっしゃっていただくのですが、ゲームをプレイされたり、映像をご覧になると、「音楽がとてもいいですね」と喜んでいただいています。全体のトーンとして音楽は、メディテーション(瞑想)といいますか、リラックスできるような音楽を心掛けています。

――音楽作りは順調だったのですか?

デビツキ 1年くらいかかっていますね。1ヵ月に1トラックくらい。音楽は、テレビドラマなどを担当している方にお願いしています。ゲーム音楽なども手掛ける方で、『進化のひみつ』のテイストに合っていると判断してお願いしました。ちなみに音楽に関連してですが、海外のプロモーションで、ゲームの写真を撮ってSNSに投稿すると、サウンドデータがもらえるというキャンペーンを行ったところ、それが大人気だったんですよ。日本でも同種のキャンペーンを行うことになったようで、どんどん応募してみてください!

――ちなみに、とくにお気に入りの音楽なんてあります?

デビツキ それは難しい質問だなあ。強いて言えば全部! 本作では始まるときは小さな微生物だったものが、どんどん大きくなっていきます。それに従ってBGMも変化していくんですよ。その物語を、うまく表現できたと思います。

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――まさに進化というわけですね。ところで、さきほどNintendo Switch版は進化の道程にあるとおっしゃっていましたが、『進化のひみつ』はこれからさらに進化するのですか?

デビツキ 『進化のひみつ』に関して言えば、ゲームプレイに関してはこれ以上の進化はないのかなと思っています。ただ、グラフィック面ではさらに進化しています。Xbox Oneで4Kに対応していますからね(Xbox One版は海外発売のみ)。さらに言えば、海外では 新しい『進化のひみつ』が出ているので……。

――『2』ですか?

デビツキ じつは、本作が海外では『2』なんです。原題は『Sparkle 2』と言いまして。

(レイニーフロッグ担当) 日本でいきなり『2』になってしまったら、「なぜ『2』?」と混乱させてしまうので……。

デビツキ じつは、『Sparkle 2』は内容的には2011年にモバイルで発売された1作目と同じものなんですよ。だた、コンソール展開するときに、二乗のつもりだったのですが、eショップで載せるときに、『Sparkle 2』になってしまったんです。

――あら。でも『Sparkle 3』を出してしまったんですよね?

デビツキ ユーザーさんが『Sparkle 2』に慣れてしまったので……。そのため、「コンソールで『Sparkle 1』を出してほしい」という要望もよくいただきます。なぜか『Sparkle ZERO』も出しているんですけどね。さらに言えば、海外では『Sparkle 3』も出ていまして、つい先日Nintendo Switch版がリリースされたばかりです。

――あら! 日本ではどうなるんだろう……。

(レイニーフロッグ担当) 『進化のひみつ』の販売状況を見て判断します!

デビツキ 何はともあれ『進化のひみつ』を楽しんでください!

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 インタビューでも言及している通り、レイニーフロッグでは『進化のひみつ』の“ゲームBGMサウンドトラック(データ)プレゼントキャンペーン!!”を実施中だ。こちらは、『進化のひみつ』を購入して、Nintendo Switch本体が映りこんだ状態のタイトル画面を撮影し、その写真をメールに添付して、件名に“『進化のひみつ』キャンペーン”と明記のうえ、キャンペーン事務局まで送ると、折返し『進化のひみつ』のサウンドデータがダウンロードできるURLが教えられるというもの。宛先は以下の通り。応募期間は6月17日23時59分までとなっている。デビツキ氏も自信を持つ『進化のひみつ』のサウンド。何はともあれ聴いてみたいところだ。

※『進化のひみつ』キャンペーンページ

『進化のひみつ』キャンペーン事務局連絡用アドレス:shinka_campaign@rainyfrog.com

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