2023年7月14日~16日、日本最大級のインディーゲームの祭典“BitSummit Let's Go!! / ビットサミットレッツゴー!!”が、京都市勧業館みやこめっせにて開催。
アニプレックスブースで出展されていたのが2Dアクションゲーム『Venture to the Vile』だ。同作を開発するのは、『バイオショック インフィニット』や『グランド・セフト・オートIV』、『アサシン クリード』シリーズなどの開発実績を持つメンバーが設立したカナダの開発会社Studio Cut to Bits。
2Dメトロイドヴァニアである『Venture to the Vile』はどのような経緯で生まれたのか。BitSummit Let's Go!!の会場で、同作のプロデューサーを務めるStudio Cut to Bitsの小林正男氏に聞いた。
なお、『Venture to the Vile』は2024年にPC(Steam)および家庭用ゲーム機向けに発売予定とのこと。家庭用ゲーム機向けの対応プラットフォームは未定だ。
小林正男氏
Studio Cut to Bits『Venture to the Vile』プロデューサー。ユービーアイソフトに14年在籍し、『アサシン クリード』シリーズや『ファークライ』、『ウォッチドッグス』などを手掛ける。
ゲーム作りのスタンスは、“スマートに開発”
――まずは、Studio Cut to Bitsがどのようなスタジオなのか教えてください。
小林当社は、トリプルAタイトルの開発に長年携わってきたデベロッパーが集まって作ったスタジオです。長年付き合いのある5人のデベロッパーで作った会社ですね。
開発ポリシーは、長年培った経験をもとに、スマートに開発をしていこうというスタンスです。トリプルAタイトルを開発していると、どうしても無駄なところが目に付きやすいんです。僕たちはチームが小さいということもあり、細かいところに目が届きやすいということを強みにして作っています。
あとは、ワンマン体制ではないということも挙げられるかと思います。みんなで相談しながら作っています。お互い深く理解し合っていますし、Studio Cut to Bitsを立ち上げる前から仕事をしていて、信頼しています。
――“スマートに開発”というのがユニークですね。
小林たとえば、トリプルAタイトルなどの大きなゲームを開発する場合は、まずはアートディレクターやコンセプトアーティストにイメージを書いてもらって、そこからインスピレーションを広げていって、ゲームとしてこうしていきましょうというのが多いです。
ですが、当社では、「Unityで作るから、こういう表現方法が得意なので、こういうのがいいだろう」と、アートディレクターがいろいろ試してみて、効率よく開発できるんですね。アイデアがあって、そこにはめ込んでいくというより、手元にある道具で何がうまくいくのか、このチームの持っているスキルをもとに、最終的に何がいちばんプレイヤーさんに喜んでもらえるか、ということを考えながら作っている感じです。
――皆さんそれぞれの専門分野の知識だけではなくて、ゲーム開発全体に対する深い知識があるのですね。
小林そうですね。それはあるかもしれないです。当社のアートディレクターはテクニカルアーティストとして、テクニカル面でも幅広い知識がありますし、クリエイティブディレクターは、レベルデザイナーであり、ゲームデザイナー兼ライターでもあって、ある程度プログラミングもできるという人材です。僕はプロデューサーなのですが、マーケティングもして、ビジネス周りも担当して……というチームです。
まあ、インディーゲームは、そういった感じで複数の役回りをもたないと、回していけないというのはありますね。
プレイヤーを驚かせるための“意外性”には気を配っている
――では、『Venture to the Vile』の開発がどのような経緯でスタートしたのか教えてください。
小林クリエイティブディレクターのポールが、「こんなゲームを作りたい」と、創業メンバーの5人にプレゼンしたんです。それを受けて、「やろう!」ということになりました。
――即決だったのですね。それほど魅力的な企画だったのですね。
小林うちのチームはみんなメトロイドヴァニアが好きなんです。“メトロイドヴァニア系”のゲームと聞いたときに、即決でやることになりました。とはいえ、「これはおもしろそうだ」となったのですが、実際のところ、メトロイドヴァニアのゲームは世にたくさん出ていますよね。“何か新しいことができないか”ということで考えた結果できあがったのが本作なんです。
――メトロイドヴァニアの新機軸は何か?ということで模索した結果生まれたのが本作ということですね?
小林そうです。たくさんの競争相手がいるところに挑戦していくので、違ったものを作らないといけない。その結果たどり着いたのが、自分たちの得意分野で勝負すべきだということでした。“オープンワールド”ですね。
僕だったら、ユービーアイで『アサシン クリード』シリーズや『ファークライ』、『ウォッチドッグス』など、オープンワールドのゲームに携わってきました。ポールは同じようにユービーアイでも働いていました。『バイオショック インフィニット』や、『グランド・セフト・オート・バイスシティ』から『グランド・セフト・オートIV』まで携わったスタッフもいます。
ですので、オープンワールドのナラティブやNPCとの関わりかた、ストーリーを作るのが得意なんです。そういうシステムを2Dのメトロイドヴァニアに入れたらおもしろいのではないか、ということで練りあげられていったのが本作となります。
――大好きなメトロイドヴァニアに、得意分野であるオープンワールドをかけあわせたのですね。
小林とはいえ、そういうゲームを作ろうと思っても、そもそもUnityにはそれをまかなうだけのシステムがありません。ですので、ツール開発にけっこう時間がかかりました。当初は2年くらいでゲームが完成するのではないかという見通しでいたのですが、そろそろ4年目です。
思ったよりもツールやシステムまわりの調整に時間がかかってしまい、「これ、どうなのかなあ」という期間が長かったです。実際。ツールを作っている状態だと、ゲーム画面が見られないですから。最近になってようやく、「これおもしろいな」という実感が湧いてきました(笑)。
2Dのプラットフォーマーだったら、開発はそんなに難しくないだろうと高をくくっていたところもあるのですが、実際に作ってみたら難しかったですね。
――その間、焦りとかはなかったのですか?
小林当初の予算よりはオーバーしてしまったので、いろいろと工夫しなければいけないことはありました。当初は、セルフパブリッシングも考えていたのですが、予算的に無理だろうということになって、パブリッシャーを探して……という流れになりました。まあ、臨機応変に対応していくのがインディーですから。
――ゲームを開発するにあたって、意識したあるいは影響を受けた作品はありますか?
小林メトロイドヴァニアなので、やはり『悪魔城ドラキュラ 月下の夜想曲』と、『Hollow Knight (ホロウナイト)』ですね。メトロイドヴァニアの中では、いちばん意識しているタイトルです。
――本作には、探索や謎解き要素も多そうですが、一度クリアーしたステージには戻ってこられますか? メトロイドヴァニアのように、マップは地続きで広がっていくのでしょうか?
小林はい。戻ってきます。私たちはそういうメトロイドヴァニアが好きで、なおかつオープンワールド的な要素が好きで本作を作っています。
ほかのメトロイドヴァニアタイプのゲームに比べて本作がユニークなところは、昼夜サイクルと気候があることです。同じレベルに戻ってくるとしても、昼と夜だったら敵の配置が違ったり、タイプが違ったりします。それ以外にも特定の状況になると、NPCがふだんいないところでクエストが発生したりとか、以前なかった植物が生えていたりとかします。それを採集することによって、何かアイテムがゲットできたりすることもあります。
そういう意外性を考えて作っているんです。同じところに戻ったときに、くり返しになる部分もありますし、レベルのレイアウトは変わりませんが、それでもプレイヤーさんを驚かせることができる“意外性”には気を配っています。
最近だと、TwitchやYouTubeでゲームをご覧になる方も多いかと思いますが、そういう方が1度見たレベルでも状況が変わればコンテンツも変わるので、「あれ? これ1度見たけど、何か違う」という、驚きを提供したいということを考えて作っています。
本作は、プレイヤーさんの行動をある程度は制限するところはあるにはあります。ラスボスのあたりはいきなりは行けないとか、ゲームのシステム上、最初はチュートリアル的なエリアから出られずに、ひと通り覚えてくださいという垣根はあるのですが、それ以外は基本的にプレイヤーさんが好きなように探索していただきたいという方針で作っています。
――メトロイドヴァニアとオープンワールドという、違うカテゴリのゲームを組み合わせることによって齟齬をきたすことがなかったのですか?
小林齟齬という意味では、やはりいちばん大きいのは2Dと3Dの違いですね。これまでずっと3Dのゲームを作っていたのを2Dにしたので、ゲーム性の調整には苦労しました。
『Venture to the Vile』は、2.5Dということで、3Dの要素も盛り込んだゲームになっています。アセット(素材)もいろいろと3Dのものを使っていますし、キャラクターも3Dですし、マルチレーンレベルデザインといって、ゲームプレイのレーンがいくつもある状態でプレイできるようになっています。
――マルチレーンレベルデザインですか?
小林たとえば、『フォールアウト』のすごくおもしろいところのひとつに、「遠くに何かおもしろそうなものがあるから、ちょっと行ってみよう」と、そこに向かっているうちにいろいろと発見があったりしますよね。『Venture to the Vile』でも、そういうのを取り込みたかったんです。
『Venture to the Vile』は基本的に背景にもどんどん行けるゲームです。「遠くのほうに何かおもしろいものがあったら探しにいってください」というゲームなんです。その場合、3Dならそのまま作るだけなのですが、2Dだとどういうふうに見せてどういうふうに調整していくのか……。
――そこはひと苦労した部分と言えるかもしれない?
小林苦労というか、丁寧に作っている部分ですね。レベルも2Dと3Dのあいだくらいなので、プレイヤーさんが迷ってストレスを感じるようにしたくないのです。そのへんもいかに探索しやすして、なおかつプレイヤーとしておもしろいかというのを考えてながら作っています。
メトロイドヴァニアの新機軸という自信はある
――体験版をプレイすると、地上だけでなく空中でのアクションも重要になると感じました。空中戦にはこだわりがあるのでしょうか?
小林空中戦はもちろんですが、全体的にレスポンス性の高いコントローラー周りのフィーリングを考えています。ゲームによってはアニメーションがすごく長くて、入力するとしばらくそんな感じというゲームもありますよね。
それに対して『Venture to the Vile』は、レスポンス性を高くすることによって、プレイヤーさんが思ったよりもキャラクターを動かせるように作っています。そのへんが空中戦でとくに現れるのではないかと思います。
――ちなみに、『Venture to the Vile』というタイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか。“Venture”は冒険ですよね。“Vile(ヴァイル)”は“不快”という意味ですか? つまり“不快な冒険”?
小林あはは(笑)。それは違います。もちろん、プレイヤーさんに不快な冒険をしてもらうつもりはございません。ゲームをプレイしてもらえればわかるのですが、本作では、何もなかった世界に、この世ならざるものが出現しまして、人間たちはその物体を総称して“The Vile”と呼びます。
“Vile”には、“不快”という意味もありますが、“悪”という意味もあります。住民からしてみれば、ふつうに暮していたのが、モンスターがでてきてとんでもない迷惑を被っているわけです。『Venture to the Vile』は、その“Vile”に対して、主人公が危険をかいくぐり、冒険をしていく、挑んでいくという意味ですね。
――少し無茶なご質問なのですが、メトロイドヴァニアとオープンワールドが合体して本作ができたとすると、シンプルに表現すると、本作はどんなゲームになったのでしょうか?
小林『Venture to the Vile』は、もちろんオープンワールドを完全に表現しているわけではありません。『Venture to the Vile』は、メトロイドヴァニアという、言うなれば2Dのレベル構造をしたゲームに、オープンワールドのストーリー性やミッションを落とし込んだゲームになります。
――新感覚のメトロイドヴァニアみたいな……。
小林メトロイドヴァニアは、20年以上続いているジャンルで、ゲームデザイン上は『悪魔城ドラキュラ 月下の夜想曲』以降、連綿と続いていると言えます。そんなメトロイドヴァニアに対して、自分たちのアートや自分たちのフィーリングを載せていくだけではなくて、ゲームデザインやシステム上違ったものを提供したいと考えて作っているのが『Venture to the Vile』です。
――それをなし得たという自信はあるのですね。
小林はい。おもしろいかどうかはプレイヤーさんが決めることだと思うのですが、具体的に見て、『Venture to the Vile』のようなゲームを作っているところはないと思います。違っているものを提供できているとは思います。
――最後に、発売を楽しみにしている読者に向けてメッセージをお願いします。
小林20年近くゲームを作っているメンバーが、初めて自分たちの好きなように作らせてもらっているゲームです。個人的に思い入れの深いタイトルですし、「おもしろいものを作っている」と自信を持って作っているので、ぜひプレイしてみてください。