このぐらいの季節になると考えてしまいます。なぜ、ひと夏の思い出はあんなにも鮮明なのでしょう。
もともと、日本は四季がはっきりしていることもあり、それぞれの季節に思い入れのある人が多いと思います。しかしながら、夏だけは人類に共通したモラトリアム的ななにかが潜在しているのでは、と思いませんか。筆者は毎年、夏に差し掛かればいそいそと『ぼくのなつやすみ』をプレイし始めます。
さて、そんなモラトリアムに浸りたい方へおすすめなのが『ドルドーニュ』(『Dordogne』)です。
主人公・ミミが子どもの頃にひと夏の間だけ過ごした、おばあちゃん家での出来事を描いたアドベンチャーゲームとなっています。
対応プラットフォームはNintendo Switch、プレイステーション5(PS5)、プレイステーション4(PS4)、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)。
美しい水彩画で彩られた、ミミの記憶を紐解くプレイレビューをお届けします。
※本稿で使用した画像はすべてPC(Steam)版で撮影したものです。
※本記事は『ドルドーニュ』の提供でお届けしています。
1980年代のフランスに広がる田園風景
主人公のミミは30代の女性で、先日会社からリストラされたばかり。ミミは13歳より以前の記憶がなく、記憶をなくす直前は、アメリカの実家からフランスにある祖母の家に預けられていたはずでした。
祖母が亡くなったとの報せを受け、ミミは20年ぶりに祖母の家へ行ってみることに。
祖母の家を調べていると、フラッシュバックするようにミミの失われた過去の記憶が蘇ります。ストーリーは2000年代の現在と、ミミの少女時代である1980年代の、ふたつの時系列が交互に進行。
あの夏にいったいなにがあったのか。祖母が遺してくれたものはなんなのか。ミミのひとりきりの旅が始まります。
水彩画による世界は圧巻。とくに水の表現が美しい
グラフィックが水彩画、というのが本作の1番の特徴ですが、筆者はそのなかでも“水の表現”に惹かれました。
雨を水彩画で動的に表現するとこうなるのかもしれない。
#DORDOGNE https://t.co/rTSLjscyMm
— ありみち (@arikuidou)
2023-06-14 05:02:01
これは冒頭のシーン。思わず「うわ!」と声を上げてしまったほど、ここの時点で一気にこのゲームへ引き込まれました。
雨を模した水彩が、にじんで垂れてくる表現はなんとも素敵。小学校の図工の授業で、紙に水彩絵の具をにじませた絵筆を落としたときの、あのジワッと色が広がっていく感覚を思い出しました。
本作は、全編手書きの水彩画をスキャニングして3D化しており、そこからゲームエンジンに取り入れられているとか。この水彩画を担当しているのがUn Je Ne Sais Quoiのセドリック・バブーシュ氏。
透明感の中にちゃんと質感もあって、キラキラ輝いている感じ。ミミが近くの川でカヤックをするシーンが大好きでした。あんなキレイな川が近くにあったら毎日通いたいです。
ラジカセ、ポラロイドカメラなど懐かしいガジェットでいっぱい
ミミの少女時代パートでは、ラジカセ、ポラロイドカメラなど、懐かしいガジェットの数々が登場。
大人から「これ使っていいよ」と機械を渡されるとき、それがめちゃくちゃスゴイ物のように感じませんでしたか? 筆者は親からもらったMDプレイヤーのことを思い出しました。実際は買い与えられたものじゃなく、お下がりだったりするのですが……。
ちなみに、ミミの祖母・ノーラは他界した夫の遺品をミミに渡しているので、かなりの決心だったと思います。最悪壊されてもいいお下がりとは違うわけです。あ、これ別にうちの両親を非難しているわけでは……。
ラジカセとカセットテープ
いまの世代だと「CD? なにそれ?」とか言われかねないので、補足しておきますと、録音できる記憶媒体(カセットテープ)と再生する機械(ラジカセ)です。カセットテープを捨てるときにテープの部分を好きにしていいと言われ、ビーッと引っ張るのが好きだった記憶があります。
ゲーム内では謎解きにも使用しますし、ミミの祖父母が遺した会話も録音されています。チャプターごとにカセットテープが落ちていますので、ぜひ拾って内容を聞いてみてください。
ボイスレコーダー
この、ヘッドホンとマイクがついているタイプ、久しぶりに見ました。
ボイスレコーダーではさまざまな環境音が録音でき、それをミミのバインダーに“貼る”ことができます。
※ミミは少女時代のチャプターが終わると、バインダーに今日あったこと、今日見たものなどをまとめます。
ポラロイドカメラ
ポラロイドカメラだ!!!
一眼レフもかっこいいですが、このアンティーク感、たまりませんね。
本作のグラフィックは水彩で描かれているので、写真を撮るとそのまま水彩画みたいになるのがとてもいい。
バインダーに今日あったことをスクラップ
夏休みの宿題、と言えば絵日記が定番ですが、ミミはその日にあったことをバインダーにスクラップします。スクラップというあたりが、海外っぽくていいですよね。
バインダーに貼りつけられるのは写真、音声、ステッカー、詩の4つ。音声まで貼りつけられるのはゲームの演出ならではなんじゃないでしょうか。
ステッカーは、チャプターごとに拾える場所があるので探してみてください。どれもかわいいです。
また、詩を書くためのキーワードもチャプターごとに違います。人との会話の選択肢がそのまま詩になることもあれば、探検中に文字が浮かび上がってきて、ミミがそれをキーワードとして拾うことも。
詩の選択肢を見ていて思ったのですが、これ、将来黒歴史になりそうな要素を多分に含んでいますよね……。
自家製調味料や地元の食材を使った食卓がたまらない
筆者、ゲーム内で料理をするという行為が大好きです。なので、このゲームにもそういう要素があってものすごく嬉しかった。しかもとても美味しそう。
地元のパン屋さんで買ったパン、手作りの甘すぎないイチゴジャム、フランスのバター、栗の花から集めたハチミツ……なんて素晴らしい朝食なのでしょう。
しかし、ミミときたらこれらの食材に文句をつけ、「シリアルが食べたい」と言い出すのです。アメリカから来たミミがこの場面でシリアルを求めるのがまたリアル。少しホームシックになっているのかもしれません。
竜のような謎の生き物“クーロブレ”
ドルドーニュには、川の底で眠っている不思議な生き物“クーロブレ”の伝承があるようです。このクーロブレのデザインがめちゃくちゃかっこよくて好きです。
果たしてこれは、実在する生き物なのでしょうか。こうした不思議な伝承があるのも田舎の夏休みっぽくていいですよね。
懐かしさと憧れが入り混じるドルドーニュ
日本で生まれた筆者にとって、ドルドーニュの風景や暮らしは郷愁を誘うというより憧れそのものでした。
パンを焼いて、庭で採れた果物を煮詰めてジャムを作って、2日に1度、大鍋にスープを作る。朝は庭の手入れをして昼は散歩、夜は読書をしてから眠る。もちろんおやつは欠かさない。みたいな田舎暮らしへの憧れが本作には詰まっていると思います。
けれど、それだけではなくて、小さい頃におばあちゃんの家に行くのが楽しみだったな、という気持ちを思い出したり、懐かしく感じたりもしました。おばあちゃんの家には漫画がたくさんあって、ファミコンもあって、犬もいて、それをすごく楽しみにしていたなと。
『ドルドーニュ』は、プレイヤーの懐かしい記憶を思い出させつつ、異国情緒も感じられる作品でした。夏の思い出のひとつとして、プレイをおすすめします!
ドルドーニュ
- プラットフォーム:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC
- メーカー:Focus Entertainment
- 開発:Un Je Ne Sais Quoi、UMANIMATION
- 発売日:2023年6月14日発売
- 価格:Nintendo Switch版は2480円[税込]、プレイステーション5版、プレイステーション4版は各2420円[税込]、Xbox Series X|S版、Xbox One版は各2400円[税込]、PC版は1990円[税込]
- ジャンル:アドベンチャー
- 対象年齢:IARC 3歳以上対象
- 備考:ダウンロード専売