2023年2月16日にリリース予定の『トワツガイ』は、スクウェア・エニックスがアニメイトとマーケティングパートナーを組んで手掛ける、iOS・Android向けの完全新作RPG。本作は『SINoALICE(シノアリス)』を手掛ける藤本善也氏がプロデューサーを務め、原作・世界観設定、シナリオは白本奈緒氏(ILCA)、音楽は岡部啓一氏、瀬尾祥太郎氏(MONACA)、オリジナルキャラクターデザイナーは雪醒(ゆきさめ)氏が担当。サービス開始前に早くも舞台化が発表されるなどして、いま注目のスマホゲームのひとつとなっている。
なお、本日(2023年2月15日)より事前ダウンロードも開始されている。
そんな『トワツガイ』で原作・世界観設定、シナリオを担当する白本奈緒氏と、その白本氏と長年交流のあるヨコオタロウ氏をお招きし、白本氏も大きく関わった『NieR(ニーア)』シリーズや『ドラッグ オン ドラグーン3』開発時のエピソード、『トワツガイ』についても話を訊いた。
白本奈緒(はくもと なお)
スマホゲーム『千年勇者~時渡りのトモシビト~』ではメインシナリオ、『SINoALICE(シノアリス)』でも一部シナリオを手掛ける。新作の『トワツガイ』では原作・世界観設定、シナリオを担当。
ヨコオタロウ
『ドラッグ オン ドラグーン』や『NieR(ニーア)』シリーズなどのディレクターを担当。そのほか、舞台やマンガの原作などその活動は多岐にわたる。『トワツガイ』のことはまったく知らないまま、長年交流のある白本氏のためにインタビューに参加。
対談の前からひと悶着
――対談の前に写真撮影からお願いできますか?
ヨコオ・白本 わかりました。
ヨコオさんがいつも通りエミールマスクを被り、白本さんはネヴィ(『トワツガイ』に登場する毒舌なインコ)のスタンドを取り出す。
ヨコオえ!? 白本さん、顔出さないの?
白本はい。
ヨコオ『トワツガイ』をアピールする立場なのに? ふざけんな!
白本エミールマスクで顔を隠しているヨコオさんに言われたくない!
――ごもっともと言えばごもっとも。
ヨコオでも以前、電撃オンラインさんのインタビューで顔出してたよね? 「読者の皆さんはその記事を検索して探してください」と記事に書いておいてください。Twitterはこちらです。
白本ちょっとやめて! ヨコオさんだってネットでググれば顔出てくるじゃないですか!
――どちらも傷を負うやり取りはやめてください!(笑)
白本皆さんに言いたいのは、ヨコオさんのことをいい人みたいに思っているかもしれませんが、そうじゃないってことです。たしかに、距離を取ってヨコオさんのことを見ていると、「愉快な人だな」と私も感じるんですけど、いっしょに仕事をしているときは理不尽の権化みたいな人なんですよ。
ヨコオ否定はしません。実際に理不尽でヤバいキャラだと自覚しているので。でも、白本さんも相当なレベルですよ? 「白本さんとはもう無理です」と言って、何人か仕事を投げ出していますから。ただ、白本さんは自分の元部下なので、僕がヤバいキャラ……邪神を生み出してしまったのかもしれません……。
――では、まずはそんな邪神誕生の話からうかがえれば……。
ハラスメント(?)を受け続けた部下時代
――今回はヨコオさんがクリエイティブディレクターで参加している『シノアリス』の藤本善也プロデューサーが新たに手掛ける『トワツガイ』のリリース前ということで、もともとヨコオさんとお知り合いという原作・世界観設定を担当された白本さんとの対談の場を設けさせていただきました。まずは、おふたりはどこでつながりが?
白本『ドラッグ オン ドラグーン』や『NieR Replicant/Gestalt(ニーア レプリカント/ゲシュタルト)』などを開発したキャビアという会社があったんですけど、そのときの上司がヨコオさんでした。その前のつながりで言うと、ヨコオさんと大学(神戸芸術工科大学)が同じだったんですが……。
ヨコオ大学は世代がぜんぜん違うから、在学中に会ったことはないんですけどね。
白本ウチの大学の学科出身の方がキャビアに多くて、入社してから知りました。「え、こんなにいたの?」って。
ヨコオキャビアでは白本さんはチームの若手という感じでしたね。
――そのチームは『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』ですか?
白本そうですね。ヨコオさんはディレクターで、私は企画担当としてチームに入りました。
ヨコオ入社して最初に担当したタイトルって何だった?
白本『バレットウィッチ』(キャビアが開発し、AQインタラクティブから2006年7月27日に発売されたXbox 360用のアクションゲーム)です。
ヨコオ『バレットウィッチ』の後に『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』?
白本いったん別の作品の企画書作りなどをやった後、ですね。
――ヨコオさんの第一印象はどうでしたか?
白本第一印象……。入社したてのころ、ヨコオさんから「キミと仕事をすることはないだろうけど、酒を飲むことはあるかもしれない」と言われたのをよく覚えています(笑)。『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』のチームに入ってヨコオさんにその話をしたら、「ぜんぜん覚えていない」と言われたのも含め。
――まずは酒呑みとして認められていたんですね(笑)。
白本そう……かもしれないです。若いころはお酒の飲みかたがよくわかっていなかったので、ものすごく飲む人たちに囲まれて、ガンガン飲んでいました。ただ、お酒にすごく強いワケではなかったので、つぶれてしまうことも多かったですが。
ヨコオ飲み屋のトイレから2時間ぐらい出てこなくて引きずり出されたこともあったよね?
白本いろいろな方にご迷惑をおかけして……。
――せっかくなので(?)、ほかに酒の席での失敗談とか思い出に残っていることなどあれば教えてください。
白本酔っ払うと、先輩たちにひとりひとりにダメ出しをしてしまったこともありましたね(苦笑)。あと、お酒の席で思い出に残っているのは巴投げです。
――巴投げ?
白本当時、キャビア社員で小高い丘の上に桜が咲いている素敵な場所でお花見をしていたんですよ。そこでベロベロに酔っ払ったヨコオさんがなぜか私を「えい!」って投げ飛ばそうとしたんです。
――なぜ(笑)。
ヨコオよくわからないです。なにせベロベロだったので。
白本私はそのとき、「絶対にひとりで転げ落ちたくない!」と思ったので、ヨコオさんを強く掴んだら巴投げのようになってしまい、ふたりで丘の上から下の茂みに転げ落ちてしまって。
ヨコオパワハラを超えた暴力ですよね。
――真説ゲームクリエイター伝(サイコミで配信されているWebマンガで、ヨコオタロウ編が連載中)も顔負けのエピソードですね……。
白本しかもその後、ほかの酔っ払っていた人たちも転げ落ちてきたんです。「何で?」と言われても私にもわからないですけど。
ヨコオ15年くらい前は、そういう乱暴な時代でしたよね(遠い目)。
――時代のせいじゃなくキャビアが特殊な気がしますが……。
白本そうかもしれません。キャビア時代はほかの方にも、飲んだ帰りになぜか私が逆さ吊りにされたりしたこともあります。その後、別の人に渡されて最終的には大玉送りみたいになっていました。「意味がわからない!」と思って。
――それ、山賊か海賊がいる時代の話ですか?(笑) ヤンチャな会社……。
ヨコオ白本さんは当時から、「身長が小さくてかわいいでしょ?」みたいなところをウリにしていたんですよ。
白本ウリにはしてない(笑)。
ヨコオ「私は体積が小さいからエコなんですよ」と、よくわからないアピールもしていましたし。いまにして思うと、太っていた僕を暗に批判し、イジるハラスメントですよね?
理不尽な扱いが内なる“邪神”を目覚めさせるきっかけに!?
――そうした若手時代を経て、『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』チームに配属になったと。企画担当とのことでしたが、具体的にはどのような作業を担当されたのですか?
白本UIの仕様回りだったり、背景をやっていたりしました。
――シナリオや物語に何か関わったりは?
白本ウェポンストーリーはいくつか書いていますがメインシナリオは直接はやっていません。ヨコオさんから章ごとに分かれたプロットを渡されて、「すべてに何個かずつ意見を出して」とお願いされて。そのときにシナリオに対すると感想と、わかりにくかったところを指摘して、「こうしたらいいと思います」と自分の意見を書いて提出したら、いくつかは採用されました。
――社内で客観的な意見を募ったと。
ヨコオそうですね。
白本ただ、「フィーア(仮面の街という街に出てくる少女)を殺さないで!」という意見……願いに対しては、「絶対に殺す!!」と言われました(苦笑)。
――逆に「絶対に殺して!」と意見しておけば、生き残ったかもしれないですね(笑)。
ヨコオいえ、どう転んでもけっきょくは殺していたと思います。
――当時は、物語を作りたいという希望はなかったんですか?
白本いえ、ありました。入社した時に「シナリオや世界観を担当したい」という希望は出していて、その後『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』の開発が始まるときに、ヨコオさんがひとりずつ面談みたいなことをしてくれたんですね?
ヨコオあ、それは覚えている。
白本そのときに私がシナリオや世界観をやりたいことを知って、ヨコオさんがチームに加えてくれたんですよ。あと、ヨコオさんは『ICO』がお好きじゃないですか? 私も『ICO』が好きで、ゲーム業界に入るきっかけになったゲームが『ICO』だと社内で公言していたので、それもあったかもしれません。
――そんなヨコオさんのチームに入って、ヨコオさんのシナリオ作りを参考にしたり、影響を受けたことはありましたか?
白本……あんまり。シナリオ作りについて、影響を受けている部分はあるかもしれませんが、ハッキリと内容についてアドバイスなどをもらったことがほぼないので、自分ではパッと出てこないです。
――師弟関係みたいな感じでもなかったと?
白本そうですね。あ! でも算数の授業は受けました。算数があまりにもわからなくて、突然、算数の授業が始まりました。
――算数?
ヨコオ白本さんだけではなくて、けっこうな人数がいた気がするな。
白本チームの人たちもいましたね。あれはなんで教えてくれたんですか?
ヨコオ当時の白本さんは、「何で?」って言うぐらい計算ができなかったから……。
――ちなみに、どのレベルの算数だったんですか?
ヨコオ小学校高学年とかですね。
白本たしか「Aが家を出て毎分○メートルで移動。その○分後に、Bが家を出て~」みたいなやつです。
――(笑)。なぜ、そんな授業を?
ヨコオくり返しますが、「何で?」って言うぐらい計算ができなかったからです……。
白本いまは、スクウェア・エニックスのシナリオ班の方々にシナリオ作りの授業っぽいことをされていますよね? 私は受けてないので、そういう意味ではヨコオさんとシナリオ班の方々のほうが、師匠と弟子の関係かもしれません。
ヨコオ白本さんは自分のダメな人間性をコピーしたという意味での師匠・弟子という関係のような気がします。
白本えっ、私がヨコオさんのコピー!? それは受け入れ難い(苦笑)。
――無意識に影響を受けているところもあるのでは?
白本たしかに、ヨコオさんの影響という意味ではヨコオさんと仕事をするまでは、人に「死ね」と言ってはいけないとすごく思っていたので苦手だったのですが、「死ね」とか「クソ」とか汚い言葉をシナリオで使うのもぜんぜん平気になってしまいました。
――そういえば『トワツガイ』にもそういう言葉遣いのキャラが登場していましたね(笑)。
白本はい。そこで耐性がついたというか。『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』の仕事をしていたときは、自分にもまだピュアな心が残っていたので、自分がそう言われると人知れず傷ついていたんですよ。また、性格的にはエミールのように、「でも、がんばれば何とかなるはずですよ!」みたいなことをいう子だったんです。
――まだ心は折れてなかったんですね。
白本でも、ある日、ヨコオさんから「この毒にも薬にもならない感じのキャラクター(エミール)のセリフは白本がモデルだよ」って言われて。
――言いかた(笑)。
ヨコオ偽善っぽいことを言う白本さんをモデルにしてエミールは生まれました。
白本しかもゲームが発売されてエミールがちょっと人気になったとき、「そう言えばエミールのセリフは、私がモデルになったって言ってましたよね?」って確認したら、「そんなこと言ってねぇよ、バカ!」って言われて。しかもその後、自分がエミールになっているし。
――理不尽。
白本「意味がわからない!」と思いました。『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』で私のピュアな心はかなり削られました。
※『ニーア レプリカント』より
『ドラッグ オン ドラグーン3』で邪神覚醒
――『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』発売後、ヨコオさんはキャビアを退社され、フリーの立場で『ドラッグ オン ドラグーン3』のディレクターを担当しますが、白本さんは?
白本ヨコオさんから声をかけてもらってILCAに入社し、『ドラッグ オン ドラグーン3』の開発に参加した感じです。
――『ドラッグ オン ドラグーン3』ではどのような内容の仕事を?
白本窓口側の業務を担当していました。
ヨコオ制作進行みたいな。書くとか作るとかではなかったと思います。
白本ヨコオさんと資料を作ったりはしていましたけど、どちらかと言うと企画っぽい資料の作成や窓口を担当していました。また、 『ドラッグ オン ドラグーン3』はめちゃくちゃ下ネタが多くて、下ネタの内容がギリギリセーフかアウトか、スクウェア・エニックスの倫理の担当者さんとずっとメールのやり取りをしていたのを覚えています。「ギリギリ入っていません!」とか、言いわけじみたことをずっと倫理担当の方に返信していました。
――『DRAG-ON DRAGOON 10周年記念BOX』に同梱されいた資料集“ドラッグ オン ドラグーン ワールドインサイド”にヨコオさんと倫理担当の方の対談で、その攻防の模様が語られていましたが、開発中は白本さんがそのあいだに入ってやり取りされていたんですね。
白本はい。下ネタ耐性はあったほうだと思いますが、途中で限界を超えて「もう無理です」とヨコオさんに泣きついたこともありました。
ヨコオでも、最後までやってもらいましたけどね。仕事ですから。
――鬼……。
白本このころにはもうピュアな心は微塵も残っていなかったですね。
――邪神がここで爆誕……。
ヨコオこの場をお借りしてお詫び申し上げます。白本さんが邪神になったことで各開発会社さんにご迷惑をおかけしているんだろうなという、申し訳ない気持ちはあります。
主人公の誕生日を仮でヨコオ氏の誕生日に……その後、修正し忘れて葬られる!?
――初めて原作やシナリオを手掛けた作品は何ですか?
白本ちょっと記憶が朧気なんですが、セリフや部分的なシナリオなどはそれまでも書いていたのですが、シナリオまるごとはマーベラスエンターテイメント(現マーベラス)から発売されたニンテンドー3DS用ソフト『アニマルリゾート 動物園をつくろう!!』が初めてかもしれません。本格的に関わったのは『千年勇者~時渡りのトモシビト~』(スクウェア・エニックスよりサービスされていたブラウザゲーム。以下、『千年勇者』)になるのかな。
ヨコオ『千年勇者』のときは僕が監修をしていたので、白本さんが書いたものが、シナリオがおもしろい、おもしろくないの話じゃなくて、ブラウザゲームとしてちゃんとハマるかどうかを見ていた気がしますね。ここでこういう表現は無理とか。
白本構造上のアドバイスが多かったですよね。
ヨコオそうそう。ボリュームはこれぐらいで書いたほうがいいよとか。
白本最初に見ていただいて、途中からはわりとノータッチになりました。
ヨコオブラウザゲームは型が決まってしまえば、後は同じことをくり返すだけだからね。
――『千年勇者』は『ドラッグ オン ドラグーン3』と同じ2013年にサービス開始したんですね。『千年勇者』のシナリオを考える傍らで、倫理とも戦っていたと……。
白本いろいろたいへんな年でした……。
――『千年勇者』は2016年にサービスが終了し、その後、ヨコオさんと関連があるタイトルでいうと、2017年6月6日サービス開始の『SINoALICE(シノアリス)』になるわけですね?
白本『シノアリス』ではシナリオの一部をやっていました。
ヨコオあ、白本さんと6月6日とでひとつ言っておきたいことが!
――なんでしょう?
ヨコオ『ニーア レプリカント』の主人公の誕生日が決まっていないときに、仮で僕の誕生日(6月6日)に設定されていたんです。
白本誕生日が決まったら変更するつもりだったんですが、変更し忘れて……。『ニーア ゲシュタルト』のほうは修正したんですが。
ヨコオだから父親のほうだけは9月11日になっているんですね。
――犯人は白本さんだったんですね(笑)。
白本それに関しては本当に申し訳なかったと思っています。ただ、そのことで私は、ヨコオさんに殺されました。
――えっ!?
白本『ニーア ザ・コンプリートガイド+設定資料集 GRIMOIRE NieR』の資料の中で、死んだキャラクターの名前に私の名前(フルネーム)が使われているんです。
ヨコオ確か資料集の年表のページだったかな。生前に記者が残した記録(資料3の“ある新聞記者の取材メモ”)みたいな体裁の資料です。
――そういうところで罰を(笑)。恐ろしい……。
白本でも、あれは本当に私のミスなので、謝るしかなかったです。ただ、資料の中では、何の失敗もしていない企画の人も殺されていましたけど(笑)
『トワツガイ』は絶望の中にも光が差すような物語!?
――話を戻しますと、邪神になった白本さんがメインスタッフとして本格的に関わるのが今回の『トワツガイ』ということですね?
白本そうですね。邪神になった気はありませんが。
――そんな白本さんが携わる『トワツガイ』に対して、狂気っぽいというか刺激が強めな何かを期待しているファンや読者も少なくないと思いますが、『トワツガイ』はどんなシナリオや世界観になるのですか?
白本私がいちばん好きなのは、悲しいとか絶望とかの中に、ほんのわずかに残っている光だったり、希望だったりします。ですからその路線で進めたいと思うんですが、そうすると、何となくヨコオさんが作る物語と雰囲気が似てしまうこともあるので、どうしたものかと。
――じつは似たものどうし?
白本似てはないと思います! でも、好みは似ているような気がしています。キャビア時代に、私が机の上に置いていた本をヨコオさんが見て、「俺が20代のときに読んでいたような本を置いてんじゃねぇ!」と突然キレたことがあって。このときも「なんて理不尽な人なんだ」と思いましたが。
――ちなみに、白本さんの好みだったり、影響を受けた作品にはどんなものがありますか?
白本パッと思い浮かぶのは、幼いときに読んだ絵本の『わすれられない おくりもの』(スーザン・バーレイ著)です。内容をざっくり説明すると、年老いてしまったアナグマが亡くなってしまうのですが、このアナグマにはたくさんの友人がいて、皆に慕われていました。生前、アナグマは形あるもの、ないものに関わらず、いろいろなギフトを友人たちに贈っていて、友人たちはアナグマが亡くなって悲しいけれど、そのギフトからアナグマの思い出で紐解かれ、みんなが救われるんです。悲しいだけではなくて、少しだけ光や希望が残っている感じにすごく影響を受けています。
――たしかに、悲しいけれど温かい気持ちにもなりますね。
白本あと、最近よく考えるのは、『美少女戦士セーラームーン』が自分の中に残っているんだなと。この作品も小さいころに観ていたのですが、いま思い返すと、女の子たちが戦う姿を見るのが好きなんだなと。
ヨコオ『トワツガイ』も女の子だけだよね?
白本そうですね。
――少年のように見えるキャラクターも少女なんですね。
ヨコオ『舞台 少女ヨルハVer1.1a』も女の子ばかりが出てくるんですけど、僕が脚本を書いているので、女の子のことがわからないんですよね。男性が書く女性モノはある種ファンタジーになってしまうので、女性の白本さんが描く『トワツガイ』は女子のリアリティーがあるんじゃないかなと思います。
白本でも、だからこそすごく悩むところもあって。女の子どうしのシナリオを書くときに、『トワツガイ』もそうだったんですが、周囲の人から「女の子どうしの話だから絶対にドロドロしているでしょ?」とか、「キャットファイトみたいなものがあるんでしょ?」とか、「女の子どうしの話は醜いんでしょ?」とか思われるんです。それはリアリティーとしてあるのかもしれないけれど、それを主軸に描くのは違うかなと思っています。
――ただリアリティーがあるだけでもダメだと。
白本そうなんです。ただ、女の子のシナリオを書いているときのほうが、ちょっと自由な気はします。女の子の感情の機微もそうだし、感情の幅みたいなものを持たせることにあまり抵抗がないというか。
ヨコオ僕は開き直って、ドラマ上、こういうキャラクターが必要だからと割り切ります。そういう意味では、性別に関係なくキャラクターを置いているんですが、それでも現実的な女性を描く必要性は出てきます。そんなとき参考にしてるのは白本さんです。
――どんなところを?
ヨコオ乱暴な言葉遣いとか。なので、僕の作品に出てくる女性キャラクターに乱暴な言葉遣いの女の子が多いのは、白本さんのせいです。
白本いや、絶対に違います!(笑)
『トワツガイ』の物語を勝手に予想
――『トワツガイ』の原作を考えるとき、何かお題なり、テーマのようなものはあったのですか?
白本プロデューサーの藤本さんからは、“ダークファンタジー”と“女の子の絆”というテーマをいただいていて、それを軸に最初の企画書を書きました。シナリオは、どちらかというと構造から考えていき、運営モノなので、これぐらいのタイミングで何を見せるかを決めてから、ペアごとのざっくりした物語を作って、ピースを当てはめていった感じです。
――ソーシャルゲームの物語を考えるうえで考慮している点はありますか?
白本『トワツガイ』はメインの流れの中に登場人物たちの物語が入ってくるような作りにしていますが、その理由はソーシャルゲームを運営していくときに、愛着を持ってもらうのはキャラクターなのかなと思っていて。ソーシャルゲームのシナリオは、飛ばされやすいというのは理解していますが、シナリオを通して少しでもファンになってくれる人が増えればいいなと思い、キャラクターのシナリオはしっかりを用意しました。
ヨコオ最近は、ソーシャルゲームでもシナリオを重視したゲームが増えてきましたね。登場キャラを全員女性にしよう、というのは誰が言い出したの?
白本藤本さんだったと思います。
――“トワツガイ”というタイトルは永遠とツガイの造語ですよね?
白本はい。こちらからいくつかタイトル案を出していたときに、藤本さんからゲーム中で使われる用語でもある“永遠ツガイ”をタイトルに使いたいという話がありました。
ヨコオカタカナで5文字の『シノアリス』と似ているから、藤本さんが選びそうなタイトルだなとは思いました。藤本さんのつぎの作品もタイトルもカタカナ5文字で、すでに誰か別のクリエイターが作っているんじゃないですか? 藤本三部作のラストを。
白本(笑)。『トワツガイ』はテーマである絆を深めていくと“ツガイ”という特別な関係になれるんですね。さらに絆を深めて試練を乗り越えると、“永遠ツガイ”というさらに強い関係に発展します。“永遠ツガイ”という関係性があって、作品のタイトルはそこから持ってきている感じですね。
――鳥をモチーフにしたのは?
白本まず、鳥の種類が豊富であることや、鳥自体に物語があったりすることなど、いろいろと理由はあります。個人的に鳥が好きなので、調べるのも苦じゃないかなというのもあります。でもいちばんは、女の子どうしの物語という設定を最初にいただいたときに人間の最小の関係がふたりひと組だと考えたんですね。そこからペアの話を作ろうと思って、いろいろとイメージをふくらませる中で、ペアで仲がいい動物は鳥だなと。“ツガイ”という言葉も、ペアの関係性と違和感があまりなかったので採用しました。
ヨコオひとりひとりに物語があると、キャラクターの人数が増えいくに従って、話作りは難くなるんですけど、ペアを作るところで、なるほどなと思いました。ということは、ペアどうしの人間関係のエピソードがいちばん多くなるの?
白本そうですね。メインシナリオでもふたりがどういう関係性なのかわかるように展開していきますし、ペアどうしのお話でも展開していきます。密に描くのはペアどうしの物語ですが、3組のペアがいっしょに行動することもあるので、ほかのペアと交流することで個々のキャラクターたちを多角的に掘り下げられたらいいなと考えています。ペアにしか見せない顔もあれば、逆にペアでは見せない顔もあったりすると思うので。
――三角関係みたいなことになったりは?
白本三角関係のドロドロみたいなものというよりは、何かしらの関係性……因果関係を持ったキャラクターは出てきます。たとえば、自分のペアの子がほかの子と仲よくしていると、ちょっと嫉妬したりすることもあると思いますが、そういう展開も作れるようにはなっている感じですね。
――ペアはゲーム中で決まっているんですよね? プレイヤーがこの子とこの子をペアにしたい、と選べるわけではなく。
白本はい。ペアを自由に組めるかどうかは、開発当初に時間をかけて議論しましたが、ふたりの物語を描くことを大事にしようということになり、ペアは固定にしました。
――『トワツガイ』の作品で、白本さん的に描きたいテーマは?
白本登場人物たちをふたりひと組のペアにすることで、人どうしの関係性を密に、いいところも悪いところも描けるなと思っています。そのうえで人間関係はいいことばかりじゃない。いろいろ葛藤もあるけど、わずかでも光があるところを描いていきたいですね。
――物語が進んでいく中で、ペアの関係性はどうなっていくんですか?
白本変わっていくペアもあれば、わりとマイペースなペアもいる感じですかね。
ヨコオペアになると、どちらかを殺すとドラマとして盛り上がるじゃないですか。
――書き手ならではのドライな視点……。
ヨコオでも、ソーシャルゲームだからキャラクターを簡単には殺せない。ただ、無限に復活する不死身のキャラクターにしてしまうパターンとか、この世界線では死んでいるけど別の世界線では生きているパターンとか、いろいろ手段はあるけれど、どのパターンでいくつもりなの?
――死ぬ前提(笑)。
白本ヒミツです(笑)。そもそも死ぬかどうかもわからないし。
ヨコオあと、『トワツガイ』で女性っぽくておもしろいなと思ったのが、敵の話が一切出てこないところ。キャラクターの内面やペアのディテールが深いけれど、このインタビューでも敵の話が出てこない。誰と戦っているかわからないまま、ここまで話ができるというのが、女性らしいなと。きっと白本さんは、敵にあまり興味がないから、よくわからないけど悪いヤツ、みたいな建つけになっている、と僕は予想します。
白本ヨコオさん、すぐ予想する(苦笑)。
――ちなみに、『トワツガイ』の敵は……?
白本“黒い海”が発生して、そこから出てくる異形の魔獣と災禍の魔女というのがいて、敵にもそれなりにバックボーンや設定はありますが、現時点ではあまり語っていません。謎の敵が出てきた、戦わなきゃいけないみたいな展開になっています。
ヨコオあと、敵と戦うとき、自分だったらこうする、というのがあるんだけど。必殺技を使うときに、ひとりがもう一方の相手の体を食べて、ついばまれて体がどんどんなくなっていく。
――エグイ(笑)。
白本あ、でも、それに近いようなシステム(※血を舐め合うことで発動するツガイの必殺技のこと)は実装していますよ。
ヨコオあるんだ! これ以上食べられちゃうと死んじゃう……みたいな展開はあるの?
白本食べないし(笑)。
ヨコオじゃあ、必殺技を使うとき、ツガイのひとりが相方の何かを奪うとか。どうせだったら常識とか奪ってほしいな。必殺技を使うたびに常識が欠けていって、「下着姿で出歩いちゃダメ!」みたいになっていくとか。
白本「全裸はダメよ!」みたいな?(笑)
ヨコオそうそう。常識がなくなって「挨拶しなくなる」とか。最後はダメな集団になっちゃう。
――ダークファンタジーが一転ギャグ展開に……。でも、白本さんもまんざらでない感じが怖い(笑)。そもそも、ヨコオさんは『トワツガイ』はどこまでご存じなのですか?
ヨコオ女の子ばかりが出てくるスマホ向けゲーム、ということくらいで、ほかはまったく何も知りません。画面すら見たことないです。でも知らないほうが好き放題に予想できて楽しいですね。
早くも舞台化も決定
ヨコオそういえば、『舞台 ヨルハ』などで演出を担当してくれた松多さん(松多壱岱氏)は、『トワツガイ』では何を担当しているの?
白本松多さんはシナリオ監修です。
――松多さんとは、どういう役割分担で作業を進めたのですか?
白本『トワツガイ』は舞台化するお話もあったので、そのことも踏まえつつ、シナリオの構造を見てもらいました。シナリオは私が書きましたが、松多さんにはバランスをチェックしてもらったりして。
――ゲームのサービスが始まる前に、舞台化が決まって驚きました。
白本しかも会場も広いところ(サンシャイン劇場)ですし、公演数もあったので、私も「え!? いいの!?」ってなりました(苦笑)。その一方で、リリース前にも関わらず期待していただけるというのは、ありがたいなとも思いました。
ヨコオ舞台とゲームは同じ話なの?
白本ゲーム序盤のストーリーを舞台版にアレンジしていると聞いています。
――舞台版の脚本は、松多さんが?
白本はい。松多さんはこれまで何本も舞台の脚本を手掛けていますし、基本的にはお任せする感じになるかと思います。
ヨコオ藤本プロデューサーからは『シノアリス』のときも舞台をやりたいと相談されていたんですが、ストーリーが舞台化できるような構造になっていなかったのでお断りしたんです。
――では、舞台化は藤本プロデューサーの念願なんですね。
ヨコオでも、「夢を叶えるのが早すぎない?」とは思いました(笑)。ゲームをリリースしてコンテンツが盛り上がってから舞台公演、という流れがふつうですよね? でも、舞台はキャストで観客を集めることもできるので、舞台をきっかけにゲームを知ってもらって遊んでもらう、という流れもなくはないのかなという気がしますが。
――ゲーム原作の舞台化も増えてきましたね。
ヨコオゲームの作り手からすると、ずっとデジタルでやっていると、生物を見ることにすごく飢えてくるので、それが新鮮でいいんです。
――生物(笑)。
白本わかります(笑)。先日、舞台の記者発表をさせていただいたときに、初めて衣装を着て武器を持ったキャストさんを見たのですが、会見の裏でゲームのスタッフさんたちとものすごく盛り上がりました。いつもデータというか、イラストという平面の世界で見ていたものが、実際に現実の世界にあるというのは、うれしかったですね。
――では、そろそろお時間なのですが、ヨコオさんが生み出した“邪神”白本さんとひさびさにお話しされてみて、感想はいかがですか?
ヨコオそうですね……。舞台の話題で思い出したんですけど、『舞台 少女ヨルハ』を公開したときに、白本さんを招待したんですど、観に来てくれなかったんですよね。人づてに聞いた話だと、「(ヨコオ氏の)影響を受けるのがイヤだから観たくない」と言っていたようなんです。『舞台 少女ヨルハ』は女の子がたくさん登場する作品なので、『トワツガイ』と似たらマズいと考えたのかもしれませんが、僕からすると「観てからそれと違うことをすればいいじゃん」って思うんですが。
白本なんでそれをわざわざ最後に言うんですか? 実際の理由は違いますが、ちょっと悪意を感じます(笑)。
――白本さんはいかがですか? 今回、ヨコオさんと話してみて、あらためて気づいた点とか。
白本お話の構造についてヨコオさんから訓戒を受けたわけではないですし、ヨコオさんのメソッドもそんなに知らないのですが、ヨコオさんは資料の見た目にすごくこだわる人なので、そういった実務的なことは確実に影響を受けているなと思いました。
ヨコオそういう意味では、自分とはテイストの異なる物語になると思います。いまから全部想像で語りますが、“ツガイ”の関係も必ずしもイコールの関係性ではなく、バランスの悪いペアも混じっていて。でもバランスが悪いことによってドラマ性を生んでいます。そしてそれが全体の大きなストーリーに絡みながら進行します。そんな感じで『少女革命ウテナ』を超える最高の物語をお届けするとお約束しますので、ぜひご期待ください。
白本ちょっと!(笑) 名作を引き合いに出さないでください!
――ヨコオさんはゲーム作りの先輩として、白本さんにアドバイスやエールはありますか?
ヨコオ''白本さんは『トワツガイ』を作っている人間なんだから、自分がいちばん作品をかわいがってほしいです。それに、自分がいちばん大事だと思えるんだったら、売れようが売れまいがかまわないんじゃないかと思います。
――では、最後に白本さんからも、明日サービス開始を迎える『トワツガイ』についてひと言お願いします。
白本『トワツガイ』はキャラクターデザインを手掛けた雪醒さんのイラストがすばらしいですし、岡部さん(岡部啓一氏)と瀬尾さん(瀬尾祥太郎氏)の楽曲もすごくいいんです。それに、“ツガイ”に振り切ったゲームシステムも開発ディレクターの山田さんとエボルブさんが丁寧に作ってくださっています。シナリオは、それらを楽しむために読んでもらえるとうれしいですね。紆余曲折はありましたが、いま出せる全力を出して開発を進めていますので、『トワツガイ』をぜひ遊んでください。
“トリ”の少女たちの絆を育み残酷な運命に抗うという、なかなか尖った世界観となっている『トワツガイ』。長年、ヨコオ氏から理不尽な(?)扱いを受け、“邪神”へと覚醒した白本奈緒氏は、トリの少女たちの物語をどう描くのか!? 『トワツガイ』は2023年2月16日サービス開始だ。
/
㊗事前登録者数30万人達成
\
皆様のおかげで、ボーナスステージも全てクリア
リリース後下記の報酬を全員配布
✨ジェム6,000個(最大でガチャ20回分)
✨スタートダッシュアイテム一式×2
✨最高レアリティ★4武… https://t.co/sfrSMb5Gd3
— トワツガイ【公式】事前登録受付中 (@towatsugai)
2023-02-14 14:02:00