2022年10月17日からセガ・オブ・アメリカ主催で『ソニックフロンティア』メディアツアーが開催された。その中で、本作のシナリオライターを務めたイアン・フリン氏への合同インタビューが行われた。
以前は『ソニック』シリーズのコミックライターだったというイアン氏が本作のシナリオに込めた思いとは? “世界屈指のソニックマニア”と言われる氏が愛するソニックの魅力にも直撃!
Ian Flynn 氏(イアン・フリン)
フリーランスのライター。“ソニック・ザ・ヘッジホッグ”に関連するメディアで15年以上のキャリアを持つことで知られている。コミック、ビデオゲーム、テレビ、ストリーミングメディアのライターとして活躍している。また、オンタリオ州オン州トロントを拠点に、Q&Aポッドキャスト “The BumbleKast”を共同主催している。(文中はイアン)
――『ソニック』シリーズのプロデューサー・飯塚さんがイアンさんのことを「彼は世界で5本の指に入るソニックマニアだ」とおっしゃっていました。大好きなキャラクターをご自身で描くうえで守っている部分はありますか?
イアンすべてのキャラクターに素敵なところが見つかるように書いていて、それが読者やプレイヤーの人に伝わるようにと思っています。ソニックについてはヒロイズムやかっこよさ、エッグマンについてはその特徴をおもしろいやりかたで描けるようにしています。
ソニックは楽しくて、親しみやすくて、ヒーロー的な存在でありたいと思っています。必ずしもいいキャラクター、正義というかたちではなく、ちょっとイタズラ好き、ちょっといやみなところもあって、そのちょっとクールなところが、ほかの多くのビデオゲームのヒーローたちとは違うところですよね。
その違うおもしろさを出していきたいと思っています。
――『ソニックフロンティア』は自由に遊べる“オープンゾーンが特徴です。どのように攻略していくかはプレイヤーに委ねられているためプレイヤーごとに体験も異なるものになるかと思いますが、シナリオ執筆においてそういった異なる体験を整えるような工夫はあるのでしょうか? 自由度が高いことに対しての利点・難点があればお聞かせください。
イアン非常にたいへんでチャレンジングでした。細かい点について、チームやディレクターの岸本さんとゲームといちばんいいバランスというのを考え、相談してきました。
たとえばソニックが囚われているエミーを見つけて、「すぐに戻るよ」と言ったのに、プレイヤーが20分もほかのところを探索していると、ゲームプレイが合わなくなってしまうので、そのバランスがうまくいくように、しかもプレイヤーがちゃんとストーリーの大事なところを押さえてくれるようにというのに気を使って作りました。
――ストーリーは現状“ソニックが古代文明の眠る未知の島、スターフォール諸島を探検する”ということ以外にはあまり公開されていません。 過去作品とはどのような関係があるのでしょう? 『ソニックフォース』から続く部分がありますか?
イアンYes, and No.
一同 (笑)。
イアン答えは「はい」と「いいえ」と両方なのですが、「はい」の部分に関しては、これが本作のストーリーが『ソニック』のつぎのチャプター、つぎのステップであるということを感じさせたいと思って作っています。
たとえば、フレンズに関しては過去の話やいままであるタイトルの話に基づいています。その仲間との関係をつぎのステップに持っていくという意味では過去の作品とつながっていると思います。
しかし「いいえ」の部分では(上記のようなつながりがあるとはいえ)、『ソニックフロンティア』はこのゲームだけでひとつの物語として理解できるように作られているので、そういった意味では、過去作品ともつながりがありますが、ある意味では関係がないということです。
――オープンワールドゲームはプレイの構造上、十分な自由度を保障しながらも、ストーリーの密度があまり薄くならないよう調節が必要だと思います。本作のストーリーはどのように構想したのでしょうか。
イアン先ほどすこしお話ししたことでもありますが、ストーリーのバランスとプレイヤーが散策するバランスをうまく取るという点に気をつけました。
ゲームでは、ソニックが訪れる島々でそれぞれフレンドが出てくるわけですけども、そのフレンドがソニックと関わりながら個人的な成長をするという部分を描きました。そして古代のミステリーの話を解き明かすところにも関わってきます。
ひとつひとつのエピソードを理解するのはかんたんですが、それを組み合わせていくことによって、影にあるもっと壮大なストーリーが見えてくるという作りになっています。
――開発側からゲームのおもな設定を聞いてからシナリオに着手されたと聞いていますが、開発側とのやり取りで印象的なエピソードなどはありますか?
イアン自分はすごく長いあいだ『ソニック』の大ファンで、この仕事は夢の仕事が現実になったと感じています。
シナリオを書く場合も、たとえば12個くらいストーリーを出して、そのストーリーを岸本さんが「この案がいい」と選ぶと、またそこからいろいろな案を考えて。
詳しい内容は漏らしてはいけないとは思うんですが、キャラクターの成長過程とか展開させるアイデアを数多く出して、その中から調整して……という作業をずーっと長いことやってきました。
開発チームはつねにガマン強く付き合ってくれたと思います。
――(笑)。ゲームのシナリオには、マンガや映画作品などと比較してどのような特徴があると思いますか?
イアン私がこれまで手掛けてきたコミックの作りかたとは、内容も仕事の進めかたも大きく異なります。
コミックの場合は自分がアイデアを出して、それが受け入れられるとスクリプト(台本)を起こし、それをエディターさんに渡してアーティストが作るというようなストレートなラインで、ときどきアーティストが内容に関して質問してくるということはありますが、それほどやり取りは多くないんです。
けれども、ゲームの方では、ストーリーはゲームに基づいて作られていきます。どのようにゲームが進んで、そのシナリオはどのコンポーネント(部分)と関わってくるのか。そのようなことを、開発チームと何度もやり取りを繰り返すという作業が必要になってきました。
アイデアを何回も変更したり、改定したりという作業が続くというところでがほかのメディアと違うところだと思います。
――ストーリーを構築するうえで、影響を受けた過去のソニックシリーズのタイトルはありますか?
イアン最初に岸本さんと『ソニック』シリーズプロデューサーの飯塚さんから聞いたのは「通常よりもシリアスな雰囲気を出したい」ということでした。そこで自分は『ソニックアドベンチャー』や『ソニックアドベンチャー2』のような、キャラクターが“決定的なある瞬間を迎える”というのを書こうと考えました。
それぞれのキャラクターが個人的な旅を経て、起承転結があり、自分自身について何かを学んだり発見したりして成長するというものにしたいと思いました。
そうすることで骨組みが少しきちんとしたものになりました。ストーリーやインタラクションに意味があると感じられ、ただ単に「これが冒険で、それが終わればそのキャラクターについてのお話はもうおしまい!」ということではなく。
将来のストーリーやキャラクターの瞬間のための種を植えることができるかもしれません。
――ソニックには幅広いファン層がいますが、今回の『ソニックフロンティア』のストーリーはどういった層(年齢、性別、趣味趣向等)を意識されて書かれたのでしょうか?
イアン私は、ソニックは“一般受け”するシリーズだと考えています。
もちろん、ティーンエイジャーや若い男の子寄りではあると思いますが、しっかりとしたものを作れば自然とその層を超えていくものだというのが私の考えです。
逆に言えば、ターゲットを追いかけると視野が狭くなると思っています。いい物語を作り、魅力的なキャラクターを作れば、コアなファンのみならず、さらに多くの人を惹きつけることができるのです。
40代の私が、8歳の自分の子と同じようにソニックを楽しみにしているのには理由があるのです。
――イアンさんはもともとソニックの大ファンとのことですが、『ソニック』との出会いともっともハマったポイント、好きなタイトルやキャラクターについて教えてください。
イアン父がジェネシス(北米版メガドライブ)の『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』同梱版を持って帰ってきたのが始まりです。そのころ、昔のコミックやアニメシリーズも出ていたものですから、私にとって『ソニック』は避けて通れないものであり、それはDestiny(運命)でした。
ということで、キャラクターに関しては好きなのはナックルズが好きで、エッグマンも明るくておもしろいところがいいですね。また、ダイナマイトというキャラクターも非常に好きだったので、いつの日か戻ってきてくれることを願っています。
――アメリカでは『ソニック』はゲームにとどまらずコミックやアニメ、もちろん映画もありますが、「これがもっとも好き!」というのは?
イアンどんなメディアでも好きで、そのメディアがどのようにソニックや仲間たちを描くのか、どういった違いを作ろうとしているのかということを知るのがすごく楽しいです。
すべてがよくて、楽しくて、好きで、もっと欲しいです。すばらしい。ありがとうございます。
――日本向けバージョンではディレクターの岸本さんがセリフなどをより日本向けに手直ししたと聞いていますが、その点についてはイアンさんも問題なく受け入れられたのでしょうか?
イアン日本版の脚本は見たことがないので、その違いを見るのもおもしろいと思います。
また、インターネットではかんたんに共有や比較ができるので、とくにファンのみなさまが両者をどのように受け止めるのかが興味深いところです。いずれにせよ、岸本さんが私の作品を尊重しつつ、日本のユーザーに合うように微調整してくれることを、私は全面的に信頼しています。