2022年9月15日~18日に千葉県・幕張メッセにて開催された東京ゲームショウ2022。同イベントにて、注目を集めたトピックのひとつと言えば、THQ Nordicブースの『AEW: Fight Forever』が挙げられるだろう。
AEW(オール・エリート・レスリング)は、2019年にトニー・カーンによって立ち上げられたアメリカのプロレス団体。かつて日本のリングに上がった経験もあるケニー・オメガ選手など、150人以上のレスラーを擁している、いま注目の団体だ。
『AEW: Fight Forever』は、そんなAEWをモチーフにしたプロレスゲーム。数々のプロレスゲームを手掛けてきたユークスが開発を担当していることでも大きな話題を集めている。
THQ Nordicも本作に対する注力ぶりは相当なものがあり、8月上旬の同作発表後にドイツ・ケルンで行われたヨーロッパ最大規模のゲームイベントgamescom 2022では、ブース内に特設リングを設置し、AEWのプロレスラーを招いてのエキシビション マッチを連日実施。会場を大いに盛り上げた。
その勢いそのままに、東京ゲームショウ2022でも、THQ Nordicブースの目玉として特設リングを設営。提携している日本のプロレス団体DDTのプロレスラーなども参加してのエキシビション マッチが行われた。
……と、かように大きな盛り上がりを見せた『AEW: Fight Forever』だが、関係者もけっこうな数の人が会場に来ており、「取材できますよ」という提案を受けてバックヤードに足を運んだところ、取材部屋は絢爛豪華でにぎやかな雰囲気に包まれており……。「まさに、取材のバトルロイヤルではないか!」と、記者は密かに心の中で叫んだのはここだけの話として、取材に対応してくださったのは、以下の通り。
●Nik Sobic(ニック・ソビック)氏
AEW シニアバイスプレジデント ビジネスオペレーションズ ゲーミング&eスポーツ
●里歩選手
初代AEW女子世界王者
●岩下英幸氏(ゲタ)
ゲタ・プロダクション代表
●David Knudsen(デイビッド・カヌーセン)氏
THQ Nordic プロデューサー
当初、デイビッド・カヌーセン氏には、ニック・ソビック氏ら3名のインタビューにサポートで参加していただき、補足で改めてインタビューさせていただいている(今回の記事は、その2回のインタビューをまとめたもの)。というわけで、このバトルロイヤル、もといインタビューの模様をお届けしよう。皆さんには、『AEW: Fight Forever』のプロジェクトが立ち上がった経緯や本作にかける思いなどを聞いた。
なお、忘れないうちにお伝えしておくと、『AEW: Fight Forever』はNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC向けに発売予定で、発売時期は未定となっている。
「『WWF No Mercy』のようなゲームを、いまのテクノロジーで再現したい」
――そもそも『AEW: Fight Forever』は、どのような経緯でできあがったのですか?
ニックまずは、ここにいる皆さんを紹介させてください! ここには世界一の人たちが集まっています。ゲタさんは世界一のプロレスゲームを作る方で、里歩さんは初代AEW女子世界王者。THQ Nordicさんは世界でもっともすぐれたパブリッシャーで……と、世界一が集結しているんです。
――おお、豪華ですね。
ニックで、ご質問にお答えしますと、2019年にAEWを設立して、まず何をするか……ということで決めたのがゲームを作ることでした。いまの若い人たちはゲームが大好きですよね。若い層にAEWとう団体を訴求したいということで、ゲームに注力することを決意したのです。それから2年半をかけて多くの努力をしてきました。
開発にあたっては、ケニー・オメガが大きな役割を果たしています。
デイビッドケニー・オメガ選手は、本作のAEW側のクリエイティブ・ディレクターを担当しています。
――ケニー・オメガ選手がですか?
ゲタケニー・オメガ選手はゲームマニアなんですよ。あ、申し遅れました。私は本作のアドバイザーを務めさせていただいています。AEWのプロレスゲームを作るとなって、ケニーから声をかけてもらったんですね。
――ゲタさんはもともとプロレスゲームを作っていたのですか?
ゲタそうです。2000年にニンテンドウ64向けにリリースされた『WWF No Mercy』のディレクターを担当していました。当時まだプロレスラーではなかったケニー・オメガが『WWF No Mercy』を遊んでくれていて、「プロレスゲームは『WWF No Mercy』がいちばんだ」と思ってくれていたのがすべてのスタートでした。
それで、それでケニーがAEWのトップレスラーになって、いざ「AEWのゲームを作る!」となったときに僕の名前を挙げてくれて、僕を探しあててくれたんですね。僕はすでにゲーム開発からは退いていたのですが、ケニーがなんとか僕にコンタクトを取ってくれて……。
そこでケニーと直接会って、「AEWで新しいゲームを作りたいと思っているので、ぜひとも力を貸してほしい」と言われたんです。「『WWF No Mercy』のようなゲームを、いまのテクノロジーで再現したいので、アドバイザーをお願いできないか」と。
――それは、とても素敵なお話ですね。
ゲタ素敵な話なんです。僕もすごくびっくりしたのですが、探しあててくれたことに対する感謝と、僕を選んでくれたことに対する感謝とがあって、ふたつ返事で「ぜひやらせてください!」とお返事をしていました。
ニックそれでユークスに開発をお願いすることになって……という流れですね。
デイビッドTHQ Nordicには、ある程度開発が進んだ段階で話が来ました。THQ Nordicはプロレスゲームの経験も長いし、ブランディングも含めて、いい仕事をしてくれるだろうと。世にパブリッシャーはいろいろありますが、プロレスゲームということで考えると、THQ Nordicがいちばんフィットすると判断してくれたようです。
――ユークスにTHQ Nordicというと、プロレスゲームを知り尽くしたコンビとは言えそうですね。THQ Nordicサイドとしても、AEWから話があったときは快諾だったのですか?
デイビッドそうですね。会社としてのビジョンやプロレスゲームに対するビジョンを聞いて、躊躇なく決めました。
――ちなみに、THQ Nordicから見た、AEWというプロレス団体の魅力は?
デイビッドプロレスに何が求められているかを知っていることですね。あと、多様性ですね。プロレスラーを150人以上擁していて、いろいろな人がいるのですが、みんな情熱を持っていて、試合に対して取り組みもそれぞれ熱い。団体のカラーとかがありつつも、みんなそれぞれ個性を持っているんです。AEWを見ると、古きよき時代のプロレスを感じることができます。
――その点、プロの視点から見ていかがですか?
里歩そうですね、みんなが楽しんでやっている感じがします。実際に楽しいですし。
プロレスラーが作るからこそ、ファンが望んでいることがわかる
――おお、見ている人にもその楽しさが伝わるのかもしれないですね。で、開発会社がユークスに決まって、開発が粛々と進んでいくわけですが、実作業はどのように進行していったのですか?
ゲタ基本的にはゲームマニアであるケニーのこだわりを優先した感じになります。そのうえで、ケニーはプロレスラーでもあるし、プロレスゲームにも造詣が深い。“ケニーが思い描いている夢のプロレスゲームの実現”というところが大前提としてありました。そこに僕の知見やアイデアであったり、ユークスの開発力などがミックスされて、 “最高のプロレスゲームをいまの時代に生み出す”ということがいちばんの命題になりました。
――プロレスラーがプロレスゲームを作るというのは、ある意味で最強かもしれないですね。
ゲタそうですね。これは僕もそうなのですが、プロレスが好きな開発者なりがプロレスゲームを作ろうとすると、プロレスをどういうふうに解釈して細分化し、それを再構築してどうゲームにするかというのが基本だと思うんです。そこに本物のプロレスラーが介在することはまずなかったんです。
それが『AEW: Fight Forever』では、ケニー・オメガという本物のプロレスラーが、「プロレスはこういうものである」「こういうふうに作りたい」という思いを直接形にしているので、いままでのゲームとは完全に違いがあるんです。そこがケニー主導であることのいちばんのメリットであり、ファンがいちばん望んでいるような、本当のリアルがちゃんと再現されているものになると思います。
――言葉に説得力がありますね。
デイビッド私も数々のプロレスゲームに関わっていますが、プロレスラーといっしょに仕事をするのは初めてです。『AEW: Fight Forever』はケニーの意見をかなり反映したものになっています。
――となると、ほかのプロレスゲームにはない、『AEW: Fight Forever』の魅力って何ですか?
ゲタプロレスをどういうふうに自分の手でコントロールして、実現するのかがすべてかなと思っています。ゲームプレイのことですね。
――そこがいままでとぜんぜん違う?
ゲタはい。そう判断していただいていいと思います。
――ユークスさんはいままでいろいろなプロレスゲームを開発してきましたよね。そのユークスさんに対しても、いままでやってこなかったようなことをお願いしたということですか?
ゲタそうですね。僕がかつて手掛けた『WWF No Mercy』のエッセンスを、いまの時代に存分に見合った形で存分に形にしてくださった感じです。
――たとえば?
ゲタたとえばですが、グラップルのシステムと、あとはアニメーションです。グラップルのシステムは、実際のプロレスの攻防を再現するための基本的なシステムなのですが、そこの文化は僕が作っていた『WWF No Mercy』と、ユークスが作っていたものとではずいぶん違うものでした。そこをミクスチャーさせているのは、いちばん大きなところかもしれません。
――ユークスのクリエイターとのやり取りはどんな感じだったのですか?
ゲタ最初はとまどいがあったかと思いますが、だんだんゲタ・プロダクションが考える理念を理解していただいて、開発はスムーズに進みました。
ファンの方もそれはわかってくれたようで、gamescomで『AEW: Fight Forever』を初お披露目したときは、「これこそが、僕らの待ち望んでいたプロレスゲームだ!」というふうに言ってくださる方がすごく多かったので、大きな手応えを感じています。
ニック「プレイして鳥肌が立った」みたいなことを言ってくれる方もいて、自分も感動しました。あと、gamescom awardで、“Best Sports Game”に選ばれて、うれしかったですね。
プロレスラーが遊んでも楽しいゲームに!
――かなり無茶ぶりしてしまいますが、里歩さんはそのへんプロの方から見ていかがですか?
里歩私がいつも見ているものがそのままゲームになっているので、それがすごくうれしいです。トップ選手が動いているのを見て、すごくリアルでした! さっきゲームをプレイさせていただいたのですが、とても楽しく遊べて、触りやすいゲームだなと思いました。
――プロの方が見てもリアリティーがあったのですね。
里歩はい! 動きもすごく滑らかで、本当に闘っているみたいな感覚がありました。プロレスラーが遊んでも楽しいです! でも、私まだ『AEW: Fight Forever』に出るかわからないので……。
――ああ……、出られるといいですね……。
里歩私、9歳のころからプロレスをやってきたのですが、いまの日本だとあまりプロレスに触れる機会がないと思っていて。10数年前だとテレビをつけたら、プロレスが放送されているみたいな感じでしたよね。なので、このゲームを通して、いろいろな方にプロレスの楽しさが伝わったらいいなと思います。
――いいことをおっしゃるなあ。ちなみに9歳のころからプロレスを始めたのは、なにかきっかけがあったのですか?
里歩私が通っていた体操教室の先生がプロレスラーだったんです。
――あら!
里歩それで気がづいたらプロレスをやっていたみたいな感じです。
――どのような思いでプロレスをしていらっしゃるのですか?
里歩小さいお子さんにも見てもらいたいです。自分が小さいころはそうだったのですが、プロレスって怖いイメージがありました。そういう意識を覆せるような、アニメのヒロインみたいな存在になりたいですね(笑)。
――(笑)。ところで、AEWには誘われて入ったとのことですが、不安とかはなかったのですか?
里歩不安はありました。ですが、まわりの選手とかを見て、すごい方々ばかりだったので、そこに入れていただけるだけで光栄だなと思って。
――あまりスタイルも変えずに?
里歩私は日本のプロレスに誇りをもっているので、そこは大きく変えないようにしています。私はふつうの女の子で、そのままふつうに延長線上でプロレスをやっているみたいな感じです。女の子も楽しみながらプロレスをしているような……。
――日本のプロレスに誇りを持つというのは素敵ですね。それはなんでしょうか?
里歩うーん、繊細なところですね。
――日本のプロレスのよさを世界に広げているということですね!
里歩がんばります!
――最後に、日本のゲームファンに向けてメッセージをお願いします!
ニックAEWの魅力が詰まった本作を楽しんでいただきたいです!
里歩AEWが好きな日本の方もいらっしゃるでしょうし、プロレスが好きな方もいらっしゃると思います。さらには、プロレスをそもそもあまり知らないという方もいらっしゃるかと思いますが、どの層の方に向けても刺さるゲームだと思っているので、いろいろな方に手にとっていただきたいです。
ゲタくり返しになってしまうのですが、ケニー・オメガが描いた夢を形にするべく僕がジョインして作り上げた一作となります。ゲームプレイやアニメーションの表現の奥深さにこだわったタイトルなので、ぜひ期待していてください。
デイビッド『AEW: Fight Forever』はプロレスの原点に立ち返った一作になっています。多くのゲームがどんどん進化して複雑になってしまい、ときにユーザーを置き去りにしてしまうという状況のなかで、本作は昔ながらのプロレスの楽しめるルーツに戻っています。私たち自身このゲームを楽しくプレイしているのですが、同じように日本の皆さんにも楽しんでいただけたらうれしいです。