アクションゲームが難しい、苦手だという人は一定数いるかと思う。そうした人たちは、「反射神経が追いつかない」「操作の指が追いつかない」などといった理由を挙げる場合が多い。

 だが、実際にはアクションゲームやシューティングゲームの中には、そうした反射神経によるアドリブの動きをあまり要求しないものも多い。決まったタイミングで決まった操作(ジャンプ、ダッシュなど)をすれば確実に難所でも抜けられるように設計されている、パズルゲームに近い要素を持つタイトルが結構あるのだ。これらのアクションゲームを今回の記事では便宜的に、“思考型アクションゲーム”と呼ばせていただきたい。

 そんな思考型アクションゲームに分類できそうな最新タイトル『ティモシーとムーの塔』がPLAYISMより、2022年8月9日から配信開始となった。開発担当はKibou Entertainmentだ。

『ティモシーとムーの塔』古きよきアクションの難しさと魅力が全部ここに。ファミコン世代なみのハードコアな挑戦状を受け取る覚悟はあるか
古きよきファミコンライクなドットグラフィックと、チップチューン調のBGMを採用したアクションゲームだ。

 本作はファミコンのいわゆる思考型アクションゲームの名作たちを、正統進化させたタイトルだ。たしかにあのころのアクションゲームはいまなお語り草になるくらい難しいが、先述したとおり同ジャンルのタイトルには“確実に抜けられる”方法が用意されているわけだから、それを見つければいいだけだ。苦労などしようはずが……。

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あっ。
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このゲームオーバー画面を、100回どころではないとんでもない回数に渡り見ることになった。

 難しい。とにかく難しい。難しさが化身となったかのようで、ほかの要素が見あたらない。

 見つけた最適解だけをこなせばいい。そうわかっていても焦りや外的要因から、手元が狂う。ついでに緊張のあまり頭が一時的におかしくなり、ダッシュと攻撃のボタン操作を間違えたりもする。

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単純明快なゲームのはずなのに、なぜここまで難しいのか。

 『アトランチスの謎』や『迷宮組曲』など、幼少期にファミコンのアクションゲームで悪夢を見てきた世代である筆者の脳裏には、本作を遊ぶうちに当時の感覚がありありとよみがえった。なるほど、ファミコンライクの謳い文句は伊達ではない。

 なぜここまで本作が難しいのか。そして、だからこそ生まれる魅力とは何か。今回の記事では約20時間ほどのプレイを通じてのレビューから、そのあたりをお伝えしていきたい。

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5つの異なるテーマを持つステージと、10体のボスキャラが待ち受けるという本作。「クリアーするのに40時間以上かかる人もいるかもしれない」と公式サイトに書いてあったが、筆者はたぶんそれに該当する。
『ティモシーとムーの塔』Steamストアページ

※この記事はPLAYISM提供でお届けしています。

機敏さだけが武器の主人公が、神の塔に挑む

 まずは本作の世界観から説明しよう。本作の主人公である少年“ティモシー”は、神の呪いによって死を迎えてしまった祖父を蘇らせるため、頂上に至ればどんな願いも叶うという“ムーの塔”に挑む。

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 ティモシーはごくふつうの少年であり、持っている特技といえば機敏なダッシュが可能なことくらいだ。2段ジャンプなどはできず、武器もパチンコのみ。

 壁の特定の突起などにしがみついてぶら下がることもできるが、そのあいだは“スタミナ”がガンガン減り、あっというまに力尽きて手を放してしまうという非力っぷりだ。

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 武器のパチンコにしても、横移動を入力しているあいだは撃てず、連射もあまり効かないうえに真横以外の方向への撃ち分けもできない。本作では敵を倒しても経験値などが得られるわけではなく、お金や後述する“料理”の材料が一定確率で出現するだけなので、パワーアップアイテムなどで攻撃が強化されることもない。

 そもそもティモシーの能力自体はゲーム開始時から終了時まで、ほぼ成長しない。昨今のアクションRPGなどにありがちな、“レベルを上げてゴリ押す”といった救済要素は一切なし。プレイヤー自身が突破法を見つけ出す以外に、難所を越える方法はない。

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最後にセーブしたセーブポイントから、回数制限やデメリットはなしで何度でも再チャレンジできるのが唯一の救い。

 とはいえ、思考型アクションゲームであるうえ、さきに触れた通りジャンプやダッシュがつねに一定距離を動くというランダム要素や振れ幅がない仕様であるため、すべての場面は決まった操作を決まったタイミングでこなしていけば突破できるようになっている。

 ボスの攻撃のサイクルなどにはランダム要素もあるが、それらも見てから対応できる猶予が十分にある。じつは本作はやさしいゲームなのではと、筆者も最初は思っていた。

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触れたらライフがいくつあっても終了の即死トラップが大量にちりばめられているが、攻略法が分かってしまえばその辺の壁や障害物と大差がない。そのはずなのだが……。

 本作、ならびにファミコン世代の思考型アクションが巧妙なところが、プレイヤーを“焦らせる”のが非常にうまい点にある。じっくり待ってタイミングを計りたい場所に、じわじわと敵が空中から接近してきたりするのはまだ序の口だ。

 まず本作をプレイしてだれもが思うであろう点は、「セーブポイント同士の間隔が絶妙に遠い」という点だろう。つぎのセーブポイントにたどりつくまでにいくつも難所を越えねばならず、そのいずれかでミスをすればやり直し。この重圧が、じつにプレイヤーの心をきしませてくる。

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ゴールらしき場所が見えているところまで来られたのに、そこでミス。このときの喪失感が、つぎのセーブポイントまでの近すぎず遠すぎずといった距離もあって、ほどよくプレイヤーを絶望させる。

 人間とは不思議なもので、たとえばつぎのセーブポイントまで4つの難所があるとしよう。すでに何度もやり直して答えを見つけ、楽に抜けられるようになっていたはずのひとつめとふたつめの難所が、ゴール手前までたどり着いたのにやり直しとなって絶望したあとには、なぜか何度やってもクリアーできなくなったりする。

 本作でもこの不思議な法則がばっちり働いており、プレイヤーの焦燥感はあっという間に最大に達する。筆者は同じ個所で30回くらいやり直したりするうちに相当打ちのめされ、達成感どころではなくなった。

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30回やり直すとなると、もはや悟りの境地に至ったかのように心が凍り付いていく。そのぶん、集中力は自然と高まり、時間の経過を忘れていく。
『ティモシーとムーの塔』古きよきアクションの難しさと魅力が全部ここに。ファミコン世代なみのハードコアな挑戦状を受け取る覚悟はあるか
撃ち落とすとライフ回復アイテムを落とす、羽根が生えたハート。こちらを見かけてつい突っ込みすぎてやられてしまったときなどは、それはもう自分のうかつさを呪いたくなった。

 さらに本作ではそうして苦労して抜けたルートを、目的を果たしたあとに“逆走”する場面も多く、筆者としてはこれがいちばん心に来るものがあった。キーアイテムをとったところにセーブポイントや帰還用ショートカットがない場所もあり、そこから復路でミスすると往路の最初からやり直し、なんてことも当然のようにある。

 ほかにも、苦労してゴール地点にたどりついたのに、じつは途中の分岐先にあったスイッチを押していないとさきには進めなかった……なんてこともあった。何度ゲームパッドを叩き割りそうになったか、数えきれない。

難しさと緩急が絶妙で、つい続けてしまう中毒性

 このようにその難しさとセーブポイント間の距離などで、プレイヤーを精神的に追い詰めてくる本作。だが、ある程度進むと塔の途中に敵や罠が一切ない村があったり、ライフを全快できる泉があったりと、プレイヤーがひと息つける場所もしっかり用意されている。

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たとえばこの豚人族たちが住む村は、かつてこの塔に挑んだが先に進めず、戻るにも罠が怖くて戻れなくなった祖先が塔に住み着いたことで生まれたという。他人ごととは思えない。

 また、戦士としての実力を証明しに来たとある王国の姫君や、塔のお宝を狙うナルシストな冒険者など、印象的な登場人物との出会いや会話も、不思議とコンティニュー地獄で凍てついた心をほぐしてくれる。

 彼らがこのさき、主人公・ティモシーとどのように関わっていくのかも気になるところ。筆者の場合は、これらがゲームを進めるうえでの重要なモチベーションになった。

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 また、ゲームをある程度進めて、敵を倒したときのドロップや宝箱からの入手などで所持金が増えてくると、ライフ回復アイテムを買いだめできる余裕も出てくる。ライフがいくらあっても一発でやられてしまう即死ギミックに対しては無力だが、ボス戦の攻撃はだいたいがライフを削ってくるものなので、ライフ回復である程度攻略を安定させることができる。

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ボス戦も道中とおなじく、各攻撃の避けかたや、ダメージの与えかたに最適解がある。回復アイテムで粘りつつ、その方法を見つけ出そう。
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回復アイテムが買えるお店は、セーブポイント以上に設置されている場所が少ない。とりあえずさきへ進みたいなら、所持金は全部回復アイテムに変えてしまってもいいかも。

 とはいえ、回復アイテム頼みで突き進めるほど本作は甘くなく、そんな戦いかたをしていると道中であっというまにアイテムが尽きる。被弾が多いときは回復せずにわざとやられてセーブポイントからやり直し、ほぼノーダメージで抜けられるまで再挑戦をくり返すことも多かった。

 即死トラップでやり直しになるのも心が痛むが、進もうと思えば進めるけどやり直すというのも精神的に来るものがある。目の前にゴールが見えていたりすると、なおさらだ。

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回復アイテムを10個くらい買い込んだはずなのに、ふと気づくと1個も残っていないなんてことは日常茶飯事。残りライフ1で進まなくてはならないときの、さらなる焦燥感がすごい。

 最初のボス戦を終えたあたりからは操作に慣れてくることもあり、プレイに余裕が出てくる人もいるだろう。このころになると、敵からのドロップ品などで“料理”の材料が揃い始めるので、こちらに着手してみるのもおもしろい。

 とはいえ、料理にはお金もかかり、さらに作成しても直接ティモシーのパラメーターが上がったりするわけではない。あくまでアチーブメント的な要素に使用するものだ。中盤以降も道中にはつねに未知のトラップや敵が出現し続けるので、回復アイテムに余裕がなければ無理に手を出さないほうがいい。

『ティモシーとムーの塔』古きよきアクションの難しさと魅力が全部ここに。ファミコン世代なみのハードコアな挑戦状を受け取る覚悟はあるか
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とある場所で“料理”を作り、塔の道中にいる特定の料理を欲しがっているNPCのところへ持っていく。料理の材料集めには同じ場所で敵を倒し続けたりと手間がかかるが、いいこともあるかも?
『ティモシーとムーの塔』古きよきアクションの難しさと魅力が全部ここに。ファミコン世代なみのハードコアな挑戦状を受け取る覚悟はあるか
筆者としてはゲーム中盤以降も緊張感がゆるむこともなく、料理などの別要素で中だるみを解消したいなどという感覚は一切出てこなかった。正直、集中したくてそんな余裕がない。

 以上のように、本作はとにかく“難しい”という概念をそのままゲームにしたかのようなタイトルだ。筆者としても、なぜこんな難しさだけを凝縮したようなゲームに自分が夢中になっているのか、当初は理解できなかったが、20時間以上遊んだいまならなんとなく理解できる。本作は難しさを味わい、難しさに挫折しかけ、最終的に難しさを楽しんでいくタイトルなのだと思う。

 難しさを楽しむという、いまどきのほかのゲームではなかなか味わえない趣旨を理解してこそ、本作には心折れず向き合えると思う。本作はそこに特化した近年例を見ないタイトルとなっているので、アクションゲーム好きの猛者はもちろん、未知のゲーム体験を求める人にもぜひ触れてみてほしい。

『ティモシーとムーの塔』古きよきアクションの難しさと魅力が全部ここに。ファミコン世代なみのハードコアな挑戦状を受け取る覚悟はあるか
「難しいからこそ突破したときの達成感が大きい」なんて常套句では、本作で難所を抜けたときの感覚はとても説明できない。全クリアー時には自分がどうなってしまうのか知りたくて、筆者の挑戦はまだまだ続いている。

ティモシーとムーの塔

  • 対応プラットフォーム:PC
  • 発売日 :2022年8月9日配信
  • 発売:PLAYISM
  • 開発 :Kibou Entertainment
  • 価格 :1200円[税込]
  • ジャンル :アクション
  • 備考:ダウンロード専売
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