2022年5月7日、東京・渋谷のBunkamura オーチャードホールにて『逆転裁判』シリーズの20周年を記念したオーケストラコンサートが開催された。久しぶりの有観客公演とあって、会場は待ち焦がれていた傍聴人(ファン)で満席。また、オンライン配信も行われ、海外のファンも多数視聴していたようだ。

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 本公演も演奏は東京フィルハーモニー交響楽団、指揮は栗田博文氏が務める。また、会場には竹本英史さん(御剣怜侍役)、近藤孝行さん(成歩堂龍一役)、KENNさん(王泥喜法介役)ら豪華声優陣も駆けつけ、愉快なトークをくり広げてくれた。本稿ではそんなスペシャルな一夜の模様をお届けしよう。

 なお、今回のコンサートはアーカイブ配信も行われている。オンライン視聴券を購入すれば2022年5月15日(日)23:59まで視聴が可能だ。見逃してしまったという方はいますぐ視聴サイトへ! 

※オンライン視聴券は3500円[税込]、販売は2022年5月15日21:00まで。

逆転裁判 20周年記念 オーケストラコンサート(ローチケライブストリーミング)
『逆転裁判』20周年記念オーケストラコンサート開廷! 成歩堂龍一役・近藤孝行、御剣怜侍役・竹本英史、王泥喜法介役・KENNも駆けつけた公演をリポート 記事編集に戻る

逆転裁判20周年記念オーケストラコンサート

  • 【指揮】栗田 博文
  • 【オーケストラ】東京フィルハーモニー交響楽団
  • 【MC】竹本 英史(御剣 怜侍役)
  • 【トークゲスト】近藤 孝行(成歩堂 龍一役)/KENN(王泥喜 法介役)

プログラム

  1. 成歩堂龍一 〜異議あり!
  2. 王泥喜法介 〜新章開廷!
  3. 逆転検事組曲 華麗なる軌跡
  4. ゴドー ~珈琲は闇色(やみいろ)の薫り
  5. 逆転裁判1〜3 法廷組曲
  6. 逆転裁判1~6 麗しの組曲
  7. 逆転裁判 革命と継承の組曲
  8. 大逆転裁判組曲
  9. 大逆転裁判 覺悟の大法廷組曲
  10. 逆転裁判3 終幕
  11. アンコール

冒頭陳述は『外郎売』!? 主人公たちのテーマが彩る前半戦

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 逆転裁判20周年記念オーケストラコンサートの開演に先駆けて、会場には公演中の諸注意を伝えるアナウンスが流れた。逆転オケコンではおなじみとなっている、御剣怜侍(ミツルギ)と成歩堂龍一(なるほどくん)の掛け合いが楽しい前座であるが、今回は『外郎売(ういろううり)』のネタがブチ込まれてのっけから混沌を極めていた。『外郎売』といえば歌舞伎十八番のひとつに数えられる演目で、薬の外郎を売り歩く商人の長ゼリフが早口言葉の代名詞ともなっている。声優やアナウンサーの滑舌の練習に用いられることでも知られている。

 なるほどくんは、その『外郎売』の原稿を読み上げるが、初見らしく、たどたどしいことこの上ない。(当然、“中の人”の近藤さんはプロの声優なのでスラスラ言えるのだろうが、拙い演技もさすがである)

 一方、バトンタッチしたミツルギは、それはもう滑らかで淀みのない『外郎売』を披露。ただ読むだけでなく、芝居として魅せるレベルで、なるほどくんから「本当にミツルギなのか? (声優のたけぽん……つまり竹本英史さんではないのか?)」という疑念も持たれるほどだった。

 そんなやり取りを経て会場が温まったところでいよいよ本番。指揮者・栗田博文氏が拍手で迎えられる。コンサートマスター(コンマス)とコツンと腕を合わせたところに、信頼関係が感じられた。

 1曲目は『成歩堂龍一 〜異議あり!』。法廷での尋問などで流れる、徐々に高まる緊迫感を感じさせる曲だ。ステージ上のスクリーンには、『逆転裁判』1作目から『逆転裁判6』まで、なるほどくんの軌跡を辿る映像が流れる。

 2曲目は『逆転裁判』シリーズのもうひとりの主人公・おどろきくんのテーマ『王泥喜法介 〜新章開廷!』。盛り上がるメロディラインがヴァイオリンの音色と好相性で、配信視聴者のツイートに「この曲好き!」という声が多いのもうなずける。

 続いて、オープニングのMCパートへ。司会を務める竹本英史さんは、ご自身が演じる御剣怜侍をイメージした三つ揃えの赤いスーツで登場。ゲストの近藤孝行さん(成歩堂龍一役)は、『逆転裁判4』に登場した、ダルい感じの俗称“だるほどくん”なセリフを織り交ぜながらシリーズの思い出を語ってくれた。同じくゲストのKENNさん(王泥喜法介役)も、おどろきくんの名(迷?)台詞「王泥喜法介は大丈夫です!」を発し、ファンのハートをガッチリつかんでいた。

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 3曲目は、ミツルギを主人公としたスピンオフ作品『逆転検事』シリーズのメドレー『逆転検事組曲 華麗なる軌跡』。作中で真相に迫る場面に流れる『対決 ~プレスト2011』や、御剣のテーマである『御剣怜侍~大いなる復活』、ファンが「キター!」と熱狂する『追究~つきとめたくて』など人気曲で構成されている。デジタルな音色かつジャジーな原曲をドラマチックにアレンジしており、音の圧もハンパない。曲と曲のつなぎかたも聴きどころだ。

 4曲目は、逆転オケコンや逆転裁判LIVEでは欠かせない1曲である『ゴドー ~珈琲は闇色(やみいろ)の薫り』。この曲には客演としてサックス奏者の鈴木央紹氏が参加している。『逆転裁判3』のゴドー検事の飲み干すコーヒーのように、ほろ苦く歌うテナーサックスに酔いしれてしまう。色気もあるが、それよりも酸いも甘いも知り尽くした男のやさしさが表れているようだった。その渋みをヴァイオリンやチェロがやさしく包み込む。フルートやクラリネットとの掛け合いもまた心に沁みるものがある。客席も名演奏に熱気が高まっているようだった。

 ちなみに、作曲者・編曲者である岩垂徳行氏は、この曲を地元・長野のジャズ喫茶のイメージで作曲したのだそう。

※その逸話を訊いたインタビューは下記関連記事をチェック!

 うっとりとしたひとときを経て、前半のラストとなる『逆転裁判1〜3 法廷組曲』へ。成歩堂龍一の物語を描く3部作を順に、開廷から尋問、追求という流れで追体験するような構成となっている。スクリーンには各作品の名場面、ライバルとのやり取りが映し出され、ファンのツイートにはキャラクターたちへの思い入れが溢れていた。
 
 ここで20分の休憩に入るが、また場内にアナウンスが流れる。今度は、なるほどくんと、おどろきくんの師弟コンビで、「ロビーの物販コーナーへグッズを見に行こう」とふたりで連れ立つ様子が微笑ましかった。

 休憩時間の終了時にもふたりの掛け合いがあったのだが、ここでも『外郎売』ネタに触れられていた。ちなみに、このアナウンスの脚本を書いた人物も、お風呂で毎朝『外郎売』を練習しているらしい。おそらく『逆転裁判』、『大逆転裁判』シリーズのディレクターの巧舟氏だろうか……? 仮にそうだとして、しかしなぜ巧舟氏が『外郎売』の練習を……? 謎は深まるばかりだ。

感 涙 必 至ッ! 名曲だらけの最終弁論

 休憩を経て、後半は『逆転裁判1~6 麗しの組曲』からスタート。こちらは『逆転』シリーズのヒロインたちのテーマからなる組曲だ。成歩堂法律事務所などでよく流れる『綾里真宵 ~逆転姉妹のテーマ』から始まるのだが、清らかなヴァイオリンの調べに早くも泣きそうになってしまった。ころころと転がるような管楽器の音色がまたかわいらしい。

 それは続いて演奏されたみぬきちゃんや、はみちゃんこと春美ちゃんのテーマでも感じられて思わず心が温かくなる……が、美柳ちなみのパートで温度が一変。ヒヤリとするような美しさがあった。同様に美しい旋律である、『逆転裁判4』の歌姫・ラミロアの『恋するギターのセレナード』も聴くことができた。作中のムービーがスクリーンに映しだされていたが、牙琉響也のギターが燃えるシーンにもファンの注目が集まっていたようだ。

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 さらに、忘れちゃいけないシャチ系ヒロインの荒船エルのテーマも。彼女は『逆転裁判5』のダウンロードコンテンツとして配信されたシナリオ“逆転の帰還”に登場する。さらに『逆転裁判6』の姫巫女レイファ、希月心音のテーマの明るさに「ああ、逆転ヒロインはみんな、最高……」と思わずにいられない。

 うって変わって7曲目は『逆転裁判5』、『逆転裁判6』の重厚な楽曲で組まれた『逆転裁判 革命と継承の組曲』。ライバルの夕神検事や、革命家ドゥルクのテーマが、やがておどろきくんのテーマにつながっていくところに胸が熱くなる。スクリーン映像に『逆転裁判6』の若干のネタバレがあるので、未プレイの方はまぶたを閉じて演奏に集中したり、演奏者の手もとなどを集中的に見たりするといいかもしれない。

 再びのMCパートでは『大逆転裁判』シリーズの主人公・成歩堂龍ノ介の声を担当した下野紘さんのビデオメッセージが到着。龍ノ介は、龍一のご先祖にあたることから、近藤さんが「ご先祖様~!」と呼びかける……。それに応じるようにビデオの中の下野さんが「龍一ぃ~!」と、しゃがれ声で登場(何歳の設定の龍ノ介!?)。逆転オケコンの思い出として、ご自身が登壇された“逆転裁判オーケストラコンサート2019”で、オケをバックに生アフレコしたときの心境を語ってくれた。ものすごく緊張したとのことだが、いつか『大逆転裁判』のキャスト陣と生アフレコしたいとも希望を語っていた。

※逆転裁判LIVE 2019のレポートは下記関連記事をチェック!

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 続いて下野さんの曲振りから、日本の明治時代、ヴィクトリア朝大英帝国・倫敦(ロンドン)を舞台とした『大逆転裁判』シリーズの楽曲へ。『大逆転裁判組曲』の演奏が始まると会場は一気に19世紀の重みある空気に。この『大逆転裁判』の曲では、アコーディオン奏者の藤野由佳氏が客演している。藤野氏は“逆転裁判LIVE 2019”でも登場しているが、その際は気合の入った亜双義コスも披露してくれていた。

 ホームズとの共同推理を始め、やはり『大逆転裁判』の曲にはアコーディオンの音色は外せない。『追求 ~大逆転の時』では圧倒的なクライマックス感に鳥肌が立つ。
 
 続く『大逆転裁判 覺悟の大法廷組曲』は、『大・極秘裁判 ~開廷』から始まり、スサ……いや、成歩堂龍太郎のテーマ、そして亜双義一真のテーマと移り変わる調べに、情緒がもう忙しい。ツイートを検索してみると、ちょうどこの曲の演奏時間あたりでついに涙腺が崩壊してしまったファンが続出していた模様。コンマスのソロや、ぴょんと飛び跳ねながら指揮する栗田さんも見どころだ。なお、この曲ではスクリーンはゲームロゴやメインビジュアルのみで、ネタバレはないため安心して聴き入ってほしい。

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 そしてここでもう一度、キャスト陣によるMCパートに。配信で視聴している海外のファンに向けて、近藤さんやKENNさんが英語でお話する姿も見られた。また、KENNさんの口からは、牙琉響也率いるバンド、ガリューウエーブの代表曲『LOVE LOVE GUILTY』の話題もポロッと出たり。近藤さんからは、『逆転裁判3』の探偵・星威岳 哀牙のセリフ「‥‥シッ! ダマって!」も飛び出した。
 
 プログラム最後の曲は、『逆転裁判3 終幕』。名曲の数々で構成された組曲で、スクリーンには『逆転裁判』シリーズのエンディングを思わせるキャラクターのコメントリレー映像が。しかもシーンと音がぴったりと合っている。改めて、このようなファンサービス溢れるシーンをフルオーケストラで聴ける幸せを噛みしめてしまう。

 アンコールは『続・大逆転裁判組曲』。こちらはメインキャラクターのテーマのメドレーとなっており、『相棒 ~The game is afoot!』に始まり、亜双義、寿沙都さん、ホームズ、アイリスの楽曲をたっぷりと。そして締めくくりにふさわしい『終幕組曲【冒險の終わり】』で、会場は最高潮へ。楽しかったオケコンもこれでフィナーレか、と思いきや……。

 おや? 栗田さんが何やら茶目っ気たっぷりな表情をして振り返った。手には、指揮棒ではなく扇子が握られている。そう、みんな大好き『大江戸戦士トノサマン』だ! 両手に日の丸の扇子を持ち、掟破りの“両手扇子タクト”による指揮を披露。会場全体がシャンシャンと手拍子に包まれ一気にヒートアップ!

 と、思えばストリングスだけの静かな聴かせどころでは、栗田さんから手拍子をミュートしてという合図が。そしてまた盛り上がるところでは客席に「手拍子をもっともっと!」と煽ったり、指揮台から落ちてしまうのではないかというほど飛び跳ねたりと全身全霊で指揮を行う。演奏者も観客も栗田さんの指揮で一体となった瞬間だった。

 最後にはキャスト陣も登壇し、トノサマンでの盛り上がりを客席と共有していた。竹本さんは「むろんヒーローだトノサマン~♪」と、ひと節歌ってくれたりも。(続けて「Fly High!」と歌いたかった人は筆者だけではないはず……)

 そして、おなじみの「異議あり!」コールで今度こそフィナーレとなった。会場の方は声は出さずにポーズのみとなったが、心の中の「異議あり!」コールは大音声であったと思われる。次回の公演が実現するならば、今度は声に出して叫びたい!

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 今回の20周年記念オーケストラコンサートでは、厳選された楽曲が披露されたが、まだまだ聴いておきたい名曲・名演がある。もっと聴きたいという方は、過去の公演を収録した『逆転裁判オーケストラコンサート2019』などのCDをチェックしてみては。ちなみに、『逆転裁判』楽曲は、AmazonミュージックやSpotifyなど各種音楽配信サービスでも販売中で、ハイレゾ音源版も配信されている。

 コンサートへ行けなかった方や、行ったら『逆転裁判』音楽を聴きまくりたくなってしまった方はこれらのサービスも確認してみては。

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