現在ネット配信中で、テレビ放送が2022年5月3日よりスタートしたアニメ『Shenmue the Animation』(『シェンムー・ジ・アニメーション』)。本作は1999年に発売されて以降、世界中で根強い人気を誇るゲーム『シェンムー』シリーズをアニメで映像化したものだ。
そんな『シェンムー・ジ・アニメーション』が、物語前半の舞台となる神奈川県横須賀市とコラボレーション。アニメ化を記念して、横須賀市全体でアニメを盛り上げるさまざまな企画が楽しめる“シェンムー×横須賀 アニメ化記念プロジェクト”が開催中。
そしてプロジェクトのひとつとして、2022年4月29日に“シェンムー×横須賀 アニメ化記念特別生配信!”がおこなわれた。配信ではシリーズの原作者であり、アニメの監修も務めるYs Netの鈴木 裕氏、アニメのプロデューサーを務める浄園祐氏、そしてゲームでもアニメでも主人公・芭月涼を演じた、声優の松風雅也さんが登場。司会は『シェンムー』シリーズの大ファンである編集者のクラベ・エスラ氏が担当し、さまざまなトークをくり広げた。
※浄園祐氏と鈴木裕氏がアニメ化のいきさつを語ったインタビューは下記関連記事をチェック!
横須賀市・ドブ板の近くにあるスタジオにて生配信された今回の企画。本記事では現地での写真とともに、配信の模様をお届けしよう。
世界中でアニメ版が大好評!
まずは『シェンムー・ジ・アニメーション』を語るコーナーからスタート。
鈴木氏は「すばらしい出来」と大絶賛。ゲームは重厚かつ長大な物語が展開されることもあり、やはり『シェンムー』の物語に触れる敷居は高いが、アニメならば気軽に触れられると鈴木氏は語る。「ここから興味を持って、ゲームを遊んでいただけるとうれしい」と、『シェンムー』シリーズへの入り口になってほしいと語っていた。筆者もファンなので直接宣伝しておくと、遊んだことがない人はプレイステーション4にて発売された『シェンムー I&II』を遊ぶべし。
鈴木氏はアニメの監修もきびしくチェックしているそうで、松風さんが3つの鈴木氏による監修ポイントがあったとアピール。こちらは同日に行われた、ファミ通.comのインタビューでも語られた内容。後日インタビュー記事が公開される予定なので、そちらにてより詳しい内容お届けしよう。
脚本にはとくに苦労したと、浄園氏は語る。アニメの作り手というのは、主人公たちがどのような結末を最後に迎えるのか知った上で物語やキャラクター性を構成したいそうだ。ただ、『シェンムー』シリーズの物語は現状ゲーム『シェンムーIII』でも完結していない。そんな中、1作目である『シェンムー 一章 横須賀』をアニメでどこまで描くのか、というのも議論を重ねたのだとか。
『シェンムー』シリーズといえば、メイン以外にも膨大な数のキャラクターが存在する。アニメ内でどの登場人物を出すのかというのは、鈴木氏から人気キャラクターを教えてもらったり、「アニメなのでやはり女の子は欲しい」と、浄園氏サイドからお願いした部分もあるようだ。
涼を演じる松風さんは、どうやら演じていく中で制作側に助言することがあった様子。たとえばキャラクターの語尾やセリフ感、涼が周囲へかける言葉遣い、涼に対しての言葉遣いなどを指摘していたそうだ。やはりそこは、長く涼を演じてきたからこそわかる部分なのだろう。
松風さんは声優としてベテランなので、当然スキルは非常に高い。ただ、涼を演じるうえではやりすぎずに、寡黙で朴訥なゲームと同じ涼の姿を表現したそうだ。鈴木氏も「まさにやってほしい涼を演じていただいた」と絶賛。松風さんもお褒めの言葉に喜びをあらわにしていた。
浄園氏も「アニメ的にはやはり静かなキャラクターよりもド派手な性格や設定を持った主人公のほうが作品を盛り上げられるが、そこをグッと抑えていた」のだと語る。代わりに、周囲の個性豊かなキャラクターたちを続々と投入して、物語を盛り上げていったのだとか。
また、ゲームはプレイヤーが自由に街中を探索しながら、物語を進めていくシステムだ。スタッフも『シェンムー』ファンが大勢いるそうで、スタッフから「何も物語を進めず、涼が何もしない1日があってもいい」という感想が多くあがり、だったらアニメでも何もしない回を作るのもアリなのでは? という構想もあったそうだ。
アニメの玄人たちだからこそ、ふだんできないようなおもしろい試みも考えられたが、そこはグッと我慢してストレートに物語を描くことに集中したそうだ(ゲーセンに入り浸るだけの1日、フォークリフトのバイトに明け暮れる1日などもやりたかったのだとか。アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の『サムデイ イン ザ レイン』みたいな静けさになりそう……それはそれで観たい!)
ちなみに、アニメ後半からの舞台となる香港の街並みは、資料やゲームプレイから通じて見える風景をもとに、3Dで1度作成しているそうだ。ゲームよりも当然規模は狭いものの、アニメの舞台としてもう1度描けるほどの街並みを揃えたという。
今回のアニメから『シェンムー』の世界観の広がりに、鈴木氏は期待。「演劇でもいいし、マンガでもいいですよね」と、小説やラジオドラマなど、いろいろな描きかたができるのではと語っていた。
鈴木 裕氏、ドブ板を散策
続いては鈴木氏がクラベ氏とともに、現代の横須賀・ドブ板を散策するロケ映像が公開された。現在開催中のキャンペーンに合わせて、ゲーム内に登場する店舗のモデルとなった実店舗には、ゲーム・アニメの設定画などが飾られている。それを鈴木氏とともに巡る、というのが内容だ。
こちらは記事内ではダイジェスト的にお送りするので、ぜひ配信映像を見てみてほしい。映像は10分程度だが、クラベ氏いわくもっと長い時間撮影しているので、完全版映像を後日公開したいと発言していた。
“つぎ”も垣間見えた『シェンムーIII』話
おつぎは『シェンムーIII』を振り返るというトークテーマ。『シェンムーIII』は『シェンムーII』の続編ではあるが、約18年ぶりに発売された作品だ。現実での時間は長く過ぎ去ってはいたが、ゲーム内では『シェンムーII』のラストシーンの、そのつぎの日から物語が始まる。そのため、松風さんは涼の成長や時間軸などを意識せず、『シェンムーII』からの涼を意識して演じたそうだ。
また、『シェンムー 一章 横須賀』から続けているのが、ゲーム的なシーンでは“フラットな涼”を演じること。人によってプレイスタイルが異なるので、たとえばシェンファに積極的に話しかける人もいれば、話しかけない人もいる。どちらかに寄りすぎると、もう一方のプレイヤーからは違和感になりかねないので、中立的な涼を演じたとのこと。もちろん、カットシーンはしっかりと抑揚を付けたりとハッキリとした涼となっている。
鈴木氏は『シェンムーIII』はファンのためを思って、ファンのために作った作品だと語る。『シェンムーIII』はそもそも、クラウドファンディング・キックスターターで実現したタイトルだ。ファンを喜ばせるために作られた作品だからこそ、これまでもファンだったプレイヤーからの評価が高かったことに喜んだという。
ただ、100%ファンに向けた作品だったゆえに、新しくシリーズを遊ぶ人は「置いてけぼりにしてしまったような……」と鈴木氏は振り返る。具体的な話があるわけではないと前置きをした上で「新しいプレイヤーにも遊んでもらえるようにするのが、“つぎ”の目標ですね」と意欲を語っていた。
アニメでは『シェンムーIII』の最初の舞台である、白鹿村で生活するシェンファのシーンが描かれている。これは『シェンムー 一章 横須賀』では描かれず、『シェンムーIII』で語られた部分だ。当時はシェンファのより詳しい人物像や、白鹿村がどんな場所か分からないが、アニメではそれを踏まえて、第一章からの物語が描かれている。これにより、シェンファに出会う涼の気持ちは変わらないが、視聴者にとっては印象がガラリと変わるのも魅力だと、クラベ氏は分析していた。
配信の終わりがいよいよ近づいたところで、さらにテレビアニメ化を記念して著名人・関係者たちからのお祝いのコメントも公開された。
まさかの『シェンムー』切手化が決定!
配信の最後は、“シェンムー×横須賀 アニメ化記念プロジェクト”キャンペーンに関するお知らせ。こちらについてのおもな情報は、下記関連記事をチェックしてほしい。
そして、今回初公開となったのが、日本郵便とのコラボにより実現した、『シェンムー・ジ・アニメーション』切手が発売決定。キャラクターたちが描かれた切手のほか、イラスト台紙や、アニメ中に登場する鳳凰鏡などをモチーフにしたピンズ、もしくは手ぬぐいがセットになって販売される。発送は2022年6月30日以降とのことで、忘れずに購入しておくべし。詳しくは“郵便局のネットショップ”内の購入ページをチェックしてみよう。
といったところで、今回の記念イベントは終了となった。なお、記事中でも触れたが、テレビアニメ公開記念に鈴木 裕氏、浄園 祐氏、松風雅也さんへのインタビュー記事も後日公開予定だ。こちらもぜひ楽しみにしていてほしい。
なお、本キャンペーンで思い出したのが、横須賀“シェンムー聖地巡礼”メディアツアーの記事だ。こちらは筆者も参加しており(じつは下記記事のカメラマン担当)。コロナ禍前の取材であり、商店街の様子はどうなっているか不安だったが、古くから続く横須賀の町並みは変わらない魅力に包まれていたと思う。いくつか、やはり閉店してしまったと思われる店舗もあったが……。
キャンペーンは2022年6月まで3回に分けて開催されるので、感染症対策を行いながらぜひ横須賀へ足を運んでみてほしい。
なお、TOKYO MXでの『シェンムー・ジ・アニメーション』は本日2022年5月3日19時から放送開始。TOKYO MXが観られる人はぜひ地上波でも芭月涼の旅路をともに見守ろう。