謎と期待に満ちた『Shenmue the Animation』制作の経緯
1999年、ドリームキャスト用に発売されたアクション・アドベンチャーゲーム『シェンムー 一章 横須賀』。2001年に続編『シェンムーII』が、そして長い空白期間を経て、2019年に『シェンムーIII』が発売されている。
2020年9月5日にそのアニメ化が発表され、日本と世界の『シェンムー』ファンは驚きと歓喜をもってその発表を迎えた。第1作の発売から、世紀をまたいで『シェンムー』シリーズ初のアニメ化となる。
それにしてもなぜ、このタイミングで『シェンムー』がアニメ化されるのだろう? 2021年『シェンムー』アニメ化の経緯と真意を、テレコム・アニメーションフィルム社長で本作のプロデューサーを務める浄園祐氏と、『シェンムー』シリーズの生みの親である鈴木裕氏、ふたりのユウさんに訊いた。
浄園祐 氏(きよぞの ゆう)
テレコム・アニメーションフィルム代表取締役社長。『Shenmue the Animation』プロデューサー。近年では劇場作品『LUPIN THE THIRD』シリーズを手掛ける。(文中は浄園)
鈴木裕 氏(すずき ゆう)
YS NET代表取締役社長。『シェンムー』シリーズの生みの親。セガ・エンタープライゼス(当時)在籍時、『バーチャファイター』シリーズや『ハングオン』など手掛け、斬新な作品の数々を世に送り出す。(文中は鈴木)
『シェンムー』がいまアニメ化される理由とは?
――第1作が1999年発売のゲーム『シェンムー』がアニメ化されるということで、非常に驚きました。どうして、2020年のいまこの『Shenmue the Animation』(シェンムー ザ アニメーション)企画が実施されることになったのでしょう?
浄園そうですね、前提として、アニメ業界の現状をすこし説明しますと、いまのアニメ業界では配信系サービスが非常に大きくなっているという現状があります。
――本作も、アメリカのアニメ配信サイトCrunchyrollと、アニメ専門チャンネルのカートゥーン・ネットワークAdult Swimの共同プロデュースという形ですね。
浄園ええ。そして、アニメーション制作をテレコム・アニメーションフィルムが行うという座組です。現代は、日本のアニメが日本だけでなく世界中で観られているという状況なんです。
昔は、海外でアニメを放送するとなると、海外用にローカライズというか、音楽やオープニング曲、内容にまで手を加えて、向こうのフィルターにかけて放送するというのが当たり前だったんですね。
ですが、最近の配信のトレンドとして、映像には字幕を付けただけ、音声も声優さんが声を吹き込んだ日本語のままで観るというのが流行しつつあり、「日本のクリエイターが作ったものをそのまま楽しみたい」という声も海外からあがるようになってきているんです。
――ふむふむ。
浄園海外での配信コンテンツをさらに強くしていくうえで、海外に向けて何か強いタイトルはないかと考えていたんです。そこで、『シェンムー』がひとつあるなと。世界的にゲームも売れていますし、企画立ち上げ当時、裕さんが『シェンムーIII』を作られているというタイミングでもありましたから、非常に熱意のあるファンも多いということを感じていました。
それで、原作サイドにアニメ化の企画をお伺いするという部分では、我々テレコム・アニメーションフィルムと同じセガグループのコンテンツですから、比較的話もしやすいのではないかということもあり、一度問い合わせを……というところが、企画の発端になりますね。
――『シェンムーIII』の開発中ということは、アニメ立ち上げのタイミングは、数年前くらいですかね?
浄園YS NETにお伺いしたときは、開発中の画面を見せていただいたりもしていましたし、2~3年ほど前になりますね。さらに企画が固まる前までさかのぼると、別のセガの方と「『シェンムー』アニメやれたらいいな」と飲み屋で話していたのは、3年ちょっと前ですかね(笑)。
――セガのIP(知的財産)でいうと、たとえばソニックとかそのほかにもワールドワイドで人気のあるキャラクターはいますよね。その中でも『シェンムー』に目をつけたのは、和風であるとか、舞台が日本であるというところも理由になったのでしょうか?
浄園そうですね、もちろんソニックもアニメ化したり映画化などもありましたし、すごく人気のあるキャラクターですが、『シェンムー』であれば我々の強みがより活かせるのかなと。
――強みといいますと。
浄園テレコム・アニメーションは、セガサミーグループの中にあるトムスエンタテインメントの子会社にあたるのですが、歴史をたどると宮崎駿さんや大塚康生さんが在籍して劇場版『ルパン三世 カリオストロの城』を制作してきたあたりからずっと続いている、けっこう歴史のある会社なんですね。そのなかで、アクションとか美術に関して経験と蓄積がある。そこが弊社の強みのひとつと考えています。
『シェンムー』シリーズは、舞台が横須賀からスタートしますよね。“日本を見せる”というところに関して、弊社にはスタジオ内に社内美術部がありまして、ひとつのストロングポイントであり、そういった得意な分野が制作においてうまく活かせるのではないかなと。
――横須賀、香港、桂林……と舞台がダイナミックに変わっていくのも『シェンムー』の魅力ですもんね。今回のアニメ化の話を聞いたとき、裕さんはどう感じましたか?
鈴木とにかく「うれしい」です。『シェンムーII』が終わって、ファンから「『シェンムーIII』はいつ出るんだ」ということはいつも言われていて(笑)、何とかできないかなと考えるなか、そのころはアニメや小説、マンガとして『シェンムーIII』を出すという可能性も、かなり真剣に考えていました。
『シェンムーIII』はゲームという形で世に送り出すことができましたが、いずれにせよ『シェンムー』というのはすこし特殊なゲームなので、万人に広く遊んでもらうというのが難しいゲームかもしれないんです。でも、アニメになることによって敷居が下がって――何せ自分でプレイしなくてもいいじゃないですか(笑)――座って観ているだけで『シェンムー』の世界がわかるし、アニメを観てちょっと『シェンムー』に興味を持っていただいて、それで『シェンムー』シリーズをプレイしていただけたら、うれしいです。
――今回のアニメ化は、『シェンムーIII』の開発とは関わりがあったのでしょうか? 『III』が出るからこそアニメ化も実現した、というような。
鈴木そこは、関わりがなかったんですよ。本当に別軸で進んでいて。『シェンムーIII』が出た翌年にアニメ化も発表できたというのはよかったですね。
ストーリーはどこまで描かれる?
――アニメは全13話予定とのことですが、ゲームのストーリーで言うとどのあたりまで描かれる予定でしょうか。
浄園そこが……難しいところでして。
――(笑)。
浄園我々アニメサイドが動き出したとき、『シェンムーIII』は制作中というタイミングでしたし、全13話という決して長くない話数で、どこで切ってもファンの方からは「これからがいいところだぞ!」という気持ちもあると思いますから。
我々としては、もちろんやることなら長くやらせていただきたいのですが、まず13話ということになりました。その中でどう触ろうか、描かせていただこうかっていうのは、かなり悩みどころだったんです。もちろん、「『シェンムー』をやるぞ」と言ったら、ふつう横須賀からやるだろうと皆さんお思いになるでしょうし、僕らもそこからスタートしているのですが……。
――限られた話数の中でどこまで描くか。
浄園横須賀だけでも描くところはたくさん盛りだくさんで、十分あるんですよ。
――描きかたによっては、『一章 横須賀』だけで13話を使い切り、ゲームと同じく横須賀を離れるところでエンディング……ということもできますよね。
浄園ええ。ただ、どうしても香港に登場するキャラクターを描きたいという欲が監督や脚本家、アニメチームからいっぱい出て来てしまって……。
――レンとか、秀瑛さんとか、徳林さんとか。
浄園具体的なところはまだ挙げられませんが、物語としては、涼が香港に足を踏み入れるくらいまではなんとか……。いま、言っていいのかわからないまま言っていますすけど!
――ありがとうございます(笑)。
浄園ゲームではキャラクター数がものすごく多くて、その中から取捨選択するにしても、アニメとしては登場人物が多くなりますし、舞台が日本から香港まで行きますから、美術スタッフもやりがいを感じていますね。
――『シェンムー』では1980年代の日本と中国が舞台ですから、取材や資料集めもたいへんなのでは?
浄園横須賀、どぶ板は意外といまでも“どぶ板感”といいますか、当時の面影を感じる部分がありますので、資料をかき集めながら、現地に取材も行きました。通りの狭さや雰囲気を感じつつ、現地の看板や造作を撮影して、雰囲気は再現できてるかなと思います。
昔の、あの昭和の、まだ汚かった時代、いまほどきれいに整備されてないかった日本ですよね。ちょっとした公園の手すりが錆びてたりとか、どこかトタンだったりとか。たとえば舞台が現代の、魔法少女が出てくるアニメでは錆びたトタンはあまり描かないわけですよ。
――ええ。
浄園そういう作品では描かれない細かなところまで、昭和の日本の横須賀を描こうとしています。そのあたりは我々の得意分野でもありますし、けっこう雰囲気を出せているのではないかなと。海外の人にも日本のノスタルジーという部分が伝わったらうれしいですね。
たとえば涼の革ジャンも、ふつうは手書きアニメなのでどうしても質感がゲームとは変わってしまうんですけど、撮影監督が自ら特殊効果みたいなのを自分でかけてくれて、革ジャン感を出してくれたり。スタッフの中で少しでもよくしていこう、雰囲気を出そうといろいろと工夫してくれています。当時の革ジャンの質感って、着ていたり見ていた人じゃないとわからない。そういうところのこだわりも、ベテランの各スタッフが楽しみながらやっています。
――まさにその“生活感”やリアリティーも『シェンムー』の魅力ですよね。
浄園香港で言うと、ゲームで描かれているのは“いまはなき香港、古きよき香港”という感じですよね。すでに取り壊されている九龍も出てきますし。人もうじゃうじゃいて、雑多で、何か起こりそうな不穏な九龍を含めた香港……。
浄園これは後半の見せ場にもなりますし、ちょっとテレビアニメの予算よりもコストかけて、モブ、街頭の人々のモデリングもたくさん用意しまして。それでルームショットを撮ったり、カメラを寄ったりできるようなとこを、ちょうどいま開発しています。街の人をCGでワラワラと動かして、アニメにも重みをだしたい。うまくいけば今後のテレビアニメ制作にも活用できるでしょうし、試験的に作ってみているところですね。
主要キャラクターの声優はゲームから続投
――また、気になっているファンも多いポイントかと思うのですが、キャラクターのキャスティングというのはゲームと同じ方が演じられるのでしょうか。
浄園もちろん、ゲームファンにきちんと訴求したいという思いがまずありますから、核になる声優さんはしっかりと、ゲームと同じ配役で進めていきたいです。
――おお! それはうれしいですね。
浄園その上で、まだ『シェンムー』に触れていないような若いアニメユーザーにもゲームを知ってもらいたい、「ゲームも遊んでみたいな」と思ってほしいという狙いもあり、そういう意味で新しい声優さんを迎え入れたいなっていう気持ちもあります。
ゲームはすごく壮大なストーリーでかつ、声優さんもリッチな配役で、重鎮の方もいらっしゃいますので、若干予算の関係であるとか、新型コロナウィルスでアフレコのスケジュールとか、録りかたの変化というのもあり、全員まったく同じというのは難しさがあると思います。
ですが、核になるキャラクターについては、基本的にゲームの方で行くつもりでいますから、逆に言うと、昨今のテレビアニメとしてはかなり渋いキャストになるのではないかと(笑)。
――期待しています! 『シェンムー』では、『一章 横須賀』のストーリーをゲームの映像を使って2時間ほどにまとめた『シェンムー ザ ムービー』という作品もありましたし、ゲーム自体も映像監督や脚本家を起用されていたりと、“映像化”ということには思い入れがもともと強かったのではないですか?
鈴木そうですね、当時はまだまだ“ゲームをシネマティックに作る”と言っても、理解されづらい中で、なんとかやっていました。『シェンムー ザ ムービー』は、『一章 横須賀』を作っていたとき、リアルタイムムービーなど映画的な演出シーンの尺がけっこうありましたので、そこをなんとかつないで、“ゲームプレイをしなくても最後まで観られるもの”ということにちょっとチャレンジしてみました。それで『シェンムー』に入る敷居を下げることができるかなと考えたんです。
ゼロからすべてを作るととんでもない予算になってしまうので、ゲームの中で使われる素材だけで作ることができたのがよかったかなと。もちろん、クオリティーが高い状態で映像専用に作る、今回のアニメのように作るほうがほんとはいいんですよ(笑)。
――『シェンムー ザ ムービー』は、裕さんの中では、どのくらいの満足度でしたか。
鈴木一般的な映画と比べるわけにはいかないですが、ゲームの素材だけで作って、あの状況、材料で作ったわりにはなんとか観られるものにはできたのかな、と。
――浄園さんはご覧になりましたか?
浄園はい。最初に勧めていただいて拝見しました。途中から入ってくるスタッフもたくさんいたので、ゲームをプレイしていないスタッフに観てもらい、キャラクターやストーリーを把握してもらうのにとても役立ちましたね。
ただ、40代くらいのスタッフは結構『シェンムー』プレイヤーが多かったんですよ。まだ企画段階で会社にも正式には言ってないようなときに「何やってるの」って集まってきたかと思うと、『シェンムー』を語り始めるんですよね。「こういうところがおもしろいんだよね」、「フォークリフトをやらなければダメだよ」、とか、みんなあれこれ言ってくるんですよ(笑)。それで、次第にみんな盛り上がっていったりしたのを覚えています。それまで未プレイだったアニメプロデューサーがいるんですけど机の上にゲーム機を乗せて、『シェンムー』をプレイしながら仕事をしていましたね、のめり込んで。
――すごくいい現場ですね(笑)。
スタッフに海外の人材から直接売り込みが!?
――その制作陣のお話になりますが、監督が、櫻井親良監督。
浄園はい。
――『ワンパンマン』や『NARUTO』シリーズを手掛けられた方というところで、芭月流柔術であるとか、中国拳法の激しい格闘シーンにも期待してしまいますが、本作を制作するにあたって、もっとも力を入れたいポイントというのはどういったところになりますか?
浄園僕らもゲームをプレイしたり、当時開発中の映像なんかも見せていただいたりして感じたことですが、ゲームの中にもすでに映画的なカットがすごく多くて。裕さんがゲームというツールでお客さんに提供しているものを、僕らは映像という異なるツールで目指さないといけないなと感じたんですね。
――登山口は違うけれど、目指すべき山頂はいっしょ。
浄園裕さんの中にある映像作家として表現したかっただろうところを、僕らはアニメの技術で表現する。アクションであればもっと軽やかに、映像シーンはより凝ったレイアウトで。
ゲームの“合間”を僕らの力でより濃くして、ゲームプレイヤーの頭の中を補完し、アニメを観て「ああ、『シェンムー』でこういうシーンが見たかったんだよなあ」となるシーンを増やしたい。そのためには、アニメで言うところのレイアウトですよね。『NARUTO』で作画監督を務めてたくらいの人間なので、もちろんアクションのタイミングも心得ていますし、どっしりしたレイアウトを組める方というところで、櫻井監督にお願いしました。
――なるほど。そのほかのスタッフというのはどのような方が多いのでしょう?
浄園アニメって、ある意味嘘なんですけど、『シェンムー』では、あまりにも嘘みたいにはしたくないんです。重みのある武術をちゃんと見せながら、ドラマひとつ、会話劇ひとつ取っても、映画を観ているような重みを持たせたいなと。そういう狙いを持ってスタッフ構成を考え、年齢もやや高めの四十代前後を中心にスタッフィングをしました。
シナリオ会議でも、例に出てくるのがアニメ・マンガよりも、大河ドラマだったり、韓国ドラマ、中国ドラマだったり。実写作品を引き合いに出して、「ああいうカットがどう」、「こういうシーンがいい」と言いながらやっています。
普段のアニメづくりに慣れた人たちからすると、久しぶりに大河的というか、本格的なドラマに触れられるというところで、「参加したい」と言ってくれる人がいました。
アニメ化発表後、Twitterでも「『シェンムー』がアニメ化されるなら、ぜひ制作に参加したい」と、海外の方から問い合わせが来たりして。
――熱がすごい!(笑)
浄園私もけっこう長くこの業界にいますが、初めての経験です(笑)。『シェンムー』の強さ、ワールドワイドな強さを感じましたね。すごくうれしかったです。
――その海外の方は、実際に参加されるのですか?
浄園一応、本部を通して手続きをしてもらって、できれば参加してほしいなという感じですね。
――それで条件などもマッチすれば、お互いにいい話ですもんね。まさにそういった、非常に熱の高いファンの方が多い作品ですから、アニメ化しようという決断に対して、怖さというのはありませんでしたか?
浄園もちろん、すごくありましたよ!
――(笑)。
浄園まずは裕さんにオーケーをいただけるのか、というのも壁でしたし、僕が「『シェンムー』をやりたい」という場合、版元であるセガに許諾をもらわないといけないわけです。
そのときは、同じグループとは言え、やはりプレッシャーがあって。アニメ化の企画提案に対して「オーケー」と許諾を出せるような上役の方には、若いころ、かつて裕さんのそばで働いていた方がたくさんいらっしゃるわけです。その方たちから「お前、本当に、やれるのか」と……。
――圧がすごい!(笑)
浄園鈴木裕に恥をかかせるわけにはいかないと。「恥ずかしくないものが作れるのか」と、プレッシャーを若干受けながらも、「やりたいんです」という私の思いに応えていただきまして、企画が通りました。
――よかった。
浄園『シェンムー』のような題材をアニメにするという企画は、現在のアニメ業界ではそんな多くはないんですね。それでもうちならば、きちんとしたものは作れると自負しています。チャレンジングですし、重みもありますけど、挑戦させていただけるのはありがたいですね。
――現在、作業的にはどのような段階なのでしょう?
浄園先日、裕さんに製作途中の1話と2話を観ていただいたばかりで。まだ声も入っていないものなのですが。
――そうなのですね! いかがでしたか?
鈴木よかったです。
浄園そうおっしゃっていただけて、少しほっとしているところです(笑)。
鈴木だいたいの構成は知っている部分もあったのですが、途中の作業も拝見して、CGを使いこなして効率化を図られていて、街の密度感を出す手法もうまく、アニメ独自の手法もいろいろと見せていただきました。
ゲームと違って、プレイヤーが介在しないぶん、きちっとストーリーのスケジュールが組めますから、飽きさせないように、このあたりでこれこれこういうことが起きて、そこでこういうフラッシュバックが入るとか、工夫されているところを観て、アニメならではのよさがしっかり出ているな、と思いました。
――すごく楽しみになりました。裕さんは今回、エグゼクティブプロデューサーという肩書きで参画されているということですが、具体的にはどういった役割を?
鈴木大きく言うと、世界観の監修ですね。
スタッフの方はもともとわかっていただいているのですが、ものすごくわかりやすいたとえ話をすると、「涼がナイフ持っちゃいけない」とか、そういうことを言ったりね。
――ああ、なるほど。
鈴木「このキャラクターはこういうことを言わない」とか、キャラクター性の設定とか、世界の雰囲気とか、そういうところを見ています。『シェンムー』は、最初からゲーム用のシナリオがすべてあるわけではなく、大元になるシナリオからゲームができているんです。
そして、そこからゲームになってない部分というのもけっこうありまして、ちょこちょことそのあたりのアイデアとか、ゲームに描かれなかった部分をすこし入れたほうがおもしろいんじゃないのとか、そういう情報提供もしています。
あと、僕がいちばん気になっているのは、アニメは13話の連続ものですから、シリーズを通して観たときに、きちんと緩急があるのか、そこに対しては話し合いに参加させていただいたりしてます。
――いわゆる“シナリオ会議”というものでしょうか。
鈴木そのひとつ前の段階ですね。シナリオの方も非常に一生懸命で、気持ちが入ったスタッフと時間を忘れて話し込んだりして、まさに『シェンムー』らしい作りかたになっていました。
真剣に考えているがゆえに、「当時、こんなところまで考えていたかな?」っていうことを訊かれたり……(笑)。
――たとえば、どのような?
鈴木忘れちゃいました(笑)。僕からすると、どちらでもいいようなことだったりして。
――そのくらい細かなところまで突っ込んで質問してこられるわけですね。
鈴木非常に真剣に、マジメに質問していただけるので、僕も「どっちでもいいよ」とは言えず。
――アハハ(笑)。
鈴木ゲームとは違う形で、あのアニメ制作の皆さんの想いがたくさん入ったアニメになりそうなので、きっといい仕上がりになると思います。
――さきほど、いろいろな資料提供というお話がありましたが、『シェンムー』のエンディングまで書かれている“原作”、鍵が掛かった箱に入っているシナリオというのは、アニメスタッフにも提供されたのでしょうか?
鈴木出していい範囲でお伝えしています。抜粋をしたり、核心めいたところは口頭のみでお伝えしたり。
――ほうほう……。ちなみにゲームの話も訊いてみますが、『シェンムーIV』の開発状況というのは……?
鈴木チャンスがあればいつでも動ける、出そうと思います……という状況ですかね(笑)
――ぜひ! 最後に、浄園さんと裕さんでお互いに伝えたいことや、制作にかける意気込みなどございますか?
浄園裕さんはゲーム業界のレジェンドですから、最初、アニメチームはおそるおそる、裕さんからいろいろと聞き出したりしていたのですが、キャラクターの設定を見せていただいたり、お話する時間をたくさんいただいて、本当にこう……どーんとふところに飛び込ませていただきました。やさしく受け止めてもらったという感じがします。
だんだんと僕らもざっくばらんに話しをするようになって、裕さんとの会話から、アニメとしてどこを見せたらいいんだろうということの糸口をつかんだり、ちょっと制作に行き詰まったときに何かが開けるきっかけになったりして、感謝しています。
本作は「映像化させてください」と言い出したのが我々ですので、まずはゲームプレイヤー、『シェンムー』ファンの皆さんに納得してもらえる映像をまず作りたい、と考えています。
いま、アニメーションって昔よりも敷居が低くなって、若い人から年齢が高い人までみんなふつうに観てくれるものになっていますから、またこのアニメで、『シェンムー』ファンが増えてくれるといいなと思いますね。
というわけで、いま、裕さんに言いたいことがあるとしたら「完成まで、まだまだ、引き続きよろしくお願いします」ということですかね。
――そうですよね、これからが制作本番というところで。
浄園本当にいろいろ助けていただいてありがとうございます。
鈴木こちらこそどうもありがとうございます。
いま、アニメでごいっしょして、アニメーションの脚本の方とか監督の方とか、いろいろなスタッフの方とお話しさせていただいて、アニメなりの演出のやりかたとかを僕も学ばせていただいています。
見ていると、アニメ制作でも昔と違ってCGを使いかたなど、ゲーム開発とアニメの制作と共通点が出てきたんじゃないかなと思います。
最初の『シェンムー』が出たころや、『バーチャファイター』のアニメをつくったときというのは、ゲーム畑と映像畑ではまったく文化が違って、言葉が違って、「まずひと晩飲み明かすところから始めなきゃな」っていう状態だったんですけど(笑)。いまは共通点も出てきたので、現在は“アニメ化”というお仕事でごいっしょしていますけれど、今度はゲームのほうで、アニメのいろいろな風を入れたいなということも、今回お付き合いして思っています。
今度はいっしょに……ゲームを作りましょう!(笑)
――なんと!(笑)。それはいいコラボになりますね。なかなか慣れないオンラインインタビューではございましたが、お付き合いいただきましてありがとうございました。
浄園・鈴木 ありがとうございました。